この記事の要点
  • Mは補修工事の区分ではありません。「日常の維持行為の中で早急に対応することの必要性」を判定するものです
  • 要領が挙げる例は土砂詰まり高欄のボルトのゆるみ。原因が不明でも、容易に補修・改善ができて直ちに対処することが望ましいものはMです
  • 上部構造・下部構造・上下部接続部・フェールセーフ・伸縮装置以外の付属物も、必要に応じてMの対象になります
  • Mの本体は「落とさないこと」です。要領は「速やかに,かつ確実に維持工事等による対応が行われなければならず」と書き、フラグ立てやリスト化による別途報告を求めています
  • 記録先は3か所。様式その1の定期点検総合結果、様式その2の構成要素ごとの「対応や調査の必要性」、そして様式その11「維持工事等の必要性」です
  • 様式その11 は径間番号・箇所・状態と必要な行為・写真番号の4項目。第三者被害予防の措置が必要な場合の内容もここに書きます
  • E(緊急対応)・S1/S2(調査)とは判定の目的が違います。Mだけが「すでに打ち手が決まっているもの」です

定期点検の結果というと、健全性の診断の区分(Ⅰ〜Ⅳ)と損傷程度の評価に目が向きます。ところが実務で最も取りこぼしが起きやすいのは、そのどちらでもないM=維持工事等での対応の必要性です。補修工事の発注には乗らず、かといって放っておくと次の5年まで残り続ける。そういう性格の判定だからです。

この記事では「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)から、第1章 5.3、第2章 6.3、そして点検記録様式(その11)の記入要領を原文で読みます。A〜S2 の全体像は対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧、調書そのものの組み立ては橋梁点検調書の構成と書き方で扱っています。

Mは「補修」ではなく「日常の維持行為」の区分

要領は、定期点検で法定事項である健全性の診断とは別に、次の3つの必要性を整理して記録することを求めています。

「また,定期点検では,適宜適切な維持管理を行うために,法定事項である道路橋毎の健全性の診断と合わせて,緊急対応の必要性,維持工事等での対応や詳細調査又は追跡調査の必要性についても整理し,記録を残す。」(第1章 5. 解説)

ここで並んでいるのが、E(緊急対応)・M(維持工事等での対応)・S1/S2(詳細調査・追跡調査)です。いずれも告示に基づくⅠ〜Ⅳの診断とは別のラインに置かれています。Ⅰ〜Ⅳ側の考え方は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?を参照してください。

そのうえで要領は、Mと判定した後の動き方をこう書いています。

「5.3の規定に従い維持工事等で対応すると判定した場合は,維持・補修等の計画を踏まえたうえで,早急に行う。」(第1章 5. 解説)

Eのように直ちに対応するのでも、C1・C2 のように修繕計画に積み上げるのでもなく、「計画を踏まえたうえで早急に」という中間の速度が指定されています。これがMの位置づけです。

要領の定義は第1章と第2章の二段構え

Mの定義は、要領の中に2か所あります。第1章 5.3 と、第2章 6.3 です。文言はほぼ同じですが、主語が違います

箇所見出し誰の行為か
第1章 5.3維持工事等での対応の必要性の判定道路管理者が決定する側
第2章 6.3維持工事等での対応の必要性の検討橋梁診断員が技術的見解をまとめる側

第1章 5.3 の本文は次のとおりです。

「(1) 当該部材・部位の機能を良好な状態に保つため,損傷や不具合の種類と規模,発生箇所を考慮して,道路毎に日常の維持行為の中で早急に対応することの必要性について判定する。(2) (1)により維持工事等での対応が必要となる場合の判定区分は「M」とする。」

読み落としやすいのが「道路毎に」という限定です。判定の観点は橋の構造安全性ではなく、その道路を良好な状態に保つために早急に手を入れるべきかに置かれています。だから「機能を良好な状態に保つため」という目的語が最初に来ています。

第2章 6.3 は同じ内容を「検討する」「『M』に区分する」と書き換えたものです。要領が2つの章に分かれている理由そのものは橋梁定期点検要領(令和6年7月・直轄)とは?で整理しています。

何がMになるのか:土砂詰まりとボルトのゆるみ

解説は、2つの具体例を挙げています。

「例えば,土砂詰まりなどは,損傷の原因や規模が明確で,通常の維持工事で補修することができると考えられるし,高欄のボルトのゆるみのように原因が不明であっても必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる。これらの例のように,容易に補修や改善の対応が可能であり,直ちに対処することが望ましいと考えられるものについては,「M」判定とする。」(第1章 5.3 解説)

この2例は、Mの条件が2通りあることを示しています。

要領が挙げる理由Mになる理屈
土砂詰まり損傷の原因や規模が明確原因がわかっているので、調査を挟まず維持工事に回せる
高欄のボルトのゆるみ原因が不明であっても必ずしも詳細調査が必要とはならない原因が不明でも、対処が容易ならS1 ではなくMでよい

後者が実務上の分かれ目です。「原因がわからない=S1(詳細調査)」と反射的に振ってしまうと、締め直せば済むものまで調査待ちの列に並びます。要領はそこに、対処の容易さを基準にした逃げ道を用意しています。なお、この2つの損傷そのものの評価要領は漏水・滞水と土砂詰まりゆるみ・脱落の評価にまとめています。

もうひとつ、対象範囲の拡張規定があります。

「また,付属物など,上部構造,下部構造,上下部接続部,フェールセーフ又は伸縮装置以外にも,修繕や更新が必要な場合も考えられる。これらについても,必要に応じて「M」判定とする。」

構成要素として性能の評価を受けるのは上部構造・下部構造・上下部接続部・その他(フェールセーフ)・その他(伸縮装置)です(構成要素に求められる7つの機能を参照)。そこから外れる付属物は、評価の枠では拾われないぶんをMで拾うという構造になっています。誰が点検するのかで迷いやすい添架物・占用物件については橋の添架物は誰が点検するのかで整理しています。

出典:国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)。引用は同要領の本文・解説からの抜粋です。適用する要領・様式の版は各道路管理者にご確認ください。

Mの本体は「落とさないこと」にある

Mの判定そのものは難しくありません。難しいのはその後です。要領は第1章と第2章で、言い方を変えて同じ念押しをしています。

「なお,この判定結果は,速やかに,かつ確実に維持工事等による対応が行われなければならず,適切な対応が取られるようにしなければならない。」(第1章 5.3 解説)

「なお,「M」に区分される対応の必要性は,その可能性があるものにフラグ立てやリスト化したものを別途報告するなどして,必要に応じた適切な対応がとられるようにしなければならない。」(第2章 6.3 解説)

第2章側は「フラグ立てやリスト化したものを別途報告する」という具体的な手段まで書いています。調書の本体に書き込んで終わりにせず、維持工事の担当者がその一覧だけを見て動ける形にすることが求められている、と読むのが自然です。次節の様式その11 は、まさにその一覧そのものです。

この記事の結論

Mは「判定が難しい区分」ではなく「引き継ぎが切れやすい区分」です。補修工事の設計にも、調査の発注にも乗らないため、リスト化して別途報告する経路を作らないと、次の定期点検まで同じ土砂詰まりを記録し続けることになります。

記録先は3か所ある

Mは、点検記録様式の3か所に現れます。どれか1つに書けば足りるものではありません。

様式Mが現れる欄粒度
点検記録様式(その1)
橋梁の諸元と定期点検総合結果
定期点検総合結果の「対応や調査の必要性」道路橋ごとに有・無
点検記録様式(その2)
構成要素の機能を担う部材群(システム)毎の性能の評価結果
「対応や調査の必要性」構成要素ごとに有・無
点検記録様式(その11)
維持工事等の必要性
様式全体箇所ごとに内容を記述

様式その1 の記入要領は次のとおりです。

「維持工事等での対応や詳細調査や追跡調査等の必要性の『有・無』を記入する。各判定区分(E,M,S1,S2)の判定の基本的な考え方は,第1章5.2から5.4によるものとする。なお,必要性があると判定し『有』を記録した場合は,その内容と理由を,『定期点検総合結果に関する補足』の欄に記載するとよい。」

様式その2 も同じ構造で、「有」とした場合は所見の欄に内容と理由を書くよう求めています。つまりチェック欄だけでは完結せず、必ず文章側に受け皿がある設計です。様式その1 の書き方は様式1の基本情報の書き方、所見の用語づかいは耐荷性能の回復と改善の違い:所見の用語10種で扱っています。

様式その11 は何を書く様式か

点検記録様式(その11)の位置づけを、要領はこう説明しています。

「本様式は,点検結果を踏まえた維持管理への指示・引き継ぎ事項を整理するものである。次回定期点検までの維持工事等での対応の必要性を有りとした場合に,必要な行為等を記載する。また,橋梁利用者及び第三者被害予防の措置の必要性がある場合に,その内容を記載する。」

「維持管理への指示・引き継ぎ事項」という言葉がこの様式の性格を表しています。点検結果の記録ではなく、次に手を動かす人への申し送りです。記入要領は4項目です。

記入要領(原文)
径間番号該当部分に対応した径間番号
箇所対象となる箇所。「A1橋台側排水管,下流側排水桝 など,箇所が特定できるよう記載」
状態と必要な行為上述箇所の状態と,それに対して必要な行為
写真番号「箇所」や「状態と必要な行為」を補足するための資料

「箇所」の記入例が「A1橋台側排水管,下流側排水桝」という粒度で示されているのが要点です。部材名だけでは足りず、現地に行った人がその場所に立てる書き方が求められています。

写真番号については、参照先の明示まで指定があります。

「点検記録様式(その8-1,8-2)に添付されている写真が補足資料になる場合には写真番号を記載する。記載においては『点検記録様式(その8-1,8-2)写真番号○』など,参照先がわかるようにする。」

様式その11 の用紙は、4つの一覧に分かれています。維持工事等の対応が必要な部材等一覧同(フェールセーフ)一覧同(伸縮装置)一覧同(フェールセーフ及び伸縮装置以外)一覧です。前節の「付属物などもMの対象になる」という規定が、様式の側でも独立した表として用意されていることがわかります。

なお、見えなかった箇所や把握方法そのものの引き継ぎは別の様式が受け持ちます。点検記録様式(その7)点検の引き継ぎ事項はどこに書く?を併せて確認してください。

第三者被害の事前対策済み箇所とM

様式その11 が第三者被害予防の措置内容も受けることは前節のとおりですが、要領はもう一歩踏み込んだ運用を示しています。

「そこで,定期点検にて事前対策済み箇所について次回定期点検までの措置が必要であると判断される場合には,所見に含めたり,中間年における第三者被害防止措置が実施されるように所見に含めたり,5.3にて維持工事等での対応をすることを検討したりするなど,適切な対応が取られるように検討するのがよい。」(第1章 5. 解説/第2章 6.1 解説にも同旨)

剥落防止ネットなどの事前対策が施された箇所は、打音検査とたたき落としの原則の外に置かれます。その前提は「定期点検において事前対策の健全性が確認されていること」です。したがって対策自体が傷んでいれば、それを次に誰が直すのかを定期点検の側から指し示す必要があります。その受け皿のひとつとして、要領はMを挙げています。中間年の措置そのものについては第三者被害予防措置とは?にまとめています。

解説はさらに、頻度についても含みを持たせています。「中間年のみでなくこれよりも高い頻度での打音検査等の実施を妨げるものではなく,必要に応じて,中間年よりも短い間隔で打音検査等を行う必要性が認識されるように所見を残すのがよい」。所見は、次回点検の間隔にまで影響しうる欄だということです。

E・S1・S2 との切り分け

M・E・S1・S2 は同じ「対応や調査の必要性」欄に並びますが、判定の目的が異なります。

区分判定の目的打ち手は決まっているか速度
交通障害や第三者被害のおそれへの緊急対応決まっている直ちに対応し、その対応を記録する
日常の維持行為の中で早急に対応する必要性決まっている維持・補修等の計画を踏まえたうえで早急に
S1原因の確定などの詳細調査決まっていない調査結果を踏まえて再判定
S2異常の進行の可能性を見立てるための観察の継続決まっていない監視の結果を踏まえて再判定

S1・S2 の要領上の定義は、いずれも「橋の性能の推定や措置の内容や必要性が変わり得る」かどうかで書かれています。つまりS系は判定を確定させるための保留です。これに対してMは、すでに何をすればよいかが見えているものを、工事の種別だけ分けて送り出す区分です。詳しくは橋梁点検の詳細調査とは?判定S1・S2の使い分け、監視を措置として選ぶ場合は措置としての「監視」とは?を参照してください。

E・S1・S2 と違い、Mには「再判定」の手続きがありません。やったかどうかを追う仕組みを持っているのは、要領ではなく道路管理者の側だということでもあります。予防保全への転換という文脈では、この取りこぼしが効いてきます(予防保全と事後保全の違い)。令和6年改定の全体像は【令和6年3月改定】道路橋定期点検要領の変更点まとめにまとめています。

よくある質問

Q. M判定は健全性の診断の区分(Ⅰ〜Ⅳ)に影響しますか。
A. 別のラインです。Ⅰ〜Ⅳは告示の定義に従って道路橋ごとに決定する法定の診断で、Mは「維持工事等での対応の必要性」の判定です。要領は、法定事項である健全性の診断と「合わせて」緊急対応・維持工事等での対応・詳細調査又は追跡調査の必要性を整理し、記録を残すとしています。Ⅰの橋にMが付くことも、Ⅲの橋にMが付かないこともあります。

Q. 原因がわからない損傷は、Mではなく詳細調査(S1)にすべきですか。
A. 必ずしもそうではありません。第1章 5.3 の解説は「高欄のボルトのゆるみのように原因が不明であっても必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる」とし、「容易に補修や改善の対応が可能であり,直ちに対処することが望ましいと考えられるもの」はM判定とするとしています。基準は原因の判明ではなく、対処の容易さと緊急度です。

Q. 高欄や照明など、構成要素の評価に出てこない付属物はどこで拾いますか。
A. Mで拾えます。第1章 5.3 の解説は「付属物など,上部構造,下部構造,上下部接続部,フェールセーフ又は伸縮装置以外にも,修繕や更新が必要な場合も考えられる。これらについても,必要に応じて『M』判定とする」としています。様式その11 にも「維持工事等の対応が必要なその他構造(フェールセーフ及び伸縮装置以外)一覧」の表が用意されています。

Q. 様式その11 の「箇所」はどこまで細かく書きますか。
A. 記入要領は「対象となる箇所」として「A1橋台側排水管,下流側排水桝 など,箇所が特定できるよう記載」と例示しています。部材名だけでなく、支間や位置がわかる書き方が求められています。写真で補足する場合は「点検記録様式(その8-1,8-2)写真番号○」のように参照先を明示します。

Q. Mと記録した内容は、調書に書いておけば足りますか。
A. 第2章 6.3 の解説は「その可能性があるものにフラグ立てやリスト化したものを別途報告するなどして,必要に応じた適切な対応がとられるようにしなければならない」としています。調書への記載に加えて、維持工事の担当へ渡る一覧の形にすることが想定されています。

Q. 剥落防止対策が済んでいる箇所は、打音検査の対象外だからMも関係ありませんか。
A. 関係します。要領は、事前対策済みという前提が成り立つのは「定期点検において事前対策の健全性が確認されていること」だとしたうえで、次回定期点検までの措置が必要と判断される場合には、所見に含めるか、維持工事等での対応を検討するなど適切な対応が取られるように検討するのがよい、としています。

出典・適用範囲

本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は要領の表記に合わせています。

  • 国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月) — 参照箇所:第1章 5. 道路橋毎の健全性の診断の区分の決定(解説)/第1章 5.2 緊急対応の必要性の判定/第1章 5.3 維持工事等での対応の必要性の判定/第1章 5.4 詳細調査又は追跡調査の必要性の判定(表-5.4.1)/第2章 6.1 措置の必要性等の検討/第2章 6.3 維持工事等での対応の必要性の検討/第2章 6.4(表-6.4.1)/点検記録様式(その1)橋梁の諸元と定期点検総合結果の記入要領(対応や調査の必要性・定期点検総合結果に関する補足)/点検記録様式(その2)の記入要領(対応や調査の必要性・所見)/点検記録様式(その11)維持工事等の必要性の記入要領および様式の4一覧。
  • 国土交通省「道路:道路の老朽化対策」 — 参照箇所:橋梁定期点検要領(令和6年7月)の掲載状況。

原典リンク確認:2026年9月21日。本記事は判定区分と記録方法を確認するための実務解説で、個別の橋の措置の必要性や健全性の診断の区分を判断するものではありません。要領は改定されることがあります。判定にあたっては、その時点の最新版と各道路管理者の運用をご確認ください。