損傷程度の評価は「a〜eの5段階」と説明されることが多く、実際に損傷程度の評価(a〜e)もそのように整理されています。ところが鋼部材の損傷を1つずつ要領で確認していくと、5段階がそろっているものはほとんどありません。腐食だけが5段階で、亀裂はa・c・eの3つ、破断にいたってはaとeの2つしかありません。

これは要領の書き落としではなく、損傷ごとに「何を測っているか」が違うことの表れです。本記事では、鋼部材の代表的な4つの損傷(腐食・亀裂・ゆるみ/脱落・破断)について、評価区分の中身と、どの損傷として扱うかの振り分けを、橋梁定期点検要領の原文にあたって整理します。

この記事の要点
  • 鋼部材の損傷でa〜eが5段階そろうのは腐食だけ。腐食は「損傷の深さ」と「損傷の面積」の2軸の組合せで区分が決まる
  • 亀裂はa・c・eの3区分。線状の亀裂だけでなく、亀裂の疑いを否定できない塗膜われもeになる
  • ゆるみ・脱落は一群あたりの本数比5%が境目。ただし一群20本未満なら1本でもe
  • 破断はaとeしかない。破断していれば程度の議論をせずeになる
  • 「板厚減少等を伴うか」で腐食と防食機能の劣化が分かれ、判断が難しい場合は腐食として扱う

鋼部材の損傷は評価の「ものさし」が1つではない

橋梁の損傷26種類のうち、鋼部材を主な対象とするのは腐食・亀裂・ゆるみ/脱落・破断・防食機能の劣化です。要領はこの5つそれぞれに「損傷程度の評価区分」の表を置いていますが、区分の数も、区分を分ける基準も、損傷ごとに異なります。

下の表は、橋梁定期点検要領(令和6年7月・国土交通省道路局国道・技術課)の損傷程度の評価区分を、鋼部材の4損傷について並べたものです。「-」は要領の表でその区分に該当する状況が定義されていないことを示します。

損傷区分を分けているもの
① 腐食ありありありありあり損傷の深さ × 損傷の面積
② 亀裂ありありあり線状かどうか・長さ・塗膜われ
③ ゆるみ・脱落ありありあり一群あたりの本数比
④ 破断ありあり破断しているかどうか

評価区分の記号は共通でも、記号が意味しているものは損傷ごとに違います。腐食のcと亀裂のcは「同じ程度」を表しているわけではありません。区分の記号だけを見て損傷どうしを横並びに比べないことが、記録を読むときの前提になります。

そもそも損傷程度の評価が何のためのものかについて、要領は冒頭で「損傷程度の評価は,性能の評価や健全性の診断の区分の記録とは異なり,橋梁各部の外観の状態を客観的に記録するものである。」と述べ、続けて「記録としての客観性を確保するために,評価では,部材等の性能や措置の必要性などの観点を入れずに,観察事実を数値区分や参考写真に適合させあてはめることが求められる。」としています。区分は「この橋は危ないか」を答えるものではなく、外から見えた事実を後から比較できる形で残すための目盛りです。

出典:国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)。本記事の区分表と引用は同要領の損傷程度の評価基準によります。自治体が管理する橋については、各道路管理者が定める要領・マニュアルが優先されます(国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係)。

腐食:深さと面積の組合せで決まる

腐食は、要領で「(塗装やメッキなどによる防食措置が施された)普通鋼材では集中的に錆が発生している状態,又は錆が極度に進行し板厚減少や断面欠損(以下「板厚減少等」という。)が生じている状態」と定義されています。耐候性鋼材の場合は、保護性錆が形成されず異常な錆が生じている場合や、板厚減少等が著しい状態を指します。

評価区分は、鋼部材の損傷では唯一、a〜eが5段階そろっています。ただし段階的に「軽い→重い」と並んでいるのではなく、2つの要因の組合せで決まる表になっています。

区分損傷の深さ損傷の面積
損傷なし

それぞれの要因の「大・小」も要領で定義されています。深さの「大」は「鋼材表面に著しい膨張が生じている,又は明らかな板厚減少等が視認できる。」、「小」は「錆は表面的であり,著しい板厚減少等は視認できない。」です。ここには注記が付いていて、錆の状態(層状、孔食など)にかかわらず、板厚減少等の有無によって評価するとされています。錆の見た目の激しさではなく、断面が痩せているかどうかが判断の軸です。

面積の「大」は「着目部分の全体に錆が生じている,又は着目部分に拡がりのある発錆箇所が複数ある。」、「小」は「損傷箇所の面積が小さく局部的である。」です。ここでいう全体とは評価単位である当該要素の全体を指し、要領は「主桁の場合,端部から第一横構まで等」を例として挙げています。そして大小の区分の閾値の目安は50%と明記されています。

腐食しやすい箇所として要領が挙げているのは、漏水の多い桁端部、水平材上面など滞水しやすい箇所、支承部周辺、通気性・排水性の悪い連結部、泥やほこりの堆積しやすい下フランジの上面、溶接部です。加えて、鋼トラス橋・鋼アーチ橋の主構部材が床版や地覆のコンクリートに埋め込まれた構造では、鋼材とコンクリートの境界部で滞水が生じやすく、局部的に著しく腐食が進行することがあるとして注意を促しています。

亀裂:3mmと塗膜われが判断の分かれ目

亀裂は「鋼材に生じた亀裂」で、応力集中が生じやすい部材の断面急変部や溶接接合部などに現れることが多いとされます。要領は、亀裂が鋼材内部に生じる場合もあり外観性状からだけでは検出不可能な場合があること、大半は極めて小さく、溶接線近傍では表面きずや錆等による凹凸の陰影と見分けがつきにくいことを明記しています。

評価区分はa・c・eの3つだけです。

区分一般的状況
損傷なし
断面急変部,溶接接合部などに塗膜われが確認できる。亀裂が生じているものの,線状でないか,線状であってもその長さが極めて短く,更に数が少ない場合。
線状の亀裂が生じている,又は直下に亀裂が生じている疑いを否定できない塗膜われが生じている。

この表には2つの注記が付きます。1つは「塗膜われとは,鋼材の亀裂が疑わしいものをいう。」、もう1つは「長さが極めて短いとは,3mm 未満を一つの判断材料とする。」です。3mmという具体的な数値が示されているのはここだけで、しかも「一つの判断材料とする」という書き方であり、3mmを超えたら自動的にeになるという読み方ではありません。

実務で効いてくるのは塗膜われの扱いです。要領は「断面急変部,溶接接合部などに塗膜われが確認され,直下の鋼材に亀裂が生じている疑いを否定できない場合には,鋼材の亀裂を直接確認していなくても,「防食機能の劣化」以外に「亀裂」としても扱う。」としています。つまり、塗装をはがして亀裂そのものを確認しなくても、位置と状況によっては亀裂として記録することになります。塗膜のわれを塗装の劣化としてだけ処理してしまうと、この記録が残りません。防食機能の劣化との切り分けは、鋼部材の記録で最も間違えやすい箇所の1つです。

また要領は「位置や大きさなどに関係なく鋼材表面に現れたわれは全て「亀裂」として扱う」とも定めています。原因が疲労か施工不良かは外観からは判定できないことが多いため、原因の推定を評価に混ぜず、まず「われがある」という事実として拾うのが要領の立て付けです。

ゆるみ・脱落:一群あたり5%と20本の例外

ゆるみ・脱落は「ボルトにゆるみが生じたり,ナットやボルトが脱落している状態」で、ボルトが折損しているものも含みます。普通ボルト、高力ボルト、リベット等の種類や使用部位に関係なく、すべてのボルト・リベットが対象です。

評価区分はa・c・eの3つで、境目は本数の比率です。

区分一般的状況
損傷なし
ボルトにゆるみや脱落が生じており,その数が少ない。(一群あたり本数の5%未満である。)
ボルトにゆるみや脱落が生じており,その数が多い。(一群あたり本数の5%以上である。)

ここで注意したいのが「一群」の取り方です。要領は「一群とは,例えば,主桁の連結部においては,下フランジの連結板,ウェブの連結板,上フランジの連結板のそれぞれをいう。」としています。連結部をまとめて1つの母数にするのではなく、連結板ごとに数えます。同じ本数のゆるみでも、母数の取り方で5%を超えるかどうかが変わるため、数え方をそろえておく必要があります。

もう1つの注記が実務では効きます。「格点等,一群あたりのボルト本数が20本未満の場合は,1本でも該当すれば,「e」と評価する。」——母数が小さい箇所では比率の計算をせず、1本でも見つかればeです。トラスの格点のようにボルト本数の少ない箇所を「1本だけだから軽微」と処理してしまうと、要領の意図と逆の記録になります。

破断:aとeしかない理由

破断は「鋼部材が完全に破断しているか,破断しているとみなせる程度に断裂している状態」です。評価区分はaとeだけで、b・c・dはいずれも「-」です。

これは、破断に程度の議論が成立しないためです。腐食のように深さと面積で段階を刻むことも、亀裂のように長さで刻むこともできません。断裂しているかしていないかの二値であり、断裂していればeです。評価区分がaとeしかない損傷は鋼部材では破断だけですが、支承部の機能障害も同じ構造をしています。

要領は破断が多く見られる箇所として、床組部材や対傾構・横構などの2次部材、あるいは高欄、ガードレール、添架物やその取り付け部材を挙げています。主構造よりも副次的な部材に出やすい損傷です。

この記事の結論

鋼部材の評価区分は、記号がそろっているだけで中身は損傷ごとに別のものさしです。腐食は深さと面積、亀裂は形状と長さ、ゆるみ・脱落は本数比、破断は有無。記号を機械的に当てはめるのではなく、その損傷が何を測っているのかを押さえたうえで区分を選ぶことが、次回点検で比較できる記録になります。

どの損傷として記録するかの振り分け

鋼部材では、同じ現象がどの損傷に該当するかで迷う場面が多くあります。要領の「他の損傷との関係」に書かれている振り分けを整理すると次のとおりです。

現場で見えているものどう扱うか根拠
錆が出ているが板厚減少等は伴わない防食機能の劣化板厚減少等を伴う錆を腐食、伴わないと見なせる軽微な錆を防食機能の劣化
板厚減少等の有無が判断しづらい腐食「判断が難しい場合には,「腐食」として扱う。」
腐食を記録するとき防食機能の損傷も同時に記録腐食箇所では防食機能にも損傷が生じているのが一般的
亀裂が進展して部材が切断された破断(断裂部以外にも損傷があればそれぞれ)われや亀裂の進展による切断は破断として扱う
ボルトやリベットが破断・折損しているゆるみ・脱落(破断ではない)ボルト・リベットの破断、折損はゆるみ・脱落として扱う
支承ローラーが脱落している支承の機能障害支承ローラーの脱落はゆるみ・脱落ではない
支承アンカーボルトが損傷しているゆるみ・脱落かつ支承の機能障害アンカーボルト・伸縮装置の取付けボルトも対象
鋼コンクリート合成床版の底鋼板鋼部材として扱うI型鋼格子床版の底型枠も同様

耐候性鋼材にはさらに固有の扱いがあります。板厚減少を伴う異常錆が生じた場合は腐食、粗い錆やウロコ状の錆は防食機能の劣化です。防食機能の劣化の分類3(耐候性鋼材)には、他の分類には無いb区分が置かれており、「損傷なし。ただし,保護性錆は生成されていない状態である。」と定義されています。保護性錆が形成される途中なのか、形成されない状態なのかを記録上で区別するために設けられた区分です。なお、溶融亜鉛めっき表面に生じる白錆は損傷として扱いません。

現場で押さえる順番

鋼部材の損傷を記録するときに、迷いが出やすい順に整理すると次のようになります。

段階確認すること理由
事前対象部材が塗装か、めっき・金属溶射か、耐候性鋼材か防食機能の劣化の分類1〜3で評価表が変わる
現地錆の見た目ではなく板厚減少等の有無を見る腐食と防食機能の劣化の分岐点。錆の状態(層状・孔食)は問わない
現地腐食片や錆が固着して深さが分からない箇所はかき落としてから見る要領は腐食深さが把握できない場合の対応として明記している
現地腐食のある溶接部近傍は亀裂を疑って見る「溶接部近傍では亀裂が見落とされることが多い」
現地塗膜われは、亀裂の疑いを否定できるかどうかまで見る否定できなければ亀裂としても記録する
記録ボルトは連結板ごとに母数を数える。20本未満なら1本でもe一群の取り方で区分が変わる
記録区分の記号だけでなく、根拠となった大小の判断も残す次回点検で進行を比較できるようにするため

評価区分そのものは健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは別の階層にあり、損傷程度の評価がそのまま健全性になるわけではありません。記録した損傷は点検調書損傷図(その5)に落とし、対策区分の判断につないでいくことになります。制度全体の位置づけは道路橋定期点検 完全ガイドにまとめています。

補足:本記事の区分表は橋梁定期点検要領(令和6年7月)に基づいています。要領は改定されるため、実務では必ず最新版の原典と、管理者が定める要領・マニュアルをご確認ください。技術的助言としての道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)とは文書が別であることにも注意が必要です。

よくある質問

鋼部材の損傷でa〜eが5段階そろっているのはどれですか?

腐食だけです。亀裂とゆるみ・脱落はa・c・eの3区分、破断はaとeの2区分で、要領の表ではb・dが「-」になっています。防食機能の劣化は分類1(塗装)と分類3(耐候性鋼材)が5区分、分類2(めっき、金属溶射)はa・c・eの3区分です。

腐食のdとcはどちらが重いのですか?

要領の腐食は段階ではなく組合せの表です。cは深さが小で面積が大、dは深さが大で面積が小と定義されており、どちらが重いかを一般論で決めることはできません。深さと面積のどちらが大きいのかが記号から読み取れる形になっています。

塗膜がわれているだけで、亀裂は見えません。どう記録しますか?

断面急変部や溶接接合部などで、直下の鋼材に亀裂が生じている疑いを否定できない場合は、亀裂を直接確認していなくても防食機能の劣化に加えて亀裂としても扱う、と要領に定められています。位置と状況を確認したうえで判断してください。

3mm未満の亀裂は必ずcになりますか?

要領は「長さが極めて短いとは,3mm 未満を一つの判断材料とする。」と書いており、3mmは判断材料の1つという位置づけです。cの条件は線状でないか、線状でも極めて短く更に数が少ない場合であり、長さだけで自動的に決まるものではありません。

ボルトのゆるみが1本だけでもeになることがありますか?

あります。格点等で一群あたりのボルト本数が20本未満の場合は、1本でも該当すればeと評価すると要領に明記されています。20本以上の一群では5%が境目です。

ボルトが折れている場合は破断ですか?

ボルトやリベットの破断・折損は、破断ではなくゆるみ・脱落として扱います。破断として扱うのは鋼部材が完全に破断しているか、破断しているとみなせる程度に断裂している状態です。

耐候性鋼材の錆はすべて損傷になりますか?

なりません。保護性錆は損傷なし(区分a)です。板厚減少を伴う異常錆は腐食、粗い錆やウロコ状の錆は防食機能の劣化として扱います。保護性錆が生成されていない状態には区分bが用意されています。