インフラの維持管理では「予防保全への転換」が大きな方針として掲げられています。しかし、予防保全と事後保全が具体的にどう違い、なぜ予防保全が費用面でも有利とされるのかを、数字の裏づけとともに説明できると、点検の意義を発注者や社内に伝える力になります。
本記事では、予防保全と事後保全の違いを、健全性の段階と費用の両面から整理します。国の将来推計が示すコスト削減効果や、予防保全型のメンテナンスサイクルの考え方を、実務目線で解説します。
- 事後保全は損傷が進んでから対応する方式、予防保全は早い段階で計画的に措置する方式
- 予防保全は健全性Ⅱ(予防保全段階)で措置し、Ⅲ・Ⅳへの進行を抑える考え方
- 国の平成30年度推計では、予防保全を基本とした場合、事後保全の試算に比べ将来の維持管理・更新費が大きく減少する見込みが示されている
- 点検は、この予防保全を成り立たせるための土台になる
事後保全と予防保全の違い
事後保全とは、損傷が進行し、機能に支障が生じてから修繕などの措置を行う方式です。壊れてから直す、という考え方に近く、対応が後手に回ると、大規模な修繕や更新が必要になり、通行止めなど利用者への影響も大きくなりがちです。
これに対して予防保全は、損傷が軽度なうちに計画的に措置を行い、深刻な劣化に至る前に手を打つ方式です。早めに小さく直すことで、結果的に大規模な修繕を避け、施設を長く使うことを目指します。
健全性の段階で見る両者
この違いは、健全性の診断の区分(Ⅰ〜Ⅳ)に重ねると分かりやすくなります。予防保全は、Ⅱ(予防保全段階)のうちに計画的に措置し、Ⅲ(早期措置段階)やⅣ(緊急措置段階)への進行を抑えることを狙います。一方、事後保全的な対応では、ⅢやⅣになってから対応することになり、措置の規模も費用も大きくなりやすいのです。健全性の区分は、単なる状態の記録ではなく、いつ措置すべきかの判断にもつながっています。
国の推計が示す費用効果
予防保全の費用効果は、国の将来推計でも示されています。国土交通省の平成30年度推計では、予防保全を基本とした場合の維持管理・更新費が、事後保全の考え方を基本として試算した場合と比べ、将来にわたって大きく減少する見込みが示されています。中長期でみると、早めに措置する予防保全のほうが、総額としては費用を抑えられるという試算です。これは、点検で早期に損傷を把握し、適切な時期に措置することの経済的な裏づけになります。
予防保全は「早く小さく直して、大きな修繕を避ける」方式で、中長期では費用を抑えられると試算されています。健全性Ⅱの段階で措置し、Ⅲ・Ⅳへの進行を防ぐ。この転換を成り立たせる前提が、5年に1回の定期点検による早期把握です。
予防保全型メンテナンスサイクル
予防保全を実務に落とし込んだのが、点検・診断・措置・記録を繰り返すメンテナンスサイクルです。定期点検で状態を把握し(点検)、健全性を診断し(診断)、必要な時期に修繕等を行い(措置)、結果を記録して次に活かす(記録)。このサイクルを回すことで、損傷が深刻化する前に手を打てるようになります。予防保全は理念だけでなく、この具体的なサイクルとして運用されています。
点検が予防保全を支える
予防保全は、損傷を早期に、正確に把握できてこそ成り立ちます。損傷の把握が遅れたり、見落としがあったりすれば、Ⅱの段階で措置するという予防保全の前提が崩れてしまいます。その意味で、定期点検の質は、予防保全全体の成否を左右する土台です。点検の効率化や精度向上に取り組むことは、単なる作業改善ではなく、予防保全という国の方針を現場で実現することにつながっています。
よくある質問
予防保全のほうが本当に費用は安くなるのですか?
国の平成30年度推計では、予防保全を基本とした場合の維持管理・更新費が、事後保全の試算に比べ将来にわたって大きく減少する見込みが示されています。ただし推計には前提があるため、正確な数値は原典をご確認ください。
予防保全は健全性のどの段階で措置しますか?
予防保全は、健全性Ⅱ(予防保全段階)のうちに計画的に措置し、Ⅲ・Ⅳへの進行を抑える考え方です。ⅢやⅣになってから対応する事後保全的な対応に比べ、措置の規模を小さく抑えられるとされます。
点検と予防保全はどう関係しますか?
予防保全は損傷を早期に把握できてこそ成り立ちます。定期点検で状態を正確に把握することが、Ⅱの段階で措置するという予防保全の前提を支えています。点検の質は予防保全全体の土台です。