点検の結果、ある橋が健全性Ⅳ(緊急措置段階)と診断された。翌日には全面通行止めの看板が立つ——現場ではよく見る流れですが、「Ⅳと判定されたら通行止めにしなければならない」と定めた条文は、実はどこにもありません。通行止めは診断の結果として自動的に決まるものではなく、道路管理者が別の条文に基づいて行う判断です。
本記事では、Ⅳ判定から通行規制・通行止めに至る根拠を、道路法・施行令・施行規則・告示・定期点検要領の順に一次資料で確認します。そのうえで、通行止めが道路メンテナンス年報の集計で「措置」に数えられないという実務上重要な扱いと、Ⅳ判定を受けた橋がその後どうなっているのかを実数で見ていきます。判定区分そのものの定義は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とはを先にご覧ください。
- 告示第426号はⅠ〜Ⅳの状態の定義しか定めておらず、「Ⅳなら通行止め」という規定は無い。通行規制の根拠は道路法第46条という別の条文
- 点検要領上、通行規制・通行止めは「緊急に措置を講じることができない場合などの対応」という位置づけ。修繕の代わりではなく、修繕までのつなぎ
- だから道路メンテナンス年報は、措置の実施状況の集計から「監視」と「通行規制・通行止」を除いている。通行止めにしても着手率は上がらない
- Ⅳ判定の橋は623橋(2025年3月末・最新点検ベース)。うち568橋=91%が市区町村管理。過去にⅣと判定された累計1,283橋のうち43%は撤去・廃止(予定を含む)を選んでいる
点検と措置を定める条文の並び
まず土台になる条文の並びを確認します。出発点は道路法第42条(道路の維持又は修繕)で、第1項は「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」と定めています。第2項で技術的基準を政令に委ね、第3項で「前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。」として、点検を政令の守備範囲に入れています。
これを受けた道路法施行令第35条の2第1項は、第2号で点検を、第3号で措置を定めます。第3号の原文は「前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること。」です。ここでも求められているのは「必要な措置」であって、通行止めという特定の手段ではありません。
さらに具体化するのが道路法施行規則第4条の5の6です。第1号が近接目視・5年に1回の点検、第2号が健全性の診断とその分類、第3号が点検・診断結果および措置内容の記録を、当該施設が利用されている期間中保存する義務を定めています。要領の法的な位置づけの全体像は定期点検要領の法的位置づけに整理しています。
告示第426号には「通行止め」と書いていない
施行規則第2号が「国土交通大臣が定めるところにより分類」と委ねている先が、トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省告示第426号、平成26年7月1日施行)です。告示が定めているのは次の4区分の状態の定義だけです。
| 区分 | 告示の原文 |
|---|---|
| Ⅰ 健全 | 構造物の機能に支障が生じていない状態。 |
| Ⅱ 予防保全段階 | 構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。 |
| Ⅲ 早期措置段階 | 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態。 |
| Ⅳ 緊急措置段階 | 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態。 |
読んでのとおり、告示は「状態がどうであるか」しか書いていません。Ⅳの定義も「緊急に措置を講ずべき状態」であって、その措置が通行止めなのか修繕なのか撤去なのかは告示の外です。ここを取り違えると「Ⅳ=通行止めの区分」という誤解が生まれます。告示の逐条はトンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示とはで詳しく扱っています。
通行規制・通行止めの根拠は道路法第46条
では通行止めはどの条文でできるのか。答えは点検の系統とは別の道路法第46条(通行の禁止又は制限)です。第1項は「道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。」と定め、第1号に「道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合」を挙げています。老朽化による通行止めはこの第1号に当たります。
加えて第2項は、道路監理員が緊急の必要があると認めるときに、必要な限度で一時的に通行を禁止・制限できると定めています。点検中に致命的な変状を発見してその場で止める、という現場対応の根拠がここにあります。つまり、点検(第42条系)と規制(第46条)は別々の権限で、Ⅳ判定は第46条の要件である「交通が危険であると認められる」ことを裏づける材料という関係になります。
点検要領での位置づけ:修繕までのつなぎ
では実務上、Ⅳと通行止めはどう結びつけられているのか。ここを明示しているのが道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)令和6年3月です。健全性の診断の区分の決定に関する本文は、「健全性の診断の区分の決定には、定期的あるいは常時の監視、維持や補修・補強などの修繕、撤去、通行規制・通行止めなどの措置の内容を反映すること。」とし、解説はさらに踏み込みます。
この一文が、通行止めの性格を決めています。通行規制・通行止めは「緊急に措置を講じることができない場合などの対応」——つまり本来やるべき修繕や撤去にすぐ手が回らないときの、暫定的なつなぎとして位置づけられています。恒久的な解決ではありません。同要領は「致命的な状態」を「安全な通行が確保できず通行止めや大幅な荷重制限などが必要となるような状態」と説明しており、重量制限(荷重制限)も同じ枠に入ります。措置の段階分けの考え方は対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧、要領の改定内容は【令和6年3月改定】道路橋定期点検要領の変更点まとめを参照してください。
国土交通省も、道路メンテナンス年報の公表資料に「※判定Ⅳの施設については、早急に通行止めや通行規制等の緊急措置を行っている。」という注記を付けています(2025年8月25日 道路局 国道・技術課)。運用としてはⅣ=即時の規制、ただし規制はゴールではない、という整理です。
通行止めは「措置」に数えられない
ここが実務でいちばん効いてくる点です。道路メンテナンス年報は、措置の実施状況を集計するときの扱いを次のように明記しています。
つまり、危険な橋を止めて安全を確保しても、着手率・完了率という国の指標の上では何も進んでいないことになります。現場感覚では「最優先の対応を打った」でも、統計上は未着手のまま。この非対称を知らないと、自組織の着手率が上がらない理由を読み違えます。逆に言えば、着手率を動かすには修繕・架替か撤去まで進める必要があるということです。年報の数字の読み方は道路メンテナンス年報とは?点検・修繕データの読み方にまとめています。
参考までに、Ⅲ・Ⅳを合わせた措置の進み具合(2巡目=2019〜2023年度点検分、2024年度末時点)は次のとおりです。年報にⅣ単独の着手率・完了率の集計はありません。
| 管理者 | 措置が必要(Ⅲ・Ⅳ) | 着手 | 完了 |
|---|---|---|---|
| 合計 | 55,434橋 | 33,090橋(60%) | 17,839橋(32%) |
| 国土交通省 | 3,707橋 | 2,891橋(78%) | 1,328橋(36%) |
| 高速道路会社 | 2,716橋 | 1,662橋(61%) | 937橋(34%) |
| 都道府県・政令市等 | 17,037橋 | 11,988橋(70%) | 5,945橋(35%) |
| 市区町村 | 31,974橋 | 16,549橋(52%) | 9,629橋(30%) |
Ⅳ判定の橋は今いくつあり、その後どうなるか
最新点検ベース(2014〜2024年度の点検、2025年3月末時点)でⅣと診断されている施設は、橋梁623橋(点検実施724,259橋の0.1%)・トンネル27箇所(同11,290箇所の0.2%)・道路附属物等18施設(同41,625施設の0.04%)です。橋梁のⅣは1巡目完了時(2018年度末)の682橋から、2巡目完了時(2023年度末)643橋、2024年度末623橋と少しずつ減っています。
管理者別に見ると偏りが際立ちます。Ⅳの橋梁623橋の内訳は、国土交通省19橋・高速道路会社0橋・都道府県・政令市等36橋に対し、市区町村が568橋で全体の91%を占めます。技術系職員が少ない市町村に、最も緊急度の高い橋が集中している構図です。市町村を支える制度は直轄診断・修繕代行・地域一括発注にまとめています。
そして、Ⅳと判定された橋がその後どうなっているか。2014〜2024年度に一度でもⅣと判定された累計1,283橋の行き先は次のとおりです。
| その後の対応 | 橋数 | 割合 |
|---|---|---|
| 修繕・架替 | 618橋 | 48% |
| 撤去・廃止済 | 289橋 | 23% |
| 撤去・廃止(予定) | 257橋 | 20% |
| 対応未定 | 113橋 | 9% |
| 機能転換 | 6橋 | 0.5% |
撤去・廃止が済・予定を合わせて546橋=43%。Ⅳまで進んだ橋のおよそ4割強は、直さずに無くす選択をしています。トンネルではこの割合が44%、道路附属物等では32%です。「通行止め → 修繕」だけでなく「通行止め → 撤去」が主要な出口になっているのが実態で、実際に年報の巻末には、全面通行止めのまま撤去中・撤去予定・廃止予定となっている橋の個票が管理者名・路線名つきで掲載されています。撤去という選択肢の判断基準は道路施設の集約・撤去ガイドラインで詳しく扱います。
なお2025年3月末時点で恒久措置が未完了のⅣは、橋梁490橋・トンネル26箇所・道路附属物等8施設。累計に対する割合は橋梁で38%です。この490橋の個票には「緊急措置内容」欄があり、記載は自由記述で「全面通行止」「車両通行止」「歩道部通行止(迂回路有)」「通行規制(2t)」「通行規制(片側規制)」「仮設材を設置して、全面通行止」など多様な書き方が混在しています。
全国の通行規制橋梁数は公表されていない
意外に思われるかもしれませんが、「全国でいま何橋が通行止め・通行規制中か」を定期的に公表している統計は現在ありません。道路メンテナンス年報にも道路統計年報にも、通行規制橋梁数の全国集計・管理者別内訳・推移は掲載されていません。年報に載るのはⅣ判定の個票までです。
公式に数値が出ているのは、次の2つが確認できる範囲です。いずれも古く、制約付きなので引用には注意が必要です。
| 資料 | 数値 | 制約 |
|---|---|---|
| 通行止め・通行規制橋梁リスト(国土交通省道路局) | 通行止 230橋/通行規制 1,127橋(2013年4月時点) | 橋長15m以上のみ。かつ自治体から公表の許可が得られた分のみ。全国値ではない |
| 社会資本整備審議会道路分科会 建議(2014年4月) | 市町村管理橋梁の通行止め・通行規制が約2,000箇所、5年で2倍 | 市町村管理分のみ。2014年時点の値 |
また、通行規制の種類(全面通行止・大型車通行止・重量制限・片側交互通行など)を法定の区分として列挙した条文・告示も見当たりません。道路法第46条は「通行を禁止し、又は制限することができる」と定めるのみで、年報の記載も前節のとおり自由記述です。自組織の規制状況を集計・報告する際は、まず自前で区分の定義を決めてから数える必要がある、というのが実務上の結論になります。
「Ⅳなら通行止め」という条文は存在しません。告示第426号はⅠ〜Ⅳの状態を定義するだけで、通行規制の権限は道路法第46条という別系統の条文にあります。点検要領上、通行規制・通行止めは「緊急に措置を講じることができない場合などの対応」=修繕までのつなぎと位置づけられており、だからこそ道路メンテナンス年報は措置の集計から通行規制・通行止を除いています。Ⅳの橋623橋のうち91%は市区町村管理で、過去にⅣとなった1,283橋の43%は撤去・廃止という出口を選んでいます。止めた後に何をするかまで含めて計画に落とすことが、この区分に向き合う実務です。
よくある質問
健全性Ⅳと判定されたら必ず通行止めにしなければなりませんか?
法令上「Ⅳなら通行止め」という規定はありません。告示第426号はⅣを「構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態」と定義するだけで、措置の内容は定めていません。通行止め・通行規制は道路法第46条第1項第1号(道路の破損等により交通が危険であると認められる場合)に基づく道路管理者の判断です。ただし国土交通省は「判定Ⅳの施設については、早急に通行止めや通行規制等の緊急措置を行っている」と注記しており、運用としては即時の規制が原則です。
通行止めにすれば措置に着手したことになりますか?
なりません。道路メンテナンス年報は「実施状況の集計からは『監視』及び『通行規制・通行止』は除く」と明記しています。通行規制・通行止めは点検要領上「緊急に措置を講じることができない場合などの対応」と位置づけられた暫定措置のため、統計上の着手・完了には算入されません。着手率を動かすには、修繕・架替または撤去まで進める必要があります。
全国でいま何橋が通行止めになっているか調べられますか?
定期的に公表されている全国統計はありません。道路メンテナンス年報にも道路統計年報にも通行規制橋梁数の集計はなく、公式に数値が出ているのは2013年4月時点のリスト(通行止230橋・通行規制1,127橋。ただし橋長15m以上かつ公表許可が得られた分のみ)と、2014年の建議にある「市町村管理で約2,000箇所」までです。年報の巻末にはⅣ判定施設の個票が管理者名つきで掲載されているため、そこから緊急措置の状況を個別に確認することはできます。