道路橋の定期点検は、令和6年度から3巡目(令和6年度〜令和10年度)の点検期間に入りました。これに合わせて国土交通省道路局は、全道路管理者向けの技術的助言である「道路橋定期点検要領」を令和6年3月27日付で改定しています。健全性の診断の単位から記録様式まで、点検実務に直結する変更を含む改定です。

現場では「Ⅰ〜Ⅳの判定基準が変わったのか」「旧様式の調書は使えないのか」といった混乱も見られます。結論から言えば、法定事項(5年に1回・近接目視基本・健全性の診断Ⅰ〜Ⅳ・記録保存)は変わっておらず、変わったのは診断の単位や記録の方法といった運用面です。

本記事では、令和6年3月改定の変更点を一覧表で整理し、受注者目線の実務対応チェックリストまでまとめます。

この記事の要点
  • 法定事項(健全性の診断Ⅰ〜Ⅳ・5年に1回・近接目視基本・記録保存)は令和6年3月改定でも変更なし
  • 健全性の診断(Ⅰ〜Ⅳ)は「橋全体のみ」に。部材単位のⅠ〜Ⅳは行わず、構造区分別の「技術的な評価(A〜C)」を新設
  • 次回点検までの状態を推定する「性能の見立て」が新設された
  • 記録は「道路橋記録様式(令和6年3月)」が必須。旧様式では全国道路施設点検データベースに登録できない

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令和6年3月改定 3巡目点検 対応チェックリスト

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改定の背景:3巡目点検と「質」「負担」の2つの課題

道路橋の法定点検は、平成24年12月2日の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故(死者9人)を契機とした平成25年の道路法改正を受け、平成26年7月1日施行の道路法施行規則改正で制度化されました。以来、橋長2.0m以上の道路橋は5年に1回・近接目視基本の点検対象となり、令和6年度から3巡目に入っています。

今回の改定(令和6年3月27日更新)は、この3巡目の開始に合わせたものです。国土交通省が掲げる目的は「定期点検の質の確保」と「記録の合理化」の2点で、背景には次の2つの課題があります。

  • 点検の質の課題:診断結果のばらつき
  • 点検の負担の課題:過去データの未活用、点検技術者の不足、新技術の未活用

改定の方向性を一言でいえば、「診断はシンプルに、記録は次回以降の点検につながる形で」という整理です。以下、順に見ていきます。

法定事項は変わっていない(Ⅰ〜Ⅳ・5年に1回・近接目視)

法令で定められた枠組み自体は、今回の改定で変わっていません。道路法施行規則第4条の5の6は、橋などの点検について次の3点を定めています。

  • 必要な知識及び技能を有する者が行い、近接目視により、5年に1回の頻度で行うことを基本とする
  • 点検を行ったときは健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類する
  • 点検・診断・措置の内容を記録し、当該施設が利用されている期間中は保存する

診断結果の分類は「トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示」(平成26年 国土交通省告示第426号)でⅠ(健全)・Ⅱ(予防保全段階)・Ⅲ(早期措置段階)・Ⅳ(緊急措置段階)と定義されており、この定義自体は令和6年改定でも変更されていません。区分の詳細は「健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?定義と判定の考え方」で解説しています。

出典:国土交通省「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/tenken/yobo7_6.pdf/国土交通省「道路の老朽化対策」https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html。最新の要領・様式は必ず原典をご確認ください。

主な変更点の全体像(一覧表)

令和6年3月改定の主な変更点を、改定前後の対比で一覧にまとめます。まずこの表で全体像をつかんでください。

変更項目改定前改定後(令和6年3月)
健全性の診断(Ⅰ〜Ⅳ)の単位「橋全体」に加えて部材(構造区分)単位でも決定することを推奨部材単位では行わず、「橋全体」に対してのみ決定
部材(構造区分)の評価部材単位のⅠ〜Ⅳ構造区分別の「技術的な評価(A〜C)」を新設
性能の見立て(性能の推定)―(規定なし)次回点検までの状態の可能性を推定し記録する仕組みを新設
状態の把握方法近接目視により行うことを基本近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法により収集
構造区分上部構造(主桁・横桁・床版)/下部構造/支承部/その他上部構造/下部構造/上下部接続部/その他(平成29年道路橋示方書と整合)
特定事象の記録疲労・塩害・アルカリ骨材反応(ASR)・防食機能の低下・洗掘等の「特定事象」の有無を確実に記録する様式に
写真記録部材単位の判定区分Ⅲ・Ⅳの場合に限り損傷状況写真を残す運用評価に関係なく、各構造区分の技術的評価の根拠となる写真を残す
記録様式旧様式(令和5年度までの点検記録様式)「道路橋記録様式(令和6年3月)」(様式1・2・3)

状態の把握方法の柔軟化は、画像計測技術やドローンなど点検支援技術の活用を明確に位置づけるものです。使用する技術の性能値・適用条件の確認方法は「点検支援技術性能カタログとは?読み方と活用方法」を参照してください。

なお、国(地方整備局)が自主的に行う対応(部材別の性能の対策区分などの基礎データ収集)は国の施策検討のためのものであり、地方自治体に義務付けるものではありません。

健全性の診断は「橋全体のみ」に:部材単位は「技術的な評価(A〜C)」へ

実務への影響が最も大きいのがこの変更です。従来は、法定の「橋全体」の診断に加えて、部材(構造区分)単位でもⅠ〜Ⅳを決定することが推奨されていました。令和6年3月改定では、部材単位のⅠ〜Ⅳ決定は行わず、「橋全体」に対してのみ区分を決定するよう改められています。

では部材レベルの状態は記録しないのかというと、そうではありません。部材単位のⅠ〜Ⅳに代わって、構造区分別に「技術的な評価(A〜C)」を評価・記録します。構造区分も表のとおり変更されているため、過去の点検データとの突き合わせでは「支承部」から「上下部接続部」への読み替えが必要になります。

写真記録も、Ⅲ・Ⅳの場合に限る運用から「評価に関係なく各構造区分の技術的評価の根拠となる写真を残す」方式に変わりました。撮影・整理の対象が広がるため、写真計画と調書とりまとめの工数には注意が必要です。

「性能の見立て」の新設

もう一つの大きな新設項目が「性能の見立て」(性能の推定)です。次回点検までの間に、橋がどのような状態となる可能性があるかを推定して記録するもので、構造区分別に、活荷重・地震・豪雨/出水・その他という「想定する状況」を前提としてA〜Cの3段階で評価します。

評価の水準は、近接目視を基本として得られる情報程度から、技術者の主観的評価として言える程度でよいとされており、構造解析や荷重の具体値の設定までは求められていません。A〜Cの定義、「致命的な状態」の意味、記録の書き方の詳細は「「性能の見立て(A〜C)」とは?性能の推定の考え方と記録の書き方」で深掘りしています。

記録様式の変更とデータベース登録:旧様式では登録できない

国土交通省は毎年、道路法77条に基づく調査(77条調査)で各道路管理者から点検結果の報告を受けています。その報告様式として「道路橋記録様式(令和6年3月)」(様式1・2・3)が定められ、令和6年度以降に行うすべての定期点検は新様式での対応が必要になりました。各様式の中身は次のとおりです。

  • 様式1:橋梁毎の健全性の診断(Ⅰ〜Ⅳ)+構造区分別の技術的な評価(A〜C。想定する状況別)+全景写真
  • 様式2:技術的な評価の根拠となる状況写真(判定区分Ⅲ・Ⅳに限らず添付)
  • 様式3:特定事象(疲労・塩害・アルカリ骨材反応・防食機能の低下・洗掘・その他)の有無+健全性の診断の区分の前提+所見

注意すべきは、旧様式では全国道路施設点検データベースに登録できないと橋梁調査会から告知されている点です。国土交通省ホームページで公表されたExcel様式の使用が必須です。登録は「77条調査(登録用)」画面から行い、登録されたデータは全国道路施設点検データベースで公開されます(損傷マップは無償公開・詳細データは有償公開)。

出典:一般財団法人 橋梁調査会「道路橋記録様式のデータベース登録案内」https://www.jbec.or.jp/information/update/2107//国土交通省「道路の老朽化対策」https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html

実務対応チェックリスト

受注者(建設コンサルタント・点検会社)の目線で、令和6年3月改定への対応事項をチェックリスト化します。

  • 発注仕様の確認:国要領準拠か、発注者独自の要領・マニュアルか。自治体側の改定反映状況も確認する
  • 新様式の入手と社内テンプレートの更新:「道路橋記録様式(令和6年3月)」(様式1〜3)のExcel様式に調書作成フローを合わせる
  • 構造区分の読み替え整理:過去データとの対応関係(支承部→上下部接続部)を社内で整理する
  • 写真計画の見直し:Ⅲ・Ⅳ限定から「全構造区分の根拠写真」へ。撮影枚数・整理工数が増える前提で工程と人員を組む
  • 特定事象(疲労・塩害・ASR・防食機能の低下・洗掘等)の有無確認を点検フローに組み込む
  • 技術的な評価(A〜C)・性能の見立ての記録例を社内で整備し、担当者間の評価のばらつきを抑える
  • 点検支援技術を使う場合は、性能カタログで性能値・適用条件を事前確認する

特に写真と様式まわりは調書とりまとめ段階の工数に効いてきます。社内の作成フローを新様式前提で早めに組み替えておくことをおすすめします。

この記事の結論

令和6年3月改定で変わったのは「診断の単位」と「記録の方法」であり、Ⅰ〜Ⅳ・5年に1回・近接目視という法定の枠組みは変わっていません。実務の焦点は、橋全体のみのⅠ〜Ⅳ+構造区分別の技術的な評価(A〜C)+新様式(旧様式はデータベース登録不可)への切り替えです。

よくある質問

令和6年3月改定で、健全性の診断(Ⅰ〜Ⅳ)の定義は変わりましたか?

変わっていません。Ⅰ〜Ⅳの定義(平成26年 国土交通省告示第426号)や5年に1回・近接目視基本という法定の枠組みは従来どおりで、変わったのは診断の単位(橋全体のみ)や記録様式などの運用面です。

旧様式で作成した点検調書はデータベースに登録できますか?

できません。一般財団法人 橋梁調査会から、旧様式では登録できない旨が告知されており、令和6年度以降に行うすべての定期点検は「道路橋記録様式(令和6年3月)」での対応が必要です。

市区町村が管理する橋にもこの改定は適用されますか?

道路橋定期点検要領は全道路管理者向けの技術的助言であり、これをふまえて各道路管理者が自らの運用(独自要領・マニュアル)を定めています。実務では発注者の要領・発注仕様を確認してください。