「うちは週2回まわっているので点検はできています」——市区町村の道路担当と話していると、この言い方をよく聞きます。逆に「5年に1回の点検をやっているのだから、日々の巡回は義務ではない」と整理している組織もあります。どちらも、法令の建て付けとは合っていません。
巡視と点検は、同じ政令の同じ項の、別々の号に書かれた別の義務です。片方をやれば片方が免除される関係ではなく、片方だけを予算計上すればもう片方が抜けます。この記事は、道路法・道路法施行令・道路法施行規則の条文を原文のまま並べて、どの義務がどこに書かれているのかを整理したものです。条文はいずれも e-Gov 法令検索の現行法令データから取得し、逐語で引用しています。
- 道路法施行令第35条の2第1項は、第1号=巡視と機能維持、第2号=点検、第3号=異状を把握したときの措置、の3つを別々の号で定めている
- 巡視の号にも点検の号にも、頻度の定めは無い。どちらも「適切な時期に」まで
- 点検の方法は政令では「目視その他適切な方法」。近接目視と5年は道路法施行規則第4条の5の6にある
- 政令の点検義務は施設・工作物・附属物すべてが対象。省令の近接目視5年は「トンネル等」に絞られている
- 記録の保存が義務づけられているのは、トンネル等の点検・診断・措置の内容。期間は「当該トンネル等が利用されている期間中」
出発点は道路法第42条の3つの項
道路法(昭和27年法律第180号)第42条は「道路の維持又は修繕」という見出しで、3つの項からできています。第1項は道路管理者の基本的な義務です。「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」
ここには巡視も点検も出てきません。出てくるのは次の2項です。第2項は「道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。」とだけ書き、中身を政令に委ねています。そして第3項が、その委任に条件を付けます。「前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。」
読み方としては、法律の側が「政令には点検の基準を必ず入れろ」と指示している形です。点検という語が法律本文に現れるのはここだけで、方法も頻度も対象も、すべて下位の法令に降りています。定期点検要領の法的位置づけを追うときも、この第3項が出発点になります。
政令が3つの号に分けている
第42条第2項を受けているのが、道路法施行令第35条の2です。見出しは「道路の維持又は修繕に関する技術的基準等」。第1項の柱書はこう始まります。「法第四十二条第二項の政令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。」
続く3つの号が、この記事の中心です。
| 号 | 条文(逐語) |
|---|---|
| 第1号 | 道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況(次号において「道路構造等」という。)を勘案して、適切な時期に、道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること。 |
| 第2号 | 道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと。 |
| 第3号 | 前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること。 |
3つを並べると、行為の対象が号ごとに違うことが見えます。第1号の対象は道路そのもので、行為は巡視と機能維持(清掃・除草・除雪)です。第2号の対象は道路を構成する施設・工作物・附属物で、行為は状態を確認することです。第3号は異状を把握したあとの話で、行為は措置です。
第3号の書き出しにも注意が要ります。「前号の点検その他の方法により」——つまり措置の引き金になるのは点検だけではありません。巡視で見つけても、住民通報で知っても、措置義務は同じように発生します。道路の管理瑕疵をめぐる国家賠償の議論で「知り得たかどうか」が問われるのは、この号の構造と地続きです。
巡視の号:頻度は書かれていない
第1号を読んで最初に気づくのは、回数の定めがどこにも無いことです。書かれているのは「適切な時期に」だけで、週何回とも月何回とも書いていません。
そのかわり、何を勘案して決めるのかは列挙されています。「道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況」——この5つ(構造・交通状況・維持修繕の状況・地形地質気象・その他)が判断材料です。条文はこのまとまりに「道路構造等」という略称を与え、次の号でも使い回しています。
ここから読める実務上の含意は2つあります。ひとつは、頻度を決めた根拠を説明できる状態にしておく必要があること。法令が回数を決めていない以上、「適切」であることの説明責任は道路管理者側に残ります。豪雪地帯の路線と平地の生活道路で同じ頻度にしている場合、条文が挙げている「気象の状況」を勘案した形にはなっていません。
もうひとつは、巡視は点検の下位互換ではないことです。第1号が求めているのは巡視だけでなく「清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置」までを含みます。見てまわる行為と、その場で機能を回復させる行為が、ひとつの号にまとめられています。道路防災点検のように別建ての枠組みがあるものも、日常のこの層の上に乗っています。
点検の号:政令には「近接目視」も「5年」も無い
第2号でよく誤解されるのが方法の書き方です。政令が定めているのは「目視その他適切な方法により行うこと」までで、近接という語も、5年という数字も、政令には出てきません。
対象範囲も、省令より広く取られています。第2号の対象は「トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物」で、限定がありません。つまり政令のレベルでは、道路を構成する施設・工作物・附属物はすべて点検の対象です。法定点検の対象5施設という言い方で語られるものより、政令の射程は広く取られています。
そして第1項の最後に、第2項が置かれています。「前項に規定するもののほか、道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、国土交通省令で定める。」——ここで省令へバトンが渡り、頻度と方法の具体が決まります。
省令が絞り込む「トンネル等」の4項目
受け手が道路法施行規則第4条の5の6です。見出しは政令と同じ「道路の維持又は修繕に関する技術的基準等」。柱書は「令第三十五条の二第二項の国土交通省令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。」で、4つの号が続きます。
第1号が、点検実務でいちばん引用される条文です。「トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「トンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。」
ここで対象がはっきり絞られている点が重要です。政令第2号が「施設若しくは工作物又は道路の附属物」全体を対象にしていたのに対し、省令第1号は「そのうち、異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの」だけを取り出し、これを「トンネル等」と定義しています。近接目視と5年がかかるのは、この絞り込まれた集合に対してだけです。
絞り込みから外れた施設に点検義務が無くなるわけではありません。政令第35条の2第1項第2号の「適切な時期に、目視その他適切な方法により」は生きたままです。方法と頻度の縛りが違うだけで、点検そのものは要ります。小規模附属物のように「5年に1回」の一覧に出てこない施設が、それでも要領を持っているのはこのためです。
残りの3号は次のとおりです。
- 第2号(診断):「前号の点検を行つたときは、当該トンネル等について健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類すること。」——分類の基準そのものは条文には無く、大臣が定めるところに委ねられています。健全性のⅠ〜Ⅳはここから来ています。
- 第3号(記録の保存):「第一号の点検及び前号の診断の結果並びにトンネル等について令第三十五条の二第一項第三号の措置を講じたときは、その内容を記録し、当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること。」
- 第4号(鉄道との事前協議):鉄道・軌道と立体交差する部分について、あらかじめ協議して維持又は修繕の方法を定めておくことを求めるものです。跨線橋・添架物まわりの整理で扱っています。
保存義務がかかるのは何の記録か
第3号は保存の対象を3つ名指ししています。第1号の点検の結果、第2号の診断の結果、そして令第35条の2第1項第3号の措置を講じたときのその内容です。措置の記録が入っている点は見落とされがちですが、条文に明記されています。
保存期間の書き方も特徴的です。何年ではなく「当該トンネル等が利用されている期間中」。施設が使われている限り保存し続ける建て付けなので、年限で廃棄するルールを組むと条文と合いません。担当者の異動や受託業者の交代をまたいで残る置き場所を決めておく必要があります。橋梁台帳と点検記録の関係を整理しておくのは、この保存義務を実際に果たすためです。
一方で、巡視の記録は、この条文が名指ししている保存対象には入っていません。第3号が挙げているのはあくまで第1号の点検・第2号の診断・第3号の措置です。ただし巡視で異状を把握すれば政令第3号の措置義務が発生し、その措置がトンネル等に対するものであれば、措置の内容として保存対象に入ります。巡視そのものの記録ではなく、巡視から生まれた措置の記録が残るという順序です。
実務での切り分け方
ここまでの条文を、日々の運用に落とすと次のようになります。
| 観点 | 巡視(令35条の2第1項第1号) | 点検(令35条の2第1項第2号・規則4条の5の6第1号) |
|---|---|---|
| 対象 | 道路そのもの | 施設・工作物・附属物。うち「トンネル等」は近接目視5年 |
| 方法 | 条文に定めなし | 目視その他適切な方法。トンネル等は近接目視 |
| 頻度 | 「適切な時期に」のみ | 「適切な時期に」。トンネル等は5年に1回を基本 |
| 実施者 | 条文に定めなし | トンネル等は「必要な知識及び技能を有する者」 |
| 診断 | 規定なし | トンネル等は健全性の診断と分類が必要 |
| 記録の保存 | 条文の名指しなし | 点検・診断・措置の内容を、利用されている期間中 |
| 同じ号に含まれるもの | 清掃・除草・除雪その他の機能維持措置 | — |
この表から、予算書や委託仕様書を作るときの実務的な結論が2つ出ます。
ひとつめ。巡視の委託と点検の委託を、同じ費目で丸めない。両者は根拠条文が違い、求められる実施者の要件も違います。トンネル等の点検には「必要な知識及び技能を有する者」という条件が省令に明記されている一方、巡視の号にはその定めがありません。ひとつの契約に混ぜると、資格要件をどちらに合わせるかが曖昧になります。点検技術者の資格要件を発注図書に落とすときは、この線引きが起点です。
ふたつめ。巡視で見つけた異状の行き先を決めておく。条文上、巡視の記録に保存義務はありませんが、そこで把握した異状には措置義務がかかります。措置がトンネル等に対するものなら記録と保存の対象になるので、巡視の報告様式から措置記録へつなぐ経路が無いと、条文が求める保存が事実上できません。日報が現場の手元で止まっている組織では、ここが抜けます。
点検で見つかった損傷を次の周期へ引き継ぐ側の整理は、監視という措置や定期点検以外の点検の記事で扱っています。あわせて、5年に1回という頻度の法的根拠を確認しておくと、この記事で見た省令第1号の位置づけがつながります。
よくある質問
道路の巡視と定期点検は同じものですか。
別の義務です。道路法施行令第35条の2第1項は、第1号に「道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること」、第2号に「道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」と、号を分けて定めています。巡視は道路そのものを見て機能を維持する行為、点検は個々の施設・工作物・附属物の状態を確認する行為です。
巡視の頻度は法令で決まっていますか。
回数の定めはありません。道路法施行令第35条の2第1項第1号が求めているのは「道路構造等を勘案して、適切な時期に」行うことだけです。ここでいう道路構造等とは、同号が定義しているとおり「道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況」を指します。何回まわるかは各道路管理者が自分の路線の条件から決める建て付けです。
「近接目視で5年に1回」は施行令に書かれているのですか。
施行令には書かれていません。施行令第35条の2第1項第2号の点検の方法は「目視その他適切な方法」までで、頻度の記載はありません。近接目視と5年が出てくるのは道路法施行規則第4条の5の6第1号で、対象も「トンネル等」(異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの)に絞られています。政令の点検義務のほうが対象が広く、省令の点検基準のほうが対象が狭いという関係です。
巡視で見つけた異状は、点検の記録として残す必要がありますか。
道路法施行規則第4条の5の6第3号が保存を義務づけているのは、同条第1号の点検(トンネル等の近接目視点検)と第2号の診断の結果、およびトンネル等について講じた措置の内容です。巡視の記録そのものは、この条文が名指ししている保存対象には含まれていません。ただし巡視で異状を把握した場合は、施行令第35条の2第1項第3号により必要な措置を講じる義務が生じ、その措置がトンネル等に対するものであれば第4条の5の6第3号の保存対象になります。
点検の記録はいつまで保存するのですか。
道路法施行規則第4条の5の6第3号は「当該トンネル等が利用されている期間中は、これを保存すること」と定めています。何年という年限ではなく、施設が使われている限り保存し続ける書き方です。撤去や供用廃止までは残る前提で、保管の場所と引き継ぎを決めておく必要があります。
道路法本体には点検のことは書かれていないのですか。
点検の具体的な方法は書かれていませんが、点検基準を置くことは道路法第42条第3項が求めています。同項は「前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。」と定めており、政令に点検基準を含めることを法律の側から義務づけています。第1項の「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し」という努力義務が出発点です。