この記事の要点
  • 橋の耐荷性能・耐久性能とは直接関係しないものの、走行安全性に大きく影響する伸縮装置やフェールセーフは、設置目的に照らして機能が発揮できる状態かを別に推定します
  • 最重要の禁止規定。「地震」の影響に対する上部構造・下部構造・上下部接続部の評価では、フェールセーフの機能を考慮してはなりません
  • 伸縮装置は「活荷重」に対する走行性の確保の観点、フェールセーフは「地震」の影響に対して所定の機能を適正に発揮できるかの観点で評価します
  • フェールセーフの致命的な状態とは、所定の機能を発揮できないままに破壊されたり、機能を喪失した状態です。取り付け部の状態も考慮するのがよいとされています
  • 記録は様式その2の「その他(フェールセーフ)」「その他(伸縮装置)」欄にA・B・Cで、根拠は様式その9-1・その9-2に整理します
  • 様式その9-1・その9-2は径間別ではなく橋全体で一つの部材群として作成し、記載方法は様式その8-1・8-2に準拠します
  • フェールセーフ・伸縮装置以外の付属物等は様式その10が受け、維持工事等の申し送りは様式その11の専用一覧に分かれます

定期点検の記録というと、上部構造・下部構造・上下部接続部の3つと、その部材群の評価に目が向きます。ところが様式その2の評価欄には、この3つに加えて「その他(フェールセーフ)」「その他(伸縮装置)」という列がもう2つ並んでいます。橋本体の安全性には直接関係しないのに、なぜ独立した欄と独立した様式が用意されているのか。

この記事では「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)から、第2章 5.3「伸縮装置及びフェールセーフの性能の推定」と、点検記録様式(その9-1)(その9-2)の記入要領を原文で読みます。様式の全体像は橋梁点検調書の構成と書き方、令和6年改定の変更点は【令和6年3月改定】道路橋定期点検要領の変更点まとめにまとめています。

「その他構造」という枠がなぜ別に立っているのか

要領は第2章 5.「橋の性能の推定」の冒頭で、推定の対象を2つに分けています。ひとつは道路橋の耐荷性能と耐久性能。もうひとつが、次の一文で示される範囲です。

「橋の耐荷性能や耐久性能とは直接関係ないものの,走行安全性に大きく影響する伸縮装置やフェールセーフなど,橋の使用目的を達成するために設けられている構造や部材等についても,それらがある場合には,その設置目的に照らしてその機能が発揮できる状態であるかどうか推定する。」

読みどころは「その設置目的に照らして」です。伸縮装置もフェールセーフも、荷重を支えて伝えるために付いているわけではありません。だから耐荷性能の推定に混ぜると、評価の物差しが合わなくなります。要領が枠を分けたのはこのためです。

力学的な機能を担う部材群の側の評価は部材単位の健全性の判定で扱っています。こちらは同じA・B・Cの記号を使いながら、見ているものが違うと理解しておくのが実務上の要点です。

地震の評価でフェールセーフを当てにしてはならない

この記事でいちばん取り違えやすいのがここです。第2章 5.2.1 の解説は、上部構造・下部構造・上下部接続部の評価についてこう書いています。

「なお,「地震」の影響に対する状態の技術的な評価にあたっては,フェールセーフの機能を考慮してはならない。」

要領の中で「〜してはならない」と書かれる箇所は多くありません。落橋防止装置や変位制限構造が健全に付いているからといって、上下部接続部の地震時の評価を1段軽く付けることはできない、という規定です。

理由は評価の設計にあります。フェールセーフは、本体が想定を超えて損なわれたときに最後に働く仕掛けです。本体の評価にその効果を織り込むと、「本体が危なくなっても大丈夫」という前提が本体の評価に紛れ込み、二重に安全側を見積もったことにならず、逆に本体の状態が見えなくなります。だから本体は本体だけで評価し、フェールセーフはフェールセーフとして別に評価する、という分け方になっています。

同じ解説は、A・B・Cという記号についても注意を促しています。「従来同じ記号を用いていた対策区分の判定とは異なり,橋に対する対策の必要性を区分するものではない」。A〜Eの対策区分との違いは対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧、Ⅰ〜Ⅳの診断区分との関係は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?を参照してください。

伸縮装置は「走行性の確保」の観点で評価する

第2章 5.3 の本文(1)はこう規定しています。

「伸縮装置について,「活荷重」に対して,伸縮装置の走行性の確保の観点からの評価を行う。」

ここで想定される状況は「活荷重」だけです。地震や豪雨・出水ではありません。伸縮装置に求められている性能が、車両が安全に走れることだからです。

解説は、なぜ構造安全性ではなく走行性で見るのかを実例から説明しています。

「近年,伸縮装置の経年劣化によるジョイント部材の一部せり上がりやゴム材の剥がれによる橋梁利用者への被害の事例も見られている。伸縮装置自体の構造安全性は,結果的に走行の安全性を損なっている状態でもあることが一般であり,それらも考慮して,走行の安全性の確保の観点から評価すればよい。」

つまり構造安全性を見ないのではなく、構造が傷めば結局は走行安全性に出るのだから、出口である走行安全性で評価すればよいという整理です。ジョイント部材のせり上がりやゴム材の剥がれが、要領が名指しした具体例です。

路面側に現れる段差や凹凸については路面の凹凸と舗装の異常、伸縮装置と近接する支承部の機能障害は支承部の機能障害で扱っています。状態の把握の段階では、損傷の種類は26種類から選ぶ仕組みです(橋梁の損傷26種類)。

フェールセーフは「機能を発揮できるか」で評価する

同じ第2章 5.3 の本文(2)は、フェールセーフ側をこう規定します。

「橋に地震時に機能させることを意図したフェールセーフが設けられている場合,「地震」の影響に対してその橋にフェールセーフが機能することを期待する状態となることを想定して,フェールセーフの部位等に着目して,それが所定の機能を適正に発揮できるかどうかの観点で技術的な評価をする。」

前提が2つ付いています。「地震時に機能させることを意図した」ものであること、そして「機能することを期待する状態となることを想定して」評価すること。平常時の見た目ではなく、地震が来た場面を想定して読む、という指定です。

A・B・Cをどう当てるかは、解説が定義まで書き下しています。

「すなわちこの場合の何らかの変状とは,フェールセーフが期待される機能を発揮できない状態となることに相当し,致命的な状態とは,フェールセーフが所定の機能を発揮できないままに破壊されたり,その機能を喪失した状態となることに相当する。」

区分一般の定義フェールセーフでの読み替え
何らかの変状が生じる可能性は低い地震時に所定の機能を発揮できると見込まれる
致命的な状態となる可能性は低いものの何らかの変状が生じる可能性がある期待される機能を発揮できない状態となる可能性がある
致命的な状態となる可能性がある機能を発揮できないままに破壊されたり、機能を喪失した状態となる可能性がある

そして解説は最後に一文を足しています。

「なお,取り付け部の状態も,フェールセーフの性能の推定では考慮するのがよい。」

装置そのものが健全でも、定着しているコンクリートやアンカーが傷んでいれば地震時には機能しません。定着部側の異常の見方は定着部の異常とは?、ボルト・ナットのゆるみや脱落はゆるみ・脱落の評価で扱っています。損傷程度のa〜eの付け方は損傷程度の評価(a〜e)を参照してください。

様式その2ではA・B・Cと「NA」で記入する

点検記録様式(その2)の記入要領は、構成要素の並びをこう指定しています。

「道路橋毎,道路橋を構成する「上部構造」,「下部構造」,「上下部接続部」,「その他(フェールセーフ)」,「その他(伸縮装置)」の構成要素毎に記載する。」

続けて、その他の2つについても同じA・B・Cで区分すると明記されています。

「橋本体の安全性には直接関係ないものの,それに類する必要な性能を担うその他の構造のうち,「その他(フェールセーフ)」,「その他(伸縮装置)」についても評価し,上記のAからCのいずれかに区分し記載する。」

実務でつまずくのは、フェールセーフも伸縮装置も無い橋や、想定する状況そのものが成り立たない橋です。要領は空欄を許さず、記号を指定しています。

「想定する状況(活荷重,地震,豪雨・出水)がそもそも想定されない架橋条件や地理的条件の場合は,「NA」を記載する。」

空欄は「評価し忘れたのか、対象外なのか」が後から読めません。NAはそれを分けるための記号です。写真番号の欄についても、様式その8-1・8-2の写真番号とリンクさせ、「評価の裏付けや将来の検証等に活用できる代表写真を選定する」と指定があります。様式その1側の書き方は様式1の基本情報の書き方にまとめています。

様式その9-1・その9-2は橋全体で1枚つくる

様式その2に書いたA・B・Cの根拠を整理するのが、様式その9-1と9-2です。記入要領の書き出しはほぼ同文です。

「本様式は,点検記録様式(その2)に記載するその他構造(フェールセーフ)について,評価の結果の根拠を整理するものである。様式は径間別ではなく橋全体で一つの部材群として作成することを基本とする。」(様式その9-1)

他の様式の多くが径間ごとに作られるのに対し、この2つは橋全体で1枚です。落橋防止システムも伸縮装置も、径間に切り分けて性能を論じる対象ではないためです。

様式対象構成要素名の記入評価の観点
その9-1その他構造(フェールセーフ)「フェールセーフ」と記入する「地震」の影響に対して所定の機能を適正に発揮できるか
その9-2その他構造(伸縮装置)「伸縮装置」と記入する「活荷重」に対する走行性の確保
その10フェールセーフ・伸縮装置以外の付属物等次回定期点検までの措置の必要性

記載方法そのものは新しく覚える必要がありません。両様式とも「記載方法については,下記のほかは,点検記録様式(その8-1,8-2)に準拠するものとする。」と書かれており、部材群ごとの性能の評価結果を書く様式と同じ作りです。違いは構成要素名の欄に入る語と、評価の観点だけです。

要素番号・部材番号の付け方は要素番号の付け方、状態を把握した方法の記録は点検記録様式(その7)診断のための状態把握の方法が受け持ちます。

その他構造は様式その10・その11でも受ける

フェールセーフと伸縮装置以外の付属物・附属物は、様式その10が受けます。

「本様式は,点検記録様式(その2)に記録するその他(付属物,附属物等)に関する次回定期点検までの措置の必要性の根拠となる損傷の写真や損傷の種類,措置の必要性に対する橋梁診断員の所見を記録する。」

こちらは性能の評価ではなく措置の必要性が主語です。損傷の種類は26種類から選んで記録します。

さらに、維持工事等での対応が必要と判定したもの(M判定)は様式その11に送られますが、この様式の用紙は4つの一覧に分かれています

様式その11 の一覧受け持つ範囲
維持工事等の対応が必要な部材等一覧上部構造・下部構造・上下部接続部の部材等
同 その他構造(フェールセーフ)一覧落橋防止システム等
同 その他構造(伸縮装置)一覧伸縮装置
同 その他構造(フェールセーフ及び伸縮装置以外)一覧付属物・附属物など

いずれも欄は径間番号・箇所・状態と必要な行為・写真番号の4項目で共通です。M判定そのものの考え方はM判定とは?維持工事等での対応と引き継ぎの記録にまとめています。

措置の検討にどうつながるか

第2章 6.1「措置の必要性等の検討」は、本体について措置の内容を検討したうえで、(3)で次のように規定しています。

「橋の耐荷性能を直接担う構造部分以外にも,フェールセーフ及び走行安全性に大きく影響する伸縮装置に対し,(1)から(2)に準じて,措置の内容を検討する。」

(1)(2)で想定される措置の内容は、定期的あるいは常時の監視、維持や補修・補強などの修繕、橋の撤去や通行規制・通行止めです。その他構造についても同じ選択肢から検討します。

そして第2章 7.「点検・診断結果の記録」の解説は、記録を残す理由をこう説明しています。

「また,橋の耐荷性能を直接担う構造部分以外にも,フェールセーフが設置されている場合のフェールセーフに対する評価や走行安全性に大きく影響する伸縮装置に対する評価などは,道路橋としての措置の必要性の判断にも影響することが多いと考えられることから,それぞれ記録しておく。」

ここが、その他構造を別枠で評価しておく実務上の効き目です。本体の健全性の診断が同じⅡであっても、伸縮装置がCであれば走行安全性の観点から先に手を打つ判断がありえます。通行規制を伴う措置の考え方は健全性Ⅳと通行止めの関係、点検時の規制そのものは点検時の交通規制と保安で扱っています。

所見欄の書き方では、「具体的な材料や工法を特定するような記述は行わない」という制約が共通で掛かります。用語の使い分けは耐荷性能の回復と改善の違い:所見の用語10種にまとめました。自治体向けの要領との対応関係は橋梁定期点検要領は2種類あるを参照してください。

よくある質問

Q. 地震に対する上部構造・下部構造の評価で、落橋防止システムがあることを考慮してよいですか。
A. 考慮できません。要領の第2章 5.2.1 解説は「なお,「地震」の影響に対する状態の技術的な評価にあたっては,フェールセーフの機能を考慮してはならない。」と明記しています。フェールセーフは本体の評価を甘くする材料ではなく、様式その9-1で独立に評価する対象です。

Q. 伸縮装置は構造安全性で評価するのですか、それとも走行性で評価するのですか。
A. 走行性の確保の観点です。第2章 5.3(1) は「伸縮装置について,「活荷重」に対して,伸縮装置の走行性の確保の観点からの評価を行う。」としています。解説は「伸縮装置自体の構造安全性は,結果的に走行の安全性を損なっている状態でもあることが一般であり,それらも考慮して,走行の安全性の確保の観点から評価すればよい」と補っており、構造安全性を無視するのではなく、走行安全性に読み替えて評価します。

Q. フェールセーフの「致命的な状態」とは何を指しますか。
A. 第2章 5.3(2) の解説は「何らかの変状とは,フェールセーフが期待される機能を発揮できない状態となることに相当し,致命的な状態とは,フェールセーフが所定の機能を発揮できないままに破壊されたり,その機能を喪失した状態となることに相当する。」としています。装置そのものの傷み具合ではなく、地震時に機能するかどうかで読みます。

Q. 取り付け部のアンカーやコンクリートの状態は、どちらの評価に入りますか。
A. フェールセーフの性能の推定に含めるのがよい、とされています。第2章 5.3(2) の解説は「なお,取り付け部の状態も,フェールセーフの性能の推定では考慮するのがよい。」としています。装置単体ではなく、定着している側まで含めて機能を見る趣旨です。

Q. 様式その9-1・その9-2 は径間ごとに作りますか。
A. 橋全体で1枚が基本です。記入要領は「様式は径間別ではなく橋全体で一つの部材群として作成することを基本とする。」としています。記載方法はその他の点については点検記録様式(その8-1,8-2)に準拠し、「構成要素名」の欄にはそれぞれ「フェールセーフ」「伸縮装置」と記入します。

Q. フェールセーフも伸縮装置もない橋では、様式その2の評価欄はどう書きますか。
A. 想定する状況が成り立たない場合の書き方として、要領は「想定する状況(活荷重,地震,豪雨・出水)がそもそも想定されない架橋条件や地理的条件の場合は,「NA」を記載する。」としています。空欄にせず、評価の対象外であることを記号で残す運用です。

出典・適用範囲

本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は要領の表記に合わせています。

  • 国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月) — 参照箇所:第2章 5. 橋の性能の推定(解説)/第2章 5.2.1 上部構造,下部構造及び上下部接続部の耐荷性能の推定(解説)/第2章 5.3 伸縮装置及びフェールセーフの性能の推定(本文(1)(2)および解説)/第2章 6.1 措置の必要性等の検討((2)(3))/第2章 7. 点検・診断結果の記録(解説)/点検記録様式(その2)構成要素の機能を担う部材群(システム)毎の性能の評価結果の記入要領/点検記録様式(その9-1)その他構造(フェールセーフ)の評価結果の記入要領/点検記録様式(その9-2)その他構造(伸縮装置)の評価結果の記入要領/点検記録様式(その10)その他構造(フェールセーフ・伸縮装置以外)の評価結果の記入要領/点検記録様式(その11)維持工事等の必要性の4一覧。
  • 国土交通省「道路:道路の老朽化対策」 — 参照箇所:橋梁定期点検要領(令和6年7月)の掲載状況。

原典リンク確認:2026年9月22日。本記事は評価の観点と記録方法を確認するための実務解説で、個別の橋の性能の推定や健全性の診断の区分を判断するものではありません。要領は改定されることがあります。評価にあたっては、その時点の最新版と各道路管理者の運用をご確認ください。