橋梁の損傷26種類のうち、⑬遊間の異常は調書の上で扱いにくい項目です。ひびわれや腐食のように、その部材そのものが傷んでいるわけではありません。部材と部材の「間隔」という、どの部材にも属さないものを記録する損傷だからです。
扱いにくさはもう1つあります。評価区分にbとdが無く、a・c・eの3段しか用意されていません。cとeの間に置く段階が定められておらず、しかもeの中に「開きすぎ」と「詰まりすぎ」という逆向きの状態が同居しています。
この記事では、橋梁定期点検要領(平成31年3月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の本文と付録の原文で、⑬遊間の異常の定義・評価・判定・他の損傷との線引きを整理します。
- 評価はa・c・eの3段だけ。bとdは「-」で、cとeの中間に置く段階が無い
- eには「遊間が異常に広い」と「桁同士が接触している」が並記されている。逆向きの2つの状態が同じ評価に入るため、評価だけでは向きが伝わらない
- eの後段は「接触した痕跡がある。」を含む。点検時に接触していなくても、痕跡が残っていれば対象
- 判定はE1(落橋のおそれ)よりもE2(二輪車の転倒など第三者被害)が具体的に例示されている。E1とE2の両方に当たるときはE1に区分する
- 鉛直方向の段差は「路面の凹凸」に回す。⑬が扱うのは橋軸方向・橋軸直角方向の間隔の異常
- 記録する部材は支承本体・落橋防止システム・伸縮装置の3か所。上部構造や下部構造の欄には無い
遊間の異常は「間隔」を見る損傷
付録は⑬遊間の異常の一般的性状をこう書いています。
「桁同士の間隔に異常が生じている状態をいう。桁と桁,桁と橋台の遊間が異常に広いか,遊間がなく接触しているなどで確認できる他,支承の異常な変形,伸縮装置やパラペットの損傷などで確認できる場合がある。」
1文目が定義、2文目が確認の方法です。ここで押さえておきたいのは、確認の入口が2通り書かれていることです。1つは遊間そのものを見る方法(広い・接触している)。もう1つは、周りの部材の損傷から間接的に気づく方法です。支承の異常な変形、伸縮装置やパラペットの損傷が、その入口として名指しされています。
この二段構えは、実務での見つかり方に対応しています。遊間そのものを1橋ずつ測って回る点検はしません。橋面を歩いていて伸縮装置の櫛の歯が噛み合っていない、パラペットが欠けている、といった目に付く損傷から遡って、間隔の異常に行き着くのが通常の流れです。下部構造の沈下・移動・傾斜を橋面の異常から見つける経路と同じ構造です。
付録は関連する変状の扱いも定めています。「耐震連結装置や支承の移動状態に偏りや異常が見られる場合,高欄や地覆の伸縮部での遊間異常についても,『遊間の異常』として扱う。」。橋の主構造だけでなく、高欄や地覆の伸縮部の遊間も同じ項目で扱うと明記されています。
評価はa・c・eの3段しかない
付録の「損傷程度の評価と記録」は、⑬について次の区分を定めています。
| 区分 | 一般的状況(原文) |
|---|---|
| a | 損傷なし |
| b | - |
| c | 左右の遊間が極端に異なる,又は遊間が橋軸直角方向にずれているなどの異常がある。 |
| d | - |
| e | 遊間が異常に広く伸縮継手の櫛の歯が完全に離れている。又は,桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。)。 |
損傷程度の評価はaからeの5段階で組み立てられていますが、損傷の種類によっては段階が埋まっていません。⑬はbとdが「-」で、実際に選べるのは3つです。⑯支承部の機能障害のようにaとeの2つしか無い損傷もあり、⑬はその中間の作りになっています。
ここには実務上の意味があります。cとeの間に「d」という逃げ場が無いため、cの状況に当たらないなら、その次はいきなりeです。cは「左右の遊間が極端に異なる」「橋軸直角方向にずれている」という不均等の話で、eは「櫛の歯が完全に離れている」「接触している」という限界に達した話です。段階ではなく、状況の種類で書き分けられていると読むほうが原文に近くなります。
cの原文は左右差と橋軸直角方向のずれ、eの原文は櫛の歯の離れと接触です。「どのくらい広ければeか」という寸法は書かれていません。cが軽くてeが重い、という単純な連続量として運用すると、原文に無い寸法基準を現場ごとに作ることになります。判断の根拠は所見に書き残しておくのが安全です。
開きすぎと詰まりすぎが同じ評価に入る
eの原文をもう一度分解します。
- 「遊間が異常に広く伸縮継手の櫛の歯が完全に離れている。」=開きすぎ
- 「又は,桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。)。」=詰まりすぎ
この2つは物理的に逆向きの状態で、原因も対策も違います。それでも同じ「e」という1文字にまとまります。つまり評価区分の欄だけを見た人には、その橋で何が起きているのかが分かりません。
この情報の落ち方は⑬に固有のものではなく、要領の設計思想として一貫しています。付録は⑬の「その他の記録」でこう定めています。「遊間の異常の発生位置やその範囲・状況をスケッチや写真で記録するとともに,代表的な損傷の主要寸法を損傷図に記載するものとする。」
評価区分は分類のための記号で、実体は損傷図(その5)・スケッチ・写真の側に残すという構成です。⑬では「代表的な損傷の主要寸法」を損傷図に記載することが明記されているので、遊間の実測値をどこに書くかは要領の側で決まっていることになります。
「接触した痕跡がある。」という括弧書きも見落とされやすい箇所です。遊間は温度によって開閉するため、点検した時刻にたまたま接触していないことは珍しくありません。当たり跡・欠け・塗膜の擦れといった痕跡が残っていれば、点検時に接触していなくてもeの対象である、と読めます。
判定はE2(二輪車の転倒)から立つ
付録の【対策区分判定】では、⑬について次のように書かれています。E1の欄は見出しだけで具体例が置かれておらず、具体例が書かれているのはE2とS1・S2です。
| 判定区分 | 付録に書かれている想定(原文の趣旨) |
|---|---|
| E2 | 「遊間が異常に広がり,自転車やオートバイが転倒するなど道路利用者等へ障害を及ぼす懸念がある状況などにおいては,緊急対応が妥当と判断できる場合がある。」 |
| S1・S2 | 「下部構造の移動や傾斜が原因と予想されるものの,目視では下部構造の移動や傾斜を確認できない状況などにおいては,詳細調査を実施することが妥当と判断できる場合がある。」 |
E2で名指しされているのは二輪車の転倒です。橋の構造安全性ではなく、第三者被害の側から緊急対応が立ちます。要領本文のE2の定義も「自動車,歩行者の交通障害や第三者等への被害のおそれが懸念され,緊急に処置されることが必要と判断できる状態」で、例として「遊間が異常に広がっており二輪車の転倒が懸念される場合」が挙げられています。付録と本文の両方で同じ例が使われている数少ない損傷です。
E1側は要領本文で「桁の異常な移動により落橋のおそれがある場合」が例示されています。そして「なお,一つの損傷でE1,E2両者の理由から緊急対応が必要と判断される場合は,E1に区分する。」と定められています。遊間の異常は落橋のおそれと第三者被害のおそれが同時に立ちうる損傷なので、この一文が効く場面があります。
S1・S2の想定も実務的です。橋面では遊間の異常が見えているのに、下部構造の側では目視で移動・傾斜を確認できないという状態が、詳細調査の想定場面として書かれています。㉕沈下・移動・傾斜の側にも「遊間の異常や伸縮装置の段差,支承部の機能障害などの損傷を伴う場合には,別途,それらの損傷としても扱う。」とあり、両方の項目で相互に参照する作りになっています。対策区分の一覧と判定単位も併せて確認しておくと、調書での書き分けが整理できます。
段差は遊間の異常では書かない
付録の【他の損傷との関係】は3項目あります。線引きが明示されている、珍しく境界のはっきりした損傷です。
| 状態 | 扱う項目 | 根拠(付録の原文) |
|---|---|---|
| 伸縮装置部の鉛直方向の段差 | ⑭路面の凹凸 | 「伸縮装置部の段差(鉛直方向の異常)については,『路面の凹凸』として扱う。」 |
| 伸縮装置・支承部の変形・欠損や支承の機能障害を伴う | ⑬に加えて⑯・㉓としても扱う | 「それらの損傷としても扱う。」 |
| 高欄・地覆の伸縮部での遊間異常 | ⑬遊間の異常 | 「『遊間の異常』として扱う。」 |
1行目が最も間違えやすい箇所です。同じ伸縮装置の上で見つけた変状でも、水平方向なら⑬、鉛直方向なら⑭に分かれます。「伸縮装置が悪い」という現場の感覚のまま調書に書くと、向きの区別が消えます。
2行目は重複して記録することを指示している点に注意が必要です。「別途,それらの損傷としても扱う」とあるとおり、⑬に書いたから⑯を書かなくてよい、という関係ではありません。㉑異常な音・振動など、現象で記録する損傷と同じく、1つの変状が複数の項目に現れます。
記録する部材は3か所ある
要領の「表-5.1.1 対象とする損傷の種類の標準」で、⑬遊間の異常が対象になっている部位・部材は次のとおりです。
| 部位・部材区分 | 材料区分 |
|---|---|
| 支承部 - 支承本体 | 鋼/その他 |
| 支承部 - 落橋防止システム | 鋼/コンクリート |
| 路上 - 伸縮装置(後打ちコンクリートを含む。) | 鋼/その他 |
ここで確認しておきたいのは、主桁・床版・橋台といった上部構造・下部構造の欄には⑬が入っていないことです。桁と桁の間隔の異常であっても、記録する場所は支承部と路上の部材になります。部材単位の判定を組み立てるとき、⑬をどの要素に紐づけるかで迷ったら、この表が答えになります。
もう1つ、様式の側にルールがあります。要領は記録様式の記入方法についてこう定めています。「全ての要素において,橋梁定期点検要領の『表-5.1.1 対象とする損傷の種類の標準』に示されている損傷に対して,点検した結果を確実に残すため,損傷程度の評価(a~e)を記入する。」。例示では、鋼製主桁で⑤防食機能の劣化だけがcだった場合、同じ表に示される残りの損傷(②亀裂、③ゆるみ・脱落、④破断、⑩補修・補強材の損傷、⑬遊間の異常、⑱定着部の異常、⑳漏水・滞水、㉑異常な音・振動、㉒異常なたわみ、㉓変形・欠損)に「a」を記入する、とされています。
つまり⑬は、異常が無い橋でも「a」として記録に残る項目です。空欄にはしません。ただし例外も定められています。「ただし,当該要素において明らかに対象外である損傷種類(例えば,ボルトが使われていない要素での③ゆるみ・脱落)では,NA』とする。」。また、まったく損傷がない要素は損傷の種類を「NON」、損傷程度を「a」として入力する、とされています。道路橋記録様式に登録するときは、a・NA・NONの3つの使い分けが必要になります。
点検はコンベックス、非破壊調査は用意されていない
要領の点検方法の表では、⑬遊間の異常の欄は次のようになっています。
| 損傷の種類 | 基本とする点検方法 | 参考とする非破壊検査・調査 |
|---|---|---|
| ⑬ 遊間の異常 | 目視、コンベックス | - |
| ⑭ 路面の凹凸 | 目視、コンベックス、ポール | - |
| ⑯ 支承部の機能障害 | 目視 | 移動量測定 |
⑬の非破壊検査・調査の欄は「-」です。要領の側に、遊間の異常を機器で裏取りする標準的な手段が用意されていません。隣の⑯支承部の機能障害には「移動量測定」が置かれているので、支承側からは数値で追える一方、遊間そのものは目視とコンベックスで押さえる建て付けになっています。
これは実務上の制約になります。遊間は気温で開閉するため、1回の測定値だけでは異常かどうかを決められません。eの原文が「接触した痕跡がある。」まで含めているのは、瞬間値では判断できないという前提に対応した書き方だと読めます。点検日の気温と時刻、測った位置を所見に残しておくと、次回の点検で比較する材料になります。
⑬は健全性の診断の根拠になる一方、評価区分は3段しかありません。cのままでも進行しているのか止まっているのかは、評価区分では表せません。実測値・測定位置・気温・接触痕の有無を損傷図と所見に残しておくことが、次回の判断材料になります。橋梁台帳の桁形式・支承形式と併せて見ると、下部構造側の疑いを立てやすくなります。
なお、ここで引用したのは橋梁定期点検要領(平成31年3月)です。国土交通省が地方公共団体向けに示している道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)とは位置づけが異なります。2つの要領の違いを踏まえ、実際の業務では各道路管理者が採用している要領の版を確認してください。
よくある質問
遊間の異常には、どうしてbとdの評価がないのですか。
付録の評価区分でbとdが「-」と定められているためです。用意されているのはa(損傷なし)、c(左右の遊間が極端に異なる、又は遊間が橋軸直角方向にずれているなどの異常がある。)、e(遊間が異常に広く伸縮継手の櫛の歯が完全に離れている。又は、桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。))の3つだけです。要領はcとeの状況を具体的な形で書き分けており、その中間を段階として置いていません。程度の目盛りが3段しかないぶん、範囲や寸法はスケッチ・写真・損傷図の側で残すことになります。
遊間が広いのと、桁同士が接触しているのは、どちらも同じeですか。
同じeです。付録のeは「遊間が異常に広く伸縮継手の櫛の歯が完全に離れている。」と「桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。)」を並記しています。開きすぎと詰まりすぎという逆向きの状態が、同じ評価区分に入ります。したがってeという記録だけでは、どちらの向きの異常なのかが伝わりません。所見と損傷図で向きを書き分ける必要があります。
「接触した痕跡がある」というのは、点検時に接触していなくてもeになるという意味ですか。
付録の原文は「桁とパラペットあるいは桁同士が接触している(接触した痕跡がある。)」です。括弧が付されているとおり、痕跡が確認できる場合を含む書き方になっています。遊間は温度で変わるため、点検した時刻の状態だけでは判断がつきません。当たり跡・欠け・塗膜の擦れといった痕跡は、点検日に接触していなくても過去に接触があったことを示します。
遊間の異常があると、必ず緊急対応になるのですか。
必ずではありません。付録はE2について「遊間が異常に広がり,自転車やオートバイが転倒するなど道路利用者等へ障害を及ぼす懸念がある状況などにおいては,緊急対応が妥当と判断できる場合がある。」としており、「場合がある」という書き方です。要領本文のE1の説明では「桁の異常な移動により落橋のおそれがある場合」が例示されています。E1とE2の両方の理由に当たるときはE1に区分する、と定められています。
伸縮装置の段差は、遊間の異常として書くのですか。
書きません。付録は「伸縮装置部の段差(鉛直方向の異常)については,『路面の凹凸』として扱う。」と定めています。⑬遊間の異常は橋軸方向・橋軸直角方向の間隔の異常を扱う項目で、鉛直方向のずれは⑭路面の凹凸に回ります。同じ伸縮装置の上で見つけた変状でも、向きによって記録先が分かれます。
下部構造の移動が疑われるのに目視で確認できないときは、どう判定しますか。
付録はS1・S2について「下部構造の移動や傾斜が原因と予想されるものの,目視では下部構造の移動や傾斜を確認できない状況などにおいては,詳細調査を実施することが妥当と判断できる場合がある。」としています。橋面で遊間の異常が見えているのに下部構造側で裏が取れない、という状態が詳細調査の想定場面として書かれています。㉕沈下・移動・傾斜の側でも、遊間の異常を伴う場合は別途それらの損傷としても扱う、と定められています。