橋・トンネル・シェッド・大型カルバート・横断歩道橋・門型標識については「5年に1回・近接目視」が省令で義務づけられており、点検計画も予算要求もその枠に沿って組み立てられます。ところが同じ道路を構成しながら、切土・盛土・擁壁だけは根拠となる条文が違います。この違いを知らないまま計画を立てると、点検台帳から土工構造物がまるごと抜け落ちたり、逆に「法定なのに未実施」と自組織を誤って評価してしまったりします。

さらにやっかいなことに、道路土工構造物点検要領には用途の違う2つの版が並存しています。この記事では、要領の原文と道路法令、そして道路メンテナンス年報の実数をもとに、根拠条文の違い・どちらの版を見るべきか・点検対象の判定要件・全国の実施状況までを整理します。橋・トンネル側の枠組みは法定点検の対象施設定期点検要領の令和6年3月改定で扱っているので、あわせて読むと差が立体的に見えます。

この記事の要点
  • 土工構造物の点検の根拠は道路法施行令第35条の2第1項第二号(適切な時期に、目視その他適切な方法)。橋・トンネルの施行規則第4条の5の6(近接目視・5年に1回・記録保存)とは条文の階層が違う
  • 版が2つ並存している。技術的助言としての版は平成29年8月版で、令和5年3月版は地方整備局等が管理する道路に適用範囲を限定した直轄向け。自治体が「最新版」として令和5年3月版だけを見るのは正確ではない
  • 対象は「重要度1」のうち切土高おおむね15m以上/盛土高おおむね10m以上/河川隣接区間の盛土・擁壁の3類型。河川隣接区間は令和4年3月の暫定版で追加された新しい対象
  • 健全性の区分Ⅱは「経過観察段階」で、橋・トンネルの「予防保全段階」とは別物。要領が「予防保全ではなく、経過観察を主眼とした判定である」と明記している
  • 点検は近接目視が基本。要領は長大切土・高盛土の変状把握について三次元点群データ等の活用を明記している

道路土工構造物点検要領とは(2つの版の関係)

正式名称は「道路土工構造物点検要領」で、国土交通省道路局が発出しています。版の系譜は次の4つです。

位置づけ・主な内容
平成29年8月版初版。技術的助言の解説・運用標準として掲載されている版。「本要領の位置付け」のページを持つ
平成30年6月版「本要領の位置付け」ページが削除される
令和4年3月版(暫定版)河川隣接区間の盛土・擁壁を対象に追加
令和5年3月版適用範囲を地方整備局等の管理道路に限定した直轄向け。防災点検と重複する箇所の点検方法等を追加

実務上いちばん重要なのが、この版の並存です。国土交通省の予防保全・点検要領の掲載ページでは、平成29年8月版は「定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」の節に、舗装点検要領・小規模附属物点検要領と並べて置かれています。一方の令和5年3月版は「国管理施設の定期点検」の節に、道路橋定期点検要領(令和6年7月)や道路トンネル定期点検要領(令和6年9月)と並べて置かれています。

令和5年3月版の適用範囲は、本文でこう限定されています。

「本要領は、道路法(昭和27年法律第180号)第2条第1項に規定する道路のうち、国土交通省および内閣府沖縄総合事務局(以下、「地方整備局等」という。)が管理する道路における道路土工構造物であって、「シェッド、大型カルバート等定期点検要領」(平成26年6月国土交通省道路局 国道・防災課)の対象となるシェッド、大型カルバート等を除くものの点検に適用する。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

つまり自治体が「最新版は令和5年3月版」と受け取って直轄向けの版だけを参照するのは、正確ではありません。技術的助言として示されている版は平成29年8月版であり、内容の充実度では令和5年3月版が勝るため、実務では「令和5年3月版を参考にしつつ、位置づけは平成29年8月版で確認する」という読み方になります。技術的助言という発出形式が何を意味するかは点検要領の位置づけで、国の要領と自治体マニュアルの関係は国の要領と自治体マニュアルの使い分けで整理しています。

法定点検との違いは、条文の階層にある

「土工構造物は法定点検ではない」とだけ覚えると、根拠を聞かれたときに説明できません。違いは道路法施行令第35条の2のどの項を根拠にしているかにあります。

平成29年8月版の「本要領の位置付け」ページには、次の一文があります(この記述は平成30年6月版以降の版では削除されています)。

「本要領は、道路土工構造物を対象とした、道路法施行令第35条の2第1項第二号の規定に基づいて行う点検について、基本的な事項を示したものです。」(道路土工構造物点検要領 平成29年8月版)

ここで引かれている第1項第二号の原文は「道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと。」です。時期も手法も限定していない一般規定だという点が肝心です。

これに対し、5年に1回・近接目視を義務づけるのは第2項を受けた道路法施行規則第4条の5の6です。同条第1号は「トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「トンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。」と定め、第2号で健全性の診断と分類、第3号で記録の保存を求めています。

そして、この「トンネル等」の具体的な範囲は平成26年国土交通省告示第426号で画されます。国土交通省が公表している道路の技術基準の体系図では、「5年に一度近接目視」のタグが付いているのは5つの定期点検要領(橋梁/トンネル/シェッド・大型カルバート/門型標識・情報板/横断歩道橋)だけで、土工の行にある「点検要領(切土・盛土・擁壁)」にはタグが付いていません。舗装の点検要領や、門型以外の標識・照明の点検要領も同様です。

項目橋・トンネル・シェッド等特定道路土工構造物
根拠施行令35条の2第2項 → 施行規則4条の5の6施行令35条の2第1項第二号
頻度5年に1回(省令が基本と規定)建設後2年以内に初回、以降5年に1回(要領が基本と規定)
手法近接目視(省令に明記)近接目視が基本(要領に明記。省令の義務ではない)
実施者必要な知識・技能を有する者(省令の要件)必要な知識・技能を有する者(要領の要件)
記録の保存省令が利用期間中の保存を要求要領が供用期間中の保存を規定

注意すべきなのは、施行規則の条文の字面そのものは「トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物」であって、土工構造物を明示的に排除しているわけではないことです。対象範囲は告示と国土交通省の運用によって画されています。「条文上除外されている」ではなく「告示が定める対象に含まれていない」と書き分けるのが正確です。

また、義務づけの差は管理責任の差ではありません。道路法第42条第1項の維持修繕義務は土工構造物にも及びます。義務づけられていないのは点検の頻度と手法を省令で個別に指定することであって、「点検しなくてよい」という意味ではありません

対象は「特定道路土工構造物」の3類型

まず用語です。要領は道路土工構造物を上位の技術基準から引いて、こう定義しています。

「道路土工構造物とは、「道路土工構造物技術基準」(平成27年3月31日国都街第115号 国道企第54号)に位置づけられており、道路を建設するために構築する土砂や岩石等の地盤材料を主材料として構成される構造物及びそれらに附帯する構造物の総称をいい、切土・斜面安定施設、盛土、カルバート及びこれらに類するものをいう。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

擁壁・補強土壁・グラウンドアンカーは独立したカテゴリではなく、切土・盛土を構成する「のり面保護施設」として扱われます。大型カルバート以外のカルバートは「便宜的に盛土を構成する施設の一つとみなして点検対象とする」と明記されています。自然斜面と、道路区域外の斜面安定施設は対象外です。

そのうえで、定期の「特定土工点検」の対象になるのは、技術基準でいう重要度1の道路土工構造物のうち、次のいずれかに該当するものです。

類型要件
(a) 長大切土切土高おおむね15m以上の切土。切土のり面、のり面保護施設(吹付モルタル、のり枠、擁壁、補強土、グラウンドアンカー等)、排水施設等を含む
(b) 高盛土盛土高おおむね10m以上の盛土。盛土のり面、のり面保護施設(擁壁、補強土等)、排水施設等を含む
(c) 河川隣接区間前面に並行して河川のある盛土又は擁壁で、①道路肩から法尻もしくはその前面と河床との接点までの水平距離がおおむね7m以内であり、かつ②河床勾配がおおむね1/250より急、または③湾曲半径おおむね120m以下かつ湾曲角度おおむね20度以上の水衝部に該当するもの

(c) の河川隣接区間は令和4年3月の暫定版で追加された対象です。平成30年6月版・平成29年8月版には (c) の規定がなく、対象は長大切土と高盛土だけでした。国道41号(岐阜県下呂市・延長約500mが被災)などの河川隣接部の被災を受けた改定で、社会資本整備審議会道路分科会 道路技術小委員会の資料に経緯が示されています。平成30年版のまま抽出条件を組んでいる組織では、河川沿いの盛土・擁壁がまるごと台帳から外れている可能性があります。

直轄については、要領が「一般に、地方整備局等の管理する長大切土、高盛土、河川隣接区間の擁壁又は盛土は、そのほとんどが重要度1に相当し特定道路土工構造物となる」としています。自治体の場合は重要度1に該当するかの判断が先に立つ点が異なります。重要度1は「高速自動車国道、都市高速道路、指定都市高速道路、本州四国連絡高速道路及び一般国道」と「都道府県道及び市町村道のうち、地域の防災計画上の位置づけや利用状況等に鑑みて、特に重要な道路」に存し当該道路の機能への影響が著しいもの、および「損傷すると隣接する施設に著しい影響を与える道路土工構造物」です(平成27年3月制定時の技術基準の区分)。

この重要度については、引用時に年次を添えるべき事情があります。技術基準は令和7年6月26日に改定され(適用は令和8年4月1日以降に着手する設計から)、改定後の本体には「重要度1」「重要度2」という番号付きの区分が置かれていません。改定後は「道路土工構造物の重要度は、物流等の社会・経済活動上の位置づけ、防災計画上の位置づけ等の道路ネットワークにおける路線の位置づけや代替性、道路土工構造物が損傷した場合の隣接する施設への影響等を考慮して決定する。」という規定に変わっています。一方で点検要領は依然として「重要度1」を引いたままで、上位基準と点検要領の参照がずれた状態にあります。

点検の頻度・方法・記録

頻度。要領は「特定道路土工構造物は、全数について建設後2年以内に初回を行い、2回目以降は5年に1回の頻度で行うことを基本とする。」と定めています。「管内の特定道路土工構造物全数を5年で一巡するという考えのもと」5箇年計画を立てる構成で、「道路土工構造物の状態によっては、5年より短い間隔で点検することを妨げるものではない」とも明記されています。橋・トンネルにはない「建設後2年以内に初回」という規定があるのは、盛土が施工後の早い時期に変状を出しやすいためです。新設・改築区間を持つ組織は供用開始からのカウントが要ります。

なお、特定道路土工構造物以外の道路土工構造物に行う通常点検には定期の頻度がありません。「道路土工構造物の通常点検は、巡視等により変状が認められた場合に実施する。」とされ、巡視の頻度は各道路管理者が定めます。定期点検以外の点検区分の整理は定期点検以外の点検にまとめています。

方法。特定土工点検は近接目視が基本です。ここは橋・トンネルと同じですが、要領は「近接目視」を独自に定義しています。

「(6)近接目視 点検対象の道路土工構造物に、路上からだけでなく小段やのり肩等、対象物に接近して変状の有無や程度を観察する方法をいう。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

橋の「手の届く距離での目視」とは違い、のり面という対象の形状に合わせた定義になっています。そのうえで要領は、代替手段・補助手段を具体的に挙げています。

「長大切土や高盛土ののり面の変状の把握においては、必要に応じ三次元点群データ等の活用により効率的に行う事が考えられる。また、河川隣接区間の洗掘状況の把握について、洗掘範囲、深さを水中カメラ等を用いて、定量値を把握することが望ましい。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

要領そのものが三次元点群データの活用を明記しているのは、橋梁点検要領にはない特徴です。のり面は面積が大きく、小段やのり肩を人が歩いて全数を見るには時間がかかるうえ、変状の進行を前回との差分で見たいという要求が強い領域です。点群を使った定量把握はLiDAR点群の活用点検支援技術の使い分けで扱っています。あわせて、点検に先立つ除草の扱いも規定があり、「必要に応じて点検に先立ち除草を実施するか、もしくは草木が枯死する時期に点検を行うなど目視の妨げとならないよう配慮する」とされています。点検時期の設定が草木の状態に左右されるのも土工特有です。

記録。「点検、診断、措置の結果を記録し、当該特定道路土工構造物が供用されている期間はこれを保存する」とされ、記録は点検区域ごとに作成します。点検表の記録様式はExcelファイルが別途配布されています。令和4年度に防災カルテ点検から特定土工点検へ移行した箇所については、点検様式の防災点検の施設管理番号欄に従来の防災カルテ管理番号を記載するルールが置かれています。様式とデータベース登録の関係は新様式とデータベース登録を参照してください。

健全性の診断区分は橋と同じではない

ここは誤解が多いところです。土工構造物もⅠ〜Ⅳの4区分で診断しますが、区分の名称と定義は橋・トンネルの告示第426号とは別物です。

区分橋・トンネル等(告示第426号)道路土工構造物(点検要領)
健全:構造物の機能に支障が生じていない状態健全:変状はない、もしくは変状があっても対策が必要ない場合
予防保全段階:機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態経過観察段階:変状が確認され、変状の進行度合いの観察が一定期間必要な場合
早期措置段階:機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態早期措置段階:次回点検までにさらに進行すると想定され構造物の崩壊が予想されるため、できるだけ速やかに措置を講ずることが望ましい場合
緊急措置段階:機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態緊急措置段階:変状が著しく、大規模な崩壊に繋がるおそれがあると判断され、緊急的な措置が必要な場合

要領は、Ⅱが「予防保全段階」ではない理由をはっきり書いています。

「経過観察段階とは、道路土工構造物における特有の診断結果であり、橋梁等の点検における「予防保全段階」に相当するものの、予防保全ではなく、経過観察を主眼とした判定である。」「道路土工構造物の多くは、構造物の劣化の過程である劣化シナリオが明らかにはなっている訳ではない。つまり将来的に機能の低下を引き起こす恐れがあるが、それがどのようなシナリオによって、どのような状態に至るのかが予測できない状態がしばしば発生する。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

予防保全という言葉が使えるのは、劣化の進み方が分かっている構造物だけです。土工にはそれがないため「観察を続ける」ことが処方になる——この設計思想の違いを押さえておくと、Ⅱ判定が多い点検結果をどう扱うかの判断がぶれません。橋梁側の区分の意味は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)で、告示の原文は健全性の診断結果の分類に関する告示で扱っています。

もう1点。診断の単位は個別施設ではなく点検区域です。要領は「健全性の診断は特定土工構造物全体(点検区域)の健全性を診断するものであり、のり面保護施設などの個々の施設の健全性を診断するものではない」と明記しています。橋梁の部材単位の考え方をそのまま持ち込むと集計が合わなくなります。

道路防災点検との切り分け

切土・盛土を扱う点検としては、平成8年から続く防災カルテによる道路防災点検があります。両者の関係は道路区域の内か外かで切り分けられています。

「本要領の適用範囲は図-1のとおりであり、道路区域内の道路土工構造物は道路土工構造物点検を実施し、道路区域外の自然斜面は道路防災上の点検を実施することを基本としている。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

ねらいも別です。要領は「本要領での点検のねらいは、こうした従来の取組みとは別に、降雨や地震などの自然災害の影響を大きく受ける道路土工構造物について、防災上及び効率的な維持修繕の観点から適切な対策時期を把握し、適切な対策を施すことにある」とし、あわせて「本要領による点検は、道路土工構造物の安全性(健全性)の診断を目的としており、自然斜面の変状や斜面からの落石・倒木などの災害要因の把握は、本点検の対象としていない」と限定しています。ただし箇所が重複または包含する場合は「同時に行うことが望ましい」とされています。

運用面で見落としやすいのが令和3年度をもって行われた移行です。要領はこう定めています。

「令和3年度まで、道路区域内において防災カルテ点検の対象箇所(防災カルテを作成し対応する箇所及び要対策箇所のうち対策工までに日数を要する箇所)として点検実施していた防災カルテ点検対象箇所は、特定土工点検の判定区分の「Ⅱ:経過観察段階」に準じた経過観察を行うものとし、令和3年度までに実施していた防災カルテ点検での観察の時期・頻度を継続するものとする。」(道路土工構造物点検要領 令和5年3月版)

つまり道路区域内の防災カルテ箇所は、特定土工点検側のⅡ判定相当として引き継がれています。台帳を2系統で持ったままにしていると、同じ箇所が二重計上されたり、逆にどちらの台帳からも落ちたりします。

全国の実施状況と、統計の空白

数値は道路メンテナンス年報の令和6年度版(2025年8月公表・2025年3月末時点)の「6.小規模附属物・土工構造物の点検結果及び修繕等措置の実施状況」に掲載されています。

項目国土交通省管理分地方公共団体管理分
管理施設数(母数)約21,600施設公表なし
点検実施2巡目2年目までで9,302施設(約46%)2018〜2024年度の累計で27,955施設
判定Ⅲ680施設(7%)2,162施設(8%)
判定Ⅳ表示なし80施設(0.3%)
修繕 着手Ⅲ 188施設(15%)合計398施設(18%)
修繕 完了Ⅲ 53施設(4%)合計268施設(12%)

1巡目(2018〜2022年度)は国交省管理分で18,825施設・約97%まで到達しています。母数は約19,400施設(2023年3月末)→約20,700施設(2024年3月末)→約21,600施設(2025年3月末)と増えていますが、年報に増加要因の記述はないため、河川隣接区間の追加が主因かどうかは断定できません。

読み取るべき論点は2つです。1つは修繕の遅れ。国交省管理分ですらⅢ判定に対する修繕完了は4%にとどまります。もう1つは統計の空白です。地方公共団体については「点検を実施した施設数」しか公表されておらず、分母となる管理施設数が令和元年度版から令和6年度版まで一貫して非公表です。橋梁・トンネル・道路附属物には管理者別の実施率表と都道府県別の参考データ集がありますが、土工には対応する表がありません。年報の概要版と報道発表資料には「土工」の文字列すら登場しません。自治体の土工点検の進捗を全国比較する手段は、現状ありません。探しても見つからないのは、探し方の問題ではないということです。

データベース側も同様で、全国道路施設点検データベースには土工DBがありますが詳細は有料公開で、無料の損傷マップは対象が橋梁・トンネル・道路附属物等に限られ土工は対象外です。

そして、義務が軽いことはリスクが小さいことを意味しません。令和6年能登半島地震では能越自動車道の全盛土155箇所を調査した結果、大規模崩壊が28箇所(県管理区間21箇所、直轄区間7箇所)確認され、沢埋めの高盛土に被害が集中しました。これを受けた全国の緊急輸送道路の盛土のり面点検は、令和8年3月末時点で高速道路 約900箇所・直轄国道 約1,500箇所・地方管理の第1次緊急輸送道路 約2,000箇所・第2、3次 約3,700箇所が対象になっています(各行の合算で約8,100箇所。資料に合計欄の記載はありません)。要対策は直轄国道だけで271箇所です。定期の枠組みで手を打つか、災害後にまとめて対応するかの違いにすぎません。

自組織で最初に確認する5点

  1. 参照している版。平成30年6月版以前を使っているなら河川隣接区間が抽出条件から抜けています。自治体は「位置づけは平成29年8月版、内容は令和5年3月版」という二重の参照が要ります
  2. 台帳に土工構造物の欄があるか。橋梁台帳・トンネル台帳はあっても切土・盛土・擁壁の一覧が無い組織は珍しくありません。「該当するものが何箇所あるか」を数える段階から始まります
  3. 防災カルテ箇所との突合。令和3年度までの防災カルテ点検対象箇所は特定土工点検のⅡ判定相当として引き継がれています。二重管理・二重計上になっていないか
  4. 建設後2年以内の初回点検。新設・改築区間について、供用開始から2年のカウントが管理されているか
  5. Ⅱ判定の観察が「継続」しているか。土工のⅡは予防保全ではなく経過観察です。観察の時期・頻度が決められ、前回との差分が残っているかどうかが実質的な管理水準になります

点検の外注仕様に落とし込む段階では、総合評価落札方式での点検業務の発注包括的民間委託の枠組みもあわせて検討対象になります。

出典:国土交通省道路局「道路土工構造物点検要領」(平成29年8月/平成30年6月/令和4年3月暫定版/令和5年3月)/同「道路土工構造物技術基準」(平成27年3月31日 国都街第115号・国道企第54号、令和7年6月26日改定)/道路法・道路法施行令・道路法施行規則(e-Gov法令検索)/平成26年国土交通省告示第426号/国土交通省「道路メンテナンス年報 令和6年度版」(2025年8月公表・2025年3月末時点)ほか各年度版/社会資本整備審議会道路分科会 道路技術小委員会 配布資料。最新の要領・様式は必ず原典をご確認ください。

よくある質問

Q. 切土・盛土・擁壁は5年に1回の点検が義務ですか。
A. 省令上の義務ではありません。5年に1回・近接目視を定める道路法施行規則第4条の5の6の対象は、平成26年国土交通省告示第426号が定める「トンネル等」で、国土交通省は橋梁・トンネル・シェッド・大型カルバート・横断歩道橋・門型標識等として運用しています。土工構造物の点検の根拠は道路法施行令第35条の2第1項第二号の「適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」という一般規定で、「5年に1回」は点検要領が定めた運用上の頻度です。ただし道路法第42条第1項の維持修繕義務は土工構造物にも及びます。

Q. 最新版は令和5年3月版ですか。
A. 令和5年3月版は適用範囲を地方整備局等が管理する道路に限定した直轄向けの版です。国土交通省の掲載ページでも「国管理施設の定期点検」の節に置かれています。技術的助言の解説・運用標準として掲載されている版は平成29年8月版で、こちらには「本要領の位置付け」のページがあり、根拠条文が明記されています。自治体では両方を参照するのが実務的です。

Q. 健全性の判定区分は橋梁と同じですか。
A. 4段階である点は同じですが、Ⅱの名称と定義が違います。橋・トンネルのⅡは「予防保全段階」、土工のⅡは「経過観察段階」です。要領は「予防保全ではなく、経過観察を主眼とした判定である」と明記し、その理由として道路土工構造物では劣化シナリオが明らかになっていない場合が多いことを挙げています。また診断の単位は個々ののり面保護施設ではなく点検区域全体です。

Q. 令和6年3月に改定されたのではないのですか。
A. 道路土工構造物点検要領は令和6年3月には改定されていません。令和6年3月に一斉改定されたのは道路橋定期点検要領・道路トンネル定期点検要領・シェッド、大型カルバート等定期点検要領・横断歩道橋定期点検要領・門型標識等定期点検要領で、土工はこの改定セットの対象外です。改定されたのは上位の道路土工構造物技術基準のほうで、令和7年6月26日に改定され、令和8年4月1日以降に新たに着手する設計から適用されます。

Q. 自治体の点検実施率はどこで確認できますか。
A. 現状では確認できません。道路メンテナンス年報の土工の節には、地方公共団体について点検を実施した施設数(2018〜2024年度の累計で27,955施設)は掲載されていますが、分母となる管理施設数が公表されていないため実施率が算出できない構成になっています。都道府県別の参考データ集にも土工構造物の項目はありません。