「近接目視を基本とする」――道路橋の定期点検を語るとき、必ず登場する言葉です。しかし近年、ドローンや画像計測などの新技術が広がるなかで、「近接目視でなければならないのか」「新技術で代替できるのか」という問いが実務の関心事になっています。令和6年改定は、この点に一つの整理を与えました。

本記事では、近接目視の定義を確認したうえで、令和6年改定で明確化された「近接目視と同等の評価が行える他の方法」の考え方と、その代替が認められる要件を整理します。新技術導入を検討する際の制度的な前提を押さえることを目的とします。

この記事の要点
  • 近接目視とは、部材の状態を評価できる距離まで接近して目視により状態を把握すること
  • 令和6年改定で、状態把握は「近接目視、または近接目視と同等の評価が行える他の方法」によることが明確化された
  • 新技術による代替は、近接目視と同等の評価が行えることが前提で、無条件ではない
  • 最終的な状態把握・診断の判断は、点検技術者・道路管理者が担う

近接目視の定義

近接目視とは、点検対象の部材に、その状態を評価できる距離まで接近し、目視によって変状の有無や程度を把握することを指します。遠望目視(離れた位置からの目視)と異なり、ひびわれの幅や剥離の状況といった細かな変状まで捉えることを想定した方法です。点検の基本がこの近接目視に置かれているのは、橋の状態を確実に評価するためには、対象に十分近づいて観察する必要があるという考え方に基づきます。

なぜ「近接」が求められるのか

橋の損傷には、遠望では判別しにくいものが多くあります。細いひびわれ、初期の剥離、ボルトのゆるみなどは、近づいて初めて把握できます。定期点検の目的が、損傷を早期に把握して適切な措置につなげることにある以上、評価に必要な情報を得られる距離まで接近することが原則とされてきました。これが「近接目視を基本とする」という枠組みの背景です。

出典:国土交通省「道路橋定期点検要領」(令和6年3月)。近接目視および代替方法に関する正確な文言・要件は原典をご確認ください。

令和6年改定での明確化

令和6年3月の改定では、状態の把握について「近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法により収集する」という考え方が示されました。さらに解説では、必ずしも全ての部材に近接目視による状態の把握を行わなくてもよい場合もあると考えられ、法令はこれを妨げるものではない、という趣旨が示されています。これは、近接目視を基本としつつ、条件を満たせば新技術等による代替を認める方向を明確にしたものと理解できます。

「同等の評価が行える」の要件

ただし、これは「近接目視をしなくてよい」という意味ではありません。代替が認められるのは、あくまで「近接目視による場合と同等の評価が行える」ことが前提です。つまり、その方法で得られる情報が、近接目視と同等の信頼性をもって状態を評価できるものでなければなりません。撮影条件や解像度によって捉えられる損傷が変わる画像計測などでは、この「同等性」をどう担保するかが実務上の論点になります。

この記事の結論

令和6年改定は「近接目視でなくてもよい」ではなく「同等の評価が行えるなら他の方法も可」という整理です。新技術導入の可否は、その方法が近接目視と同等の評価を行えるか、そして技術者が確認できるかにかかっています。

技術者確認の位置づけ

代替方法を用いる場合でも、状態把握と診断の最終的な判断は、点検技術者・道路管理者が担います。新技術は状態把握を支援する手段であり、得られたデータをもとに、必要な知識と技能を有する技術者が評価・診断を行うという枠組みは変わりません。したがって新技術の導入は、「技術者確認をどう組み込むか」というワークフローの設計とセットで考える必要があります。ドローンやAIによる代替の具体は、関連記事で扱います。

よくある質問

令和6年改定で近接目視は不要になったのですか?

いいえ。近接目視は引き続き基本です。改定で明確化されたのは、近接目視と同等の評価が行える他の方法も用いてよい、という点です。代替は同等性が前提であり、近接目視が不要になったわけではありません。

「同等の評価が行える」かは誰が判断しますか?

最終的な判断は点検技術者・道路管理者が担います。新技術はあくまで状態把握を支援する手段であり、得られたデータをもとに技術者が評価・診断を行う枠組みは変わりません。

ドローンを使えば近接目視の代わりになりますか?

近接目視と同等の評価が行えることが前提です。撮影条件や対象によって捉えられる損傷が変わるため、無条件の代替ではありません。使用機器等の記録や技術者の確認とあわせて運用する必要があります。