近接目視で見た範囲では、ひび割れが亀甲状に出ていることは分かる。ただ、それがアルカリ骨材反応なのか乾燥収縮なのかは、目で見ただけでは決められない。原因が違えば、次にやるべきことも変わります。

こういうときに要領が用意している仕組みが「詳細調査又は追跡調査の必要性の判定」で、記号でいうとS1とS2です。ところが、この2つの記号は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)対策区分ほど知られていません。そのせいで「原因が分からないから判定を保留にしたい」「補修数量を出すために調査したいのでS1を立てたい」といった、要領が明確に否定している運用が現場で出てきます。

この記事では、令和6年7月の橋梁定期点検要領の原文をもとに、詳細調査が制度上どういう位置づけなのか、S1とS2をどう使い分けるのか、そしてやってはいけないと明記されている使い方を整理します。

この記事の要点
  • 詳細調査は「点検の種類」ではなく、定期点検の結果として選ぶ措置の内容のひとつ。必要性の判定に付す記号がS1(追跡調査はS2)
  • 判断基準は「分からないから」ではなく「調査をすることで結論が変わり得るか」。要領はこの一点で書かれている
  • 補修設計の数量を出すためだけのS1判定は「行ってはならない」と明記されている。健全性の診断の保留も認められていない

詳細調査は点検の種類ではない

まず整理しておきたいのが、詳細調査は点検の種類ではないということです。令和6年7月の橋梁定期点検要領が定義する点検の種類は、定期点検のほかに次の5つです。

種類要領の定義(要約)
通常点検道路の巡回等で行う日常的な点検
中間点検「定期点検を補うために,定期点検の中間年に実施する点検をいう。」
中間年毎のコンクリート部材の第三者被害予防措置落下の可能性のあるうき・剥離への予防措置
特定点検「塩害等の特定の事象を対象に,予め頻度を定めて実施する点検をいう。」
異常時点検「地震,台風,集中豪雨,豪雪等の災害や大きな事故が発生した場合,橋梁に予期していなかった異常が発見された場合などに行う点検をいう。」

この一覧に詳細調査は入っていません。定期点検以外の点検の全体像は定期点検だけではない橋梁点検で扱っています。

では詳細調査はどこに出てくるかというと、措置の内容の検討のところです。要領は次のように並べています。

措置の内容の検討(令和6年7月要領・第2章6.1(4)・原文)
「(4) (1)から(3)による他,橋の各部の措置の内容の検討として,次回点検までを念頭に,以下の措置の内容のいずれか又は組合せについて検討する。
 1) 緊急対応
 2) 維持工事等での対応
 3) 詳細調査又は追跡調査

つまり、点検を終えたあとに「緊急対応するか」「維持工事でやるか」「調査するか」を並べて選ぶ、その3番目が詳細調査です。定期点検の判定結果としては、健全性の診断の区分(Ⅰ〜Ⅳ)と並んで、E(緊急対応)・M(維持工事等での対応)・S1(詳細調査)・S2(追跡調査)が同じ階層に置かれています。

S1とS2の定義

要領の該当条文はそのまま読むのが早いので、原文を引きます。

詳細調査又は追跡調査の必要性の判定(令和6年7月要領・第1章5.4・原文)
「(1) 調査を行うことで損傷原因や規模,進行の可能性の見立て又は橋の性能の推定や措置の必要性の判定が変わり得る場合には,部材等の役割及び部材群や橋の性能に与える影響の度合いも考慮して,詳細調査又は追跡調査の必要性を判定する。
(2) (1)により詳細調査又は追跡調査が必要となる場合は,表-5.4.1に掲げる「調査対応の必要性の判定区分」のいずれに該当するのかを決定する。」
区分判定の基本的な考え方(原文)
S1「原因の確定などの詳細な調査を行うことで,橋の性能の推定や部材群毎の措置の内容や必要性が変わり得ると判断できる状態。」
S2「詳細調査を行う必要はないが,異常の進行の可能性の見立てについて特に観察を継続することで,橋の性能の推定や措置の内容や必要性が変わり得ると判断できる状態。」

要領は例示も添えています。S1の例が「コンクリート表面に亀甲状のひびわれが生じていてアルカリ骨材反応の疑いがある場合」S2の例が「乾燥収縮によるコンクリート表面のひびわれの進展を見極める必要がある場合」です。

この2つを並べると、分かれ目がはっきりします。アルカリ骨材反応は原因を確定しないと打つ手が決まらない。乾燥収縮は原因が既に確定していて、あとは進むかどうかを見ればよい。だから前者はS1、後者はS2です。要領も同じ趣旨を明記しています。

S2に落とせる場合(同・解説・原文)
「また,例えば乾燥収縮によるコンクリート表面のひびわれなど,損傷原因は確定できるものの進行可能性を見極めたうえで措置の必要性を評価するのが妥当と判断される場合もあり,この場合は詳細調査を省略して追跡調査のみ行うことで十分である。この場合の判定の記録として,「S2」を設定している。」

ひび割れの幅そのものの評価基準は橋梁のひび割れ幅の評価基準に、測定の実務はひび割れの測定方法にまとめています。

判断基準は「結論が変わり得るか」

条文をもう一度見ると、S1・S2の判断基準は「調査を行うことで(中略)判定が変わり得る場合」と書かれています。「分からない場合」ではありません。この違いは実務でそのまま効きます。

現場でのつぶやき要領に照らした判断
原因が特定できないのでS1にしたい原因が分かれば措置が変わるならS1。原因が何であれ措置が同じならS1にする必要はない
高欄のボルトが緩んでいるが理由が不明要領は「高欄のボルトのゆるみのように原因が不明であっても必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる」としている。締め直せば済むならMで足りる
進行するか分からないので様子を見たい原因が確定しているならS2。詳細調査は不要
初回点検で損傷が出た要領は原因調査を促している(次の引用)
初回点検で損傷が見つかった場合(同・解説・原文)
「なお,初回点検で発見された損傷については,供用開始後2年程度で損傷が発生するというのは正常とは考え難いため,その原因を調査して適切な措置を講じることが長寿命化や,ライフサイクルコストの縮減に繋がると考えられることから,判定において考慮する。」

新しい橋で損傷が出ること自体が異常だという前提に立った規定です。同じ損傷でも、供用から40年の橋と2年の橋では判定の重みが違うということになります。

やってはいけないと書かれている使い方

要領には、めずらしく「してはならない」という強い禁止の書き方が出てくる箇所があります。詳細調査はその一つです。

禁止規定(令和6年7月要領・第1章5.4 解説・原文)
「実際に補修工事を行うに際しては,工事内容と工事規模(数量)を決定するための調査及び補修設計が行われるのが一般的であるが,補修設計の実施を目的として工事規模のみを明確にするために詳細調査の必要があるとの判定は行ってはならない。」

これは実務でよくある発想を名指しで止めています。「どうせ補修するのだから、数量を出すための調査もS1で立てておこう」という運用です。要領がこれを禁じている理由は、S1が「性能の推定や措置の必要性が変わり得る」という情報のための判定だからです。補修することが既に決まっている案件で数量を測る作業は、点検の判定ではなく補修設計の一部として別に発注するべきものになります。

この線引きは、点検業務の発注区分にも関わります。総合評価落札方式を含む発注の考え方は点検業務を価格だけで発注しないで扱っています。

健全性の診断は保留できない

「詳細調査の結果が出るまで、健全性の診断の区分を出さずに待ちたい」という質問もよく出ます。答えは保留できないです。要領は、まず区分を確定させ、調査の結果が出た時点で再判定するという順序を明記しています。

再判定(令和6年7月要領・第1章2. 解説・原文)
「5.4で規定する詳細調査及び追跡調査の必要性があると判定した場合,その詳細調査を実施した結果を踏まえて,又は,その追跡調査を実施して損傷の進行状況を監視した場合はその監視の結果を踏まえて,健全性の診断の区分の再判定を行う。」
見直しと記録の更新(同・第1章6. 解説・原文)
「定期点検の結果,一旦「健全性の診断の区分」を確定させても,その後に,詳細調査などで情報が追加や更新されたり,災害等による被害等によって状態が変化したりした結果,その道路橋に対する次回点検までの措置の考え方が変更された場合には,その時点で,速やかに「健全性の診断の区分」も見直しを行い,関係する記録様式の記録内容も更新する。」

なお、地方公共団体向けの「技術的助言の解説・運用標準」(令和6年3月)にも同じ趣旨の記述がありますが、末尾が「更新することが望ましい」となっており、国管理施設向けより弱い表現です。どちらの文書に従う立場かで語尾が変わるので、自治体マニュアルを作る際は元をどちらに取ったかを意識しておく必要があります。両者の関係は国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係で整理しています。

情報が足りない状態でも推定は行う、というのが要領の一貫した立場です。国土交通省 国道・技術課と国土技術政策総合研究所による「『道路橋定期点検要領(令和6年3月)』運用の手引き」(2025年4月)は、この点をさらに踏み込んで書いています。

運用の手引き(2025年4月・原文)
「法定点検では、第一に近接目視を基本として外観性状、打音、触診などの簡易な検査機器等による状態の把握を行うことが基本として想定されており、高度な非破壊検査や詳細調査までは行えないことが多い。(中略)その場合にも、特定事象の該当の有無については、得られた情報だけで推定することが重要である。ただし、どのような情報から推定を行ったのか、あるいは本来必要とされるどのような情報がないなかでの推定なのか、といった前提条件が残されていないと評価結果が正しく理解できない。」

ここでいう特定事象については点検要領の「特定事象」とは?で扱っています。

どこに記録するのか

記録先は、従う文書によって様式体系が違います。

立場様式詳細調査に関する記録先
地方公共団体等(技術的助言の解説・運用標準)様式1・様式2・様式3の3種様式3の「所見」欄。S1・S2の欄そのものは無い
国管理施設(令和6年7月 橋梁定期点検要領)点検記録様式(その1)〜(その11)ほか様式(その1)の「対応や調査の必要性」欄で有無を記入し、内容と理由を補足欄・所見欄に記載

地方公共団体向けの様式3の記入の手引きには、所見に何を書くかがこう書かれています。

様式3「所見」の記録(解説・運用標準・令和6年3月・原文)
「・状態の把握により得た情報の精度に基づく性能の見立ての見込み違いの可能性など,詳細調査や追跡調査の必要性の有無

国管理施設向けでは、様式の側に判定区分の記入欄が用意されています。

点検記録様式の記入要領(令和6年7月要領・付録1・原文)
「・対応や調査の必要性
 維持工事等での対応や詳細調査や追跡調査等の必要性の「有・無」を記入する。各判定区分(E,M,S1,S2)の判定の基本的な考え方は,第1章5.2から5.4によるものとする。なお,必要性があると判定し「有」を記録した場合は,その内容と理由を,「定期点検総合結果に関する補足」の欄に記載するとよい。」

ここで押さえておきたいのは、これらがいずれも「必要性」と「その内容・理由」を書く欄であって、「調査の結果」を書き込む専用欄ではないことです。要領の様式には詳細調査の結果を記入する欄が用意されていません。結果は前節の再判定を通じて、健全性の診断の区分と関係する記録様式の内容を更新する形で反映されます。調書全体の組み立ては橋梁点検調書の構成と書き方を参照してください。

また、過去に行った詳細調査は次回点検の実施計画で参照すべき資料として要領に列挙されています。「・定期点検 ・異常時点検(地震等の被災後の点検や調査) ・特定点検(塩害,亀裂,ASR,洗掘等) ・その他追加で行われた詳細調査等」という並びです。調査をやりっぱなしにせず、次の点検に渡すところまでが運用だということになります。

手法のリストは要領にない

最後に、実務でつまずきやすい点をひとつ。要領には「詳細調査の手法一覧」がありません。令和6年7月要領の全589ページを通しても、コア採取・鉄筋探査・弾性波・自然電位・載荷試験といった語を詳細調査の手法として列挙した箇所は出てきません。

要領が手法に触れているのは、あくまで個別の部位についての注意書きの中です。たとえば次のような形です。

部位要領の記述
ケーブル内部「非破壊検査技術で適用可能な技術がないか確認するとともに,必要に応じてラッピングワイヤの一部撤去やワイヤにくさびを打ち込んで内部を直接目視により確認することも検討するのが良い。」
ハンガー内部「深刻な腐食などの異常が疑われる場合には,詳細調査の実施についても検討が必要である。」
横締めPC鋼材「近接目視による変状の把握には限界がある。(中略)必要に応じて詳細調査を行うことを検討しなければならない。」
鋼部材の亀裂「塗膜や錆の除去,磁粉探傷試験や超音波探傷試験などの非破壊検査などによる詳細な状態の把握が必要な場合もある。」

横締めPC鋼材については、要領自身が限界を認めています。「横締めPC鋼材やグラウトの状態を把握するための非破壊による調査方法は様々提案されているが、性能の評価法や性能の比較法は未だ確立されていないと言える」という記述です。手法が確立していない領域があることを、要領が明示しているわけです。

費用面でも、道路局が公開している定期点検業務の積算資料(暫定版)の業務内容は計画準備・定期点検・報告書作成・打合せ協議の4項目で、詳細調査の歩掛は含まれていません。S1と判定した橋の詳細調査は、定期点検業務とは別に発注する形になります。点検費用の全体像は橋梁点検の費用相場と内訳で扱っています。

S2(追跡調査)を選んだ場合の観察の設計については、措置としての監視の考え方をまとめた措置としての「監視」とは?モニタリング計画の立て方が参考になります。制度全体の位置づけは道路橋定期点検 完全ガイド令和6年3月改定の変更点まとめにまとめています。

出典:国土交通省 道路局「道路橋定期点検要領(技術的助言)」(令和6年3月)/同「技術的助言の解説・運用標準」(令和6年3月)/同 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)/国土交通省 道路局 国道・技術課、国土技術政策総合研究所「『道路橋定期点検要領(令和6年3月)』運用の手引き」(2025年4月)/国土交通省 道路局「道路橋定期点検業務積算資料(暫定版)」(令和7年4月)。本文中の引用は各原典の記載をそのまま示したものです。最新の要領・様式は必ず原典をご確認ください。

よくある質問

Q. 詳細調査は点検の一種ですか。
A. 違います。令和6年7月要領が定義する点検の種類は、定期点検のほかに通常点検・中間点検・中間年毎のコンクリート部材の第三者被害予防措置・特定点検・異常時点検です。詳細調査はこの一覧に入っておらず、「橋の各部の措置の内容」として緊急対応・維持工事等での対応と並べて検討される項目です。判定の記録としてはS1(詳細調査)とS2(追跡調査)が用意されています。

Q. 原因が分からないときは必ずS1にするのですか。
A. 必ずではありません。条文は「調査を行うことで損傷原因や規模,進行の可能性の見立て又は橋の性能の推定や措置の必要性の判定が変わり得る場合」と書いており、判断基準は「分からないこと」ではなく「調査で結論が変わり得ること」です。要領も「高欄のボルトのゆるみのように原因が不明であっても必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる。」としています。

Q. S1とS2はどう使い分けますか。
A. 原因を確定しないと措置が決まらないならS1、原因は確定していて進行の可能性だけを見ればよいならS2です。要領はS1の例として「コンクリート表面に亀甲状のひびわれが生じていてアルカリ骨材反応の疑いがある場合」、S2の例として「乾燥収縮によるコンクリート表面のひびわれの進展を見極める必要がある場合」を挙げています。

Q. 補修の数量を出すために詳細調査が必要です。S1でよいですか。
A. できません。要領は「補修設計の実施を目的として工事規模のみを明確にするために詳細調査の必要があるとの判定は行ってはならない。」と明記しています。工事内容と工事規模を決定するための調査や補修設計は、定期点検の判定とは別の枠組みで行うものとして整理されています。

Q. 詳細調査の結果が出るまで健全性の診断の区分を保留できますか。
A. できません。要領は、S1・S2の判定を行った場合は「その詳細調査を実施した結果を踏まえて(中略)健全性の診断の区分の再判定を行う。」としており、まず区分を確定させることが前提です。区分を確定させたあとに情報が追加・更新された場合は「その時点で,速やかに『健全性の診断の区分』も見直しを行い,関係する記録様式の記録内容も更新する。」と定められています。

Q. 詳細調査の結果はどの様式に書きますか。
A. 結果を書き込む専用の様式欄はありません。様式に用意されているのは「詳細調査や追跡調査の必要性の有無」と、その内容・理由を書く欄です。地方公共団体等の場合は様式3の所見欄、国管理施設の場合は点検記録様式(その1)の「対応や調査の必要性」欄と補足欄・所見欄が該当します。調査の結果は健全性の診断の区分の再判定を通じて、関係する記録様式の内容を更新する形で反映されます。

Q. 詳細調査ではどんな手法を使うと要領に書かれていますか。
A. 手法の一覧は要領にありません。ケーブル内部やハンガー内部、横締めPC鋼材のように部位ごとの注意書きの中で言及されるにとどまります。鋼部材の亀裂については「塗膜や錆の除去,磁粉探傷試験や超音波探傷試験などの非破壊検査などによる詳細な状態の把握が必要な場合もある。」という記述があります。横締めPC鋼材については「性能の評価法や性能の比較法は未だ確立されていないと言える。」として、手法が確立していないことを要領自身が認めています。