この記事の要点
  • 特定道路土工構造物は重要度1の道路土工構造物のうち、長大切土(切土高おおむね15m以上)・高盛土(盛土高おおむね10m以上)・河川隣接区間の盛土又は擁壁の3つに限られる
  • 高さは同一区域内の最大の高さで判断するのが基本。長大切土は「小段3段より高い切土のり面」、高盛土は「小段2段より高い盛土のり面」としてもよいという便宜的な置き換えがある
  • 河川隣接区間は高さの条件がなく、水平距離おおむね7m以内(①)かつ河床勾配おおむね1/250より急(②)、または①かつ水衝部(③)で抽出する
  • 頻度は全数について建設後2年以内に初回、2回目以降は5年に1回。それ以外の道路土工構造物は巡視等で変状が認められたときの通常点検
  • 判定区分はⅠ〜Ⅳだが、Ⅱは橋梁の「予防保全段階」ではなく「経過観察段階」。原典が「道路土工構造物における特有の診断結果」と明記している

のり面や盛土の点検を担当することになって、まず引っかかるのが「どののり面を5年に1回で回さなければいけないのか」です。橋やトンネルのように「すべての橋を5年に1回」という形になっておらず、定期的な頻度で回すのは「特定道路土工構造物」だけで、それ以外は巡視で変状を見つけたときに点検する建て方になっています。

その切り分けが、よく「15mと10m」という数字だけで語られます。ところが原典を読むと、数字は3つある条件のうちの2つにしか出てきません。河川に沿った盛土や擁壁は高さを問わず対象になり、逆に高さを満たしても除かれる場合があります。

この記事では「道路土工構造物点検要領」(令和5年3月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の本文を照合して、何が特定道路土工構造物になるのか・高さはどこで測るのか・対象外はどこへ回すのかを原文で整理します。

対象は3つだけ:長大切土・高盛土・河川隣接区間

用語の定義(3.(1))が、そのまま対象範囲になっています。

「道路土工構造物技術基準」に規定された重要度1の道路土工構造物のうち、以下の(a)~(c)に示す切土、盛土又は擁壁のことをいう。

(a)〜(c)は次のとおりです。いずれも原文の定義を転記します。

区分原典の定義含まれる施設
(a)長大切土切土高おおむね15m以上の切土切土のり面、のり面保護施設(吹付モルタル、のり枠、擁壁、補強土、グラウンドアンカー等)、排水施設等を含む
(b)高盛土盛土高おおむね10m以上の盛土盛土のり面、のり面保護施設(擁壁、補強土等)、排水施設等を含む
(c)河川隣接区間の盛土又は擁壁前面に並行して河川のある道路管理者が管理する盛土又は擁壁で、①かつ②または①かつ③に該当するもの盛土のり尻部・擁壁基礎部から路面陥没等の有無を確認できる範囲に着目して点検区域を設定

ここで押さえておきたいのは、長大切土も高盛土も「のり面だけ」ではないということです。定義の文がのり面保護施設と排水施設までを含む形で書かれているため、擁壁・のり枠・吹付け・グラウンドアンカー・側溝が、それぞれ別の構造物ではなく1つの特定道路土工構造物を構成する施設として扱われます。

要領は構成施設の代表例を表-1にまとめています。のり面は「切土又は盛土により人工的に形成された斜面」、のり面保護施設は「人工的に形成された斜面に設置された保護施設(のり枠、吹付け、擁壁、補強土壁、グラウンドアンカーなど)」、排水施設は「雨水や湧水等を速やかに排除する施設(のり肩排水溝、縦排水溝、小段排水溝、じゃかご、排水孔など)」です。

シェッド・大型カルバートは、この要領の対象から外れています。適用の範囲が「『シェッド、大型カルバート等定期点検要領』の対象となるシェッド、大型カルバート等を除くもの」と書かれており、別の要領で定期点検を行う建て方です。そちらはシェッド、大型カルバート等定期点検要領とは?令和6年改定の変更点とシェッド・大型カルバート等の定期点検:対象施設・頻度・要領を整理に整理しています。大型カルバート以外のカルバートは、要領の側で「便宜的に盛土を構成する施設の一つとみなして点検対象とする」とされています(溝橋の扱いは溝橋(ボックスカルバート)の定期点検の対象と方法)。

前提になる「重要度1」とは何か

3条件の手前に「重要度1の道路土工構造物のうち」という限定が付いています。重要度1は要領そのものではなく「道路土工構造物技術基準」側の区分で、補足に(ア)(イ)として引かれています。

(ア) 下記に掲げる道路に存する道路土工構造物のうち、当該道路の機能への影響が著しいもの
・高速自動車国道、都市高速道路、指定都市高速道路、本州四国連絡高速道路及び一般国道
・都道府県及び市町村道のうち、地域の防災計画上の位置づけや利用状況等に鑑みて、特に重要な道路
(イ)損傷すると隣接する施設に著しい影響を与える道路土工構造物

そのうえで要領は、実際の運用について次のように書いています。

一般に、地方整備局等の管理する長大切土、高盛土、河川隣接区間の擁壁又は盛土は、そのほとんどが重要度1に相当し特定道路土工構造物となる。

直轄区間では「高さの条件に当たればほぼ特定」になりますが、都道府県道・市町村道では(ア)の2つ目を自組織で判断する必要があります。地域の防災計画上の位置づけや利用状況に照らして重要かどうか、という定性的な線なので、点検計画を組む前にここを決めておかないと対象数が確定しません。緊急輸送道路が優先される考え方は緊急輸送道路の橋梁はなぜ点検・耐震で優先されるのかに整理しています。

なお、条件に満たないものを放っておけという要領ではありません。「特定土工構造物の条件に満たない道路土工構造物についても、立地条件や変状の状況に応じ、特定土工構造物に準じて、点検を行うとよい」とされ、重要度2の長大切土や高盛土については通常点検の診断でも「特定土工点検における診断での判定区分(表-2)を参考にすることが望ましい」と書かれています。

高さはどこで測るのか:同一区域内の最大で判断する

15m・10mという数字は「おおむね」付きです。そして測る位置が補足で決められています。

高さの判断にあたっては、その道路土工構造物の被災した場合の規模を想定して判断する。切土や盛土は同一区域内でも高さや構造が変化することが一般的であるが、大規模な崩壊に至る場合は、もっとも不安定な断面から変状が発生し、それが周辺に拡大しながら進展していくことが多い。したがって、同一の区域内の最大の高さで判断することを基本とする。

平均ではなく最大です。延長の大半が8mで一部だけ12mの盛土は、高盛土の側に入ります。理由も書かれていて、崩壊は最も不安定な断面から始まって周囲へ広がるため、という組み立てです。

高さが取りにくい現場向けに、便宜的な置き換えも用意されています。

長大切土は切土高がおおむね15m以上のものであるが、のり面の高さの正確な把握が難しい場合や既存の取組みなどを踏まえ「小段3段より高い切土のり面」としてもよい。同様に、高盛土は盛土高がおおむね10m以上のものであるが、「小段2段より高い盛土のり面」としてもよい。但し、1段当たりの切土高を7mとしている長大切土が施工されている場合があることに留意する必要がある。

最後の但し書きが実務的です。1段7mで施工された切土なら、小段2段でも高さは14m前後になり得ます。段数での置き換えは1段あたりの高さが分かっている現場でだけ使える代用で、要領も「より効率的に特定土工点検を実施するための便宜的な方法」と位置づけています。

高さの足し算が必要になる場合も2つ挙げられています。

  • 高さが10mを超えない盛土やそれに含まれる擁壁等の施設が連なっており、これらの施設が一挙にすべりを生じるような被災が懸念される場合は、複数の施設を一つの道路土工構造物ととらえる必要がある
  • 盛土の前面に掘り込み水路が設置されているような場合で水路の護岸基部からのすべりが懸念される場合は、基礎地盤面からの盛り立て高さのみではなく、掘り込み水路の河床面からの高さで判断することが必要

どちらも「個々の施設としては基準に届かないが、まとめて崩れるなら1つとして見る」という読み方です。構造物の数え方を単位から考える点は、シェッド・大型カルバートの「1施設」の数え方(シェッド・大型カルバートの「1施設」の数え方|構造形式と供用年度で割る)と同じ思想です。

河川隣接区間は高さを問わない。条件は①かつ②または①かつ③

3つ目の(c)だけ、高さが条件に入っていません。原文の条件は次の3つで、①かつ②、または①かつ③という組み合わせです。

① 道路肩から道路土工構造物の法尻もしくはその前面と河床との接点までの水平距離がおおむね7m以内
② 河床勾配がおおむね1/250より急勾配である箇所
③ 湾曲部等の水衝部になっている箇所(湾曲半径がおおむね120m以下かつ湾曲角度がおおむね20°以上)

つまり①は必須で、②(急勾配)と③(水衝部)はどちらかで足ります。③の水衝部には、湾曲半径120m以下・湾曲角度20°以上という数値まで入っています。

そのうえで除外が明記されています。

但し、本条件に該当しても、コンクリート等により三面護岸化された小河川の隣接区間など、あきらかに洗掘の恐れがない区間は除く。

条件に当たっても、洗掘のおそれが明らかにない区間は対象外という書き方です。数値だけで機械的に拾うのではなく、洗掘が起きるかどうかで判断する構成になっています。橋脚側の洗掘の見方は橋脚の洗掘は誰が水中を見るのかにまとめています。

測れないときの代用も用意されています。水平距離の測定が困難な場合は「道路肩から道路土工構造物と平水位との接点までの水平距離等を目安に点検対象箇所を設定してもよい」とされ、河床勾配は河川縦断図の入手を基本としつつ、詳細な図面が入手できない場合に限って道路縦断勾配で代える方法が条件付きで書かれています。

代用の方法適用できる条件
当該区間の道路縦断勾配を河床勾配と同等とみなす道路と河川が1km程度以上隣接し、河川の流れの方向と道路縦断勾配の方向がおおむね一致している場合
同じく道路縦断勾配を河床勾配と同等とみなす流れの方向と道路縦断勾配の方向が区間内で一致していない区間を含む場合は、道路と河川が3km程度以上隣接していれば可

さらに、要領は河床低下の兆候にも触れています。「道路の対岸において砂州が発達している場合や落差工が設置されている箇所では河床低下、基礎洗掘が発生している可能性があるため、点検区域の設定において、必要に応じ考慮するとよい」。管理者が違う場合は「道路管理者と施設管理者が調整の上、点検を行う事が望ましい」とされており、ここは兼用工作物や添架物と同じ調整の論点になります(兼用工作物の点検は誰が行うのか。道路法第20条と協議の公示)。

自然河岸の扱いも分かれます。「自然河岸の河川隣接区間は道路区域外のため、特定土工点検の対象外となるが、道路防災上の点検として特定土工点検に準じ点検を行うとよい」。海岸に隣接して波浪による侵食・洗掘の影響が著しい擁壁等も「特定土工構造物に準じて、点検を行うとよい」とされています。

点検の単位は「橋1橋」ではなく「点検区域」

橋梁では1橋が単位ですが、土工では点検区域という単位が別に定義されています(3.(2)「道路土工構造物の点検の単位のことをいう」)。設定の考え方はこうです。

点検区域の設定にあたっては、地形的な要因等により被災形態が同一と想定され、一般に複数の施設を含む区域を 1 点検区域として設定する。

分割してよい場合も書かれています。「道路延長方向に長大に連続するのり面などにおいて、地形的な要因により想定される被災形態が同一のり面内で異なる場合や、記録の整理方法を考慮する場合などは、適当な区分で分割してもよい」。

複数施設を1区域にまとめる理由は、設計の考え方にあります。要領は技術基準の解説を引いて「想定される一つの発生源に対して擁壁、吹付け、グラウンドアンカー等の複数の道路土工構造物を配置し機能を組み合わせることによって、道路の安全性を確保する」ことがあるためだと書き、1つの大きなすべりに対して基部の擁壁・押さえ盛土と中上部のグラウンドアンカーを組み合わせる例を挙げています。抑止効果は合算して設計されているので、そのうち1つが機能を失うことが大きなすべりの引き金になり得る、という理屈です。

この単位は診断にも効きます。健全性の診断の節に、はっきり書かれています。

健全性の診断は特定土工構造物全体(点検区域)の健全性を診断するものであり、のり面保護施設などの個々の施設の健全性を診断するものではない。

施設ごとに評価を付けて最悪値を採る形ではなく、区域全体で1つの判定区分を出す構成です。橋梁側で「最も厳しい部材で決めるのか」が論点になるのとは、前提が違います(健全性の診断は最も厳しい部材で決めるのか?改定後の考え方)。

特定土工点検と通常点検の違い

要領は点検を2本立てにしています。文面上の違いは「契機」と「頻度」です。

(3)特定土工点検
特定道路土工構造物を対象に、定期的な頻度で行う点検のことをいう。
(4)通常点検
すべての道路土工構造物を対象に、巡視等により変状が認められた場合に行う点検のことをいう。

頻度は点検計画の節にあります。

特定道路土工構造物は、全数について建設後2年以内に初回を行い、2回目以降は5年に1回の頻度で行うことを基本とする。

「建設後」の起点も定義されています。「本要領に示す切土、盛土の1区域の単位が完成(排水構造物、のり面保護施設含む)した段階」です。橋梁の初回点検が供用開始後2年以内である点(初回点検は供用開始後2年以内|5年に1回とは別枠で必要な理由)と似ていますが、土工は「供用開始後」ではなく「1区域の完成後」という書き方です。

項目特定土工点検通常点検
対象特定道路土工構造物(長大切土・高盛土・河川隣接区間)シェッド・大型カルバート等を除くすべての道路土工構造物
契機定期的な頻度(計画に基づく)巡視等により変状が認められた場合
頻度建設後2年以内に初回、以後5年に1回が基本定めなし(巡視の頻度は道路管理者が適切に定める)
手法近接目視により行うことを基本とする巡視中もしくは巡視後、近接目視等により行うことを基本とする
判定区分Ⅰ〜Ⅳ(表の区分)道路管理者が設定した判定区分(表-2を参考にすることが望ましい)

通常点検の「巡視等」には幅があります。「日常、定期又は異常時に実施する巡視によるほか、道路利用者や沿道住民からの通報を受けた場合、あるいは道路監視カメラなどによる監視により変状を認められた場合等も含まれる」。通報とカメラも契機に入っているのがこの要領の特徴です。巡視と定期点検が政令上どう分かれているかは道路の巡視と定期点検の違い:政令が分けている3つの義務にまとめています。

軽微な変状の扱いも書かれています。「特定道路土工構造物以外の道路土工構造物については、巡視等の際に認められた変状が軽微な場合には、巡視の機会を通じた変状の把握及び措置・記録による管理とすることができる」。

5箇年計画は延長の機械的な分割ではありません。「単に道路延長を分割して、順次、点検を行うのではなく」既往資料と現地踏査の結果、諸元・周辺条件・被災に伴う社会的影響を考慮して優先順位を付けると書かれています。加えて「点検計画の立案において道路土工構造物の状態によっては、5年より短い間隔で点検することを妨げるものではない」とあり、5年は上限として読む建て方です。点検計画に共通して確認する項目は定期点検計画とは?道路管理者が共通で確認する5項目と連絡体制にあります。

判定区分Ⅱが「予防保全段階」ではない理由

判定区分はⅠ〜Ⅳの4段階で、記号は橋梁と同じです。ところがⅡの名前が違います。

判定区分判定の内容(原文)
Ⅰ 健全変状はない、もしくは変状があっても対策が必要ない場合(道路の機能に支障が生じていない状態)
Ⅱ 経過観察段階変状が確認され、変状の進行度合いの観察が一定期間必要な場合(道路の機能に支障が生じていないが、別途、詳細な調査の実施や定期的な観察などの措置が望ましい状態)
Ⅲ 早期措置段階変状が確認され、かつ次回点検までにさらに進行すると想定されることから構造物の崩壊が予想されるため、できるだけ速やかに措置を講ずることが望ましい場合(道路の機能に支障は生じていないが、次回点検までに支障が生じる可能性があり、できるだけ速やかに措置を講じることが望ましい状態)
Ⅳ 緊急措置段階変状が著しく、大規模な崩壊に繋がるおそれがあると判断され、緊急的な措置が必要な場合(道路の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態)

橋やトンネルのⅡは「予防保全段階」です(健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?定義と判定の考え方)。土工のⅡは「経過観察段階」で、違いの理由が補足に書かれています。

経過観察段階とは、道路土工構造物における特有の診断結果であり、橋梁等の点検における「予防保全段階」に相当するものの、予防保全ではなく、経過観察を主眼とした判定である。

続く説明が核心です。予防保全は「対象となる構造物の劣化シナリオがある程度明確となっており」、近い将来の機能低下が予測できるものに対して先に手を打つ考え方です。ところが「道路土工構造物の多くは、構造物の劣化の過程である劣化シナリオが明らかにはなっている訳ではない」。つまり何が起きるかが分からないから、予防ではなく観察を主眼にするという組み立てです。予防保全と事後保全の整理は予防保全と事後保全の違い:転換が求められる理由と費用効果にまとめています。

要領はその具体例として、盛土の小段のり面のクラックを挙げています。盛土内部のすべりの結果として表層にクラックが出ている場合と、経時的な沈下変形に伴って出ている場合があり、前者は健全性が損なわれている兆候ですが、後者は想定の範囲内なら問題ではない。そして「クラックの形態だけから発生したクラックがいずれの種類のものであるかを判断することは難しく、追加のボーリング調査などを行っても明確にならないおそれがある」と書かれています。

それでも放置はしない、という向きも明示されています。後者のような軽微な変状でも「そのまま放置すると、クラックから雨水等が盛土内部に浸入して盛土を不安定化させ、盛土の崩壊を発生させたり、その後の地震時や豪雨時に盛土の被害の発生を促進する要因となったりすることも考えられる」ため、「明確な原因が特定できないような状態であっても、何らかの措置を講じることが効果的である」。

Ⅱと診断した後の経過観察の組み立ても書かれています。「観察を行う手段、その実施の間隔を定めることが基本」で、「観察の方法は、できる限り定量的に観察ができる手段を選ぶことが重要」、さらに「単一の方法と期間によるのではなく、比較的頻度の高い路上からのパトロールによる観察と数ヶ月から数年に一度のより精度の高い近接目視による観察と地震時や豪雨時といった異常時の観察を組み合わせるなどすることが有効」とされています。措置としての監視の立て方は措置としての「監視」とは?モニタリング計画の立て方に整理しました。

区分を戻す道も用意されています。経過観察の結果、対策等が安定的に機能して「判定区分Ⅰ相当と診断できる場合は、判定区分を見直してよい」。ただし「それまでの経過観察等の記録は保管しておくことが必要」とされています。記録の保存期間は橋梁と同じく供用期間中です(点検記録の保存期間は何年?答えは「供用中」)。

令和3年度まで防災カルテ点検の対象箇所だった箇所は、「特定土工点検の判定区分の『Ⅱ:経過観察段階』に準じた経過観察を行うものとし、令和3年度までに実施していた防災カルテ点検での観察の時期・頻度を継続するものとする」とされています。防災カルテとの関係は道路防災点検とは?防災カルテと定期点検の違いに整理しています。

自然斜面は対象外。道路防災上の点検へ回す

のり面の点検で迷いやすいのが、のり面の上に続く自然斜面です。要領は適用の範囲でこう切っています。

なお、自然斜面については道路土工構造物でないことから本要領の対象外としており、事前通行規制の制度や「道路防災総点検」等の危険度調査などの既存の取組み方法等を引き続き活用して安全の確保に努めるものとする。

適用範囲の図(図-1)についても「道路区域内の道路土工構造物は道路土工構造物点検を実施し、道路区域外の自然斜面は道路防災上の点検を実施することを基本としている」と説明されています。道路区域の内か外かで要領が分かれるという切り分けです。

ただし、無関係として捨てるわけではありません。

道路土工構造物点検は、道路土工構造物という人工構造物に対して健全性の診断を行う行為であり、自然斜面や地山の変状そのものに対する診断・評価は本点検では行わない。ただし、道路土工構造物の診断に当たっては、将来道路土工構造物に発生するおそれのある災害を考慮して診断を行うことが重要であり、建設にあたって手を加えていない自然斜面や地山の変状等も視野に入れ、診断内容に影響を及ぼす要因として考慮する。

整理すると、自然斜面は診断の対象ではないが、診断に影響する要因としては考慮する。そして自然斜面側の評価が必要になったら「別途、詳細調査等にて対応する必要がある」と回し先が指定されています。法定点検の対象施設そのものの範囲は点検義務があるのは橋だけではない|道路の法定点検「5施設」と5年ルールと道路土工構造物点検要領とは?法定点検との違いにまとめています。

点検の準備段階で集める資料も列挙されています。道路台帳付図・点検結果の記録に加えて「周辺を含めた道路防災点検及び防災カルテ点検の記録、周辺の詳細地形及び構造物の形状を示す三次元点群データ、地質データ(地質図、ボーリングデータ、地質調査報告書等)、路面下空洞調査結果等」です。路面下空洞調査の位置づけは路面下空洞調査とは?法定点検に入らない調査の位置づけにあります。

当初設計との比較には注意書きが付いています。「当初の設計図書と点検時点の構造物の位置や形状を単純に比較すると、構造物に生じている変状を過大・過小に見誤ることもある」。施工過程での設計変更や、設計図書の座標と実際に施工された座標の相違がしばしばあるためです。

点検の手法:近接目視が基本、点群は俯瞰のために使う

特定土工点検の手法は「近接目視により行うことを基本とする」です。近接目視の定義も要領の中にあり、橋梁の定義とは言い方が違います。

点検対象の道路土工構造物に、路上からだけでなく小段やのり肩等、対象物に接近して変状の有無や程度を観察する方法をいう。

接近する場所として小段やのり肩が例示されているのが土工側の特徴です。橋梁側の定義と要件は近接目視とは?定義と「同等の評価が行える他の方法」の要件に整理しています。

そのうえで、必要に応じた手法の追加が書かれています。

点検の手法は近接目視が基本であるが、健全性の診断を行うため必要に応じて触診や打音検査を含む非破壊検査技術などを適用することを検討する。なお、前述の通り、のり面崩落に影響を及ぼす変状を把握し評価するために、全体を俯瞰的にみることが重要であり、長大切土や高盛土ののり面の変状の把握においては、必要に応じ三次元点群データ等の活用により効率的に行う事が考えられる。

点群データの位置づけが、橋梁と違う点に注意してください。橋梁では近接目視の代替手段としての要件(同等の評価が行えるか)が論点になりますが、ここでは「全体を俯瞰的にみる」ための効率化の手段として挙げられています。要領が「一見同じ変状であっても、その原因や発生メカニズムが多様である」「全体を俯瞰してみることが重要」と繰り返しているためです。点群でできること・できないことはLiDAR・点群データの橋梁点検活用:できること・できないことに整理しました。

河川隣接区間については、計測の中身まで書かれています。「河川隣接区間の洗掘状況の把握について、洗掘範囲、深さを水中カメラ等を用いて、定量値を把握することが望ましい。計測内容としては、洗掘範囲、深さ、周辺護岸の沈下、傾斜等を計測することが望ましい」。

見通しの確保と前処理も明記されています。「地域の実情を踏まえ必要に応じて点検に先立ち除草を実施するか、もしくは草木が枯死する時期に点検を行うなど目視の妨げとならないよう配慮する」。排水施設に落ち葉が溜まる、水抜きパイプに草が繁茂するといった「通常の維持管理で機能回復するもの」は、点検前に維持の範囲で機能を回復させることも効率化として検討するとされています。

応急措置の例も2つ挙がっています。剥離やうきで第三者被害が懸念される場合は「たたき落とし等の措置を行い、たたき落とし後の状態で健全性の診断を行う」。この順序は橋梁側と同じ考え方です(点検中の叩き落とし作業とは?ハンマーの重さと打音の間隔、第三者被害予防措置とは?定期点検の中間年に行う打音検査)。もう1つが排水機能の回復で、ここには続きがあります。

なお、排水施設の場合には、機能の喪失が一時的なものであって、清掃等により機能が回復する場合でも、一時的に損なわれている間に溢れ出た水が特定道路土工構造物に侵入して既に変状を発生させていたり、当初想定していない水みちを作ってしまったりしていることもあるので、このような場合は「Ⅱ」に判定して、経過観察を行うものとする。

詰まりを掃除して直ったからⅠ、ではないという指示です。溢れた水が入った疑いがあればⅡに判定して経過観察へ回します。

補修のしかたにも注意が付いています。のり面吹付のひび割れの上からさらに吹付けたりコンクリートで覆ったりすると、浸水や風化の抑止にはなるものの「ひび割れの進行や周辺での新たなひび割れの発生の観察ができなくなってしまうことがある」。背後のり面が不安定でひび割れが出ている場合は「根本的な問題が解決されておらず、表面の補修によって、その後の兆候も把握できなくなるために、将来における更に深刻な災害を引き起こしてしまう恐れがある」と書かれています。盛土のクラックに安易なオーバーレイをすると「盛土の重量を増大させ、結果としてすべりを促進することにつながる恐れもある」という指摘も同じ節にあります。

点検の体制については、資格ではなく知識・技能で書かれています。「点検は、特定土工点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者がこれを行う」。補足では「鋼構造やコンクリート構造の部材の劣化に関する知識だけでなく、道路土工構造物の被災形態や地盤を原因とした災害に関する知識と経験が重要である」とされています。橋梁側の役割分担は橋梁診断員とは?資格制度が無い役割の線引きと橋梁検査員とは?診断員と分かれた「記録する側」の要件に整理しています。

記録は点検区域ごとです。「点検記録は点検区域ごとに作成するものとする」とされ、「のり面を構成する各施設の点検結果を記載するとともに、のり面の現状の全体像が総括的に理解できるように記載することが望ましく」と書かれています。記入例は別紙4にあります。

よくある質問

Q. 特定道路土工構造物に当たるのはどういうものですか。
A. 原典は「『道路土工構造物技術基準』に規定された重要度1の道路土工構造物のうち、以下の(a)~(c)に示す切土、盛土又は擁壁のことをいう」としており、(a)長大切土(切土高おおむね15m以上)、(b)高盛土(盛土高おおむね10m以上)、(c)河川隣接区間の盛土又は擁壁の3つです。いずれものり面保護施設や排水施設等を含む範囲で定義されています。

Q. 高さは平均で見るのですか、最大で見るのですか。
A. 最大です。原典は「同一の区域内の最大の高さで判断することを基本とする」としています。理由として「大規模な崩壊に至る場合は、もっとも不安定な断面から変状が発生し、それが周辺に拡大しながら進展していくことが多い」と書かれています。

Q. 小段の段数で判断してもよいのですか。
A. 原典は長大切土について「『小段3段より高い切土のり面』としてもよい」、高盛土について「『小段2段より高い盛土のり面』としてもよい」としています。ただし「1段当たりの切土高を7mとしている長大切土が施工されている場合があることに留意する必要がある」という但し書きが付き、要領はこれを「より効率的に特定土工点検を実施するための便宜的な方法」と位置づけています。

Q. 河川沿いの擁壁は高さが低くても対象になりますか。
A. (c)には高さの条件がありません。条件は①道路肩から法尻もしくはその前面と河床との接点までの水平距離がおおむね7m以内、②河床勾配がおおむね1/250より急勾配、③湾曲部等の水衝部(湾曲半径がおおむね120m以下かつ湾曲角度がおおむね20°以上)で、「①且つ②又は①且つ③に該当するもの」とされています。ただし「コンクリート等により三面護岸化された小河川の隣接区間など、あきらかに洗掘の恐れがない区間は除く」という除外があります。

Q. 点検の頻度は何年に1回ですか。
A. 原典は「特定道路土工構造物は、全数について建設後2年以内に初回を行い、2回目以降は5年に1回の頻度で行うことを基本とする」としています。あわせて「点検計画の立案において道路土工構造物の状態によっては、5年より短い間隔で点検することを妨げるものではない」とも書かれています。

Q. 特定道路土工構造物に当たらないのり面は点検しなくてよいのですか。
A. 通常点検の対象です。原典は通常点検を「すべての道路土工構造物を対象に、巡視等により変状が認められた場合に行う点検」と定義し、対象は「『シェッド、大型カルバート等定期点検要領』の対象となるシェッド、大型カルバート等を除くすべての道路土工構造物」としています。また「特定土工構造物の条件に満たない道路土工構造物についても、立地条件や変状の状況に応じ、特定土工構造物に準じて、点検を行うとよい」とされています。

Q. 判定区分Ⅱはなぜ「予防保全段階」ではないのですか。
A. 原典は「経過観察段階とは、道路土工構造物における特有の診断結果であり、橋梁等の点検における『予防保全段階』に相当するものの、予防保全ではなく、経過観察を主眼とした判定である」としています。理由として「道路土工構造物の多くは、構造物の劣化の過程である劣化シナリオが明らかにはなっている訳ではない」と説明されています。

Q. 健全性の診断は施設ごとに付けるのですか。
A. いいえ。原典は「健全性の診断は特定土工構造物全体(点検区域)の健全性を診断するものであり、のり面保護施設などの個々の施設の健全性を診断するものではない」としています。点検区域は「地形的な要因等により被災形態が同一と想定され、一般に複数の施設を含む区域」を1単位として設定します。

Q. のり面の上の自然斜面もこの要領で点検するのですか。
A. しません。原典は「自然斜面については道路土工構造物でないことから本要領の対象外としており、事前通行規制の制度や『道路防災総点検』等の危険度調査などの既存の取組み方法等を引き続き活用して安全の確保に努めるものとする」としています。ただし「自然斜面や地山の変状等も視野に入れ、診断内容に影響を及ぼす要因として考慮する」とされ、自然斜面側の診断・評価は「別途、詳細調査等にて対応する必要がある」と回し先が示されています。

Q. 詰まった側溝を清掃して排水機能が戻れば「Ⅰ 健全」でよいですか。
A. 原典は、清掃等により機能が回復する場合でも「一時的に損なわれている間に溢れ出た水が特定道路土工構造物に侵入して既に変状を発生させていたり、当初想定していない水みちを作ってしまったりしていることもあるので、このような場合は『Ⅱ』に判定して、経過観察を行うものとする」としています。

本記事の引用は、当夜取得した原典PDFの記載に基づきます。読点・句点は原典の表記に合わせています。適用される要領は道路管理者ごとに異なるため、対象の抽出と判定区分の運用は採用版と発注図書でご確認ください。

出典・適用範囲

本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は原典の表記に合わせています。

  • 国土交通省 道路局 国道・技術課「道路土工構造物点検要領」(令和5年3月) — 参照箇所:1.適用の範囲とその補足(本文1ページ)/2.点検の目的(本文2ページ)/3.用語の定義(1)〜(6)および補足(本文2〜6ページ)/4.点検の基本的な考え方とその補足(本文10ページ)/5.点検計画の本文と補足(本文11ページ)/5-1 点検対象の把握(本文12〜14ページ)/5-3 5箇年計画の立案(本文15ページ)/6-1 点検の方法と表-1(本文15〜17ページ)/6-2 点検の体制(本文18ページ)/6-3 健全性の診断の判定区分の表と(1)判定区分ごとのポイント(本文19〜21ページ)/6-4 措置(1)(2)(本文25〜27ページ)/6-5 記録(本文29ページ)/7-1〜7-5(本文30〜32ページ)・表-2
  • 国土交通省 道路局「道路の老朽化対策」 — 要領・参考資料の一覧(原典PDFの掲載元)

本記事が読んでいるのは「道路土工構造物点検要領」(令和5年3月)で、適用は国土交通省および内閣府沖縄総合事務局が管理する道路における道路土工構造物(シェッド、大型カルバート等を除く)です。地方公共団体が管理する道路土工構造物に自動的に適用されるものではありません。重要度の区分は「道路土工構造物技術基準」(平成27年3月31日 国都街第115号 国道企第54号)側の規定で、本記事は要領が引用している範囲のみを扱っています。また本記事は別紙1「切土又は盛土を構成する各施設の点検における着眼点」、別紙2・別紙3(防災カルテ点検)、別紙4 点検表記録様式の記入例、別紙5 判定の参考となる変状事例の個別の内容は扱っていません(いずれも原典でご確認ください)。個別ののり面における区分の妥当性は判定していません。自組織が採用している要領と発注図書を優先してください(国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係:どちらに従う?)。