- 「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)の第3章が、定期点検の過程で行う第三者被害の予防措置を定めています。範囲は①落下の可能性がある損傷の点検 ②応急措置(叩き落としなど)の2つに絞られています
- 道具の重さが分かれています。打音検査=約230g(1/2ポンド)/叩き落とし=約910g(2ポンド)の石刃ハンマー
- 打音検査の密度は原則として縦横20cm程度。目視で健全に見える面こそが主な対象と要領が明言しています
- PC桁など、叩き落とすと応力状態が変わる場合は落とさない。別途の方法を検討することとされています
- 対象はコンクリート片だけではありません。腐食片・ボルトのゆるみ・目地材の劣化も第3章5.の範囲です
- 記録は専用の実施記録様式(その1〜その3)。凡例は●(落ちた)/●▲(防錆処置まで施した)/■(落ちなかったが異音)の3つです
桁下を叩いていて濁音が出た。落とすべきか、記録だけにすべきか。落とした後は何を残すのか——現場で判断に迷いやすいところですが、この手順は要領に細かく書かれています。ハンマーの重さも、叩く間隔も、数値で決まっています。
よく参照される橋梁における第三者被害予防措置要領(案)はコンクリート片の落下に対象を絞った別の文書で、定期点検とは別の年(中間年)に行う措置を定めたものです。これに対して「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の第3章は、定期点検の過程そのもので行う予防措置を定めており、鋼材やボルトまで含みます。この記事ではその第3章を原文で読みます。
予防措置は定期点検の一部として規定されている
この要領は第1章「共通」、第2章「点検・診断」、第3章「橋梁利用者及び第三者被害の予防」、第4章「状態の記録」の4章構成で、予防措置が独立した章を持っています。第3章 1.(1) の本文はこうです。
「定期点検では,橋梁の構造や架橋位置,桁下の利用状況などから,道路橋本体等からのコンクリート片又は腐食片,ボルト類,その他目地材などの一部が落下し,橋梁利用者及び第三者に対して被害が生じることを極力予防するための措置(以下,第三者被害等の予防措置という)を講ずる。」
ここで落下物として挙がっているのは4種類です。コンクリート片・腐食片・ボルト類・目地材など。コンクリート片だけではありません。
そして解説は、この章がどこまでを扱うのかを先に線引きしています。
「本章は,定期点検時に行うことができる橋梁利用者及び第三者被害の予防を目的とし,① 第三者被害の可能性のある損傷の点検 ② 発見された損傷に対する応急措置(叩き落とし作業など)を規定するにとどめている。その程度や発生原因を把握するための詳細調査,補修方法については別途の検討が必要である。」
さらに「ハンマーによる打撃では容易には除去できないものに対しても,別途の対応が必要であり,そのようなものが疑われる異常を見つけた場合には,道路管理者に報告する必要がある。」と続きます。その場で落とせないものは、落とそうとせずに報告する——これが章全体の構えです。
どの橋が対象になるか(5つの条件)
第3章 2.(1) は、措置の対象となる橋を5つ挙げています。
- 「路面上に橋梁本体等の構造物がある場合」
- 「桁下を道路が交差する場合」
- 「桁下を鉄道が交差する場合」
- 「桁下を公園あるいは駐車場として使用している場合」
- 「接近して側道又は他の道路が併行する場合」
1) だけが橋の上(橋梁利用者)の話で、2)〜5) が橋の下(第三者)の話です。要領も 2.(3) でこの2つを分け、1) は「橋梁利用者被害の危険性を考慮して適切に設定する」、2)〜5) は「第三者被害の危険性を考慮し,付録-2を参照のうえ,適切に設定する」としています。範囲の決め方が上と下で違うということです。
対象部位は 2.(2) で「コンクリート部材,鋼部材などの部材断面の一部やボルト類や目地などが落下することによって橋梁利用者や第三者に対して被害を及ぼす可能性がある全ての部位」と定められています。
打音検査:230gのハンマーと縦横20cm
第3章 4.2 の解説は、打音検査の実務を数値で書いています。
| 項目 | 要領の記述 |
|---|---|
| ハンマーの重量 | 「重量が 1/2 ポンド(約 230g)程度のものを用いる。」 |
| 叩く間隔 | 「原則として縦横 20cm 程度を目安に行うものとする。」 |
| 判断 | 「打音が清音であればうき・剥離はないと考え,濁音の場合はあると考える。清音の目安は澄んだ乾いた音,濁音は濁った鈍い音である。」 |
| マーキング | 「打音検査で濁音が認められた箇所には,チョーク等を用いてマーキングを行う。」 |
| 範囲の広げ方 | 「遠望目視により把握した損傷及び非破壊検査により推定したうき・剥離箇所に対する打音検査は,その周囲を含めて広めに行うのがよい。」 |
見落とされやすいのは「どこを叩くか」のほうです。第3章 4.1 の解説は次のように書いています。
「ただし,一見したところ健全と思える箇所についても,うき・剥離の可能性は否定できない(本章では,むしろこのような個所を主な対象と想定している。)ので,目視により確認できる損傷箇所以外についても,打音検査等でうき・剥離を把握し予防措置を実施する。」
括弧の中が要点です。この章が主な対象と想定しているのは、見えている損傷ではなく見えていないうき・剥離のほうだと要領自身が言っています。範囲も 4.1(2) で「措置対象範囲にある橋梁のコンクリート部材の全ての範囲」と定められています。うき自体の評価の考え方はうきとは?評価はaとeだけ・剥離との違いにまとめています。
事前準備についても「打音検査の実施にあたって,事前に現地踏査を行い,架橋条件や交通条件などの現況を確認し,近接手段を選定する必要がある。」とされています。近接手段の選び方は橋梁点検車とは?高所作業車との違いと必要な資格、ロープを使う場合はロープ高所作業とは?橋梁点検で必要な8つの措置を参照してください。
叩き落とし:910gの石刃ハンマーと、止める判断
応急措置の側は、道具が変わります。
「マーキングされたコンクリート部材のうき・剥離箇所に対して所定の石刃ハンマーで,できる限りその部分のコンクリートを叩き落とす。叩き落とし作業には,健全なコンクリートに損傷を与えることのないよう重量が 2 ポンド(約 910g)程度のものを使用する。」
打音検査の約230gに対して約910g=およそ4倍。理由も書かれていて、重いものを使うのは効率のためではなく「健全なコンクリートに損傷を与えることのないよう」です。軽いハンマーで何度も叩けば健全部まで傷めるため、という読み方になります。
そして落とさない判断が明記されています。
「なお,うき・剥離の範囲が広い場合やPC桁等叩き落とすことによって当該箇所付近の応力状態が変化する場合等,叩き落とすことによって構造安全性が損なわれるおそれがあるときは,別途の方法を検討しなければならない。」
「検討しなければならない」という強い書き方です。PC桁は名指しされています。ここは「落とせるものは全部落とす」ではなく、落とすことで橋を壊す可能性があるなら止めるという判断が要る場面です。
作業時の安全については「作業区域を明確にして第三者に危険の及ぶことのないよう注意するとともに,必要に応じて毛布等によりコンクリート片の飛散防止及び騒音対策を講じるものとする。特に点検者は落下物に十分注意を払い,自身の安全を確保しなければならない。」とされています。騒音対策が明記されているのは、桁下が公園や駐車場として使われている橋を対象に含めているためです。
落とした後にやること
叩き落として終わりではありません。要領は2つを求めています。
「叩き落とし作業などの応急措置によりコンクリートが落下した場合には,第 2 章の点検・診断に活用できるように,落下個所の状態について記録する。その後,本格的な補修までの処置として鉄筋の防錆処置を行う。防錆処置としては,錆を落とした後,塗装を施すのが一般的である。」
- 記録——しかも目的が明記されていて、「第2章の点検・診断に活用できるように」です。叩き落とした後の面は、剥離・鉄筋露出の状態を診断する材料になります
- 防錆処置——落としたところに鉄筋が出ていれば、錆を落として塗装する。本格的な補修までの暫定処置という位置づけです
剥離・鉄筋露出そのものの評価は漏水・遊離石灰、剥離・鉄筋露出とは?コンクリート橋の個別損傷の見方、対策区分の付け方は対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧と判定の考え方にまとめています。
打音検査以外の方法を使うとき
第3章 4.2(2) は「(1)によらない場合,(1)によったときと同等の点検,措置ができる適切な方法により,点検,応急措置を行う。」として、打音検査以外の方法を認めています。ただし条件が付きます。
「打音検査以外の方法を用いる場合にも,打音検査により見つけられる程度のうき,剥離について落下の予防がなされるように,適切な方法の選定,現地における必要なキャリブレーションや適用条件の検証の実施,採用する方法の実施に求められる知識・技術によるものの従事など,適切な点検と措置がされるように計画,実施する必要がある。」
要求は3つに分解できます。①打音検査で見つかる程度のうき・剥離が拾えること ②現地でのキャリブレーションと適用条件の検証 ③その方法に必要な知識・技術を持つ者が従事すること。4.1 の解説にも「打音検査以外の方法を用いる場合でも,打音検査で把握できる範囲のうき,剥離について把握できる方法を用いる。」とあり、比較の基準が打音検査に置かれています。
赤外線法との関係は赤外線法によるうき・剥離調査とは?打音検査との関係、近接目視と「同等の方法」の要件は近接目視とは?定義と「同等の評価が行える他の方法」の要件で整理しています。
なお第3章 3.(実施計画と体制)の解説は、「非破壊検査が複数の橋梁で同様の方法を用いることができれば結果として経済的になる場合も想定され,打音検査のみによるのではなく,複数の方法を組み合わせることも考えられ,適宜検討するのがよい。」としています。第2章・第4章の点検と従事者や資機材を共有することも想定されています。
鋼材・ボルト・目地材も対象に入る
第3章 5.「その他,橋梁の鋼材の腐食片などの落下に対する予防」の本文です。
「腐食,防食機能の劣化,ボルトのゆるみなど,定期点検の過程で把握した損傷等のうち,道路橋本体や付属物等からの腐食片,部材片,部品等の落下につながるものや,その他目地材の劣化等に伴う落下について,落下の可能性があるものの除去,ボルトの締め直しなど,その場での応急処置が可能なものについては適切な措置を行う。」
ここは平成28年の「橋梁における第三者被害予防措置要領(案)」との違いが出るところです。あちらはコンクリート片の落下に対象を絞っていますが、この第3章はボルトの締め直しまで応急措置に含めています。個々の損傷の評価は防食機能の劣化とは?腐食との違いと分類1〜3、ゆるみ・脱落の評価は「一群の5%」で分かれるを参照してください。
そして (2) が、その場で手を出さない場合の定めです。
「腐食箇所において有害物質の含有が疑われる場合など,容易に危害の除去を行うことができないようなものが見つかったときには,速やかに道路管理者に報告する。」
解説は理由を「早急な対応が必要な可能性があることから,道路管理者に報告する。」とし、続けて「また,道路管理者は,対応と並行し,必要に応じて本要領第 1 章5.2から5.4に規定する「E」又は「S」判定とすることを検討する必要がある。」としています。報告を受けた側が E(緊急措置段階)や S(詳細調査)の検討に入るという接続です。詳細調査の区分は橋梁点検の詳細調査とは?判定S1・S2の使い分けにまとめています。
記録は3つの様式と3つの凡例で残す
第3章 6. は「橋梁利用者及び第三者被害の予防措置の内容を,適切な方法で記録し,蓄積する。」とし、様式を指定しています。
「記録様式は,本章の橋梁利用者及び第三者被害の予防措置の実施記録様式(その1)~(その3)によるものとし,記入にあたっては,付録-1「定期点検結果の記入要領」による。」
この様式は点検記録様式ともデータ記録様式とも別立てで、付録-1の中に独立した3枚組として置かれています。位置図(その2)の凡例は3つです。
| 凡例 | 意味 | 写真の残し方 |
|---|---|---|
| ● | 「叩き落とし等の応急措置を実施した結果,落下した箇所」 | 措置後の写真1枚を基本 |
| ●▲ | 「落下した箇所に対して防錆処置等の現場処置を施した箇所」 | 措置後+現場処置後の2枚で1組 |
| ■ | 「叩き落とし等の措置を実施した結果,落下しなかったものの異音などの疑義」 | — |
実務で効くのは■です。記入要領は「コンクリート片の叩き落とし作業や鋼部材の錆片のうきに対する腐食片の削ぎ落とし作業などの応急措置を実施した結果,落下しなかったものの異音などの疑義がある箇所についても箇所の記録を残すものとする。」としています。落ちなかった=記録しない、ではありません。叩いたが落ちなかった箇所こそ、次回の点検で最初に見る場所になります。
写真については、ボルト類の扱いが具体的に書かれています。「ボルト類の増し締めなどでは措置状況写真や増し締め後のアイマークの写真などを記録するなどして,措置が適切に完了していることが分かるように適切に記録する。記録する写真が複数枚になってもよい。」——アイマーク(合いマーク)の写真まで名指しされています。
措置前の写真は必須ではありませんが、「必要に応じて,応急措置の実施前の記録を残しても良い。応急措置の実施前の記録は,コンクリート部材の叩き落とし前(打音範囲チョーキングの状況),鋼部材や塗装片のかき落とし前,ボルトや付属物等の除却前などの写真を適切に記録する。」とされています。チョーキングの状況が例に挙がっているので、マーキングの段階で1枚撮っておくと後から組にしやすくなります。写真の整理そのものは損傷写真台帳の作り方:撮影から整理までの実務、要素番号の付け方は要素番号の付け方:起点側から振る4桁の意味を参照してください。
なお、この様式を誰が作るかは第3章には書かれていません。役割の線引きは橋梁診断員と橋梁検査員の各記事、調書全体の構成は橋梁点検調書の構成と書き方で確認できます。
よくある質問
Q. 叩き落とし作業は、定期点検の業務に含まれるのですか。
A. 含まれます。「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)は第3章を「橋梁利用者及び第三者被害の予防」に充て、「定期点検の過程において実施する範囲として」①第三者被害の可能性のある損傷の点検、②発見された損傷に対する応急措置(叩き落とし作業など)の2つを規定しています。ただし「その程度や発生原因を把握するための詳細調査,補修方法については別途の検討が必要である。」ともあり、原因究明と補修は別の話です。
Q. 点検ハンマーと叩き落としのハンマーは、同じものを使ってよいのですか。
A. 要領は重さを分けています。打音検査は「重量が 1/2 ポンド(約 230g)程度のもの」、叩き落としは「所定の石刃ハンマーで」「健全なコンクリートに損傷を与えることのないよう重量が 2 ポンド(約 910g)程度のもの」とされています。約4倍の差があり、探す道具と落とす道具が別に定められている、という読み方になります。
Q. 打音検査はどれくらいの細かさで叩くのですか。
A. 「打音検査の密度(間隔)は,原則として縦横 20cm 程度を目安に行うものとする。」とあります。あわせて「遠望目視により把握した損傷及び非破壊検査により推定したうき・剥離箇所に対する打音検査は,その周囲を含めて広めに行うのがよい。」ともされているので、見えている損傷の縁だけを叩いて終わりにはしません。濁音が出た箇所はチョーク等でマーキングします。
Q. 見た目に異常がない面も叩くのですか。
A. 叩きます。要領の解説は「一見したところ健全と思える箇所についても,うき・剥離の可能性は否定できない(本章では,むしろこのような個所を主な対象と想定している。)」と書いています。つまり第3章が主に想定しているのは、目視で見つかっている損傷ではなく、見えていないうき・剥離のほうです。措置の範囲も「措置対象範囲にある橋梁のコンクリート部材の全ての範囲」とされています。
Q. 叩き落としてはいけない場合はありますか。
A. あります。「うき・剥離の範囲が広い場合やPC桁等叩き落とすことによって当該箇所付近の応力状態が変化する場合等,叩き落とすことによって構造安全性が損なわれるおそれがあるときは,別途の方法を検討しなければならない。」とされています。また、腐食箇所で有害物質の含有が疑われる場合など「容易に危害の除去を行うことができないようなもの」が見つかったときは、速やかに道路管理者へ報告することとされています。
Q. コンクリート片以外は対象外ですか。
A. 対象です。第3章5.は「腐食,防食機能の劣化,ボルトのゆるみなど,定期点検の過程で把握した損傷等のうち,道路橋本体や付属物等からの腐食片,部材片,部品等の落下につながるものや,その他目地材の劣化等に伴う落下について,落下の可能性があるものの除去,ボルトの締め直しなど,その場での応急処置が可能なものについては適切な措置を行う。」としています。コンクリート片に限定しているのは平成28年の「橋梁における第三者被害予防措置要領(案)」の側で、この第3章は鋼材・ボルト・目地材まで含みます。
出典・適用範囲
本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は要領の表記に合わせています。
- 国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月) — 参照箇所:第3章 1. 総則(本文(1)(2)および解説 p.55)/第3章 2. 措置の対象(本文(1)(2)(3)および解説 p.56)/第3章 3. 実施計画と体制(本文および解説 p.57)/第3章 4.1 落下する可能性のある損傷(本文(1)(2)および解説 p.58)/第3章 4.2 措置の手順及び方法(本文(1)(2)および解説 p.59〜60)/第3章 5. その他,橋梁の鋼材の腐食片などの落下に対する予防(本文(1)(2)および解説 p.61)/第3章 6. 措置の記録(本文および解説 p.62)/付録-1「定期点検結果の記入要領」2. 橋梁利用者及び第三者被害の予防措置の実施記録様式への記入方法(その2 予防措置位置図の凡例 p.21/その3 予防措置の実施状況写真 p.22)。
原典リンク確認:2026年9月29日。本記事は要領が定める予防措置の範囲と手順を確認するための実務解説で、個別の橋における措置の可否・構造安全性の判断を行うものではありません。叩き落としの可否や別途の方法の要否は、対象橋の構造と技術者の判断によります。