点検を終えて調書をまとめる段になって、判断に迷う箇所が出てきます。添架物の裏に隠れて床版下面が見えなかった。桁高が低くて箱桁の中に入れなかった。カメラで撮ったが近接はしていない。こうした箇所を、損傷なしとして片づけるわけにはいきません。

橋梁定期点検要領には、まさにこれを記録するための専用の様式があります。点検記録様式(その7)「診断のための状態把握の方法」です。他の様式が「何が起きているか」を記録するのに対し、この様式は「どうやって見たか、そして見られなかったか」を記録します。

本記事では、様式(その7)に何を書くのか、記入欄の意味と要領が挙げている記載例、そして点検支援技術を使ったときに求められる記録の内容までを、要領の原文に沿って整理します。

この記事の要点
  • 点検記録様式は(その1)から(その11)まであり、(その7)は状態を把握した方法を記録する枚
  • 記録の対象は2種類。①物理的に近接目視・打音・触診ができない箇所 ②物理的には可能だが、その他の方法で状態を把握した箇所
  • ②が対象に入っているのが要点。近接できたのに機器で見た場合も記録が必要で、機器の性能・誤差程度・使用条件・キャリブレーション結果まで明らかにすることが求められる
  • 様式は径間毎に作成する。記入欄は径間番号/部材名/要素番号/点検方法/機器等の性能や条件、特記事項等
  • 要領は記載例として「添架物により床版下面が目視できない。」「桁高が低く箱桁内部に進入できない。」などを挙げている
  • 状態把握が不十分で耐荷性能の推定に影響しそうなときは、別途所見欄にも書くことが望ましいとされている

要領は「近接目視でなくてもよい」と書いている

まず前提の確認です。定期点検は近接目視を基本としますが、要領の本文は近接目視に限定していません。状態の把握の方法として、次のように書かれています。

「橋梁診断員は,定期点検時点における橋梁の耐荷性能,耐久性能,その他の使用目的との適合性の充足に関する評価や措置の検討に必要と考えられる情報を,近接目視,又は近接目視による場合と同等の評価や検討が行える他の方法により収集する。」

つまり要領の建て方は「近接目視、または同等の評価や検討が行える他の方法」の二択です。ここが近接目視と「同等の評価が行える他の方法」の議論の出発点になります。

この二択を認める代わりに、要領は記録の側で条件を付けています。近接目視以外の方法を使ったなら、それを様式(その7)に書きなさい、という構造です。方法の自由度と記録の義務が対になっていると理解すると、この様式の位置づけが分かりやすくなります。

なお点検記録様式は「点検記録様式(その1)から点検記録様式(その11)」まであり、(その7)はその1枚です。(その1)が橋梁の諸元と定期点検総合結果、(その8-1)(その8-2)が部材群毎の性能の評価結果で、(その7)はその間に置かれています。様式の全体像は点検調書の構成と書き方、令和6年3月の様式改定で変わった点は道路橋記録様式(令和6年3月)で扱っています。

様式(その7)が記録する2種類の箇所

要領の記入要領は、この様式の対象をこう定めています。

「本様式は,性能の評価や措置の検討などの一連の診断のために行った状態の把握に関連して,物理的に近接目視又は打音,触診ができない箇所,物理的には近接目視又は打音,触診が可能であるがその他の方法により状態を把握した箇所について記録する。」

読み飛ばしやすいのが後半です。対象は2種類あります。

種類状況書くこと
①できなかった箇所物理的に近接目視・打音・触診ができないその範囲と理由
②別の方法で見た箇所物理的には可能だが、その他の方法で状態を把握した使った方法と、機器等の性能や条件

①だけを「見えなかった箇所の一覧」として書いて終わりにしている調書は珍しくありません。しかし②も対象です。足場を組めば近接できたが、効率を理由にカメラやスキャナで確認した箇所は、②として記録する必要があります。LiDARや点群データドローンを使った点検が増えるほど、この様式の②の側が実務の中心になっていきます。

また、この様式は径間毎に作成します。橋全体で1枚ではありません。径間ごとに条件が違う(この径間だけ添架物がある、この径間だけ河川上にある)ことが普通なので、径間単位で分けて記録する建て方になっています。

出典:国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)付録-1「定期点検結果の記入要領」および要領本文4.1・5.2。本記事の鉤括弧内はいずれも同要領の原文です。自治体が管理する橋については各道路管理者が定める要領・様式が優先されます(国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係)。

記入欄と、要領が挙げる記載例

記入要領が定めている欄は次のとおりです。

記入する内容(要領の記述)
径間番号該当箇所に対応した径間番号
部材名主桁,床版などの部材名(付表-1.2「各部材の名称と記号」参照)
要素番号対象部材の番号(0205 等。点検記録様式(その6)参照)
点検方法近接目視以外の方法の具体的な方法
機器等の性能や条件、特記事項等使用する機器等の性能や条件,特記事項等

①「物理的に目視,打音及び触診が出来ない箇所(部材)」については、要領が留意事項として「その範囲と理由を明記する。」としたうえで、記載例を挙げています。

要領の記載例典型的な状況
添架物により床版下面が目視できない。水道管・電線管・ケーブルラックが床版下面を覆っている
桁高が低く箱桁内部に進入できない。マンホールはあるが人が入れる高さがない
化粧板により桁が目視できない。景観対策で外側桁に化粧板が張られている
コンクリート橋の支点上横桁の背面は目視できない。横桁と胸壁の間に人が入る余地がない
コンクリート橋の支点上横桁があり,胸壁前面は目視できない。同上を胸壁側から見た場合

記載例が具体的なのは、「見えなかった」と一行書くだけでは次回点検で役に立たないためです。範囲(どの部材のどの要素か)と理由(何に遮られたのか)が揃っていれば、次回の点検計画で足場や機器の準備を先に組めるという実務上の意味があります。逆にここが曖昧だと、同じ箇所が5年ごとに見えないまま繰り返されます。

地盤内・水中部・カバーの内側という3つの難所

要領は、記載例のほかに扱いを個別に定めている箇所を3つ挙げています。

1つ目は地盤内です。「下部構造等の地盤内は目視できないので,点検記録様式(その3)に地盤線とその記号を記入する。」とされています。地盤内は原理的に見えないので、(その7)に「見えない」と書くのではなく、(その3)に地盤線を引いてどこから下が地盤内なのかを示す形になります。

2つ目は水中部です。「洗掘状況に関する下部構造,周辺河床,護床工等の水中部も,水中カメラ等,状態把握の方法を記載する。」とされ、さらに「その際,道路管理者が直接管理しない護床工等の構造物については,『部材番号』『要素番号』の欄に『NA』と記載する。」と続きます。自分の管理外の構造物を見た場合の書き方まで決まっているわけです。洗掘は要領の特定事象の1つでもあり、定期点検時点の確認だけでは把握が困難な現象として、洪水後の確認にも言及されています。

3つ目はローラー支承のカバープレートです。「ローラー支承については,カバープレートが取り付けられた状況での状態把握か,取り外した状況での状態把握かを記載する。」とされています。要領の本文側にはさらに踏み込んだ記述があり、「ローラー支承については,外観に問題がない場合でも,カバープレートを外して直接ローラーの状態を確認することで損傷が発見される場合もあるため,カバープレートを外して内部を目視するのがよい。」とあります。支承部の機能障害の評価が実質2区分しかないことを考えると、外したか外さなかったかの記録は、次回点検で状態を比較するための重要な前提になります。

この記事の結論

様式(その7)は「見えなかった言い訳」を書く欄ではなく、次回点検の準備に使われる引き継ぎです。範囲と理由、あるいは使った機器の性能と条件が具体的に書かれていれば、次の点検計画で足場・機器・工程を先回りして組めます。空欄や「一部目視不能」だけの記録は、5年後に同じ箇所を同じ理由で見られない状態を再生産します。

機器を使った側の記録が重い

②の側、つまり近接目視以外の方法で状態を把握した場合について、要領は次のように定めています。

「橋梁診断員が近接・打音・触診によらなかった部位・部材については,その部材部位を明らかにする。また,その部材部位毎に使用する機器等の性能や誤差程度,性能を発揮する使用条件を明らかにし,実際に使用した時の条件やキャリブレーションのための試験結果なども明らかにするなど機器等で得た結果の解釈にあたって必要な情報を適切に記録する。」

ここで求められているのは4点です。

求められる記録実務での用意の仕方
機器等の性能点検支援技術性能カタログの掲載値、メーカーの性能仕様
誤差程度分解能・検出可能なひび割れ幅・測距精度などの数値
性能を発揮する使用条件撮影距離・照度・風速・温度差などの適用条件
実際に使用した時の条件とキャリブレーション結果当日の撮影距離・条件の記録、校正試験の記録

前2つはカタログや仕様書から転記できますが、後ろ2つは当日の現場で記録しておかないと後から作れません。撮影が終わってから「このときの撮影距離は何メートルだったか」を思い出すのは困難です。②を使う前提の点検では、機器の設定と当日条件を記録する手順を作業計画に入れておく必要があります。

性能の数値をどこから取るかについては点検支援技術性能カタログの読み方、カタログの値をそのまま自分の橋に当てはめられない理由についてはAIひび割れ検出の「精度」の見方を参照してください。要領が「性能を発揮する使用条件」まで書かせているのは、カタログ値が条件付きの数字だからです。

あわせて、要領には性能の推定を記録する仕組みとして性能の見立て(A〜C)もあります。状態把握の方法と、そこから推定した性能の確からしさは別の記録なので、混同しないようにしてください。

所見欄への書き分け

様式(その7)に書けば済むわけではない場面があります。要領は健全性の診断に関する解説で、次のように述べています。

「必ずしも近接目視,打音,触診ができない部位・部材など,状態把握の方法によっては,4.『状態の把握』の規定に示す必要な情報の取得にあたって十分ではない結果も想定される。その結果によって,部材群の耐荷性能の推定に及ぼす影響が考えられる場合は,措置の方針が変わる場合も想定されることから,その場合には別途所見欄にその内容を記録しておくことが望ましい。」

整理すると、書き分けは次のようになります。

状況書く場所
見えなかった/別の方法で見た(事実の記録)様式(その7)
そのために耐荷性能の推定に影響が出そう(判断への影響)様式(その7)+所見欄
地盤内で原理的に見えない様式(その3)に地盤線と記号
応急措置を実施した要領第3章に従って記録

この書き分けが効くのは、判定の根拠を後から追えるようにするためです。健全性の診断(判定区分I〜IV)を決めた診断員が、どこまで見えていた状態で判断したのかが残っていなければ、次回の技術者は同じ前提に立てません。

打音・非破壊で補うべき代表例

「見えない」の前に、そもそも目視では検出できない損傷があります。要領は「損傷や変状の種類によっては,表面からの目視によるだけでは検出できない可能性があるものもある。近接目視で把握できる範囲の情報では不足するとき,触診や打音検査等も含めた非破壊検査等を行い,必要な情報を補うのがよい。」としたうえで、例を挙げています。

要領が挙げる例要領の記述の要点
ボルトのゆるみや折損目視では把握が困難な場合が多く、打音等を行うことで初めて把握できることが多い
コンクリート片や腐食片等の落下、附属物等の脱落の可能性同様に目視では困難。特に剥落対策工がされている場合は、対策工の内部のコンクリートの状態について触診や打音検査等を行うなど慎重に行うのがよい
PC-T桁の間詰め部の間詰材の落下対策済み箇所で対策工毎に落下する可能性については、慎重に状態の把握を行うのがよい

3つに共通するのは、対策工が施されている箇所ほど外から分からないという構造です。剥落防止材や落下防止対策が入っていると、内側で進行していても外観に変化が出ません。同じ趣旨は床版下面の着目点にも書かれており、床版ひびわれの評価でも、鋼板や炭素繊維シートが設置されている場合は外観の評価だけで進行を判断できないことを扱っています。

また要領は、状態把握の前にやっておくとよいこととして「砂等の堆積や植生等がある場合は,取り除いてから状態の把握を行うのがよい。」「腐食片,うき・剥離等がある場合は,取り除いてから状態の把握を行うのがよい。」「腐食片等が固着して腐食深さが把握できないことがあるので,かき落とすなどしてから状態の把握を行うのがよい」といった例も挙げています。見えない理由が「養生していないだけ」なら、それは(その7)に書く前に取り除く話です。うき・剥離の把握手法については赤外線法によるうき・剥離調査も参考になります。

現場と内業で決める順番

様式(その7)を後から埋めようとすると必ず情報が足りなくなります。現場側で決めておくこと、内業側で整えることを分けると次のようになります。

段階やること残すもの
点検計画添架物・化粧板・箱桁の桁高・河川上の径間を図面から拾い、近接できない見込みの箇所を先に出す想定される(その7)記載箇所の一覧
点検計画近接目視以外の方法を使う箇所を決め、機器の性能値と適用条件を控える機器の性能・誤差程度・使用条件
現場(作業前)堆積物・植生・固着した腐食片を取り除けるか判断する養生の実施記録
現場(把握時)ローラー支承のカバープレートを外したかどうかを決めて記録する取り外しの有無
現場(機器使用時)当日の撮影距離・条件、校正の実施を記録する実際に使用した時の条件、キャリブレーション結果
現場(できなかったとき)径間・部材・要素番号まで特定し、遮っているものを書き留める範囲と理由
内業径間毎に(その7)を作成し、地盤内は(その3)へ回す様式(その7)、様式(その3)の地盤線
内業耐荷性能の推定に影響しそうなものを所見欄に書き足す所見欄の記述

この一覧のうち、点検計画の2行を先にやっておくかどうかで、(その7)の記録の質が決まります。図面の段階で「この径間は添架物で床版下面が見えない」と分かっていれば、当日は範囲を確認するだけで済み、必要なら機器の準備もできます。新技術を点検に導入する手順を検討している場合も、性能値と適用条件を控える工程がそのまま様式(その7)の記入内容になります。

補足:本記事の記入要領・記載例は橋梁定期点検要領(令和6年7月)の付録-1に基づいています。様式の構成は令和6年3月の様式改定を反映したもので、それ以前の版とは項目が異なります。実務では必ず最新版の原典と、管理者が指定する様式をご確認ください。

よくある質問

近接目視ができた箇所は、様式(その7)に書かなくてよいのですか?

近接目視で状態を把握した箇所は対象外です。対象は「物理的に近接目視又は打音,触診ができない箇所」と「物理的には近接目視又は打音,触診が可能であるがその他の方法により状態を把握した箇所」の2種類です。近接できたのに機器で見た場合は後者に当たるので記録が必要です。

様式(その7)は橋1つに1枚ですか?

径間毎に作成します。要領の記入要領に「本様式は,径間毎に作成する。」と明記されています。径間ごとに添架物や河川上かどうかの条件が変わるため、径間単位で記録する建て方になっています。

地盤内で見えない部分は様式(その7)に書くのですか?

要領は地盤内について「下部構造等の地盤内は目視できないので,点検記録様式(その3)に地盤線とその記号を記入する。」としています。(その7)に「地盤内で見えない」と書くのではなく、(その3)で地盤線を示す扱いです。

河川の護床工が自分の管理外の場合はどう書きますか?

要領は「道路管理者が直接管理しない護床工等の構造物については,『部材番号』『要素番号』の欄に『NA』と記載する。」としています。水中部については水中カメラ等、状態把握の方法を記載します。

機器を使った場合、性能はカタログの値を転記すれば足りますか?

足りません。要領は機器等の性能や誤差程度、性能を発揮する使用条件に加えて「実際に使用した時の条件やキャリブレーションのための試験結果なども明らかにする」ことを求めています。当日の条件は現場で記録しておかないと後から作れないため、作業計画に組み込む必要があります。

ローラー支承のカバープレートは必ず外すのですか?

要領は「カバープレートを外して内部を目視するのがよい」としており、義務ではありませんが推奨されています。そして様式(その7)には、カバープレートが取り付けられた状況での状態把握か、取り外した状況での状態把握かを記載します。外さなかった場合も、外さなかったこと自体が記録の対象です。

「一部目視不能」とだけ書いた調書は問題になりますか?

要領は「その範囲と理由を明記する。」と定めており、記載例も部材と遮っているものが分かる書き方になっています。範囲と理由が特定できない記述では、次回点検で必要な足場や機器を計画できず、同じ箇所が繰り返し未確認のまま残ることになります。