「この橋は塩害地域ですか」と聞かれて、海が見えるかどうかで答えていないでしょうか。実務では、これは感覚で決める話ではありません。道路橋示方書の表に、地域名と海岸線からの距離で明確に書かれています。
ややこしいのは、そこで使われる記号が2種類あることです。A・B・Cは「地域区分」、S・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは「対策区分」で、別の軸です。「塩害区分S」のように混ぜて呼ぶと、どの表のどの列を指しているのかが通じなくなります。
この記事では、道路橋示方書(平成29年版)の表-6.2.3をもとに2つの区分の関係を整理し、続けて令和6年3月改定の定期点検要領が塩害を「特定事象」としてどう定義しているか、よく引用される1.2kg/m3が何の値なのか、そして凍結防止剤による塩害がこの地域区分の外側にあることまでを、原文にあたって確認します。
- 地域区分A・B・C(地域名)と対策区分S・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ(海岸線からの距離)は別軸。組み合わせて使う。Aは沖縄県、Bは日本海沿岸を中心とする列挙された地域、Cはそれ以外
- 同じ「海岸線から150m」でも、地域区分Bなら対策区分Ⅰ、Cなら対策区分Ⅲ。地域区分が違えば対象範囲は700mと200mで3倍以上ちがう
- 定期点検要領(令和6年3月)の塩害は「原因として飛来塩分による場合に限定せず」と明記されている。凍結防止剤による内陸の塩害も特定事象「塩害」に該当する
- ただし国の特定点検要領(案)は飛来塩分だけを対象としており、凍結防止剤起因は「別途、個別の検討が必要」と本文で除外されている
要領における塩害の定義
まず定期点検側から見ます。道路橋定期点検要領(令和6年3月・技術的助言の解説・運用標準)は、様式3で記録する「特定事象」を6つ挙げています。疲労/塩害/アルカリ骨材反応/防食機能の低下/洗掘/その他です。この枠組み自体は特定事象の記事で整理しています。
このうち塩害の定義は次のとおりです。
「2)塩害 コンクリート部材を対象とする。内在する塩分に加え、外部からの塩分の浸透によりコンクリート部材内部の塩化物イオンが一定量以上となり、内部鋼材の腐食が生じる状態。原因として飛来塩分による場合に限定せず、そのような状態が確認された場合が該当する。」
読み落としやすいのが最後の一文です。「原因として飛来塩分による場合に限定せず」とあります。海から遠い橋でも、凍結防止剤や建設時の海砂に由来して同じ状態になっていれば、特定事象「塩害」に該当します。海岸線からの距離だけで「うちは塩害ではない」と切ってしまうと、この定義から外れます。
また、対象がコンクリート部材である点も要領が明示しています。鋼部材が塩分の影響で腐食する現象は、塩害ではなく防食機能の劣化や腐食の側で扱われます。
地域区分と対策区分は別の軸
では「塩害の影響地域」はどこで決まっているのか。設計側の基準である道路橋示方書Ⅲコンクリート橋編の6.2.3「かぶりによる内部鋼材の防食」です。ここに表-6.2.3「塩害の影響地域」があり、点検の実務でも塩害地域の判定にこの表が参照されます。
表の構造はこうです。まず架橋地点がA・B・Cのどの地域区分かを決め、次に海岸線からの距離でS・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの対策区分が決まります。
| 地域区分 | 地域 | 海岸線からの距離 | 対策区分 | 影響度合い |
|---|---|---|---|---|
| A | 沖縄県 | 海上部及び海岸線から100mまで | S | 影響が激しい |
| 100mを超えて300mまで | Ⅰ | 影響を受ける | ||
| 上記以外の範囲 | Ⅱ | 影響を受ける | ||
| B | 図-6.2.1及び表-6.2.4に示す地域 | 海上部及び海岸線から100mまで | S | 影響が激しい |
| 100mを超えて300mまで | Ⅰ | 影響を受ける | ||
| 300mを超えて500mまで | Ⅱ | 影響を受ける | ||
| 500mを超えて700mまで | Ⅲ | 影響を受ける | ||
| C | 上記以外の地域 | 海上部及び海岸線から20mまで | S | 影響が激しい |
| 20mを超えて50mまで | Ⅰ | 影響を受ける | ||
| 50mを超えて100mまで | Ⅱ | 影響を受ける | ||
| 100mを超えて200mまで | Ⅲ | 影響を受ける |
ここで効いてくるのが、地域区分によって対象範囲そのものが変わることです。地域区分Bは海岸線から700mまでが塩害の影響地域に入りますが、Cは200mで切れます。同じ「海岸線から150mの橋」でも、Bなら対策区分Ⅰ(Sの次に厳しい)、Cなら対策区分Ⅲ(最も緩い)です。距離だけを見て他県の事例と比べると、この差でずれます。
対策区分は、設計側では最小かぶりに接続します。表-6.2.2は工場製作のプレストレストコンクリート構造で対策区分Ⅰ=50mm、Ⅱ=35mm、Ⅲ=25mmといった値を定めており、下部構造編ではさらに大きい値が使われます。さらに本文には次の規定があります。
「ただし,対策区分 S 及び鉄筋コンクリート構造における対策区分 I においては,塗装鉄筋又はコンクリート塗装等かぶりによる方法以外の方法を併用しなければならない。」
点検側から見ると、これは「対策区分Sの橋は、かぶりだけに頼っていないはずだ」という設計上の前提を意味します。塗装鉄筋やコンクリート塗装が施されている可能性があり、その有無で点検で見るべきものが変わります。架設年次と適用基準の確認が要る理由がここにあります(橋梁台帳から何を取るかを参照)。
地域区分Bはどこまでか
地域区分Bは、示方書の表-6.2.4に道県名・市町村名で列挙されています。原文はこうです。
「北海道のうち,宗谷総合振興局支庁の稚内市・猿払村・豊富町・礼文町・利尻町・利尻富士町・幌延町,留萌振興局,石狩振興局,後志総合振興局,檜山振興局,渡島総合振興局の松前町・八雲町(旧熊石町の地区に限る。)
青森県のうち,今別町,外ヶ浜町(東津軽郡),北津軽郡,西津軽郡,五所川原市(旧市浦村の地区に限る。),むつ市(旧脇野沢村の地区に限る。),つがる市,大間町,佐井村
秋田県,山形県,新潟県,富山県,石川県,福井県」
注意したいのは、条文に「日本海側」という言葉が使われていないことです。県名と市町村名の列挙であり、秋田・山形・新潟・富山・石川・福井は県全域が地域区分Bになります。結果として日本海沿岸が厳しく設定されている形にはなっていますが、「日本海側だからB」という覚え方をすると、北海道と青森の一部だけが対象という細かい線引きを読み違えます。
なお、旧来よく参照されてきた「道路橋の塩害対策指針(案)・同解説」(昭和59年)は、平成14年3月31日をもって廃止されています(平成13年12月27日付 国都街第91号・国道企第126号)。現在この地域区分の根拠となるのは示方書の表です。古い資料を引くときは版に注意してください。
1.2kg/m3は何の値か
塩害の話で必ず出てくるのが1.2kg/m3という数字です。これはコンクリート1m3あたりの全塩化物イオン量で、鋼材の腐食が始まる限界値として使われています。
国土交通省道路局の「コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案)」(平成27年3月)の解説にはこうあります。
「コンクリート中の鋼材の腐食が始まる全塩化物イオン量は、1.2〜2.5kg/m3 程度と考えられている。したがって、鋼材位置での全塩化物イオン量が 1.2kg/m3 に達しないように、維持管理を行っていくことが基本となる。」
単一の閾値ではなく幅のある値で、その下限を管理目標に採っているという構造です。「1.2を超えたら即アウト」ではなく、「1.2に達しないように管理する」と書かれている点が実務上の意味です。
同要領は、上部構造の試験結果が1.2kg/m3以上だった場合、または塩化物イオン量分布の将来予測から今後10年以内に確実に1.2kg/m3以上となると考えられる場合に、その旨を記録し補修等の対策を検討しなければならない、と規定しています。補修方法の選定表も、プレテンション式PC=表面塗装0.6kg/m3以下、ポストテンション式PCと鉄筋コンクリート=0.9kg/m3以下、断面修復は1.2kg/m3以下、電気防食・脱塩は1.2kg/m3以上、というように同じ値を境に並んでいます。
測定は目視ではできません。詳細調査としてコアやドリル削孔粉を採取し、JIS A 1154に準じて全塩化物イオン量を算出します。同要領は構造物表面から深さ70mmまでを10mmピッチで、各深さ20g以上採取するとしており、採取前に電磁誘導法などで鉄筋位置を調べて鋼材を切断しないことも定めています。
塩害点検は10年に1度
頻度も要領に明記されています。
「塩害点検は、原則として 10 年に1度行うものとする。」
(解説)「塩害点検は、試料採取のために構造物を傷つけるので、これをむやみに多数回行うことは好ましくない。そこで、10 年に1回実施するものとした。」
5年に1回の定期点検とは別立ての、10年周期の点検です。しかも試料採取が構造物を傷つけるから頻度を抑えているという理由が書かれています。「もっと頻繁に測ればよい」という話ではありません。
対象も限定されています。同要領はコンクリート橋の上部構造を主たる対象としています。下部構造は一般にかぶりが大きく塩害が生じにくいこと、生じても進行が比較的ゆるやかであることが理由です。ただし調査の途中で下部構造に多量の塩分の浸透が確認された場合は、別途対応を検討するとしています。
そして定期点検側は、この特定点検の結果を受け取る口を持っています。国管理施設向けの橋梁定期点検要領(令和6年7月)は、特定点検要領(案)の対象橋梁について、上部構造のかぶりと、そのかぶりに相当する深さの全塩化物イオン量(測定値または推定値)を定期点検側でも記録するよう定めています。点検調書を書くときは、この2項目が引き継がれているかを確認することになります。
凍結防止剤は地域区分の外側にある
ここが実務でいちばん食い違いやすいところです。定期点検要領の特定事象「塩害」は凍結防止剤起因を含みますが、国の特定点検要領(案)は含みません。後者は本文で明示的に除外しています。
「一方、外的塩害について見てみると、凍結防止剤・融氷剤に由来する塩化物イオンのコンクリート構造物中の分布は、交通や排水の水みちなどの条件により極めて局在化する傾向がある。本要領(案)は,特に海からの飛来塩分による塩害を対象とし、外部からの塩化物イオンの浸透がある程度均一であると仮定した上で実施するものである。このため、凍結防止剤・融氷剤による塩害に対しては、別途、個別の検討が必要となる。」
理由は測り方の前提にあります。飛来塩分は面的におおむね均一に付着するので、1橋あたり1箇所の採取でも代表性が期待できます。凍結防止剤は水みちに沿って局在するため、同じ採り方では当たり外れが大きすぎる、ということです。
局在するということは、逆に見るべき場所が絞れるということでもあります。旧版の橋梁定期点検要領(平成31年3月)の「想定される損傷の状況(例)」には、次の記述があります。
上部構造「① 塩害 桁の端部付近は,伸縮装置部分から雨水が浸透しやすく,飛来塩分量が多い場所や凍結防止剤を散布する場所においては,コンクリートのひびわれ・うき・剥離落下が発生することがある。」
下部構造「① 塩害 凍結防止剤を散布する場所においては,桁端部からの漏水によって沓座付近に滞水し,塩分が徐々に蓄積し,コンクリートのひびわれ・錆汁が発生することがある。」
伸縮装置の直下、桁端部、沓座周り。凍結防止剤を撒く路線では、この3か所が塩分の集まる場所です。海岸線から何kmあっても関係ありません。
点検の現場で押さえる順番
ここまでを、点検に入る前後の順番に並べ直します。
| 段階 | 確認すること | 根拠 |
|---|---|---|
| 事前 | 架橋地点の地域区分(A・B・C)と、海岸線からの距離による対策区分(S・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ) | 道路橋示方書Ⅲ 表-6.2.3・表-6.2.4 |
| 事前 | 凍結防止剤の散布区間かどうか。散布するなら海岸線からの距離は判断材料にならない | 定期点検要領(令和6年3月)の塩害の定義 |
| 事前 | 塗装鉄筋・コンクリート塗装・補修履歴の有無。対策区分Sなら併用が求められている | 示方書Ⅲ 6.2.3(2) |
| 現地 | 鉄筋軸方向のひびわれ、錆汁、剥離・鉄筋露出。桁端部・沓座周りを重点的に | 損傷事例集、平成31年3月要領の損傷の状況(例) |
| 記録 | 観察された事実として損傷程度を評価する。原因の推定は評価に混ぜない | 要領の損傷程度の評価の考え方 |
| 記録 | 特定事象「塩害」の有無を様式3に記録する | 定期点検要領(令和6年3月)様式3 |
最後の2行は分けて書きました。ここは要領が念を押している箇所です。損傷程度の評価a〜eは損傷の種類ごとの外観評価であって、「塩害」という原因に対する区分ではありません。要領は、損傷程度の評価では推定・判断を含むことなく外観として観察された事実が記録されることを求めています。
したがって、塩害が疑われる橋であっても、記録の入口は剥離・鉄筋露出やひびわれといった損傷種類ごとの評価です。原因としての塩害は、特定事象の欄と健全性の診断の所見で扱います。「塩害だからd」という書き方は要領の建て付けに合いません。
よくある質問
Q. 塩害の地域区分と対策区分は何が違いますか。
A. 軸が違います。地域区分A・B・Cは架橋地点がどの地域にあるかで決まり、Aは沖縄県、Bは道路橋示方書の表-6.2.4に列挙された地域、Cはそれ以外です。対策区分S・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは、その地域区分のなかで海岸線からの距離によって決まります。「塩害区分S」のように1語で呼ぶと、どちらの表の話か通じなくなります。
Q. 海岸線から何メートルまでが塩害地域ですか。
A. 地域区分によって変わります。地域区分Bは海上部から700mまで、Cは200mまでが塩害の影響地域です。地域区分Aは「上記以外の範囲」がすべて対策区分Ⅱに入るため、距離での上限がありません。同じ距離でも、Bなら対策区分Ⅰ、Cなら対策区分Ⅲというように厳しさが変わります。
Q. 内陸の橋でも塩害になりますか。
A. なります。定期点検要領(令和6年3月)の塩害の定義は「原因として飛来塩分による場合に限定せず、そのような状態が確認された場合が該当する」としており、凍結防止剤や建設時の海砂に由来する場合も含みます。ただし道路橋示方書の地域区分は海岸線からの距離で決まるため、内陸の凍結防止剤起因の塩害は設計上のかぶり割増の対象にはなりません。
Q. 凍結防止剤による塩害も特定点検要領で点検するのですか。
A. 対象外です。国の特定点検要領(案)は「本要領(案)は,特に海からの飛来塩分による塩害を対象とし」と明記し、凍結防止剤・融氷剤による塩害には「別途、個別の検討が必要となる」としています。理由は、凍結防止剤に由来する塩化物イオンが水みちに沿って極めて局在化し、均一な浸透を仮定する調査方法が成り立たないためです。
Q. 全塩化物イオン量1.2kg/m3はどこから来た数値ですか。
A. 特定点検要領(案)の解説は「コンクリート中の鋼材の腐食が始まる全塩化物イオン量は、1.2〜2.5kg/m3程度と考えられている」として、その下限を管理目標に採っています。1.2という単一の閾値というより、幅のある値の下限を安全側に置いた運用値です。国土交通省北陸地方整備局の塩害橋梁維持管理マニュアル(案)は、この1.2kg/m3の根拠として土木学会のコンクリート標準示方書を引用しています。
Q. 塩害点検はどのくらいの頻度で行いますか。
A. 原則10年に1度です。特定点検要領(案)が「塩害点検は、原則として 10 年に1度行うものとする。」と定めており、解説では試料採取が構造物を傷つけるため頻度を抑えたと説明しています。5年に1回の定期点検とは別の周期です。条件によって間隔を5年に1回まで縮めるのがよいとする記述もあります。
Q. 塩害の橋は損傷程度の評価をdやeにするのですか。
A. 原因から評価を決めることはしません。要領は、損傷程度の評価では推定・判断を含むことなく外観として観察された事実を記録するよう求めています。塩害が疑われる場合も、記録は剥離・鉄筋露出やひびわれといった損傷種類ごとの評価で行い、原因としての塩害は特定事象の欄と健全性の診断の所見で扱います。