道路の陥没が報じられるたびに、庁内で「うちは空洞調査をやっているのか」という話になります。ところが調べ始めると、どの要領に何が書いてあるのかがすぐには出てきません。橋やトンネルのように「5年に1回・近接目視」と一文で言える根拠が、路面下空洞調査には見当たらないからです。
実際、その感覚は正しいものでした。国が定めた舗装点検要領には「陥没」も「路面下」も1文字も出てきません。この記事では、まずその事実を機械的に確かめたうえで、では何を根拠にどう進めるのか、機器の性能はどこに書いてあるのか、費用はどの制度から出ているのかを、一次情報だけで組み立て直します。
- 路面下空洞調査は法定点検ではない。道路法施行規則が定める「5年に1回・近接目視」の対象は「トンネル等」で、路面下は含まれない
- 舗装点検要領(平成28年10月・51ページ)を全文抽出して数えたところ、「陥没」0件・「路面下」0件・「地中レーダ」0件。「空洞」の2件はコンクリート舗装の目地部の話
- 手順(一次調査→二次調査)と機器の性能値が書かれているのは要領ではなく、総点検実施要領(案)【舗装編】の参考資料にある特記仕様書の例
- 直轄国道は2024年度に3,079km(対象延長の約15%)を調査し、空洞4,739箇所を確認。うち陥没の可能性が高い区分Aは119箇所(2%)で全箇所が着手済み
- 国土交通省自身が「道路の条件と空洞発生の因果関係は究明されていない」と書いている。原因を断定して説明しないほうがよい
舗装点検要領に「陥没」は1件も出てこない
まず出発点を確かめます。舗装の点検について国が示している文書は舗装点検要領(平成28年10月・国土交通省道路局)です。この要領のPDFを取得して全文をテキスト化し、語句を機械的に数えました。全51ページ、約2万4千字です。
| 語句 | 出現数 |
|---|---|
| 陥没 | 0件 |
| 路面下 | 0件 |
| 地中レーダ | 0件 |
| 空洞 | 2件 |
| ポットホール | 5件 |
「空洞」が2件あるので中身を確認すると、いずれもコンクリート舗装の目地部の話でした。1件目は診断区分Ⅲの措置として「目地部下に空洞(隙間)が発生していることが想定され、詳細調査を実施し、必要に応じて注入工法による隙間の充填という措置が必要」、2件目は詳細調査の解説で「荷重伝達率は80%以上であれば有効であり、65%以下の場合、ダウエルバーの損傷や路盤の支持力低下もしくは空洞化の恐れがある。」です。どちらも版の直下の隙間を指していて、地中レーダで探す路面下の空洞とは別の話です。
要領自身の適用範囲も、路面下を含まないことを裏づけています。原文は「本要領は、道路法施行令第35条の2第1項第二号の規定に基づいて行う点検のうち車道上の舗装の点検に適用されるものである。」で、対象は車道上の舗装です。要領の中身については舗装点検要領とは?橋・トンネルと違う「分類別・3区分」の点検制度とMCI(維持管理指数)とは?4つの式と舗装点検要領での位置づけで扱っています。
では何を根拠に実施しているのか
路面下空洞調査が法定点検でないことは、条文からも確認できます。5年に1回の近接目視を定めているのは道路法施行規則第4条の5の6ですが、その対象は次のように限定されています。
「トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「トンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。」
ここでいう「トンネル等」に路面下は含まれません。法定点検の対象施設の全体像は点検義務があるのは橋だけではない|道路の法定点検「5施設」と5年ルールにまとめています。
一方で、道路の点検そのものを求めている規定は道路法施行令第35条の2第1項第二号にあります。原文は「道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと。」です。適切な時期に、目視その他適切な方法によりという書き方なので、頻度も方法も道路管理者の裁量に委ねられています。
整理すると次のようになります。
| 区分 | 橋・トンネル等 | 舗装(車道) | 路面下空洞調査 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 道路法施行規則 第4条の5の6 | 道路法施行令 第35条の2第1項第二号 | 同左(明示の規定なし) |
| 頻度 | 5年に1回を基本(規則) | 5年に1回程度以上を目安(要領) | 定めなし |
| 方法 | 近接目視 | 要領の分類別 | 定めなし |
| 診断結果の国への報告 | あり | — | — |
舗装の点検頻度が「5年に1回程度以上の頻度を目安として、道路管理者が適切に設定する。」と書かれているのは要領の側で、法令ではありません。橋の5年と舗装の5年は、拘束力の強さが違います。ここを取り違えると、庁内の説明で「やっていないと違法なのか」という質問に答えられなくなります。
一次調査と二次調査の分かれ方
実際の進め方は、要領ではなく会計検査院の検査報告に整理された記述があります。平成29年度決算検査報告が、実務の流れをこう説明しています。
「① 技術事務所等又は地方公共団体から調査業務を受託した調査会社(以下「受注者」という。)は、一次調査として、対象となる道路の全延長を地中レーダーを搭載した探査車で走行移動しながら探査データを取得し、技術事務所等又は地方公共団体は、その探査データを基に、空洞が発生している箇所及びその可能性のある箇所を判定する。」
「② 受注者は、①において空洞が発生している可能性があると判定された箇所を対象として、ハンディ型地中レーダーを用いるなどして二次調査を行い、空洞が発生している可能性が高いと判定した場合には、削孔してスコープ等で空洞の有無、土被り、空洞の大きさなどを確認する。」
対象区間の全延長を走行しながらレーダデータを取得し、異常信号を検出します。この段階で出るのは「空洞かもしれない箇所」であって、空洞そのものではありません。
一次調査で挙がった箇所をハンディ型レーダで詰め、可能性が高ければ削孔してスコープで実物を見ます。ここで初めて土被りと大きさが確定します。
確認された空洞は陥没の可能性で区分され、優先度の高いものから修繕します。区分の呼び方は後述の年報でA・B・Cが使われています。
発注側にとって重要なのは、一次調査の成果は「箇所数」ではなく「異常信号の数」だという点です。仕様の書き方によっては、二次調査の数量が確定しないまま契約することになります。委託費の考え方は橋梁点検の費用相場と内訳:1橋あたりの試算値と削減の考え方の整理が参考になります。
機器の性能値が書かれている唯一の場所
「どの程度の空洞まで見つかるのか」は、発注仕様を書くときに必ず必要になります。国の文書でこの数値が明記されているのは、総点検実施要領(案)【舗装編】(参考資料)(平成25年2月・国土交通省道路局)に載っている特記仕様書の例です。車道部の記述は次のとおりです。
「④使用する路面下空洞探査車は下記に示す性能と同等以上のものとする。・探査方式:電磁波地中レーダ方式・探査深度:1.5m程度・探査幅:2.0m程度・探査能力:縦50cm×横50cm×厚さ10cm以上の空洞が検知できるもの。」
歩道部は探査幅が1.0m程度になるほかは同じ条件です。ここから読み取るべきことは3つあります。
| 読み取れること | 内容 |
|---|---|
| 深さの限界 | 探査深度は1.5m程度。これより深い空洞は、この仕様の機器では想定されていない |
| 大きさの下限 | 縦50cm×横50cm×厚さ10cm以上。これ未満の空洞を「無い」とは言えない |
| 1回で見る幅 | 車道部で2.0m程度。車線をまたぐ範囲を見るには複数回の走行が要る |
逆に、この仕様書の例には走行速度が書かれていません。公的な資料を見ても、九州地方整備局 九州技術事務所は「レーダーを搭載した空洞探査車は最高速度60km/hで道路を走行しながら調査することができます。」とし、関東地方整備局 関東技術事務所の資料は「車道部の一次調査は、道路調査車を使用し時速30~45kmで走行しながら迅速かつ広範囲に実施する。」としていて、幅があります。速度を1つの数字で仕様に書き込むと、根拠を問われたときに示せる原典がありません。性能を指定するなら深度・幅・検知寸法の3つで足ります。
なお、路面下空洞探査の技術は点検支援技術性能カタログには載っていません。カタログは橋梁とトンネルを対象にしたもので、区分にも舗装や路面下はありません。カタログの読み方は点検支援技術性能カタログとは?読み方と活用方法、掲載と使用許可の違いはNETISと性能カタログの違い。掲載は使用許可ではないで扱っています。技術選定の全体像は点検支援技術の選び方 完全ガイド:AI・ドローン・LiDARを参照してください。カタログや原則化がどの方針に属する話なのかはi-Construction 2.0に点検の話は無い。見るべきは別系統で整理しています。
直轄国道の実績が年報に載るようになった
2026年8月時点で最新の道路メンテナンス年報(令和6年度版・令和7年8月25日公表)から、路面下空洞調査の実施状況が新規項目として加わりました。報道発表資料の記述は次のとおりです。
「国土交通省が2024年度に実施した路面下空洞調査の調査延長は3,079kmであり、調査対象延長の約15%となっております。発見された空洞のうち路面陥没の可能性が高いと判定された空洞は119箇所で、すべての箇所で修繕等に着手しております。」
| 項目 | 2024年度・直轄国道 |
|---|---|
| 調査対象延長 | 20,810km |
| 調査延長 | 3,079km(約15%) |
| 確認された路面下空洞 | 4,739箇所 |
| 区分A(陥没の可能性が高い) | 119箇所(2%)/着手119箇所・完了118箇所 |
| 区分B(中程度) | 2,076箇所/優先度が高い207箇所のうち着手61箇所 |
| 区分C(低い) | 2,544箇所/優先度が高い25箇所のうち着手19箇所 |
この表から実務的に読めることが2つあります。1つは国が自分の管理する道路でも年に15%しか調査できていないこと。5年で一巡する計算です。もう1つは、空洞が見つかっても陥没の可能性が高いのは2%だということです。二次調査で削孔するかどうかの判断や、見つかった後の優先順位づけがそのまま費用に効いてきます。年報そのものの読み方は道路メンテナンス年報とは?点検・修繕データの読み方と自組織の位置づけにまとめています。
陥没は年に何件起きているのか
国土交通省道路局は、道路の陥没発生件数を管理者別に公表しています。最新は令和6年度(2024年度)で、令和8年2月18日に訂正版が出ています。
| 管理区分 | 令和6年度の陥没発生件数 |
|---|---|
| 直轄国道 | 72件 |
| 都道府県管理の道路 | 1,169件 |
| 市町村管理の道路(政令市・特別区を含む) | 8,624件 |
注意点が2つあります。まず資料には「*ポットホールは含まない」という注記があります。舗装表層の穴は別扱いということです。もう1つは、この資料に「合計」の欄はありません。管理者別にしか公表されていないため、総数として語るときは自分で足した数であることを明示する必要があります。
要因の内訳も公表されています。市町村管理の道路8,624件の内訳では、道路排水施設3,038件、下水道1,289件、河川施設421件、擁壁・ボックスカルバート231件、上水道107件と続き、要因未確定が2,185件あります。全体の4分の1が原因不明ということです。
この「原因が分からない」という状態について、国土交通省自身が資料の中ではっきり書いています。総点検実施要領(案)【舗装編】の参考資料にある路面陥没危険箇所調査の説明の冒頭です。
「道路の条件と空洞発生の因果関係は究明されていないが、以下の条件に該当する道路で空洞が起因する路面陥没の発生の可能性が高いと考えられる。なお、調査の方法については各道路管理者が適切に選択するものとする。」
そのうえで挙がっている条件は、①過去に路面陥没が発生した箇所と同じ道路構造を有する区間、②路面下に地下鉄・共同溝・洞道・地下道・地下街や上下水道・ガス・電気・電話・横断用水路等の埋設物が存在する道路、③河川・海岸など水の影響を受ける道路、の3つです。これらは「可能性が高いと考えられる」条件であって、原因の特定ではありません。調査区間を選ぶときの優先順位づけには使えますが、住民説明で原因として語れる性質のものではない、という区別が要ります。
費用はどの制度から出ているのか
最後に予算の話です。橋やトンネルの修繕でおなじみの道路メンテナンス事業補助制度は、路面下空洞調査には使えません。同制度の概要資料は対象をこう限定しています。
「対象構造物 橋梁、トンネル、道路附属物等(横断歩道橋、シェッド、大型カルバート、門型標識)」
舗装も路面下も入っていません。では実務ではどこから出ているのか。会計検査院の検査報告に経緯が書かれています。
「交付金事業においては、25年2月に貴省が主として市町村が路面陥没危険箇所調査等を実施する際の参考資料として作成した「総点検実施要領(案)【舗装編】(参考資料)」を公表したこと、平成24年度一般会計補正予算において、事前防災・減災対策等の取組を集中的に支援するために防災・安全交付金事業が創設されたことなどを契機として、多くの地方公共団体が25年度以降に調査業務を実施している。」
つまり防災・安全交付金が主な出どころです。個別補助と交付金の使い分けは道路メンテナンス事業の財源まとめ:個別補助と交付金の使い分けで整理しています。防災の観点から実施する点検との関係は道路防災点検とは?防災カルテと定期点検の違いもあわせてご覧ください。
同じ検査報告は、費用負担についての意見表示も行っています。空洞の原因が占用物件にある場合の調査費用を占用企業者にどう求めるか、という論点です。その後に指針が整備されたかどうかは、今回の調査では確認できませんでした。発注前に、自組織の占用許可条件と費用負担の取り決めがどうなっているかを確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
路面下空洞調査をやっていないと違法になりますか?
なりません。5年に1回・近接目視を定めた道路法施行規則第4条の5の6の対象は「トンネル等」で、路面下は含まれていません。舗装の点検自体は道路法施行令第35条の2第1項第二号に基づきますが、条文は「適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」とだけ定めており、頻度も方法も道路管理者の裁量です。
舗装点検要領に空洞調査の手順は載っていますか?
載っていません。要領の全51ページを機械的に数えたところ「陥没」0件・「路面下」0件・「地中レーダ」0件でした。「空洞」は2件ありますが、いずれもコンクリート舗装の目地部下の隙間についての記述です。手順と機器の性能値は、総点検実施要領(案)【舗装編】の参考資料にある特記仕様書の例のほうにあります。
どのくらいの大きさの空洞まで見つかりますか?
国土交通省の特記仕様書の例では「縦50cm×横50cm×厚さ10cm以上の空洞が検知できるもの」という性能が求められています。探査深度は1.5m程度、車道部の探査幅は2.0m程度です。これは求める性能の下限であって、これより小さい空洞や深い空洞が無いことを保証するものではありません。
探査車の走行速度は何km/hで仕様に書けばよいですか?
国土交通省の特記仕様書の例には走行速度の記載がありません。公的資料でも九州技術事務所は最高60km/h、関東技術事務所は時速30〜45kmと幅があります。原典を示せる形にするなら、速度ではなく探査深度・探査幅・検知寸法の3つで性能を指定するほうが確実です。
点検支援技術性能カタログから空洞探査の技術を選べますか?
選べません。カタログは橋梁とトンネルを対象にしたもので、舗装や路面下空洞探査の区分は設けられていません。カタログに載っていないことは、その技術が使えないという意味ではなく、カタログの対象範囲の外にあるという意味です。
調査は何年で一巡させるのが標準ですか?
標準として定められた周期はありません。参考として、直轄国道の2024年度の実績は調査対象延長20,810kmに対して調査延長3,079km(約15%)で、この水準を続ければおよそ5年で一巡する計算になります。自組織の周期を決めるときは、この実績と、過去の陥没発生箇所・埋設物の分布を突き合わせて設定することになります。
空洞が見つかったら、すぐ舗装を直す必要がありますか?
確認された空洞のすべてが緊急というわけではありません。2024年度の直轄国道の実績では、確認された4,739箇所のうち陥没の可能性が高い区分Aは119箇所で全体の2%でした。区分B・Cについては優先度の高いものから着手されており、区分Bは2,076箇所のうち優先度が高いとされた207箇所が対象になっています。
陥没の原因を住民や議会にどう説明すればよいですか?
原因を断定しない書き方が安全です。国土交通省の資料自身が「道路の条件と空洞発生の因果関係は究明されていない」と明記しており、公表されている令和6年度の要因内訳でも、市町村管理道路8,624件のうち2,185件が要因未確定です。「発生の可能性が高い条件」として、過去の陥没箇所と同じ道路構造、埋設物の存在、水の影響を挙げるのが原文に沿った説明になります。