橋梁点検の見積を並べたとき、金額の差がいちばん大きく出るのは点検そのものの人工ではなく、交通規制まわりです。片側交互通行にするのか、路肩だけで済ませるのか、交通誘導員を何人置くのか。ここで倍近い差がつくことがあります。
ところが、その根拠を要領に探しにいくと見つかりません。令和6年3月の道路橋定期点検要領を全文検索すると、「交通規制」は0件、「保安」も0件です。技術的助言(2ページ)にも、解説・運用標準(27ページ)にも、この語は一度も出てきません。
では、どこに書いてあるのか。この記事では、交通規制と保安施設の規定が制度のどこに置かれているのかを、原文をたどって整理します。点検制度そのものの位置づけは定期点検要領の法的位置づけにまとめてあります。
交通規制と保安施設の規定は、点検要領には無く、3つの別々の文書に分かれています。①手続きは道路交通法(ただし道路管理者は第80条により許可ではなく警察署長への協議で足りる)②保安施設の具体は「道路工事保安施設設置基準(案)」③費用は積算基準の「安全費」。しかも積算に「交通規制費」という費目は存在しません。あるのは安全費(交通誘導員)と機械経費(橋梁点検車)で、安全費は「橋梁点検車を使用する場合に」計上する建て方になっています。
- 令和6年3月の点検要領(技術的助言・解説運用標準)には「交通規制」も「保安」も0件。全文を機械カウントして確認した
- 書いてあるのは直轄版の橋梁定期点検要領(令和6年7月・589ページ)のほう。ただしそこでも「保安」の語は全589ページで1回だけ
- その1回が「道路工事保安施設設置基準(案)」に基づきという委任。要領は保安施設の具体を自分では定めていない
- 手続きは道路交通法第77条だが、道路管理者は第80条により「所轄警察署長に協議すれば足りる」
- 積算に「交通規制費」という費目は無い。安全費(交通誘導員)と機械経費(橋梁点検車)に分かれている
- 交通誘導員AとBの違いは資格。Aは検定合格警備員で、高速・自動車専用道路では法令上1人以上の配置が必要
- 協議先は原文で4者。鉄道会社・河川管理者・公安委員会・他の道路管理者
要領には書かれていない
まず事実の確認から。令和6年3月の道路橋定期点検要領は2つの文書に分かれています。国土交通省道路局が出した技術的助言(2ページ)と、その解説・運用標準(27ページ)です。この2つを取得して全文を機械カウントすると、次のようになります。
| 語 | 技術的助言(2ページ) | 解説・運用標準(27ページ) |
|---|---|---|
| 交通規制 | 0件 | 0件 |
| 保安 | 0件 | 0件 |
| 点検車 | 0件 | 0件 |
| 足場 | 0件 | 0件 |
| 河川 | 0件 | 0件 |
| 鉄道 | 0件 | 0件 |
| 近接目視 | 2件 | 13件 |
解説・運用標準に「安全」は14件出てきますが、中身を見るとすべて「構造安全性」「走行安全性」といった性能の評価に関する語で、作業の安全管理を指すものではありません。「通行規制」は2件ありますが、これも作業のための規制ではなく措置としての規制です。原文は次のとおりです。
「措置には、定期的あるいは常時の監視、補修や補強などの道路橋の機能や耐久性等を維持又は回復するための維持、修繕のほか、撤去、緊急に措置を講じることができない場合などの対応として、通行規制・通行止めがある。」
健全性Ⅳの橋を通行止めにする、というときの規制であって、点検作業のために車線を止める話ではありません。判定区分と措置の関係は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?と健全性Ⅳの橋はなぜ通行止めになるのかにまとめています。
書いてあるのは直轄版のほう
交通規制と安全対策が具体的に書かれているのは、直轄国道向けの「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省道路局 国道・技術課)です。589ページある文書で、こちらは「交通規制」3件、「安全対策」17件、「管理者協議」4件が出てきます。
中核は第1章の定期点検計画にある解説です。共通して整理すべき事項として①管理者協議②安全対策③緊急連絡体制④工程⑤資機材の配置の5つを挙げ、②の冒頭をこう書いています。
「定期点検は供用下で行うことが多いことから道路交通,第三者及び定期点検に従事する者の安全確保を第一に,労働基準法,労働安全衛生法その他関連法規を遵守するとともに,現地の状況を踏まえた適切な安全対策について,実施計画に盛り込むものとする。」
そして主な留意事項として7項目を列挙しています。要約せずに並べると次のとおりです。
| 留意事項(原文) |
|---|
| 高さ2m 以上の箇所で作業を行う場合,点検に従事する者は必ず墜落制止用器具を使用する。 |
| 足場,橋梁検査路(上部構造検査路,下部構造検査路,昇降設備),手すり,ヘルメット,墜落制止用器具の点検を始業前に必ず行う。 |
| 足場,通路等は常に整理整頓し,安全通路の確保に努める。 |
| 道路あるいは通路上での作業には,必ず安全チョッキを着用し,必要に応じて交通誘導員を配置し,作業区域への第三者の立ち入りを防止する。 |
| 高所作業では,用具等を落下させないようにストラップ等で結ぶ等,十分注意する。 |
| 密閉場所で作業する場合は,酸欠状態等を調査のうえ実施する。 |
| 現地で作業に従事する際には,通常,橋面あるいは桁下等に自動車交通や列車交通があることから,「道路工事保安施設設置基準(案)」に基づき,これらに十分留意し,安全を確保して作業を行う。 |
交通規制そのものについては、同じ章の別の箇所で「各章で実施する点検,状態データの記録,予防措置等の一連の作業において橋毎に必要となる交通規制,各部材等のアクセス手段や,一連の作業の実施工程,実施体制,安全管理,関係機関との協議についても,事前に相互の調整を図っておくことが重要である。」としています。点検・第三者被害の予防措置・データの記録を、同じ規制の枠の中でまとめて済ませなさいという趣旨です。
その直轄版も具体は定めていない
ここが制度の構造として面白いところです。589ページの直轄版で、「保安」という語が出てくるのは全体でたった1回。それが上に引いた7項目目、「道路工事保安施設設置基準(案)」に基づき、という一文です。
つまり要領は、保安施設の種類も設置間隔も自分では定めていません。それは道路工事の側の基準に丸ごと委ねられています。委ね先の「道路工事保安施設設置基準(案)」(令和6年2月・国土交通省道路局国道・技術課)は、保安灯・歩道柵・バリケード・セーフティーコーン・照明灯・各種表示板・工事予告看板といった施設と、作業の型式(車道工事の車線数と昼夜、路側作業、歩道工事など)ごとの標準図を持つ文書です。
この二段構えは、実務では次のように効きます。
交通規制が必要かどうか、何を同じ規制の中でまとめるか、誰と協議するか。計画の枠組みです。
コーンを何m間隔で置くか、予告看板を何m手前に出すか、誘導員を何人置くか。現場の配置は保安施設設置基準の側にあります。
点検業務の特記仕様書に「点検要領に基づき安全対策を講じること」とだけ書いても、現場の配置は決まりません。保安施設設置基準(案)を引くところまで書いて、はじめて数量が積める形になります。
手続きは道交法。ただし管理者は協議で足りる
道路上で作業をするときの手続きは、道路交通法第77条です。原文は次のとおりです。
「次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長(以下この節において「所轄警察署長」という。)の許可(中略)を受けなければならない。 一 道路において工事若しくは作業をしようとする者又は当該工事若しくは作業の請負人」
点検は「作業」に当たりますから、原則としてはこの許可が要ります。ただし、同じ法律に特例が置かれています。第80条です。
「(道路の管理者の特例)第八十条 道路法による道路の管理者が道路の維持、修繕その他の管理のため工事又は作業を行なおうとするときは、当該道路の管理者は、第七十七条第一項の規定にかかわらず、所轄警察署長に協議すれば足りる。」
定期点検は道路法第42条に基づく維持・修繕のための点検ですから、道路管理者が自ら行う場合は許可ではなく協議ということになります。ここは発注のスケジュールに直結します。許可申請と協議では、要する期間も窓口の運用も違うからです。
積算に「交通規制費」は存在しない
費用の話に移ります。「道路橋定期点検業務積算資料(暫定版)」(令和7年4月・国土交通省道路局)を見ると、直接経費は4つに分かれています。原文の定義は次のとおりです。
| 費目 | 原文の定義 |
|---|---|
| 機械経費 | 橋梁点検車を用いる場合に橋梁点検車の機械運転経費について計上する。また,定期点検においてその他の機械(リフト車,ゴンドラ,船舶など)が必要である場合は,別途,費用を計上するものとする。 |
| 安全費 | 橋梁点検車を使用する場合に,交通障害の防止と,現場の安全確保のため,交通誘導員の費用を計上するものとする。 |
| 仮設費 | 道路橋の定期点検における足場条件は,地上,梯子及び橋梁に添架された既設の点検路を用いることを標準とするが,その他の仮設備(足場等の設置)が必要である場合は,別途,仮設費においてその費用を計上するものとする。 |
| 旅費交通費 | 点検現場に赴く技術者の交通費等を計上するものとする。 |
読みどころは3つあります。第一に、「交通規制費」という費目は無いこと。交通規制にかかる費用は安全費(誘導員)と、必要なら保安施設のぶんに分かれます。第二に、安全費が「橋梁点検車を使用する場合に」と条件つきで書かれていること。歩掛表の注も「橋梁点検車を使用して点検を行う場合に計上する。」です。第三に、足場は標準に入っていないこと。標準は地上・梯子・既設の点検路で、足場が要るなら仮設費を別途計上する建て方です。
安全費の歩掛は、標準幅員10m程度・10橋当たりで、橋長が長くなるほど交通整理員AとBの人数が増える形の表になっています。橋長「15を超え20以下」でA 4.8・B 9.7、「50を超える」でA 8.2・B 18.6という並びです。橋長が3倍になると誘導員はおよそ2倍、という感覚を持っておくと見積のあたりが付きます。
あわせて注意しておきたいのが、この積算資料の適用範囲です。「各道路管理者が3巡目以降の定期点検業務を建設コンサルタント等に発注する場合」を対象とし、「2巡目の道路橋の定期点検業務には適用しない」「トラス橋、アーチ橋、吊構造を有する橋、複合構造その他特殊な構造の橋梁には適用しない」「点検支援技術を使用した場合には適用しない」と明記されています。機器を使った点検はこの積算の外だという点は、新技術の導入を検討するうえで押さえておくべきところです(新技術を使った橋梁点検の費用はどう決まるか)。
費用の全体像は橋梁点検の費用相場と内訳に、価格だけで決めない発注の考え方は総合評価落札方式と品質確保に整理しています。
交通誘導員のAとBは資格の話
積算表に出てくる交通誘導員AとBは、単価の高い人と安い人という区別ではありません。資格の有無です。国土交通省の公共工事設計労務単価の職種定義は次のように書いています。
「交通誘導員A 警備業者の警備員(警備業法第2条第4項に規定する警備員をいう。)で、交通誘導警備業務(警備員等の検定等に関する規則第1条第4号に規定する交通誘導警備業務をいう。)に従事する交通誘導警備業務に係る一級検定合格警備員又は二級検定合格警備員」「交通誘導員B 警備業者の警備員で、交通誘導員A以外の交通の誘導に従事するもの」
ここでいう交通誘導警備業務は、警備員等の検定等に関する規則の第1条第4号で「工事現場その他人又は車両の通行に危険のある場所における負傷等の事故の発生を警戒し、防止する業務(交通の誘導に係るものに限る。)」と定義されています。
そして同規則の第2条は、検定合格警備員を置かなければならない場面を表で定めています。橋梁点検に関係するのは次の2つです。
| 対象 | 配置 |
|---|---|
| 高速自動車国道又は自動車専用道路において行う交通誘導警備業務 | 交通誘導警備業務を行う場所ごとに、一人以上 |
| 道路又は交通の状況により、都道府県公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認めるもの | 交通誘導警備業務を行う場所ごとに、一人以上 |
前者は路線を問わず一律です。後者がいわゆる指定路線で、都道府県ごとに公安委員会が告示で定めています。条文上は「指定路線」という語は使われておらず、「公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認めるもの」という書きぶりである点も押さえておいてください。
要否は現地踏査で決まる
では、そもそも交通規制が要るかどうかは誰がいつ決めるのか。積算資料の業務内容にはっきり書かれています。計画準備の中の現地踏査の項です。
「定期点検に先立って現地踏査を行い、橋梁の変状(劣化・損傷等)程度を把握する他、橋梁の立地環境、交通状況、交通規制の要否、近接手段等について現場の概況を調査して記録(写真撮影含む)する。」
つまり交通規制の要否は、点検の前に現地を見て判断する項目として業務に組み込まれています。机上で決めるものではないという建て方です。
協議先も原文で特定できます。直轄版の要領は、管理者協議についてこう書いています。
「定期点検の実施にあたり,鉄道会社,河川管理者,公安委員会及び他の道路管理者等との協議が必要な場合には,円滑に定期点検が行えるように協議に関する事項を記載する。」
桁下が鉄道の場合。道路法施行規則は、鉄道と立体交差する部分について「あらかじめ(中略)協議により、当該道路の部分の維持又は修繕の方法を定めておくこと」を求めています。点検の都度ではなく、方法をあらかじめ決めておくという建て方です。
桁下が河川の場合。河川区域内に足場や仮設を設けるなら河川法の許可・協議の対象になり得ます。ただし点検の足場が具体的にどの条文に当たるかを明示した原文は今回確認できていません(未確認)。
道交法第77条または第80条の窓口。規制の方法と時間帯はここで固まります。
桁下が別の道路の場合。跨道橋では、上の橋と下の道路で管理者が違うことがあります。
この4者のうちどれが絡むかは路下条件で決まります。技術的助言が記録すべき項目として「路下条件」を挙げているのは、まさにここに効くからです。橋の添架物は誰が点検するのかで扱った占用物件の話と同じで、橋の上下に他人の持ち物や他人の管理領域があるほど、点検の前段が重くなります。
発注・受注の実務でどう効くか
ここまでを、発注側と受注側それぞれの動きに落とします。
発注側で効くのは仕様書の書き方です。「点検要領に基づき安全対策を講じること」だけでは、上で見たとおり要領に具体が無いため、応札者ごとに前提が割れます。保安施設設置基準(案)を引くこと、交通規制の要否を現地踏査で判断して報告させること、協議先を路下条件から特定して記載させること。この3つを書いておくと、見積の前提がそろい、比較できる形になります。
もうひとつは規制の束ね方です。直轄版が「橋毎に必要となる交通規制」を事前に相互調整するよう求めているとおり、点検と第三者被害の予防措置とデータ記録を別々の日に別々の規制でやると、規制のコストだけが積み上がります。第三者被害予防措置を同じ枠で済ませられないかは、計画段階で一度検討する価値があります。
受注側で効くのは現地踏査の使い方です。積算上、交通規制の要否は現地踏査で判断する項目に位置づけられています。踏査の記録に交通量・時間帯・規制の可能な幅・誘導員の配置案まで残しておけば、後の変更協議の根拠になります。写真撮影を含めて記録することが原文で求められている点も、そのまま使えます。
そして近接手段の選び方が、結局は規制の量を決めます。橋梁点検車を出せば安全費と機械経費が立ち上がりますが、地上や既設の点検路から見られる範囲を先に切り分けておけば、点検車の稼働日数そのものを減らせます。ここは点検支援技術の選び方やLiDAR・点群データの活用が効いてくる領域でもあります。ただし積算資料は「点検支援技術を使用した場合には適用しない」と明記しているので、機器を使う前提の見積は別建てになることを忘れないでください。
よくある質問
定期点検要領を読めば交通規制のことは分かりますか?
分かりません。令和6年3月の技術的助言(2ページ)と解説・運用標準(27ページ)には「交通規制」も「保安」も一度も出てきません。書かれているのは直轄国道向けの橋梁定期点検要領(令和6年7月)のほうで、そこでも保安施設の具体は「道路工事保安施設設置基準(案)」に委ねられています。
点検のときは道路使用許可を取る必要がありますか?
道路管理者が自ら行う場合は許可ではなく協議です。道路交通法第80条は「道路法による道路の管理者が道路の維持、修繕その他の管理のため工事又は作業を行なおうとするときは、当該道路の管理者は、第七十七条第一項の規定にかかわらず、所轄警察署長に協議すれば足りる。」としています。受託業者が申請者になる場合の扱いを明示した通達は今回確認できておらず、未確認です。
積算のどこに交通規制の費用が入りますか?
「交通規制費」という費目はありません。交通誘導員は直接経費の「安全費」、橋梁点検車は「機械経費」、足場が必要な場合は「仮設費」に分かれます。安全費の定義は「橋梁点検車を使用する場合に,交通障害の防止と,現場の安全確保のため,交通誘導員の費用を計上するものとする。」です。
交通誘導員AとBの違いは何ですか?
資格の有無です。Aは交通誘導警備業務に係る一級または二級の検定合格警備員、Bはそれ以外の交通の誘導に従事する警備員、と公共工事設計労務単価の職種定義に書かれています。単価の差ではなく資格区分の差です。
検定合格警備員は必ず配置しなければいけませんか?
場所によります。警備員等の検定等に関する規則第2条は、高速自動車国道と自動車専用道路については場所ごとに1人以上を求めています。一般道については「道路又は交通の状況により、都道府県公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認めるもの」に限られ、対象路線は各都道府県の告示で定められています。
点検の協議先はどこになりますか?
直轄版の要領は「鉄道会社,河川管理者,公安委員会及び他の道路管理者等」の4者を挙げています。どれが絡むかは路下条件で決まるため、記録項目として路下条件が求められています。桁下が鉄道の場合は、道路法施行規則により維持修繕の方法をあらかじめ協議で定めておくことが求められます。
交通規制が要るかどうかは、いつ判断するのですか?
点検の前の現地踏査です。積算資料の業務内容は、現地踏査で「橋梁の立地環境、交通状況、交通規制の要否、近接手段等について現場の概況を調査して記録(写真撮影含む)する」ことを求めています。机上ではなく現地で判断する項目として業務に組み込まれています。