「点検調書は何年保存すればいいですか」。文書の廃棄を検討する場面で必ず出る質問です。一般の行政文書であれば5年・10年といった保存年限が決まっているので、同じ感覚で年数を探しにいくことになります。

ところが、道路の点検記録については年数が書かれていません。法令は期間を年で区切らず、別の基準で保存の終わりを定めています。この記事では、その条文を原文で確認したうえで、保存の対象に何が含まれるのか、そして「保存する」という言葉が実際には何を求めているのかを整理します。

この記事の要点
  • 道路法施行規則は保存期間を「当該トンネル等が利用されている期間中」と定めている。年限ではない
  • 保存の対象は3つ——点検の結果、健全性の診断の結果、そして措置を講じたときはその内容
  • 要領は点検の実施計画についても「橋を供用している期間は保存する」としている
  • 保存は凍結ではない。区分を確定させたあとでも、状態が変われば記録様式の内容まで更新する
  • 建設時の工事記録は「確実に保管することが望ましい」。初回点検の初期値として必要になる
  • 記録は当該橋のためだけでなく、全国の道路橋の劣化特性の分析にも使われる前提で設計されている

条文に年数は書かれていない

根拠は道路法施行規則第4条の5の6です。同条は令第35条の2第2項の委任を受けて、維持・修繕の技術的基準等を4号にわたって定めています。第1号が「五年に一回の頻度」と「近接目視」、第2号が健全性の診断とその分類。そして第3号が記録と保存です。

「第一号の点検及び前号の診断の結果並びにトンネル等について令第三十五条の二第一項第三号の措置を講じたときは、その内容を記録し、当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること。」(道路法施行規則 第四条の五の六 第三号)

末尾の「当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること」が答えです。年数ではなく、施設が使われているかどうかで区切られています。橋の供用が続くかぎり保存も続き、点検を重ねるほど記録は積み上がっていきます。

この書き方には理由があります。5年に1度の点検は、前回との比較があって初めて意味を持つからです。前回の記録が廃棄されていれば、進行したのか変わっていないのかが判断できません。点検周期そのものの根拠は橋梁点検はなぜ5年に1回なのかで扱っています。

なお、条文が「トンネル等」と書いているのは、同条第1号で「トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの」をそう呼ぶと定義しているためです。橋だけの話ではありません。対象となる施設の範囲は法定点検の対象施設とはにまとめています。

保存の対象は3つある

条文をもう一度読むと、記録し保存すべきものが並列で3つ挙げられていることが分かります。

対象条文上の表現実務上の成果物の例
点検の結果第一号の点検(…)の結果点検記録様式、損傷図、写真台帳
健全性の診断の結果前号の診断の結果健全性の診断の区分(Ⅰ〜Ⅳ)、橋梁診断員所見
措置の内容令第三十五条の二第一項第三号の措置を講じたときは、その内容補修・補強の記録、通行規制の記録、応急措置の記録

3つめが見落とされやすいところです。参照先の道路法施行令第35条の2第1項第3号は、次のように書いています。

「前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること。」(道路法施行令 第三十五条の二 第一項 第三号)

つまり点検して見つけたあとに何をしたかも、記録し保存する対象です。点検の成果品は委託業務の納品物として管理されている一方、その後の補修工事の記録は工事側の書類として別に管理されていることが少なくありません。条文の建て付けとしては、この2つが同じ保存義務の下に並んでいます。

点検・診断・措置・記録という一連の流れは、いわゆるメンテナンスサイクルそのものです。診断の区分の意味は健全性の診断区分Ⅰ〜Ⅳとは、措置の必要性の判定は対策区分(判定区分)とはで扱っています。

要領も同じ言い方をしている

「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の第1章6.「定期点検結果の記録」は、法令と同じ表現を使っています。

「(1) 定期点検で行った記録は,適切な方法で記録し,蓄積する。
(2) (1)の記録については,当該道路橋が利用されている期間中は,これを保存する。」(橋梁定期点検要領 令和6年7月 第1章 6.)

解説では、その根拠が法令にあることを明示しています。「維持管理に関わる法令(道路法施行規則第4条の5の6)に規定されているとおり,点検及び健全性の診断の結果について,橋が利用されている期間中はこれを保存することが求められる」。要領が独自に決めた運用ではなく、法令の要求をなぞっている形です。

もう1つ、(1)の解説にある位置づけも押さえておきたいところです。「定期点検で行った記録は,維持・補修等の計画を立案するうえで参考となる基礎的な情報であるため,適切な方法で記録し,蓄積することとしている」。保存の目的は義務を果たすことではなく、次の計画に使うことだと書かれています。

要領は「記録し,蓄積する」という二語を使っており、単に置いておくのではなく積み上げることを求めています。記録様式そのものの構成は橋梁点検調書の構成と書き方、令和6年3月に改められた記録様式の扱いは道路橋記録様式(令和6年3月)とはにまとめています。

実施計画も保存の対象

保存の話は成果品だけで終わりません。要領の第1章4.「定期点検計画」には、次の一文があります。

「当該橋梁の定期点検の実施にあたり,各章に従って作成された実施計画は,橋を供用している期間は保存する。また,計画に変更があった場合には,その経緯と内容を適切に記録し,保存する。」(橋梁定期点検要領 令和6年7月 第1章 4.(2))

ここでいう実施計画は、第2章「点検・診断」、第3章「橋梁利用者及び第三者被害の予防」、第4章「状態の記録」のそれぞれで作成されるものです。第4章の実施計画について要領は「記録するデータの項目と収集の方法,実施体制,現地踏査,管理者協議,安全対策,緊急連絡体制,緊急対応の必要性等の連絡体制及び工程などデータの収集の実施に係る全ての計画をいう」と定義しています。

注目したいのは後段の「計画に変更があった場合には,その経緯と内容を適切に記録し,保存する」です。計画の最終形だけでなく、なぜ変えたのかまで残すことを求めています。足場が架けられずに近接目視を断念した、出水で水中部が確認できず時期を変えた——こうした経緯は、次回の担当者が同じ場所でつまずかないための情報になります。

見えなかった箇所そのものの記録の残し方は点検記録様式(その7)とは?見えなかった箇所の記録、次回への引き継ぎの書き分けは点検の引き継ぎ事項はどこに書く?で扱っています。

保存は凍結ではない

「保存」という言葉からは、確定した書類をそのまま置いておく姿を想像しがちです。しかし要領は、保存した記録に手を入れることを明示的に求めています。

「定期点検の結果,一旦『健全性の診断の区分』を確定させても,その後に,詳細調査などで情報が追加や更新されたり,災害等による被害等によって状態が変化したりした結果,その道路橋に対する次回点検までの措置の考え方が変更された場合には,その時点で,速やかに『健全性の診断の区分』も見直しを行い,関係する記録様式の記録内容も更新する。」(橋梁定期点検要領 令和6年7月 第1章 6. 解説)

更新の引き金として挙げられているのは詳細調査などによる情報の追加・更新災害等による状態の変化の2つです。そして更新するのは区分だけでなく「関係する記録様式の記録内容」まで及びます。

ここから逆算すると、記録の管理には版が変わることを前提にした仕組みが要ることになります。いつ・何を根拠に・どこを直したのかが分からなくなると、次回点検で前回値と比べたときに、変化なのか訂正なのかが判別できません。区分が前回から変わった場合に根拠を書く指示が所見側にあるのも、同じ問題意識からです。

詳細調査の位置づけは詳細調査と追跡調査(S1・S2)とは、定期点検以外の点検の扱いは定期点検以外の点検とはにまとめています。性能の見立てをどう記録に落とすかは「性能の見立て(A〜C)」とはで扱っています。

点検より前の記録をどう扱うか

保存義務の対象は点検・診断・措置の記録ですが、要領は建設時の記録についても言及しています。背景にあるのは道路橋示方書の考え方です。

要領は「平成24年の改定から,『橋,高架の道路等の技術基準』(以下『道路橋示方書』という。)では,橋の設計思想から施工に関する記録に至るまで,将来の維持管理の合理化に資すると考えられる情報を記録し,供用期間中の維持管理に用いることが可能となるよう保存されることが規定された」と書き、これと連動して初回点検で引き継がれているべき情報を具体的に挙げています。

引き継がれているべき情報要領が挙げる例
被災履歴と復旧の記録建設時に火災や地震などの災害を被った場合
構造細部の変更吊り足場用金具の溶接
補修の履歴桁吊り上げ用治具の後埋めコンクリート
用いられた材料の仕様(同要領の記述による)

そのうえで要領は「工事記録(出来形管理,品質管理,写真管理等)は確実に保管することが望ましい」としています。「望ましい」=法令上の義務ではないことに注意が要りますが、初回点検の値がその橋の初期値として使われる以上、実務上の重みは小さくありません。要領も「橋梁に関する各種のデータが当該橋梁の現在の状態を示す初期値として適切なものでなければならない」と書いています。

記録が誰のために残るのか、という点も要領は明確です。第4章「状態の記録」は、収集するデータの目的として当該橋梁の維持管理に加えて「国が管理する全国の道路橋をサンプルとして,条件に応じた全国の道路橋の劣化特性を分析し,全国の道路管理者が道路橋の維持管理に有益な知見を得ること」「道路橋の技術基準類の整備などで参考にできる詳細な損傷の特徴の分析に資すること」を挙げています。1橋の書類であると同時に、全国の統計の1標本でもあるという設計です。

だからこそ第4章の記録は主観を排すると書かれています。「第2章で行う点検・診断は,実施する者の主観による技術的な見解であるのに対して,本章の記録は,道路橋の状態の基礎的なデータとして,主観を排除し,外観の客観事実を基本として記録するものである」。将来の分析に耐えるには、書き手によって揺れない事実の層が要る、ということです。

出典:e-Gov法令検索「道路法施行規則」(昭和二十七年建設省令第二十五号)第四条の五の六、「道路法施行令」(昭和二十七年政令第四百七十九号)第三十五条の二/国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)第1章 4.・6.、第4章 1.〜3.。引用は各原典の本文によります。地方公共団体が管理する橋では適用される要領の版が異なる場合があるため、実務では各道路管理者が採用している要領を必ずご確認ください。

本記事は直轄の要領(令和6年7月版)を扱っています。要領が2種類あることの整理は道路橋定期点検要領と橋梁定期点検要領は何が違うのか、地方公共団体向けの令和6年3月改定は道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)で扱っています。台帳との関係は橋梁台帳とは?道路台帳との違いと閲覧、全国のデータベースへの登録は全国道路施設点検データベースとは、電子データでの納品は点検業務の電子納品とはにまとめています。点検全体の流れは道路橋定期点検 完全ガイドをご覧ください。

よくある質問

橋梁点検の記録は何年保存すればよいのですか。

年数では定められていません。道路法施行規則第4条の5の6第3号は「当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること」と定めています。橋が使われているかぎり保存が続き、5年・10年といった年限で区切る書き方はされていません。

保存しなければならないのは点検調書だけですか。

3つあります。施行規則第4条の5の6第3号が挙げるのは、点検の結果、健全性の診断の結果、そして道路法施行令第35条の2第1項第3号の措置を講じたときはその内容です。措置の記録が対象に入っている点は見落とされやすいところです。

点検の実施計画も保存の対象ですか。

橋梁定期点検要領(令和6年7月)の第1章4.(2)は「当該橋梁の定期点検の実施にあたり,各章に従って作成された実施計画は,橋を供用している期間は保存する」としています。さらに「計画に変更があった場合には,その経緯と内容を適切に記録し,保存する」と続きます。成果品だけでなく、点検をどう計画したかも残す枠組みです。

いったん確定した健全性の診断の区分は、あとから変えてよいのですか。

要領は変えることを求めています。「一旦『健全性の診断の区分』を確定させても,その後に,詳細調査などで情報が追加や更新されたり,災害等による被害等によって状態が変化したりした結果,その道路橋に対する次回点検までの措置の考え方が変更された場合には,その時点で,速やかに『健全性の診断の区分』も見直しを行い,関係する記録様式の記録内容も更新する」としています。保存は凍結ではありません。

建設時の工事記録も残す必要がありますか。

法令上の保存義務は点検・診断・措置の記録ですが、要領は工事記録について「工事記録(出来形管理,品質管理,写真管理等)は確実に保管することが望ましい」としています。理由は、初回点検の時点で被災履歴・構造細部の変更・補修の履歴・材料の仕様といった情報が引き継がれている必要があるためです。

全国道路施設点検データベースに登録すれば、手元の保存は不要になりますか。

データベースへの登録と、施行規則が求める記録の保存は別の話です。施行規則は道路管理者に対して記録し保存することを求めており、登録したことをもって保存義務を果たしたと読める規定はありません。登録の範囲と根拠は全国道路施設点検データベースとは?登録が義務になる範囲で扱っています。