道路橋の点検は5年に1回、という説明は正しいのですが、それがすべてではありません。定期点検以外の橋梁点検で整理したとおり、通常点検・中間点検・特定点検・異常時点検といった枠が別にあります。そのうち、定期点検と定期点検のあいだの年に、決まった手順で行うことが定められているものがあります。それが第三者被害予防措置です。
本記事では「橋梁における第三者被害予防措置要領(案)」(平成28年12月・国土交通省道路局国道・防災課)を原文にあたり、何を対象に、どの頻度で、どういう手順で行う措置なのかを整理します。
- 頻度は「原則として5年に一度の定期点検の中間年(定期点検実施後2~3年)毎」。定期点検とは別サイクルで動く
- 対象はコンクリート部材の一部(コンクリート片)の落下に限定。鋼部材や附属物の落下はこの要領の対象ではない
- 主な対象は「一見したところ健全若しくは部分的な軽度の損傷と思えるようなもの」。著しい損傷は定期点検で既に把握され別途対策されている前提
- 手順は非破壊検査(赤外線サーモグラフィ)で絞り込み、打音検査で確認し、濁音部を叩き落とす。ハンマーは打音用が約230g、叩き落とし用が約910gと使い分ける
- 結果はA1・A2・B・C・Pの5区分で記録する。健全性の判定区分Ⅰ〜Ⅳとは別の記号体系
定期点検の「あいだの年」に入る措置
要領は措置の頻度を「措置は、原則として5年に一度の定期点検の中間年(定期点検実施後2~3年)毎に行うものとする。」と定めています。5年に1度の定期点検を行い、その2〜3年後にこの措置を行う。つまり対象橋では、おおむね2〜3年おきに何らかの点検行為が入る計算になります。
この頻度が選ばれた理由も解説に書かれています。要領は、これまでのデータの分析の結果としてコンクリート片の剥落が定期点検の時期によらず見受けられること、また平成26年6月の「橋梁定期点検要領」の策定でうき・剥離等の点検の標準的方法に点検ハンマー(打音)が標準とされたことを挙げ、そのうえで中間年の実施としたと説明しています。
「原則」という言葉が入っているのにも理由があります。要領は「橋梁の環境条件、供用年数と交通量、材質、構造形式等により損傷の発生状況は異なることや、他の点検が行われる時期との関係などにより、合理的かつ効率的な措置を行うために道路管理者が頻度を調整できる余地を残したものである。」としています。劣化の度合いによっては、より頻繁に行うか、事前に落下防止対策を施すことが必要になります。
対象はコンクリート片の落下だけ
この要領の適用範囲は狭く定められています。原文は「国土交通省及び内閣府沖縄総合事務局が管理する一般国道における橋梁のコンクリート部材を対象に実施する、第三者被害の可能性のある損傷の点検及び発見された損傷に対する応急措置(以下両者を合わせて「措置」という。)に適用する。」です。鋼部材の腐食や破断による落下や、標識・照明などの附属物の落下は、この要領ではなく別の枠組みで扱われます。
「第三者」の定義も書かれています。「当該橋梁の下を通過あるいは橋梁に接近する者(車及び列車等を含む。)」で、第三者被害とは、コンクリート片が落下して第三者に人的・物的被害や交通障害などを与えること、またはその恐れを生じさせることを指します。
そして最も特徴的なのが、対象とする損傷の程度です。要領は、塩害やアルカリ骨材反応によってコンクリート部材全体が著しい損傷を受けて全面的に落下防止等の対策が必要な状態は、既に定期点検等で把握して別途の対策がとられていることから対象とは考えていないとしたうえで、「一見したところ健全若しくは部分的な軽度の損傷と思えるようなものに対する予防措置を主な対象としている。」と明記しています。ひどい損傷を探す作業ではなく、健全に見えるものを疑う作業だという点が、定期点検との性格の違いです。
どの橋が対象になるか
要領は、第三者被害の危険性が想定される橋梁として次の4つを例示しています。
| 類型 | 状況 |
|---|---|
| ① | 桁下を道路が交差する場合 |
| ② | 桁下を鉄道が交差する場合 |
| ③ | 桁下を公園あるいは駐車場として使用している場合 |
| ④ | 接近して側道又は他の道路が併行する場合 |
措置の対象部位は「コンクリート部材の一部が落下する可能性がある全ての部位」です。要領の表では、部位ごとに主な損傷の種類・考えられる原因・着目ポイントが整理されています。高欄と地覆では、コンクリート打継目部とセパレータ頭部の後埋め部(セパ頭部)が着目ポイントとして挙げられ、原因にはかぶり不足、中性化、雨水・凍結防止剤による腐食、塩害、凍害、車両の衝突、セパ頭部処理の不良が並びます。床版の張出し部では水切り部と配水管付近、桁・梁では桁端部と横締めPC鋼材付近が着目ポイントです。
そして表の下には「いずれの損傷、部位においても、ひびわれ、剥離・鉄筋露出、遊離石灰等が見られる場合はうき・剥離が生じている可能性が高いので、入念な点検が必要である。」という注意書きがあります。表面に見えている個別損傷は、内部のうきを疑う手がかりとして使う、という読み方です。
措置の流れと5つの判定区分
措置の標準的なフローは、計画準備から始まり、現地踏査、落下防止対策の確認、遠望目視、措置計画の作成、非破壊検査の適用性の判断、非破壊検査、打音検査の適用性の判断、打音検査、濁音部のマーキング、応急措置(叩き落とし作業)、防錆処置、措置結果の記録という順で進みます。
結果は損傷箇所ごとに次の5区分で記録します。
| 判定区分 | 措置結果 | その後に必要なこと |
|---|---|---|
| A1 | 遠望目視及び非破壊検査の結果、異常なし。 | — |
| A2 | 打音検査の結果、異常なし。 | — |
| B | 応急措置(叩き落とし作業)で落ちなかった。 | 必要に応じて詳細調査、計画的な観察、次回点検で重点的に点検する等 |
| C | 応急措置(叩き落とし作業)で落ちた。 | 本格的な補修が必要。補修実施後、再度点検することが望ましい |
| P | 打音検査不可能(落下予防対策が必要) | 落下防止対策を講じる必要がある |
この記号は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とも損傷程度の評価(a〜e)とも別の体系です。A・Bという文字は共通していますが、意味するところは重なりません。混同すると調書の読み違いにつながるので、どの書類のどの欄の記号かを確認して読む必要があります。
実務で効くのは、この区分が「叩いてみた結果」で決まっていることです。BとCの差は、うきの有無ではなく、叩き落とし作業でコンクリートが落ちたかどうかです。落ちたということは、実際に落下する可能性があったことの証明でもあります。だからCは本格的な補修に進みます。
第三者被害予防措置は、健全に見える橋を叩いて確かめる仕事です。定期点検が5年周期で橋全体の状態を診断するのに対し、この措置はその中間年に、落ちたら人に当たる場所だけを絞って、うき・剥離を物理的に取り除きます。目的が診断ではなく除去にあるため、判定区分も「叩いて落ちたか」で分かれます。
非破壊検査と打音検査の使い分け
要領は、うき・剥離の点検を非破壊検査または打音検査で行うと定め、その順序も決めています。現地踏査を行って非破壊検査の適用性に関する措置計画を作成し、非破壊検査が適用可能な箇所については非破壊検査を実施し、非破壊検査の適用が不可能な箇所または非破壊検査で異常ありと判定された箇所について打音検査を実施するという二段構えです。
この順序は、平成16年版からの改訂点として明記されています。要領は「技術開発の進展に伴い、現場における損傷検出のスクリーニングとしての活用が期待できる非破壊検査法の技術が出てきている状況を踏まえ、作業の効率化を図るため」と説明しています。非破壊検査は診断ではなくスクリーニングという位置づけです。
想定されている非破壊検査は赤外線サーモグラフィ装置です。ただし要領は、機器の仕様・使用方法・性能レベル、橋の構造や部材の形状、環境条件等により検出精度に影響が生じるとして、適用可否を判断するために確認すべき条件を列挙しています。表面保護等の材質、日射条件や日陰の影響、気温日変化や検査時間、検査時の天候、装置と対象物の距離や測定角度、撮影死角、検出可能な損傷の大きさと深さ、検査技術者に求められる知識・技術です。赤外線法によるうき・剥離調査と打音検査の関係は、この適用条件の判断がすべてになります。
あわせて要領は、「非破壊検査が適用可能な場合であっても、足場設置費用等を考慮すると打音検査を実施した方が明らかに効率的な場合や損傷の検出が可能な非破壊検査機器が確保できない場合においては、非破壊検査を実施せずに打音検査を実施することを妨げるものではない。」としています。新しい技術を必ず使え、という要領ではありません。
打音検査そのものの仕様も具体的です。使用する点検ハンマーは重量が1/2ポンド(約230g)程度のもの、打音検査の密度(間隔)は原則として縦横20cm程度が目安とされています。清音の目安は澄んだ乾いた音、濁音は濁った鈍い音で、濁音が認められた箇所にはチョーク等でマーキングを行います。
叩き落とし作業では、健全なコンクリートに損傷を与えることのないよう重量が2ポンド(約910g)程度の石刃ハンマーを使います。ただし、うき・剥離の範囲が広い場合やPC桁等で叩き落とすことによって当該箇所付近の応力状態が変化する場合など、構造安全性が損なわれる恐れがあるときは別途の方法を検討しなければならない、という留保も置かれています。コンクリートが落下した場合は、本格的な補修までの処置として鉄筋の防錆処置を行います。
記録と実施体制
措置結果は適切な方法で記録し蓄積しなければならないとされ、記録様式についても指定があります。要領は「当面、データの一元管理が容易に図れることから、記録は、「橋梁定期点検要領(平成 26 年 6 月)」の点検調書(その5)~(その8)を用いることとしている。」としています。専用様式を新たに作るのではなく、定期点検の調書様式を流用する設計です。点検調書の構成を押さえておくと、この指定の意味が読み取りやすくなります。
実施体制については、措置は橋梁に関して十分な知識と実務経験を有する者が行わなければならないと定められています。橋梁点検員に求められるのは、橋梁に関する実務経験を有すること、橋梁の設計・施工に関する基礎知識を有すること、当該措置に関する技術と実務経験を有することの3点です。
作業班の構成は1班当たり橋梁点検員1名、点検補助員2〜3名が一般的とされ、橋梁の立地条件や交通状況等を考慮して点検車運転員および交通整理員も加えて定めるものとされています。桁下が道路や鉄道である以上、交通の管理が作業の前提になるためです。
計画準備の段階では、既往資料として橋梁台帳や定期点検結果の記録、桁下の利用状況等を収集し、構造形式、落下する可能性のある部位、点検の対象とする部位、非破壊検査および打音検査の可否、既往損傷の概要を把握します。あわせて、鉄道会社、河川管理者、公安委員会、他の道路管理者等との協議が必要な場合には実施します。橋梁台帳がここで使われます。
自治体の橋にはどう関わるか
注意しておきたいのは適用範囲です。この要領(案)が適用されるのは、国土交通省地方整備局・北海道開発局および内閣府沖縄総合事務局が管理する一般国道の橋梁です。市区町村が管理する橋に自動的に適用されるものではありません。
ただし、桁下が道路や鉄道である橋は自治体管理でも当然に存在し、コンクリート片が落ちれば同じ被害が生じます。国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係で整理したとおり、直轄向けの要領は自治体が自らの要領を組み立てるときの参照先として使われるのが実態です。中間年に何をするかを決めていない場合、この要領の判定区分と手順は、そのまま検討のたたき台になります。
また、定期点検の側でも第三者被害の観点は扱われています。橋梁定期点検要領は、道路利用者の安全確保の観点からはうき・剥離や腐食片・塗膜片等に対して定期点検の際に応急的に措置を実施すべきことに触れており、点検と措置が別々のものではないことを示しています。道路橋定期点検 完全ガイドとあわせて、5年周期の点検・中間年の措置・日常の通常点検が、どこで役割を分けているかを整理しておくと、年度計画を立てやすくなります。
よくある質問
第三者被害予防措置は定期点検とは別物ですか?
別物です。要領は「原則として5年に一度の定期点検の中間年(定期点検実施後2~3年)毎に行うものとする。」と定めており、定期点検とは別のタイミングで実施します。目的も、橋全体の健全性の診断ではなく、コンクリート片の落下を予防することに絞られています。
鋼部材が落ちる可能性は対象に入りませんか?
この要領(案)の対象はコンクリート部材です。要領は「本要領(案)の対象は、コンクリート部材の一部の落下(コンクリート片)に限定している。」と明記しています。ただし橋梁定期点検要領の側では、腐食片や塗膜片の落下についても道路利用者の安全確保の観点から触れられています。
著しく損傷した橋も対象になりますか?
要領の主な対象ではありません。塩害やアルカリ骨材反応で部材全体が著しい損傷を受けて全面的な対策が必要な状態は、既に定期点検等で把握され別途の対策がとられている前提とされ、この措置は「一見したところ健全若しくは部分的な軽度の損傷と思えるようなものに対する予防措置を主な対象としている。」とされています。
判定区分のBとCはどう違いますか?
叩き落とし作業でコンクリートが落ちたかどうかで分かれます。落ちなかった場合がB、落ちた場合がCです。Bは必要に応じて詳細調査や計画的な観察、次回点検での重点的な点検が求められ、Cは本格的な補修が必要とされています。
赤外線サーモグラフィだけで済ませてもよいのですか?
済ませられません。要領のフローでは、非破壊検査で異常ありと判定された箇所は打音検査に進みます。非破壊検査はスクリーニングとして位置づけられており、最終的な確認と応急措置は打音検査と叩き落とし作業で行います。
打音検査ができない箇所はどうしますか?
判定区分Pとして記録し、落下防止対策を講じる必要があります。要領は、狭隘部で打音作業ができない場合や関係機関との協議に時間を要し点検ごとの対応が困難な場合を例として挙げ、炭素繊維シート接着等の落下防止対策を示しています。
市町村の橋にもこの要領を適用しなければなりませんか?
この要領(案)が適用されるのは国が管理する一般国道の橋梁です。市区町村管理の橋に自動的に適用されるものではありません。ただし桁下に道路や鉄道がある橋では同じ危険があるため、自らの要領を定める際の参照先として使われるのが実態です。