「橋長2mの箱形の構造物が道路の下を横断している。これは橋として5年に1回の定期点検が要るのか、それともカルバートとして道路土工構造物の点検で足りるのか」。溝橋(ボックスカルバート)は、この線引きでつまずきやすい構造物です。
結論から書くと、橋長2m以上かつ土被り1m未満のボックスカルバートは「溝橋」として道路橋の定期点検の対象になります。そのうえで、国土交通省の直轄要領には、一定の条件を満たす溝橋だけを対象にした参考資料が別に用意されています。そこでは見る損傷の種類が絞られ、内空面の打音・触診が原則不要とされ、画像等の機器を使って内空の状態を把握する道筋まで書かれています。
この記事では、その適用条件と、実際に何がどう変わるのかを原典の記述から整理します。
- 溝橋(ボックスカルバート)の定義は橋長2m以上かつ土被り1m未満。橋長は外寸2m以上で道路軸方向(斜角考慮)、土被りは最小値の位置で判断する
- 「特定の条件を満足する溝橋」に該当するかは構造の条件と供用の条件の両方で決まる。鉄筋コンクリートの剛体ボックスで継手が無く、内空に人が入るおそれがないこと
- 該当する溝橋は、対象とする損傷の種類が絞られ、内空面での打音・触診は第三者被害の観点では不要とされる
- 画像等の機器で内空の状態を把握してよいが、機器選定の考え方と、直接見た箇所・機器でしか見ていない箇所を記録に残すことが求められる
- 継手がある、死角がある、補修補強履歴がある——これらは適用外。頂版の疲労損傷が起きないという知見は確立していない
溝橋とは何か:橋長2m以上・土被り1m未満
「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の参考資料7 別紙1は、溝橋(ボックスカルバート)を次のように定義しています。
この定義には、寸法の測り方まで注記が付いています。
| 項目 | 原典の記述 |
|---|---|
| 橋長 | 「外寸2m以上とし、ボックスカルバート上部道路の道路軸方向(斜角考慮)の長さを計測した値とする」 |
| 土被り | 「天端から、歩車道等の上面の厚さが1m未満のもの」。「土被り厚が測定の位置で異なる場合(車道部・歩道部等)は、最小値となる位置で判断する」 |
実務上、ここでよく問題になるのが2点あります。1つは斜角です。道路と斜めに交差している溝橋は、内空幅そのものではなく道路軸方向の長さで測るため、内空が2m未満でも橋長が2mを超えることがあります。もう1つは土被りの測定位置で、車道部で1m以上あっても歩道部で1m未満なら、最小値のほうで判断します。「たぶんカルバート側だろう」と外形の印象で決めると、法定点検の対象を落とします。
道路橋の定期点検の対象になる施設の全体像は道路の法定点検「5施設」と5年ルールに、橋以外の構造物を扱う要領との関係は道路土工構造物点検要領とは?法定点検との違いに整理しています。溝橋がどちらの制度に乗るかは、この寸法の判定で決まります。
なぜ溝橋だけ別の参考資料があるのか
令和6年7月の直轄要領は、本編のほかに参考資料を7本持っています。その7本目が「特定の条件を満足する溝橋の定期点検に関する参考資料」です。要領はこの資料の目的を、次のように書いています。
つまり法令や要領を緩めるものではなく、運用の参考情報という位置づけです。要領の本編(第2章 4.1)でも、状態の把握の方法を選ぶ場面で「溝橋のうち,参考資料7……の適用の条件を満足する溝橋(ボックスカルバート)に関しては,上記を満足する部材等の一部の選定や状態の把握の方法について,同参考資料を参考に選定してよい」と、参照の形で触れられています。
要領がこの構造物を切り出した理由も明記されています。要点は3つです。
- 本体に鋼部材が無いため、鋼部材の亀裂からの脆性的・突発的な部材損傷の進展が想定されない
- 大きな外力に対して、部材の変状よりもボックス全体の移動等の変状が生じやすいものを選んでいる
- 部材中に継手が無く、局所的な応力分布や耐久性の違いについての懸念が想定しがたいものを選んでいる
加えて要領は「事例からは,活荷重の繰り返しによる頂版コンクリートの疲労損傷の可能性が小さいと考えられる」としつつ、「まだ限定的なデータの範囲であるため断定はできない」とも書いています。この2文が併記されているのが、参考資料7の性格をよく表しています。
要領そのものの法的な位置づけ(省令・告示・技術的助言の関係)は定期点検要領の法的位置づけを、直轄版と地方公共団体向けの2つの要領の違いは道路橋定期点検要領と橋梁定期点検要領は何が違うのかをご覧ください。参考資料7は直轄版(令和6年7月)に収録されているもので、地方公共団体向けの道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)とは版が異なります。
適用条件:構造の条件と供用の条件
参考資料7の適用範囲は、構造の条件と供用の条件の2系統で書かれています。まず本文の条件です。
| 系統 | 条件(原典の要旨) |
|---|---|
| 構造の条件 | 鉄筋コンクリート部材からなる |
| 地震や洪水等に対して、部材単位での損傷よりも、ボックス全体としての断面形状を保ちながら剛体的に移動する変状が卓越するとみなせる | |
| 経年材料の状態の変化や突発的な事象に対して、特定の弱部がないとみなせる | |
| 供用の条件 | 内空において人が侵入するおそれを通常考慮する必要がなく、内空側へのコンクリート片の剥落等による第三者被害防止の観点については措置が不要とできる |
この3つの構造の条件は、現場で見て判定できる書き方になっていません。そこで要領は「外形で判断するならば,例えば以下の条件を全て満足するものが想定される」として、より具体的な目安を続けています。
- 充実断面を有する一連の鉄筋コンクリート部材からなり、支持する道路の横断方向に見たときに剛性ボックス断面が構成される
- ボックスの隅角部は剛結されているとみなせる
- 各部材のせん断スパン比も小さく、かつ、ボックスの各辺の断面寸法の変化がない
- ボックスの各辺の周長方向に継手がない
3つめの「せん断スパン比が小さい」については、要領自身が「定量的に示すことはできない」と断ったうえで、参考になる寸法を挙げています。
| 施工方法 | 該当することが多いと考えてよい断面(原典の目安) |
|---|---|
| 場所打ちコンクリート | 内空高 5m × 内空幅 6.5m まで |
| プレキャスト部材 | 内空高 2.5m × 内空幅 5m まで |
この数値は、過去の道路土工カルバート工指針(平成11年3月・日本道路協会)が具体の設計法を示している剛性ボックスカルバートの断面の大きさと、参考資料の作成にあたって参考とした全国の溝橋の定期点検結果の範囲から導かれたものです。基準値ではなく目安で、要領は続けて「極端に部材厚が薄かったり,偏土圧を受けるなどで断面力分布が複雑になるものも想定され」るため、「定期点検で行う者が個別に現場で判断することが必要である」としています。
継手の条件には、外観だけで判断してはいけないという注記が付きます。「外観上継手がないように見えても,例えばプレキャスト部材等を接合するにあたって,ボルト等,周辺断面とは異なる力学機構で接続したあとでコンクリートにより後埋めしたようなものは」該当しない、と明記されています。後埋めで平らに仕上げられていると現場では見分けがつかないため、ここは竣工図や施工記録に戻る場面です。
供用の条件については、要領が2つの例を挙げています。内空が水路等に活用されているなど人が侵入するおそれが極めて小さい状況、または立入防止柵やゲート等により内空への立ち入りが物理的に規制されている状況です。柵やゲートは点検のたびに状態が変わりうるので、前回の判定を引き継ぐのではなく、その回の供用状況で判断する必要があります。第三者被害の予防措置の考え方は第三者被害予防措置とは?定期点検の中間年に行う打音検査にまとめています。
対象とする損傷の種類が絞られる
要領の本編には、部位・部材区分ごとに「対象とする項目(損傷の種類)」を示した表があります。溝橋については、この表が2つ載っています。1つは一般の溝橋、もう1つは「活荷重による影響が小さい剛性ボックス構造で、第三者被害の恐れがないもの」という但し書きの付いた表です。後者は見る損傷が明確に少なくなっています。
| 部位・部材 | 一般の溝橋 | 活荷重の影響が小さい剛性ボックス構造 |
|---|---|---|
| 頂版 | ⑥ひびわれ、⑦剥離・鉄筋露出、⑧漏水・遊離石灰、⑨抜け落ち、⑩補修・補強材の損傷、⑪床版ひびわれ、⑫うき、⑲変色・劣化、⑳漏水・滞水、㉑異常な音・振動、㉒異常なたわみ、㉓変形・欠損 | ⑥ひびわれ、⑦剥離・鉄筋露出、⑧漏水・遊離石灰、⑪床版ひびわれ |
| 側壁・底版・隔壁・翼壁 | 頂版と同じ12項目に加え、底版で㉕沈下・移動・傾斜(注1) | ⑥ひびわれ、⑦剥離・鉄筋露出、⑧漏水・遊離石灰、㉕沈下・移動・傾斜(注1) |
| 連結部・目地部(プレキャスト) | ①腐食、②亀裂、③ゆるみ・脱落、④破断、⑤防食機能の劣化、⑬遊間の異常、⑱定着部の異常、㉔土砂詰まり ほか | 表に掲載なし(=継手のない構造が前提のため) |
| 全体または周辺地盤 | ㉕沈下・移動・傾斜(注2) | ㉕沈下・移動・傾斜(注2) |
| 路上・その他 | ⑮舗装の異常 | ⑮舗装の異常 |
この表で見落としやすいのが注2です。要領は「溝橋における㉕は不同沈下及び吸い出しを含むものとする」と定めています。㉕沈下・移動・傾斜は一般の橋では下部構造の変状として扱う損傷ですが、溝橋では背面地盤からの土砂の吸い出しまで含みます。注1も「不同沈下を含むものとする」です。
吸い出しは、参考資料7の状態把握の留意事項でも繰り返し出てきます。「溝橋(ボックスカルバート)が支持する道路の横断方向にはボックスが連続しないこともあり,そこからの土砂の流出・吸い出しにより,背面地盤の安全性に影響が出たり,そのために本資料が前提とする構造の状態が喪失するおそれも懸念される」。つまり吸い出しは、参考資料7を適用する前提そのものを壊しうる事象として扱われています。要領は手がかりとして「土砂の流出や堆積の痕跡を探すこと」と「背面地盤上の舗装の状態も注意してみるのがよい」を挙げています。
損傷の種類の全体像は橋梁の損傷26種類一覧に、程度の評価(a〜e)の考え方は損傷程度の評価(a〜e)とは?に、下部構造の㉕の見方は下部構造の沈下・移動・傾斜は橋面の異常から見つけるに整理しています。
内空の打音・触診と、画像等の活用
参考資料7で実務上いちばん効くのは、状態の把握の方法に関する部分です。まず打音・触診について、要領は次のように書いています。
ここは条件付きです。省略できるのは「第三者被害の観点で」の打音・触診であって、うきや剥離が見えたときの確認まで不要になるわけではありません。状態の把握は「近接目視を基本とし,必要に応じて,打音,触診,その他非破壊検査,試掘等必要な調査を行う」という原則のままです。近接目視の定義と「同等の評価が行える他の方法」の要件は近接目視とは?にまとめています。
そのうえで要領は、機器の活用に踏み込みます。
想定されている典型的な場面は、出水期に内空が水没して直接目視できないケースです。要領は原則として「渇水期など確実に確認できる時期に定期点検を行うのがよい」としたうえで、「場合によっては,内空面の状態の把握に機器等を活用することも考えられる」と続けています。時期をずらすほうが先で、機器はその次という順序で書かれている点は読み落とさないほうがよいところです。
機器を使う場合、要領は選定にあたって考慮すべき事項を5つ挙げています。
- 変状の向き等の影響
- 機器等の向きに対する解像度
- 現地の明るさ等の条件
- 正対しない場合の画像のゆがみや、光の角度と部材表面の凹凸の関係により生じる影の影響
- その他、機器等が明らかにする性能ならびにその発揮条件
そして記録について、2つの要求が続きます。1つは「選定の妥当性を溯って検証ができるように,選定の考え方を記録に残すのがよい」。もう1つは「直接状態の把握を行った箇所と機器等でのみ状態の把握を行った箇所は明らかにし,記録に残すのがよい」です。付録3には機器等を使用した場合のキャリブレーションの例も置かれています。
この「どこを直接見て、どこを機器で見たか」を残す考え方は、令和6年3月の道路橋定期点検要領が様式に持ち込んだ前提条件の記録と同じ発想です(点検記録様式(その7)とは?見えなかった箇所の記録/様式3の書き方)。点検支援技術を使うときの一般的な手順と費用の考え方は点検への新技術導入の手順と新技術を使った橋梁点検の費用はどう決まる?に、カタログの読み方は点検支援技術性能カタログとは?にまとめています。
適用外になるもの・書かれていないこと
参考資料7は、適用しない場合も明確に書いています。機器等による把握について「この限りではない」とされるのは次の2つです。
- 内空側に凹凸や添架物による死角があったり、部材の状態を把握することを困難にする保護層などが設置されていたり、構造の改変が行われているなど、部材の外観を把握する障害がある場合
- 過去の補修補強履歴などがある場合。この場合は「部材断面内部の状態を把握するにあたって特に注意が必要であり,近接目視や必要に応じて打音,触診等の非破壊検査などを行う必要がある」
添架物は溝橋でもよく出てきます。内空に管路や配線が通っていれば死角ができるため、そこだけで適用の前提が崩れます。橋に付いている占用物件の扱いは橋の添架物は誰が点検するのかに整理しています。
状態把握の留意事項では、ほかにも現場で効く注意が並びます。土被りが特に薄いときは「例えば桁橋のコンクリート床版のように,輪荷重による繰返しの応力変動の影響が免れ得ないことが想定される」こと。供用前後の道路附属物の設置に伴って変状が生じることがあること。アルカリ骨材反応や塩害が疑われるときは特に慎重に状態の把握を行うこと。植生等で外観性状の把握が困難な場合は除去してから見ること。地盤に接する側面や水中部は、直接近接目視できる範囲から推測したり、機器の活用や試掘で把握すること——などです。
そして、要領が自分で線を引いている箇所が2つあります。
1つは適用対象の限定です。「まだデータの蓄積は始まったばかりであること,また,多様な構造形態や周辺条件があり得ることから,本資料は溝橋(ボックスカルバート)について1.で示した以外の構造物は適用の対象としない」。鋼製やプレキャストで継手のあるボックス、アーチカルバート、パイプカルバートは、この資料の対象ではありません。
もう1つは疲労についての留保です。「頂版には疲労損傷が物理的に生じ得ないという知見が確立されている訳ではないので誤解がないようにするとともに,その可能性はあるものとして状態の把握を行う必要がある」。損傷の種類が絞られた表を使うことと、疲労を見なくてよいことは別だと、要領自身が念を押しています。
なお、参考資料7には点検の頻度を変える規定はありません。溝橋も道路橋である以上、供用開始後2年以内に初回、2回目以降は5年に1回という頻度は同じです(根拠は橋梁点検はなぜ5年に1回?)。健全性の診断の区分Ⅰ〜Ⅳを決めるのも、他の橋と同じく道路管理者です(健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?/健全性の診断結果の分類に関する告示)。変わるのは、状態を把握する方法と、見る損傷の範囲だけです。
点検の全体像は道路橋定期点検 完全ガイドに、調書の作成側の実務は橋梁点検調書の構成と書き方と点検調書作成の工数を減らす方法にまとめています。
よくある質問
土被りが1m以上のボックスカルバートは定期点検の対象外ですか。
道路橋の定期点検の対象となる「溝橋」には該当しません。参考資料7 別紙1は溝橋を「橋長 2m 以上かつ土被り 1m 未満のボックスカルバート」と定義しており、土被り1m以上のものはこの定義から外れます。ただし「点検しなくてよい」という意味ではなく、道路土工構造物点検要領の側で扱われることになります。どちらの制度に乗るかが変わるだけで、点検義務そのものが消えるわけではありません。
内空が水没していて見られません。次の渇水期まで点検を延ばしてよいですか。
参考資料7は「渇水期など確実に確認できる時期に定期点検を行うのがよい」としており、時期の調整は要領が推奨する対応です。ただし5年に1回という頻度そのものを延ばす規定ではないので、点検の実施計画の中で時期を寄せる形になります。それでも直接見られない場合の代替として、要領は「場合によっては,内空面の状態の把握に機器等を活用することも考えられる」と続けています。
内空の打音検査は完全に省略してよいのですか。
いいえ。参考資料7が不要としているのは「内空でのコンクリート片の落下が第三者被害につながらないと判断してよい」というその観点についての打音・触診です。同じ節は「目視によりうき,剥離,またはこれらが疑われる変状が確認された場合には,これを取り除いて内部の状態を把握することを検討するのがよい」と続きます。また過去に補修補強履歴がある場合は「近接目視や必要に応じて打音,触診等の非破壊検査などを行う必要がある」とされています。
プレキャスト製のボックスカルバートでも参考資料7を使えますか。
継手の状態次第です。適用の目安には「ボックスの各辺の周長方向に継手がないもの」があり、プレキャスト部材をボルト等で接続してコンクリートで後埋めしたようなものは「本資料が扱う溝橋(ボックスカルバート)の条件に該当しない」と明記されています。一方で、せん断スパン比の目安としてプレキャスト部材の場合の寸法(内空高2.5m×内空幅5mまで)が示されているので、プレキャストであること自体が失格になるわけではありません。判断は外観ではなく施工の実態で行う必要があります。
画像で内空を見た場合、調書には何を書きますか。
参考資料7は2つを求めています。1つは機器等の「選定の考え方」で、「選定の妥当性を溯って検証ができるように」記録に残すこと。もう1つは「直接状態の把握を行った箇所と機器等でのみ状態の把握を行った箇所は明らかにし,記録に残す」ことです。付録3にキャリブレーションの例が示されています。なお令和6年3月の道路橋定期点検要領でも、支援技術を使った場合は「今後の検証が可能となるように」使用機器等の情報を記録する考え方が取られています(様式3の書き方)。
参考資料7を使うと、点検の頻度や健全性の診断の区分は変わりますか。
変わりません。参考資料7に頻度や区分の決め方に関する規定はなく、供用開始後2年以内に初回・2回目以降は5年に1回という頻度も、告示に基づく健全性の診断の区分Ⅰ〜Ⅳを道路管理者が決めることも、他の道路橋と同じです。変わるのは、対象とする損傷の種類と、状態を把握する方法の選択肢です。