点検調書のデータ記録様式には、損傷の種類・損傷程度の評価区分とは別に「損傷パターン」という欄があります。ここに何を書くのかが分からず空欄のまま提出され、発注者から差し戻される——という相談を受けることがあります。
この欄は、すべての損傷に付くものではありません。橋梁定期点検要領(平成31年3月・国土交通省道路局国道・技術課)の付録-2「損傷程度の評価要領」を通して見ると、「損傷パターンの区分」という項が置かれているのは6種類の損傷だけです。この記事では、どの損傷に番号が要るのか、番号は何を表しているのか、表に無い形が出たらどうするのかを、要領の原文で整理します。
- パターン番号を記録するのは②亀裂・⑥ひびわれ・⑪床版ひびわれ・⑮舗装の異常(鋼床版の場合)・⑯支承部の機能障害・⑱定着部の異常の6種類
- ひびわれのパターンは形ではなく位置で引く。表は上部構造(RC・PC共通)/上部構造(PCのみ)/下部構造の3つ
- 同一要素に複数当てはまるときは全てのパターン番号を記録する
- 亀裂パターン番号は最高4桁。前1桁が溶接箇所名、後1〜3桁が部位や形状
- 亀裂は「例示のない損傷については, 独自に設定してもよい。」とされている
パターン番号が要る損傷は6種類だけ
付録-2は損傷26種類のそれぞれについて、(1) 損傷程度の評価区分、(2) その他の記録、という構成で書かれています。この(2)の位置に「損傷パターンの区分」が差し込まれている損傷が6つあります。
| 損傷 | パターンの内容 |
|---|---|
| ②亀裂 | 損傷記号(付録-3の凡例)+亀裂パターン番号(最高4桁) |
| ⑥ひびわれ | 位置別の表から番号を選ぶ(上部構造RC・PC共通/上部構造PCのみ/下部構造) |
| ⑪床版ひびわれ | 1=1方向、2=2方向 |
| ⑮舗装の異常 | 鋼床版の場合のみ。1〜5の5パターン |
| ⑯支承部の機能障害 | 1〜9の9パターン |
| ⑱定着部の異常 | 1〜7と9(8は無い) |
逆に言えば、①腐食・⑦剥離鉄筋露出・⑫うき・㉖洗掘などにはパターン番号の欄がありません。これらは損傷程度の評価区分と、スケッチ・写真・主要寸法による「その他の記録」で表します。損傷図(その5)の凡例を作るときも、この6種類だけ番号列が要る、と押さえておくと様式の設計が楽になります。
ひびわれは「位置」で表を引く
⑥ひびわれのパターン表は、ひびわれの形状ではなく橋のどこに出ているかから引く作りになっています。表はa)上部構造(RC、PC共通)、b)上部構造(PCのみ)、c)下部構造の3つに分かれ、それぞれの表の左列が位置です。
a)上部構造(RC、PC共通)では、位置が「支間中央部」「支間1/4部」「支点部」「その他」「支間1/4部又は支点部」「支間全体」「横桁」に分かれ、たとえば次のように定義されています。
- 支間中央部:①主桁直角方向の桁下面又は側面の鉛直ひびわれ/②主桁下面縦方向ひびわれ
- 支間1/4部:③主桁直角方向の桁下面又は側面の鉛直又は斜めひびわれ
- 支点部:④支点付近の腹部に斜めに発生しているひびわれ/⑤支承上の桁下面又は側面に鉛直に発生しているひびわれ/⑥支承上の桁側面に斜めに発生しているひびわれ/⑦ゲルバー部のひびわれ/⑧連続桁中間支点部の上側の鉛直ひびわれ
- その他:⑨亀甲状,くもの巣状のひびわれ/⑩桁の腹部に規則的な間隔で鉛直方向に発生しているひびわれ/⑪ウェブと上フランジの接合点付近の水平方向のひびわれ/⑫桁全体に発生している斜め45゜方向のひびわれ
- 支間全体:㉓支間全体で桁腹部に発生している水平方向ひびわれ/横桁:㉔横桁部のひびわれ
b)上部構造(PCのみ)は、PC構造に固有のひびわれです。⑬変断面桁の下フランジのPC鋼材に沿ったひびわれ、⑭PC連続中間支点の変局点付近のPC鋼材に沿ったひびわれ、⑮同じ位置でPC鋼材に直交したひびわれ、⑯PC鋼材定着部又は偏向部付近のひびわれ、⑰PC鋼材が集中している付近のひびわれ、⑳シースに沿って生じるひびわれ、㉖セグメント接合部のすき・離れ、㉗断面急変部のひびわれ などが並びます。
c)下部構造は、位置が「橋台全面」「支承下部」「T型橋脚」「ラーメン橋脚」に分かれます。①規則性のある鉛直又は斜めひびわれ、②打ち継ぎ目に鉛直な又は斜めのひびわれ、③鉄筋段落とし付近のひびわれ、④亀甲状,くもの巣状のひびわれ、⑥張り出し部の付け根上側のひびわれ、⑦橋脚中心上部の鉛直ひびわれ、⑨柱上下端・ハンチ全周にわたるひびわれ、といった具合です。同じ「亀甲状,くもの巣状のひびわれ」でも、橋台全面・T型橋脚・ラーメン橋脚のいずれでも④として現れるため、番号だけでなく部材とセットで読む必要があります。
なお、パターン番号はひびわれの幅や間隔とは無関係です。幅・間隔は損傷程度の評価区分(a〜e)の側で扱います。判定に使う幅の基準はひび割れ幅の評価基準で整理しています。
床版ひびわれは2つだけ
⑪床版ひびわれの損傷パターンは、「1 1 方向」「2 2方向」の2つしかありません。方向だけを記録します。
一方、損傷程度の評価区分のほうは複雑で、ひびわれの性状(1方向か2方向か、幅、格子の大きさ、部分的な角落ちの有無)と漏水・遊離石灰の有無の組合せでa〜eが決まります。パターン番号は「どんな形か」、評価区分は「どこまで進んでいるか」で、別の情報です。詳しくは床版ひびわれの評価をご覧ください。
亀裂パターン番号は4桁に意味がある
②亀裂だけは、番号の付け方そのものが定義されています。要領は損傷記号について「損傷記号は,付録-3に例示された凡例によることとし,例示のない損傷パターン の扱いは,別途検討する。」とし、続けて亀裂パターン番号を次のように定めています。
「亀裂パターン番号は, 最高4 桁を標準とし, 例示のない損傷については, 独自に設定してもよい。」「パターン番号の前1桁が溶接箇所名を示し,後1~3桁が部位や形状を示す。」
要領が挙げている例はC113で、Cが横桁取付部、1が中間部、1が横桁貫通部、3がスカーラップ形状に対応します。つまり番号を見れば、その亀裂がどの溶接部の、どの位置の、どんな形状かが一意に読み取れる設計です。単なる連番ではないので、勝手に振り直すと意味が壊れます。
鋼部材の亀裂は進行が早く、疲労によって致命的な結果につながり得ます。損傷そのものの見方は鋼部材の個別損傷で扱っています。
支承部の9パターンと、定着部の欠番
⑯支承部の機能障害は、損傷程度の評価区分がaとeの二択(b・c・dがいずれも「-」)である一方、パターン番号は9つ用意されています。程度で表せないぶんを、パターンで表す構造です。
| 番号 | 損傷 |
|---|---|
| 1 | 沓座モルタル又は台座コンクリートの欠落 |
| 2 | 著しい腐食 |
| 3 | 支承ローラーの脱落 |
| 4 | ゴム支承の破損・断裂・異常な変形 |
| 5 | アンカーボルト又はセットボルトの緩み又は破断 |
| 6 | 傾斜,ずれ,離れ |
| 7 | 大量の土砂堆積 |
| 8 | ダンパー機能の喪失 |
| 9 | その他 |
支承部については、要領が扱いの重なりについても注意を置いています。「支承部の土砂堆積は,原則,「土砂詰まり」として扱うものの,本損傷に該当する場合は,本損傷でも扱う。」つまりパターン7を使う場面では、㉔土砂詰まり側にも記録が残ることがあります。支承部の見方は支承部の機能障害で詳しく扱っています。
⑱定着部の異常のパターンは「1 ひびわれ/2 漏水・遊離石灰/3 剥離・鉄筋露出/4 うき/5 腐食/6 保護管の損傷/7 PC鋼材の抜け出し/9 その他」です。8番がありません。「その他」を9に置く並べ方は⑯支承部と共通していて、末尾を9で固定する設計だと分かります。連番になっていないことを知らずに「8が抜けている=転記ミス」と判断しないよう注意してください。
⑮舗装の異常のパターンは、鋼床版の場合のみ記録します。「1 蜘蛛の巣状(又は細かい格子状)のひびわれ/2 舗装の局部的な陥没/3 車線方向に一致する縦に連続的に伸びるひびわれ/4 車線方向に規則的に現れる局部的なひびわれ/5 著しい轍掘れ及びポットホールの発生(補修痕を含む。)」の5つです。コンクリート床版上の舗装ではパターン番号を書きません。
複数該当と、表に無い形の扱い
実務で迷うのは「1つに絞れない」場面ですが、要領の答えは全部書くです。⑥ひびわれには「同一要素に複数の損傷パターンがある場合は,全てのひびわれパターン番号を記録する。」とあり、⑮舗装の異常・⑯支承部の機能障害・⑱定着部の異常にも「同一要素に複数の損傷パターンがある場合は,全てのパターン番号を記録する。」と同じ趣旨の一文が置かれています。
表に載っていない形が出た場合は、損傷によって扱いが違います。②亀裂については「例示のない損傷については, 独自に設定してもよい。」と明示されている一方、損傷記号は「例示のない損傷パターン の扱いは,別途検討する。」とされています。独自に設定するときは、その定義が読み手に伝わるように、凡例と所見の両方に残すのが安全です。写真台帳の該当写真と番号を対応させておけば、次回点検の担当者が判断を追えます。
最後に、パターン番号は損傷程度の評価(a〜e)と混ぜないでください。要領は付録-2の冒頭で、損傷程度の評価は「橋梁各部の外観の状態を客観的かつ記号化して記録するもの」であり「損傷程度の評価ではこれらの推定・判断を含むこと無く,外観として観察された事実が記録されることが求められる」としています。パターン番号も同じ性格の記録で、どちらも判断ではなく観察の記録です。判断の側は対策区分が受け持ちます。
よくある質問
損傷パターン番号は26種類すべてに付けるのですか。
付けません。橋梁定期点検要領(平成31年3月・国土交通省道路局国道・技術課)の付録-2「損傷程度の評価要領」で「損傷パターンの区分」の項が置かれているのは、②亀裂、⑥ひびわれ、⑪床版ひびわれ、⑮舗装の異常(鋼床版の場合)、⑯支承部の機能障害、⑱定着部の異常の6種類です。ほかの損傷は損傷程度の評価区分と「その他の記録」(スケッチ・写真・主要寸法)だけで、番号の欄はありません。
ひびわれのパターン番号はどう選ぶのですか。
ひびわれの形ではなく、まず「どこに出ているか」で表を引きます。要領の表は上部構造(RC・PC共通)、上部構造(PCのみ)、下部構造の3つに分かれ、それぞれの表の中が支間中央部・支間1/4部・支点部・その他といった位置で区切られています。たとえば上部構造の①は「支間中央部、主桁直角方向の桁下面又は側面の鉛直ひびわれ」で、位置と方向の両方が番号の定義に入っています。
同じ場所に複数のひびわれパターンが当てはまるときはどうしますか。
全部書きます。要領は⑥ひびわれについて「同一要素に複数の損傷パターンがある場合は,全てのひびわれパターン番号を記録する」としています。⑮舗装の異常、⑯支承部の機能障害、⑱定着部の異常についても同様に「同一要素に複数の損傷パターンがある場合は,全てのパターン番号を記録する」と書かれています。1つに絞る必要はありません。
亀裂パターン番号の桁にはどんな意味がありますか。
要領は「亀裂パターン番号は, 最高4 桁を標準とし」「パターン番号の前1桁が溶接箇所名を示し,後1~3桁が部位や形状を示す。」としています。要領が挙げている例はC113で、Cが横桁取付部、1が中間部、1が横桁貫通部、3がスカーラップ形状に対応します。番号を見れば、どの溶接部のどの形状かが読み取れる構造になっています。
表に載っていない形の損傷はどうすればよいですか。
亀裂については、要領が「例示のない損傷については, 独自に設定してもよい。」と明記しています。損傷記号については「付録-3に例示された凡例によることとし,例示のない損傷パターンの扱いは,別途検討する。」とされています。独自に設定した場合は、その定義が調書の読み手に伝わるよう凡例と所見に残しておく必要があります。
床版ひびわれのパターンは何種類ありますか。
2種類です。要領の⑪床版ひびわれの損傷パターンは「1 1 方向」「2 2方向」だけで、ひびわれの方向を記録します。損傷程度の評価区分のほうは、ひびわれの性状(1方向か2方向か、幅、格子の大きさ)と漏水・遊離石灰の有無の組合せでa〜eが決まる作りになっており、パターン番号と評価区分は別の情報です。