- 打音の判定は3区分。清音=健全/濁音=劣化・表面近くに空洞/薄さを感じる音=うき・はく離。擬音まで原典に書かれている
- 濁音が出たら、撤去して終わりではない。清掃・撤去片の写真・現地マーキングまでが原典の記述に含まれる
- 矢板工法と山岳トンネル工法では、外力性の変状の読み方が逆になる。矢板は「有り得る」、山岳は「出ていたら特に注意」
- 変状区分は要因の区分で、対策の区分とは別。材質劣化の変状でも外力への対策が必要になる場合がある
- 機器を使うときは検出率と的中率を分けて見る。低いときに起きることが違う(見逃し/空振り)
トンネルの覆工で「うきが疑わしい」と言われたとき、現場でやることは打音検査です。ただ、打音の結果をどう書き分けるか、濁音が出たあとに何をどこまでやるのか、機器で代わりに見てよいのはどの範囲か——このあたりは要領の本文よりも、参考資料のほうに具体的に書かれています。
国土交通省道路局 国道・技術課が出している「トンネル定期点検における本体工(覆工)の状態把握の留意点(参考資料)」(令和2年6月・全32ページ)は、覆工のうき・はく離、はく落に的を絞って、判定の目安・工法ごとの着眼点・近接目視によらない場合の確認項目・記録の残し方をまとめたものです。この記事では、その中身を原文で確認しながら整理します。
この参考資料が補っているのは「覆工のうき・はく離」だけ
まず範囲です。原典の「1.適用範囲」は次のように書いています。
つまり、トンネル点検の全体ではなく、本体工の覆工の、うき・はく離とはく落に限った資料です。覆工に含まれる範囲も明示されていて、「覆工には、アーチ部、側壁部、目地部が含まれる」「本資料においては、はく落防止対策工等の覆工面への補修箇所も適用範囲とする」とされています。補修してある箇所も対象です。
要領との関係は「要領と併せて参考にするとよい」という位置づけで、要領を置き換えるものではありません。要領側の全体像は道路トンネル定期点検要領とは?令和6年改定の要点で扱っています。
変状の原因についても、原典は表-1で外因(外力・環境)と内因(材料・施工・設計)に大別しています。外力は緩み土圧・膨張性土圧・偏土圧・斜面のクリープ・地すべり・支持力不足・水圧・凍土圧・近接施工・地震・地殻変動等、環境は経年劣化・鋼材腐食・漏水・凍害・塩害・有害水・火災等です。内因側には巻厚不足や背面空洞、インバート無しなども挙げられています。
ここで原典が注意を促しているのが、内因と外因の関係です。「内因(施工、設計)にある覆工巻厚不足やインバートの未設置等によって覆工耐荷力が不足する状態で外力が作用すると外力による変状が顕在化する場合もある」「発生する変状は外因、内因それぞれの変状原因が複合的に作用して顕在化するのが一般的であることに注意する必要がある」。原因を1つに絞り込む前提では書かれていません。
打音は3つに分ける。清音・濁音・薄さを感じる音
この資料でいちばん実務に直結するのが、打音検査による判定の目安(表-2)です。3区分で、音の擬音まで原文に書かれています。
| 打音区分 | 状態(原典の表記) | 判定 |
|---|---|---|
| 清音 | キンキン、コンコンといった清音を発し、反発感がある | 健全 |
| 濁音 | ドンドン、ドスドスなど鈍い音がする | 劣化、表面近くに空洞がある |
| (区分名なし) | ボコボコ、ペコペコなど薄さを感じる音がする | うき・はく離している |
表の3行目には打音区分の名前が付いていません。原典の表はこの欄が空欄で、状態の記述と判定だけが入っています。実務では「濁音」と一括りにされがちですが、原典は「鈍い音」と「薄さを感じる音」を別の行に分けて、判定も分けているという点が要点です。前者は「劣化、表面近くに空洞がある」、後者が「うき・はく離している」です。
打音の前提として、原典は「状態の把握は、基本として近接目視により発生している変状を観察する」としたうえで、「覆工表面のうき・はく離、はく落が懸念される箇所に対しては、うき・はく離の有無及び範囲等を把握する打音検査を行う」と書いています。打音は懸念箇所に対して行うもので、全面を叩く前提ではありません。
さらに「変状の種類、過去の変状の有無や要因などによっては、打音検査、触診、その他必要に応じた非破壊検査を行うなど、慎重な状態の把握が必要な場合があることに留意する」とあり、打音だけで足りない場合も想定されています。
斜めのひび割れについては、1行だけ具体的な記述があります。「覆工コンクリート等にひび割れが深さ方向に斜めに入っている場合は、打音検査によりその方向と範囲が推定できるものもあるので、注意して点検を行う必要がある」。推定できるものもあるという書き方で、常に分かるとはされていません。ひび割れの幅・長さの測り方そのものはひび割れの測定方法:クラックスケールから画像計測までにまとめています。
濁音が出たあとは、撤去・清掃・写真・マーキングまでが1セット
濁音を見つけたあとの手順も、原典に書かれています。順に引用します。
4つのことが書かれています。①できる限り撤去する/②小片が残らないよう清掃する/③撤去片を写真に残す/④現地にマーキングする。このうち「マーキングをしておくことが必要である」は、この資料の中では強い言い方です(他は「とよい」「望ましい」が多い)。
ハンマーの選び方は「変状や作業効率等を考慮して適切なものを使用する」までで、重さの具体値はこの資料には出てきません。叩き落とし作業そのものの位置づけと、橋の側での扱いは点検中の叩き落とし作業とは?ハンマーの重さと打音の間隔で整理しています。利用者被害の予防という目的の整理は第三者被害予防措置とは?定期点検の中間年に行う打音検査が近い内容です。
なお、近接目視によらない方法で見た場合も、この応急措置は免除されません。原典は新技術活用の節でも「利用者被害の可能性のあるうき・はく離については、ハンマーを用いた叩き落とし等の応急措置を含めた対応が必要なことにも留意する」と繰り返しています。検出して終わりにはならないという点が、2か所で書かれています。
変状種類6つと変状区分。「区分」は対策の区分ではない
健全性の診断に使う変状種類と変状区分の対応も、表(表-3)で整理されています。
| 変状種類 | 外力 | 材質劣化 |
|---|---|---|
| ①圧ざ、ひび割れ | ○ | ○ |
| ②うき、はく離 | ○ | ○ |
| ③変形、移動、沈下 | ○ | — |
| ④鋼材腐食 | — | ○ |
| ⑤巻厚の不足または減少、背面空洞 | — | ○ |
| ⑥漏水等による変状 | 漏水 | |
この記事の主題であるうき・はく離は、外力と材質劣化の両方に区分されうることになります。原典も「うき・はく離は、変状区分『外力』または『材質劣化』に区分される」と明記しています。
区分の定義も付いています。「『外力』は、トンネルの外部から作用する力をいう」「『材質劣化』は、使用材料の品質や性能が低下するものであり、施工に起因する不具合もこれに含む」。施工不良が材質劣化側に入るのは、現場の感覚とずれやすいところです。
そして注意書きです。
変状区分が決まっても対策が決まるわけではない、ということです。変状区分が診断の単位にどう効くかはトンネルの変状区分とは?外力・材質劣化・漏水で単位が変わる、判定区分Ⅰ〜Ⅳの定義はトンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示とは?Ⅰ〜Ⅳの定義を解説を参照してください。橋の側の対策区分の記号体系は対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧と判定の考え方にあります。
補修箇所の扱いにも同じ考え方が出てきます。原典は「補修材等の変状については、補修等の目的に基づき変状種類及び変状区分を定める」とし、「たとえば、漏水対策として導水樋を設置している場合、導水樋の止め金具の緩みなどの変状についても変状区分を漏水とする」と例示しています。金具の緩みという事象ではなく、その補修が何のために入っているかで区分が決まります。橋の側の補修・補強材の扱いは補修・補強材の損傷とは?5分類で変わる評価で整理しています。
矢板工法と山岳トンネル工法では、注意する変状が逆になる
この資料で実務の判断に効くのが、工法による読み分けです。原典は「矢板工法によるトンネルか山岳トンネル工法(いわゆる NATM)によるものかによって、注意すべき変状が異なる場合がある」として、主な特徴を挙げています。
| 矢板工法 | 山岳トンネル工法(NATM) | |
|---|---|---|
| 覆工への外力 | 覆工にも外力が作用する場合が多いため、外力性の変状も有り得る | 特殊な場合を除き、覆工には外力が作用しないため、外力性の変状が発生している場合は特に注意を要する |
| 打継ぎ目 | アーチ部と側壁部の間に打継ぎ目があるため、うき・はく離の頻発箇所となりやすい | (記述なし) |
| 背面 | 覆工背面と地山の間に空隙が残りやすい | 覆工背面には防水シートが施工されており、漏水の発生は比較的少ない。そのため漏水が多い場合は注意を要する |
読み方が反転するのが分かります。矢板工法では外力性の変状は有り得るものとして扱われ、山岳トンネル工法では外力性の変状が出ていること自体が異常の合図になります。漏水も同じで、山岳トンネル工法で漏水が多ければ、それは防水シートの前提が崩れているという読み方になります。
原典はもう1点、スパン内に複数の変状がある場合に触れています。「覆工スパン内に複数の変状が存在する場合には、変状の原因の推定に努め、変状の進行性なども踏まえて評価するのがよい」。1つずつ記号を付けて終わりではなく、原因の推定と進行性を併せて見ることが求められています。
とくに注意すべき部位は4つ。目地・天端・スパン中間・顕著な変状の周辺
付録-1「点検でとくに注意すべき部位、変状状況」は、4つの括りで構成されています。
| 部位 | なぜ注意するのか(原典の説明) |
|---|---|
| (1)覆工の目地および打継ぎ目 | コンクリート面が分離された部分であり、周辺にひび割れが発生した場合、目地および打継ぎ目とつながりコンクリートがブロック化しやすい。横断目地付近に温度伸縮等により応力が集中し、ひび割れ、うき・はく離が発生することがある |
| (2)覆工の天端付近 | 覆工コンクリートを横断的に一つのブロックとしてとらえると、天端付近はブロックの中間点にあたり、乾燥収縮及び温度伸縮によるひび割れが生じやすい |
| (3)覆工スパンの中間付近 | 乾燥収縮及び温度伸縮によるひび割れが発生しやすい |
| (4)顕著な変状の周辺 | ひび割れ箇所/変色箇所/漏水箇所/段差箇所/補修箇所/コールドジョイント付近の6つに分けて記述 |
(1)では、矢板工法に固有の注意が追記されています。「覆工が逆巻き工法で施工された矢板工法のトンネルは、水平打継ぎ目に化粧モルタルを施工することがあり、化粧モルタルや事後の補修モルタルがはく落することがある」「施工の不具合等で段差等が生じた箇所を化粧モルタルで補修することもある」。そして注として「矢板工法のトンネルは横断目地だけではなく、水平打継ぎ目にも留意する」と書かれています。
横断目地周辺の変状には、型枠の形状別のタイプ分けまで図示されています。突き合わせ型・台形型・三角形型の3形状と、発生の経緯による4タイプ(①覆工(後打ち)コンクリートに付着して覆工(先打ち)コンクリートが固化する際に発生/②隅角部の角かけ/③覆工(後打ち)コンクリートのモルタル分が流出し付着/④覆工(後打ち)の型枠の接触または過度な押上げにより突き合わせ型横断目地で発生)です。
また(1)の②には、型枠作業に起因する記述もあります。「覆工の型枠据付・解体時の衝撃や過度の押し上げ等により、目地および打継ぎ目付近にひび割れが発生することがある」。
変色・漏水・段差・補修箇所・コールドジョイントは「周辺を打つ」サイン
(4)「顕著な変状の周辺」は、その箇所そのものではなく周辺にうき・はく離が出ていることがあるという構成で書かれています。6つを原典の説明で並べます。
| 手がかり | 原典が書いている読み方 |
|---|---|
| ① ひび割れ箇所 | ひび割れの周辺に複数のひび割れがあり、ブロック化してうき・はく離が認められる場合がある。亀甲状のひび割れによる細片化の例も図示 |
| ② 覆工等の変色箇所 | 覆工表面が変色している場合は、観察するとひび割れがあり、そこから遊離石灰や錆汁等が出ている場合が多い。その周辺を打音検査するとうき・はく離が認められる場合がある |
| ③ 漏水箇所 | 覆工表面等に漏水箇所や漏水の跡がある場合は、ひび割れや施工不良(豆板等)があり、そこから水が流れ出している場合が多い。その付近のコンクリートに、うき・はく離が発生しているおそれがある |
| ④ 覆工の段差箇所 | 覆工表面に段差がある場合は、異常な力が働いた場合や施工の不具合等、何らかの原因があり、構造的な弱点となっている場合がある |
| ⑤ 補修箇所 | 補修材自体、または、接着剤が劣化若しくはボルトが緩み不安定な状態になっていたり、変状が進行して周囲にうき・はく離が生じている場合がある。覆工表面に補修材が貼り付けられている場合、背面の状態や補修材の接着状況等にも配慮して点検を行うことが望ましい |
| ⑥ コールドジョイント付近 | コールドジョイントは施工の不具合でできた継ぎ目である。付近にひび割れが発生しやすいので、コンクリートがブロック化することがある。特にコールドジョイントが覆工の軸線と斜交する場合は、薄くなった覆工コンクリート表面にひび割れが発生し、はく落しやすい。また、せん断に対する抵抗力が低下する原因となる |
②と③は、目視で気づける手がかりから打音の対象範囲を絞るという使い方になっています。変色や漏水跡は遠目にも分かるので、画像計測でのスクリーニングと相性がよい部分です。変色・劣化という損傷種類そのものの扱い(橋の側)は変色・劣化とは?材質で判定が変わり被覆材は対象外、漏水・滞水は漏水・滞水と土砂詰まりは桁端部から橋を傷めるで扱っています。
⑤の補修箇所は、適用範囲の節(「はく落防止対策工等の覆工面への補修箇所も適用範囲とする」)と対応しています。補修してあるから見なくてよい、にはなりません。
近接目視によらない箇所をつくるときに確認する項目
原典の「3.(3) 近接目視によらない場合の留意事項」は、条件を次のように書いています。
「点検箇所の一部について」が条件に入っています。全面を機器に置き換える前提では書かれていません。従事者についても「道路トンネルやその維持管理等に関する必要な知識や経験、道路トンネルに関する相応の資格等、定期点検に関する技能を有したものが従事することが重要であり、その他の方法として新技術等を活用して状態の把握を行う場合においても同様である」とされています。近接目視の定義そのものは近接目視とは?定義と「同等の評価が行える他の方法」の要件に整理しています。
そのうえで、原典は技術を2つに分け、それぞれ確認項目を並べています。
| 画像計測技術 | 非破壊検査技術 | |
|---|---|---|
| 主な用途 | ひび割れ等の変状の検出、打音検査の対象範囲のスクリーニング、変状展開図の作成等 | うき・はく離の検出、打音検査の代替または対象範囲のスクリーニング等 |
| 性能・精度の確認項目 | 最小ひび割れ幅(及び計測精度)、ひび割れ長さ計測精度(及び相対誤差)、変状の位置精度、色識別性能 等 | うき・はく離の大きさ(形状)及び検出するための条件、大きさ(形状)の精度、検出率および的中率、変状の発生位置精度 |
| 対象範囲 | 覆工全体に適用しない場合は、適用する部分としない部分の範囲と扱いを確認。附属物等による死角の対応方法も事前に確認 | 同様に適用する部分としない部分の扱いを確認。目地部にも適用可能な技術かの確認は「行うこと」 |
| 実施体制等 | 活用時の人員体制/計測時間/環境条件(季節、時間、温度等)/対象トンネルの現場条件(延長、断面形状、照度、走行条件、附属物等)/その他の制約(機器等の手配、交通規制、関係機関続き等) | |
画像計測の性能値については、原典が注意を入れています。「ここでの最小ひび割れ幅等の値は、使用機器の解像度等の性能や現場条件(撮影距離、撮影速度、撮影角度等)が最適な場合であることが多いため、実際に現場での使用の際は、使用する機器の性能及び現場条件を加味した上で、計測が可能な最小ひび割れ幅等の各項目を想定しておくとよい」。カタログ値は最適条件の値という前提です。性能カタログの読み方は点検支援技術性能カタログとは?読み方と活用方法、掲載と使用許可の違いはNETISと性能カタログの違い。掲載は使用許可ではないにまとめています。
機器選定にあたって考慮する項目も列挙されています。変状の向き等の影響/機器等の向きに対する解像度/現地の明るさ等の条件/正対しない場合の画像のゆがみや光の角度と部材表面の凹凸の関係により生じる影の影響/その他、機器等が明らかにする性能並びにその発揮条件。さらに「選定の妥当性を溯って検証ができるように、選定の考え方を記録に残すのがよい」とされています。
付録-2にはキャリブレーションの例として、色調(カラーチェック。「部材表面に照明をあてる場合には、実際に用いる照明を用いた状態でカラーチェックをするのがよい」)と分解能(「幅や長さを変えて配置したいくつかのひびわれ又はこれを模擬したものを見たりし、近接目視をした結果として比較しておくとよい」)が示されています。考え方は「キャリブレーションした範囲で結果が得られるように、機器を使用することが基本となる」と1文にまとめられています。
非破壊検査の側には、原理に由来する限界が書かれています。「調査しようとする物理量を導出あるいは推定にあたって様々な誤差は免れず」「一点の測定点が部材などの全体を代表するものではないことも多い」「複数の非破壊調査を組み合わせたり、一部微破壊調査、破壊調査なども行ってキャリブレーションを行うことで、調査の信頼性を向上させることもある」。センシング・モニタリング・非破壊検査の呼び分けはセンシング・モニタリング・非破壊検査の違い|3つの定義と使い分けで整理しています。赤外線法と打音の関係は赤外線法によるうき・剥離調査とは?打音検査との関係が対応します。
措置として監視を行う場合は、別の参考資料が指定されています。「『監視計画の策定とモニタリング技術の活用について(参考資料)(令和2年6月 国土交通省道路局 国道・技術課)』が参考となる」。監視計画の立て方は措置としての「監視」とは?モニタリング計画の立て方にまとめています。
検出率と的中率は別物。低いほうで何が起きるかを分けて読む
非破壊検査技術の性能確認項目のうち、原典が意味まで書き分けているのが検出率と的中率です。
2つは別の困りごとに対応します。検出率が低ければ見逃しが増え、的中率が低ければ打音で確認したら何も無かった箇所が増えます。前者は品質の問題、後者は現場の工数の問題です。片方の数字だけで技術を比べると、どちらの困りごとに対する備えなのかが分からなくなります。
検出の条件にも注意書きがあります。「技術によっては変状を検出するための条件(例えば、うき・はく離による一定の大きさ以上の隙間・空洞があること、または発生場所の深さ等)が付く場合があるので目的に応じた技術を使用することに留意する」。隙間が開いていないうきは拾えない技術もある、ということです。
位置精度については、画像計測・非破壊検査の両方で同じ注意が出てきます。「検出した変状の位置精度は、縦断方向および横断方向で異なる点に注意する」。理由も書かれていて、「変状の発生箇所の特定や変状の進行状況の把握(のちの計測結果との重ね合わせ)等のため、精度の良いものほど望ましい」とされています。次回との重ね合わせに使うかどうかで必要な精度が変わる、という整理です。
技術の選定から本運用までの進め方は点検への新技術導入の手順:技術選定から本運用までの流れ、費用面は新技術を使った橋梁点検の費用:積算の適用範囲と見積り比較で扱っています。技術の種類ごとの向き不向きは点検支援技術の選び方 完全ガイド:AI・ドローン・LiDAR、点群でできること・できないことはLiDAR・点群データの橋梁点検活用:できること・できないことにまとめました。
記録に残すのは「どこを機器だけで見たか」
「5.記録に関する留意事項」は、記録様式が維持管理の資料になるという前提から始まります。「要領付録1の記録様式は、変状の位置、規模、状態等の情報、写真等の点検結果を総括表や写真、変状展開図に記録するとともに、調査や措置の記録をするもので、トンネルの維持管理を行ううえで重要な資料となる」。
そのうえで3点が挙げられています。
| 残すもの | 原典の記述 |
|---|---|
| 過年度と比較できる形式 | データの汎用性を考慮し、別の点検業者でも過年度との比較検討が出来るフォーマットを用いることが望ましい |
| 変状展開図への反映 | 各種の方法で確認された変状は、変状展開図に適正に記録しておくことにより、トンネル全体の変状を俯瞰的に把握し、次回の点検や以後の調査等に引き継ぐことが出来る |
| 機器だけで見た箇所 | 近接目視によらない方法を用いた場合、その箇所の記録も記録様式に残しておくとよい |
3つ目は、新技術の節にも同じ趣旨が出てきます。「直接状態の把握を行った箇所と機器等でのみ状態の把握を行った箇所は明らかにし、記録に残すのがよい」。付録-3には、変状展開図の記録様式(機器を活用する記録の例)と、近接目視によらない方法を用いた場合の記録様式が示されています。
「別の点検業者でも過年度との比較検討が出来る」という条件は、記録を次の発注に引き継ぐ前提の書き方です。調書そのものの構成は橋梁点検調書の構成と書き方:様式の全体像と記入の要点(橋の側)が参考になります。
この参考資料の版と、現行の要領とのズレ
最後に版の確認です。ここは実務で引用するときに影響します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| この参考資料の日付 | 令和2年6月(国土交通省 道路局 国道・技術課)。全32ページ |
| 前提にしている要領 | 本文の適用範囲に「道路トンネル定期点検要領(平成 31 年2月 国土交通省道路局)」と明記 |
| 直轄の現行要領 | 道路トンネル定期点検要領(令和6年9月)。全120ページ |
| 現行要領の付録構成 | 目次上は「付録 道路トンネル定期点検結果の記入要領」と「参考資料 国が管理する道路トンネルの対策区分及び異常判定区分の決定例」。「付録3」という番号は無い |
この参考資料は本文中で2回、「要領付録3の判定の目安例に示される変状の程度が検出できる性能及び精度が確保されている技術であることを確認する」という形で要領の付録3を参照しています。また表-4として「矢板工法の場合の点検時(ひび割れの進行の有無が確認できない場合)の判定の目安例」が参考に示されており、幅5mm以上/3〜5mm/3mm未満と長さ10m以上/5〜10m/5m未満の組合せで判定区分Ⅰ〜Ⅳを当てる表になっています。
この表-4には補足が4つ付いています。①「連続したひび割れ内で幅が変化する場合は、最大幅を当該ひび割れの幅とする」②「覆工スパンをまたがる連続したひび割れは、覆工スパンをまたがって計測される長さを当該ひび割れの長さとする(覆工スパン単位のひび割れ長さでは評価しない)」③3mm未満の場合はⅠ(「ひび割れが軽微で、外力か材質劣化か判断が難しい場合」)とⅡ(「地山条件や、周辺のひび割れ発生状況等から、外力の作用の可能性がある場合」)に分かれる④「ひび割れ幅が 5mm 以上でひび割れ長さが 5m 未満の場合の判定は、ひび割れの発生位置や発生原因を考慮して、判定を行う」。②の「スパン単位で評価しない」は、展開図の作り方に直接効きます。
ただし、この表-4も付録3の参照も平成31年2月版の要領を前提にしています。引用するときは、現行の令和6年9月版の対応箇所を自分で確認してから使う必要があります。この参考資料自体は現在も「道路の老朽化対策」ページのトンネルの欄に掲載されていますが、掲載されていることと、参照先の番号が現行版と一致していることは別の話です。
地方公共団体が管理するトンネルについては、適用する要領とマニュアルの関係を先に確認してください(国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係:どちらに従う?)。
よくある質問
Q. 打音検査の判定はいくつに分かれるのですか。
A. 3つです。原典の表-2は「清音」「濁音」「ボコボコ、ペコペコなど薄さを感じる音がする」の3区分で、それぞれ判定を「健全」「劣化、表面近くに空洞がある」「うき・はく離している」としています。音の擬音まで原文に書かれており、清音は「キンキン、コンコンといった清音を発し、反発感がある」、濁音は「ドンドン、ドスドスなど鈍い音がする」です。
Q. 濁音が出たら、その場で何をするのですか。
A. 原典は「濁音を発するうき・はく離があると判断された箇所は、ハンマーを用いてできる限り撤去する」としています。続けて「撤去した箇所は、コンクリート小片が残ることのないよう丁寧に清掃を行う」「撤去したコンクリート片は写真等に記録しておく」「打音検査でうき・はく離が見つかった箇所は現地にマーキングをしておくことが必要である」と書かれており、撤去だけでは終わりません。
Q. 斜めに入ったひび割れは打音で分かるのですか。
A. 原典は「覆工コンクリート等にひび割れが深さ方向に斜めに入っている場合は、打音検査によりその方向と範囲が推定できるものもあるので、注意して点検を行う必要がある」としています。推定できる場合がある、という書き方で、必ず分かるとはされていません。
Q. 矢板工法と山岳トンネル工法では、何に注意する点が違うのですか。
A. 外力性の変状の扱いが逆になります。原典は矢板工法について「覆工にも外力が作用する場合が多いため、外力性の変状も有り得る」とし、山岳トンネル工法については「特殊な場合を除き、覆工には外力が作用しないため、外力性の変状が発生している場合は特に注意を要する」としています。漏水も同様で、山岳トンネル工法は「覆工背面には防水シートが施工されており、漏水の発生は比較的少ない。そのため漏水が多い場合は注意を要する」と書かれています。
Q. 変状区分が分かれば、対策も決まるのですか。
A. 決まりません。原典は「表-3でいう変状区分は、必要となる対策の区分とは異なることに注意する必要がある」とし、「例えば、材質劣化による変状が生じている場合にも、必要に応じて外力への対策が必要となる場合などがある」と例示しています。変状区分は「基本的には変状の要因を区分したもの」です。
Q. 打音検査を機器で置き換えてよいのですか。
A. 原典は近接目視によることを基本としたうえで、「知識と技能を有するものが、自らの近接目視によるときと同等の診断ができると判断した場合には、点検箇所の一部について、その他の方法で状態の把握を行うことが出来る」としています。対象は「点検箇所の一部」で、全体の置き換えではありません。また「利用者被害の可能性のあるうき・はく離については、ハンマーを用いたたたき落とし等の応急措置を含めた対策が必要である」とされており、検出だけで完結しません。
Q. 検出率と的中率は何が違うのですか。
A. 原典が意味を書き分けています。「検出率が低いことは、実際に発生しているうき・はく離の見逃しが多いことを意味する」「的中率が低いことは、実際にはうき・はく離が発生していない箇所の検出が多いことを意味する」です。見逃しが困るのか、空振りの打音確認が増えるのが困るのかで、見る数字が変わります。
Q. 補修してある箇所の変状は、どの区分で記録するのですか。
A. 原典は「補修材等の変状については、補修等の目的に基づき変状種類及び変状区分を定める」としています。例として「漏水対策として導水樋を設置している場合、導水樋の止め金具の緩みなどの変状についても変状区分を漏水とする」が挙げられています。材料ではなく、その補修が何のために入っているかで決まります。
Q. 機器を使った箇所は記録に残す必要がありますか。
A. 原典は「直接状態の把握を行った箇所と機器等でのみ状態の把握を行った箇所は明らかにし、記録に残すのがよい」「近接目視によらない方法を用いた場合、その箇所の記録も記録様式に残しておくとよい」としています。付録-3に、変状展開図の記録様式(機器を活用する記録の例)と、近接目視によらない方法を用いた場合の記録様式が示されています。
Q. この参考資料は今も有効なのですか。
A. 国土交通省の「道路の老朽化対策」ページに現在も掲載されています。ただし本資料は令和2年6月付で、本文の適用範囲は「道路トンネル定期点検要領(平成31年2月 国土交通省道路局)」を前提に書かれています。直轄の要領はその後改定され、現行は令和6年9月版です。本資料が参照している「要領付録3の判定の目安例」という番号は令和6年9月版の目次には無く(付録は「道路トンネル定期点検結果の記入要領」の1本)、該当箇所は現行版で読み替える必要があります。
出典・適用範囲
本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は原典の表記に合わせています。
- 国土交通省 道路局 国道・技術課「トンネル定期点検における本体工(覆工)の状態把握の留意点(参考資料)」(令和2年6月) — 参照箇所:1.適用範囲(1ページ)/2.覆工に発生する変状の要因と表-1(1〜2ページ)/3.状態の把握に関する留意事項(1)状態の把握の基本・表-2 打音検査による判定の目安・表-3 変状種類及び変状区分との関係(2〜4ページ)/(2)工法の違いによる留意事項(4ページ)/(3)近接目視によらない場合の留意事項(5ページ)/4.新技術活用に関する留意事項(1)画像計測技術の活用①〜⑤・表-4 矢板工法の場合の判定の目安例とその補足1〜4(5〜8ページ)/(2)非破壊検査技術の活用①〜⑤(8〜9ページ)/5.記録に関する留意事項(10ページ)/付録-1 点検でとくに注意すべき部位、変状状況(1)〜(4)(11〜23ページ)/付録-2 機器のキャリブレーションの例(24ページ)/付録-3 記録様式の例(28ページ以降)
- 国土交通省 道路局 国道・技術課「道路トンネル定期点検要領」(令和6年9月) — 現行版の目次(付録・参考資料の構成)の確認にのみ使用
- 国土交通省 道路局「道路の老朽化対策」 — 要領・参考資料の一覧(原典PDFの掲載元)
本記事が読んでいるのは「トンネル定期点検における本体工(覆工)の状態把握の留意点(参考資料)」(令和2年6月)です。参考資料であって要領そのものではなく、本文の適用範囲は「道路トンネル定期点検要領(平成31年2月 国土交通省道路局)」の「4.状態の把握」のうち、本体工の覆工に生じるうき・はく離、はく落に限られます。トンネル本体工のその他の変状、附属物、非常用施設、覆工以外の構造は扱っていません。また本記事は、付録-1の各図・各写真の個別の内容、付録-2の色調・分解能の実測例の数値、付録-3の記録様式の個別の記入欄については扱っていません(いずれも原典でご確認ください)。判定区分Ⅰ〜Ⅳを個別のトンネル・個別の変状に当てる判定は行っていません。要領は令和6年に改定されており、現行の直轄版は令和6年9月版です。本記事は参考資料側の記述を原文のまま紹介したもので、現行要領との対応づけは行っていません。自組織が採用している要領と発注図書を優先してください(国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係:どちらに従う?)。