調書の入力画面で「損傷パターン」と「分類」の欄が両方とも入力必須になり、手が止まる損傷があります。⑱定着部の異常です。26種類ある損傷のうち、この2つの欄をどちらも埋める損傷はごく限られています。
さらに定着部は、PC定着部という独立した部材としても扱われます。主桁の一部でありながら、主桁とは別に要素番号を振って記録する。この二重の扱いが、要素番号の付け方や「どちらの部材で評価するのか」という迷いを生みます。
この記事では、国土交通省「橋梁定期点検要領」(平成31年3月)の本文・付録-1・付録-2・付録-3の原文をもとに、⑱定着部の異常の対象範囲、分類の4区分、損傷程度の評価、パターン番号と分類欄の書き分け、PC定着部の要素番号の付与規則までを順に整理します。損傷の全体像は橋梁の損傷26種類一覧を、評価記号そのものの意味は損傷程度の評価(a〜e)を先にご覧ください。
- ⑱の対象は定着部のコンクリートだけではない。止水カバー・定着ブロック・定着金具・緩衝材など定着構造に関わる部品の損傷すべてが入る
- 分類は4区分(縦締め/横締め/その他/外ケーブル定着部又は偏向部)。斜張橋・吊橋などのケーブル定着部は「3その他」に入る
- 損傷程度の評価はa・c・eの3段。bとdは要領の表で「-」になっている
- 調書には損傷パターン番号と分類番号の両方を記入する。番号は1〜7と9で、8は無い
- PC定着部は主要部材の一つ。属する部材としても、単独の部材としても取り扱う。要素番号は縦締め→横桁横締め→床版横締めの順で、前2桁を10番単位で切り上げる
定着部の異常(⑱)とは何を指すのか
付録-1は⑱の一般的性状を、次のように定めています。「PC鋼材の定着部のコンクリートに生じたひびわれから錆汁が認められる状態,又はPC鋼材の定着部のコンクリートが剥離している状態をいう。」「ケーブルの定着部においては,腐食やひびわれなどの損傷が生じている状態をいう。」
ここまでなら「定着部に出たひびわれや腐食」の話に見えます。実務で効いてくるのは、その次の一文です。
「定着構造の材質にかかわらず,定着構造に関わる部品(止水カバー,定着ブロック,定着金具,緩衝材など)の損傷の全てを対象として扱う。」
金具やカバーの損傷まで⑱に入るという指定です。定着金具が錆びている、止水カバーが割れている、緩衝材が欠けている。これらは部材本体の損傷ではありませんが、⑱として記録します。鋼部材の腐食・亀裂・破断の側だけで処理すると、⑱側が「a」のまま残ります。
一方で、⑱に入らないものも明示されています。
| 対象 | 要領上の扱い |
|---|---|
| ケーブル本体 | 一般の鋼部材として扱う(⑱ではない) |
| 耐震連結ケーブル | 落橋防止装置として扱う(⑱ではない) |
| 止水カバー・定着ブロック・定着金具・緩衝材 | ⑱の対象(材質を問わない) |
ケーブル本体は⑱ではなく、定着まわりの部品は⑱。境目は「ケーブルか、ケーブルを留めている構造か」です。
付録-1はもう1点、点検のときの注意を添えています。「ケーブル定着部などがカバー等で覆われている場合は,内部に水が浸入して内部のケーブルが腐食することがあり,注意が必要である。」カバーは中を見せない構造なので、外観が健全でも内部が進行していることがあります。近接目視の限界がそのまま出る部位です。
分類は4区分。ケーブル定着部は「その他」
⑱には分類番号があります。付録-1・付録-2のいずれも、同じ4区分を掲げています。
| 分類 | 定着部の種類 |
|---|---|
| 1 | PC鋼材縦締め |
| 2 | PC鋼材横締め |
| 3 | その他 |
| 4 | 外ケーブル定着部又は偏向部 |
迷いやすいのが「3その他」です。付録-1は名指しで指定しています。「斜張橋やエクストラドーズド橋,ニールセン橋,吊橋などのケーブル定着部は,『3その他』の分類とする。」
斜張橋のケーブル定着部を「4外ケーブル定着部」に入れたくなりますが、4はPCの外ケーブルを指しており、斜張橋等のケーブルは3です。ここを取り違えると、同じ橋種の橋どうしで分類がばらつき、後年の集計で拾えなくなります。
損傷程度の評価はa・c・eの3段
付録-2の評価区分は次のとおりです。
| 区分 | 一般的状況 |
|---|---|
| a | 損傷なし |
| b | - |
| c | PC鋼材の定着部のコンクリートに損傷が認められる。又は,ケーブルの定着部に損傷が認められる。 |
| d | - |
| e | PC鋼材の定着部のコンクリートに著しい損傷がある。又は,ケーブルの定着部に著しい損傷がある。 |
bとdは表の上で「-」です。実質的にa(無し)・c(ある)・e(著しい)の3段で評価します。遊間の異常も同じ3段構成で、支承部の機能障害はaとeの2段です。損傷ごとに段数が違うのは、要領が「その損傷で意味のある区切り」だけを残しているためです。
⑱の場合、cとeを分けるのは「損傷が認められる」か「著しい損傷がある」かだけで、ゆるみ・脱落のような数値の境目はありません。判断が点検者に委ねられるぶん、何をもって著しいとしたかを所見に残すことが再現性の担保になります(点検調書の書き方)。
パターン番号と分類番号を両方書く
付録-3「定期点検結果の記入要領」は、調書の各欄について記入対象の損傷を名指ししています。
| 欄 | 記入する損傷の種類 |
|---|---|
| 損傷パターン | 亀裂/ひびわれ/床版ひびわれ/舗装の異常/支承部の機能障害/定着部の異常 |
| 分類 | 防食機能の劣化/支承部の機能障害/その他/補修・補強材の損傷/定着部の異常/変色・劣化 |
2つの欄の両方に名前が出ているのは、支承部の機能障害と定着部の異常です。⑱を記録するときは、パターン番号と分類番号をどちらも埋めます。片方だけで送ると、後年の集計で「分類なしの⑱」が積み上がります。
なお付録-3は、同じ節の【留意事項】①で損傷パターンを記入する損傷として「補修補強材の損傷」も挙げています。欄の説明と留意事項で列挙が一致していません。実務では発注者の様式・システムの必須欄に従うのが確実です(道路橋記録様式(令和6年3月))。
⑱の損傷パターンは次のとおりです。
| パターン | 損傷 |
|---|---|
| 1 | ひびわれ |
| 2 | 漏水・遊離石灰 |
| 3 | 剥離・鉄筋露出 |
| 4 | うき |
| 5 | 腐食 |
| 6 | 保護管の損傷 |
| 7 | PC鋼材の抜け出し |
| 9 | その他 |
番号は1〜7のあと9に飛び、8はありません。付録-2は「同一要素に複数の損傷パターンがある場合は,全てのパターン番号を記録する。」とも定めています。ひびわれと錆汁が同時に出ていれば、1と5の両方を書きます(損傷パターン番号とは)。
ほかの損傷との切り分け:位置で分ける
⑱の【他の損傷との関係】は、こう書かれています。「PC鋼材の定着部や外ケーブルの定着部に腐食,剥離・鉄筋露出,ひびわれなどが生じている場合には,別途,それらの損傷としても扱う。」
⑱で記録して終わりではなく、ひびわれや剥離としても記録するという指定です。ではその「ひびわれ」はどの部材の欄に書くのか。答えは⑥ひびわれの側にあります。
「PC定着部においては当該部位でのみ扱い,当該部位を含む主桁等においては当該部位を除いた要素において評価する。(以下,各損傷において同じ。)」
つまり同じ損傷を主桁と定着部で二重に数えるのではなく、位置で切り分けるという考え方です。定着部に出たひびわれはPC定着部の要素で評価し、主桁側はその部位を除いた範囲で評価します。「(以下,各損傷において同じ。)」とあるので、この切り分けは⑥だけでなく各損傷に適用されます。
ここを取り違えると、主桁の評価が定着部の損傷に引きずられて実態より重くなり、健全性の診断の根拠が説明しにくくなります。部材単位の判定の考え方とあわせて確認してください。
なお付録-1の⑥ひびわれの記述には、定着部を「損傷が発生しやすい箇所」として挙げた解説もあります。「ウェブやフランジに突起を設けてPC鋼材を定着している部分では,引張応力の集中によるひびわれが発生しやすい。また,定着部は後打ちコンクリートで覆われており,打継部目地より雨水が浸透しやすく定着装置が腐食しやすい。」応力集中と、後打ちコンクリートの打継部からの雨水という2つの理由が示されています。
PC定着部という部材と要素番号
要領本文は、主要部材を列挙するなかに「PC定着部」を含めています。主桁・横桁・縦桁・床版などと並ぶ独立した主要部材です。
さらに本文の解説は、点検計画での扱いをこう定めています。「これに該当する部位として,主桁のゲルバー部,PC定着部,コンクリート埋込部並びにアーチ及びトラスの格点を取り上げ,記録することとしている。主桁のゲルバー部,PC定着部,コンクリート埋込部については,それらが属する各部材として,かつ,それぞれ単独としても取扱う。」
属する部材としても、単独の部材としても扱う。この二重性が、調書上でPC定着部に独自の要素番号が振られる理由です。付録-3は付与の順番と番号の付け方を具体的に定めています。
| 規則 | 内容 |
|---|---|
| 付与の順番 | 縦締め → 横桁横締め → 床版横締め |
| 無い場合 | 横桁横締め・床版横締めが無ければ要素番号を付与しない |
| 前2桁 | 部材位置が異なる場合は10番単位で切り上げる(縦締め 0101〜0801、横締め 1101〜1801、床版横締め 2101〜) |
| 連結桁部 | PC連結桁部の後打ちコンクリート部は横桁として扱うが、PC横締め定着部に起因する損傷はPC定着部としても記録するため番号を付与する |
要領は「0901 からとはしない。」「1901 からとはしない。」とわざわざ注記しています。連番で詰めずに、位置区分ごとに10番単位で切り上げるという指定です。番号の付け方がずれると、次回点検で同じ要素を追跡できなくなります(橋梁台帳/全国道路施設点検データベース)。
付録-3は、構造形式ごとに定着部がどこにあるかの対応表も載せています。プレテンションの床版橋・中空床版橋・T桁橋、ポストテンションの中空床版橋・T桁橋・箱桁橋について、縦締め・横桁横締め・床版横締めのそれぞれを「定着位置が確定できる/確定できない/定着がない」の3つで示したものです。T桁橋・箱桁橋の横桁横締めだけが「定着位置が確定できる」とされており、それ以外は確定できないか定着がありません。図面が無い橋で定着位置を当てにいく前に、この表で「そもそも確定できる構造か」を見ておくと空振りが減ります。
対策区分の判定:cでも補修が妥当なことが多い
付録-1の⑱は、対策区分ごとに判断の目安を示しています。特徴的なのはB・C1・C2の記述です。
「一般には,損傷程度にかかわらず,補修等の必要があると判断することが妥当であることが多い。」
損傷程度にかかわらず、と書かれています。cであっても補修等が必要と判断するのが一般的だ、という趣旨です。ほかの損傷では「進行状況を見て」「範囲によっては」といった条件が付くことが多いなかで、⑱は程度による線引きをしていません。定着部の損傷が耐荷力に直結するためと読めますが、要領自身は理由を書いていないため、ここは断定を避けます。
E2(その他緊急対応が必要な損傷)の例は、第三者被害の観点です。「定着部のコンクリートにうきが生じてコンクリート塊が落下し,路下の通行人,通行車両に危害を与える懸念がある状況などにおいては,緊急対応が妥当と判断できる場合がある。」第三者被害予防措置と同じ考え方です。
S1・S2(詳細調査)の例は、内部の広がりを疑う場面です。「PC鋼材が破断して抜け出しており,グラウト不良が原因で他のPC鋼材にも腐食や破断の懸念がある状況などにおいては,詳細調査を実施することが妥当と判断できる場合がある。」損傷パターン7「PC鋼材の抜け出し」を記録したときは、この段落が判定の手がかりになります。
所見の参考表では、代表的な損傷原因として「PC鋼材の腐食」「PC鋼材の破断(グラウトの不良)」「外ケーブル定着部の腐食」、懸念される影響として「耐荷力の低下」が挙げられています。所見に何を書くかで迷ったときの出発点になります。
点検方法と、支援技術で代替できる範囲
要領の表-5.1.2「状態の把握の標準的な方法」は、⑱の標準的方法を「目視,点検ハンマー,クラックゲージ」、必要や目的に応じて採用できる方法を「打音検査,赤外線調査」としています。
3つの器具が標準に並ぶのは、⑱が見る・叩く・測るの3つを同時に要求する損傷だからです。錆汁やひびわれは目視、うきは打音や赤外線、ひびわれ幅はクラックゲージ(ひび割れの測定方法)。1つの器具では足りません。
そのうえで、定着部はカバーや後打ちコンクリートに覆われていることが多く、外から見える範囲が限られます。点検支援技術で置き換えられるのは主に「見る」の部分で、叩いて確かめる工程は残ります。LiDAR・点群データを使う場合も、形状と位置の記録が主で、内部の腐食を直接見るものではありません。
一方で、⑱は記録側の負荷が大きい損傷です。要素番号を独自の規則で振り、パターン番号と分類番号を両方書き、同じ損傷をひびわれ側でも扱う。写真と損傷図(その5)の対応づけが崩れやすい部位でもあります。ここは支援技術で工数を落とせる領域です(点検調書作成の工数を減らす方法/損傷写真台帳の作り方)。
点検の全体像は道路橋定期点検 完全ガイドに、体制と役割の線引きは橋梁診断員とはにまとめています。
よくある質問
定着金具やカバーの損傷は、⑱と①腐食のどちらで書きますか。
⑱に入れます。付録-1は「定着構造の材質にかかわらず,定着構造に関わる部品(止水カバー,定着ブロック,定着金具,緩衝材など)の損傷の全てを対象として扱う。」と定めており、部品の材質を問いません。加えて【他の損傷との関係】が「腐食,剥離・鉄筋露出,ひびわれなどが生じている場合には,別途,それらの損傷としても扱う。」としているため、腐食が生じていれば①側でも扱います。⑱か①かの二者択一ではありません。
斜張橋のケーブル定着部は、分類「4外ケーブル定着部又は偏向部」ですか。
いいえ、「3その他」です。付録-1は「斜張橋やエクストラドーズド橋,ニールセン橋,吊橋などのケーブル定着部は,『3その他』の分類とする。」と明記しています。なおケーブル本体は⑱ではなく一般の鋼部材として扱い、耐震連結ケーブルは落橋防止装置として扱います。
⑱にbとdが無いのはなぜですか。
付録-2の評価区分表で、bとdの欄が「-」とされているためです。要領は理由を書いていません。結果として⑱はa・c・eの3段になります。同じ3段の損傷に⑬遊間の異常があり、⑯支承部の機能障害はaとeの2段です。損傷ごとに段数が異なるのは要領の設計上の扱いで、点検者が段を補う運用は想定されていません。
主桁に出たひびわれが定着部の範囲にかかっている場合、どちらで評価しますか。
PC定着部の側で評価します。付録-1の⑥ひびわれは「PC定着部においては当該部位でのみ扱い,当該部位を含む主桁等においては当該部位を除いた要素において評価する。(以下,各損傷において同じ。)」と定めています。主桁側は定着部を除いた範囲で評価するため、同じひびわれを両方の部材で二重に数えることにはなりません。
PC定着部の要素番号を、縦締めの続きで0901から振ってよいですか。
いけません。付録-3は「部材位置が異なる場合の要素番号の前2桁は,10 番単位で切り上げる。」としたうえで、横締めの例に「1101,1201,… 1801,…(0901 からとはしない。)」、床版横締めの例に「2101,2201,…(1901 からとはしない。)」と注記しています。位置区分ごとに前2桁を切り上げるのが規則です。
⑱の調書では、損傷パターンと分類のどちらを書きますか。
両方書きます。付録-3の記入要領は「損傷パターン」欄の対象に「定着部の異常」を、「分類」欄の対象にも「定着部の異常」を挙げています。2つの欄の両方に名前が挙がっている損傷は、支承部の機能障害と定着部の異常です。ただし同じ節の【留意事項】①には損傷パターンの対象として「補修補強材の損傷」も加わっており、欄の説明と留意事項で列挙が一致していません。実際の入力では発注者の様式・システムの必須欄に従ってください。