- 過去に補修・補強した部材は、橋本体とは別の損傷として記録します。鋼板・炭素繊維シート・ガラスクロス・塗装などの被覆材料に、うき・変形・剥離などが生じた状態が⑩補修・補強材の損傷です
- 分類は5つ。コンクリート部材向けが1鋼板・2繊維・3コンクリート系・4塗装、鋼部材向けが5鋼板(あて板等)です
- 評価区分の文言は分類ごとに違います。5分類とも使うのはa・c・eの3段ですが、cとeに書かれている状況が分類ごとに別々に定義されています
- 補強材の損傷か、橋本体の損傷か。要領は「これらについても補強材の機能の低下と捉え、橋梁本体の損傷とは区別してすべて本項目『補修・補強材の損傷』として扱う」としています
- コンクリート部材の塗装は「防食機能の劣化」では扱いません。この項目に来ます。分類4がそれです
- 分類が複数該当する場合は、すべての分類でそれぞれ評価して記録します。1つに絞る規定ではありません
- 記録様式では分類欄に値を記入する損傷の1つです。損傷が無くても、表-4.1.1 に載っている要素では「a」を書きます
- 参考資料は「補修補強材が設置されている場合、内側で損傷が進行しても外観に変化が現れにくい」と注意を促しています
点検に行くと、すでに鋼板が当てられている桁や、炭素繊維シートが巻かれた橋脚に出会います。補修済みなのだから健全、とは限りません。補修材の裏側で進む損傷は外から見えないからです。定期点検要領は、この「補修・補強した箇所そのもの」を26種類の損傷の1つとして独立に立てています。
この記事では「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の付録-3「損傷程度の評価要領」⑩と、データ記録様式の記入要領、参考資料の着目点を原文で読みます。26種類の全体像は橋梁の損傷26種類一覧、a〜eという評価そのものの考え方は損傷程度の評価(a〜e)とは?で扱っています。
補修した箇所を、独立した損傷として立てる
まず定義です。
「鋼板、炭素繊維シート、ガラスクロスなどのコンクリート部材表面に設置された補修・補強材料や塗装などの被覆材料に、うき、変形、剥離などの損傷が生じた状態をいう。また、鋼部材に設置された鋼板(あて板等)による補修・補強材料に、腐食等の損傷が生じた状態をいう。」(付録-3 ⑩ 一般的性状・損傷の特徴)
対象は後から付け足したものです。橋が造られたときからある部材ではなく、維持管理の過程で設置された補修・補強材と被覆材料。それらに生じた損傷を、母材の損傷とは別枠で記録します。
この立て方には理由があります。補修材が壊れているということは、補修の効果が失われつつあるということです。母材の健全性とは別に、打った手が効いているかどうかを追う必要があります。
分類は5つ。材料と母材で分かれる
要領は補修・補強材を5つに分類しています。前半4つがコンクリート部材向け、5つ目が鋼部材向けです。
| 分類 | 補修・補強材料 | 設置される母材 |
|---|---|---|
| 1 | 鋼板 | コンクリート部材 |
| 2 | 繊維 | |
| 3 | コンクリート系 | |
| 4 | 塗装 | |
| 5 | 鋼板(あて板等) | 鋼部材 |
分類1と分類5はどちらも鋼板ですが、貼る相手が違えば別の分類です。コンクリート部材の表面に設置した鋼板は分類1、鋼部材にボルトで当てたあて板は分類5になります。分類2の「繊維」は炭素繊維シートやガラスクロスを指します。
見落としやすいのが分類4の塗装です。塗装というと防食を思い浮かべますが、要領は「⑤防食機能の劣化」の側で明確に線を引いています。
「コンクリート部材の塗装は、対象としない。『補修・補強材の損傷』として扱う。」(付録-3 ⑤防食機能の劣化 他の損傷との関係)
つまり鋼部材の塗装は⑤防食機能の劣化、コンクリート部材の塗装は⑩補修・補強材の損傷という振り分けです。母材が何であるかで書く欄が変わります。鋼部材側の扱いは防食機能の劣化とは?腐食との違いと分類1〜3にまとめています。
同じ考え方は「⑲変色・劣化」の注記にも出てきます。
「ここでの分類は部材本体の材料・材質によるものであり、被覆材料は対象としていない。部材本体が鋼の場合の被覆材料は『防食機能の劣化』、コンクリートの場合の被覆材料は『補修・補強材の損傷』として扱う。」(付録-3 ⑲変色・劣化 分類の注記)
評価区分の文言は分類ごとに違う
5分類ともa・c・eの3段で、bとdは「-」です。ただしcとeに書かれている一般的状況が分類ごとに別々に定義されています。ここが他の損傷と違う点です。
| 分類 | c の一般的状況 | e の一般的状況 |
|---|---|---|
| 1 鋼板 | 補修部の鋼板のうきは発生していないものの、シール部の一部剥離又は錆又は漏水のいずれかの損傷が見られる | 次のいずれか。補修部の鋼板のうきが発生/シール部分がほとんど剥離し一部にコンクリートアンカーのうきが見られ錆及び漏水が著しい/コンクリートアンカーに腐食/一部のコンクリートアンカーにうき |
| 2 繊維 | 補強材に一部のふくれ等の軽微な損傷。又は、補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が生じている | 補強材に著しい損傷がある、又は断裂している。又は、補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が大量に生じている |
| 3 コンクリート系 | 補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が生じている。又は、補強材に軽微な損傷がある | 補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が大量に生じている。又は、補強材に著しい損傷がある |
| 4 塗装 | 塗装の剥離が見られる | 塗装がはがれ、補強されたコンクリート部材に錆汁が認められる又は漏水や遊離石灰が大量に生じている |
| 5 鋼板(あて板等) | 鋼板(あて板等)に軽微な損傷(防食機能の劣化、一部の腐食、一部ボルトのゆるみ等)が見られる | 鋼板(あて板等)に著しい損傷(全体の腐食、多くのボルトのゆるみ、亀裂等)が見られる |
読み比べると、判断の軸が分類ごとに違うことが分かります。
- 分類1は「うき」が分かれ目。うきが無くシール部の異常だけならc、うきが出たらe。コンクリートアンカーの状態も見ます
- 分類2・3は補強材の損傷と、母材から出る水の量の両方を見ます。「軽微/著しい」と「生じている/大量に生じている」の2軸が並列に置かれています
- 分類4は錆汁の有無。塗装が剥がれただけならc、剥がれて母材に錆汁が出ていればe
- 分類5は損傷の広がり。一部の腐食・一部のボルトのゆるみならc、全体の腐食・多くのボルトのゆるみ・亀裂ならe
分類5の記述には「防食機能の劣化」「腐食」「ゆるみ」「亀裂」という他の損傷の名前が、あて板の状態を説明する言葉として出てきます。あて板でそれらを見つけても、書く欄はこの⑩です。次の節がその根拠です。
本体の損傷と、どちらで書くか
要領の【他の損傷との関係】に4つのルールが並んでいます。
「補強材の損傷は、材料や構造によって様々な形態が考えられる。また、漏水や遊離石灰など補強されたコンクリート部材そのものの損傷に起因する損傷が現れている場合もあり、これらについても補強材の機能の低下と捉え、橋梁本体の損傷とは区別してすべて本項目『補修・補強材の損傷』として扱う。」
原因が母材側にあっても、補強材のところに現れているならこの項目、という整理です。残る3つは分類ごとの例外と確認です。
- 分類3でひびわれや剥離・鉄筋露出などの損傷が生じている場合には、それらの損傷としても扱う(この項目だけでは終わらない)
- 分類4は「防食機能の劣化」としては扱わない
- 分類5において、鋼部材に設置された鋼板(あて板等)の損傷はこの項目のみで扱い、例えば「防食機能の劣化」や「腐食」では扱わない。一方、鋼板(あて板等)の損傷に伴い本体にも損傷が生じている場合は、本体の当該損傷でも扱う
整理すると、分類5は「あて板の損傷はこの項目だけ、ただし本体にも損傷があればそちらも書く」、分類3は「補修材のコンクリートに出たひびわれ等はこの項目に加えてひびわれ等でも書く」となります。どちらも「1つに絞る」ではなく「どこに書くかを間違えない」ための規定です。鋼部材側の各損傷の評価は鋼部材の腐食・亀裂・破断とは?、コンクリート側は漏水・遊離石灰、剥離・鉄筋露出とは?にまとめています。
複数の分類が該当したら、全部書く
評価区分の表の末尾に、短い注記があります。
「注)分類が複数該当する場合には、すべての分類でそれぞれ評価して記録する。」
1つの要素に鋼板とコンクリート系の両方が施されていれば、分類1で1つ、分類3で1つ、合わせて2つの記録になります。代表的な1つを選ぶのではありません。
この「複数あれば全部」という書き方は、他の損傷でも出てきます(損傷パターン番号とは?の同一要素に複数のパターンがある場合の扱いと同じ思想です)。補修の履歴が重なっている橋ほど記録の件数は増えます。
記録様式では「分類」欄が要る
データ記録様式の記入要領は、損傷の種類ごとにどの欄を埋めるかを指定しています。⑩は分類欄を書く側です。
「損傷の種類が『防食機能の劣化』、『支承部の機能障害』、『その他』、『補修・補強材の損傷』、『定着部の異常』、『変色・劣化』の場合、分類欄に値を記入する。」(データ記録様式の記入要領 留意事項②)
つまり記録には評価(a〜e)だけでなく、どの分類の補修・補強材かという番号が並びます。1〜5のどれかです。分類を書かなければ、後から見た人はそれが鋼板なのか繊維なのか塗装なのか分かりません。
様式の項目説明では、損傷パターンを記入するのは「亀裂」「ひびわれ」「床版ひびわれ」「舗装の異常」「支承部の機能障害」「定着部の異常」の場合のみ、とされています。一方、同じ記入要領の留意事項①は「『亀裂』、『ひびわれ』、『床版ひびわれ』、『舗装の異常』、『支承部の機能障害』、『補修補強材の損傷』、『定着部の異常』の場合、損傷パターン番号を記入する」と書いており、こちらには補修補強材の損傷が入っています。付録-3 の⑩には損傷パターンの区分表そのものが置かれていません。実際の記入は、道路管理者の運用と使用する電子データの様式に従ってください。
損傷が無い要素にも「a」が入る
記入要領の留意事項④は、損傷が見つからなかった場合の扱いを定めています。要領が挙げている例に、⑩はそのまま登場します。
「例えば、鋼製主桁において、損傷が⑤防食機能の劣化のみ『c』であった場合、同表に示される残りの損傷(②亀裂、③ゆるみ・脱落、④破断、⑩補修・補強材の損傷、⑬遊間の異常、⑱定着部の異常、⑳漏水・滞水、㉑異常な音・振動、㉒異常なたわみ、㉓変形・欠損)に『a』を記入する。」
したがって鋼製主桁のように表-4.1.1 に⑩が並んでいる要素では、補修・補強材が設置されていなくても評価欄が空にはなりません。この例外は同じ留意事項に書かれています。
「ただし、当該要素において明らかに対象外である損傷種類(例えば、ボルトが使われていない要素での③ゆるみ・脱落)では、『NA』とする。」
また、まったく損傷がない要素は損傷の種類を「NON」、損傷程度を「a」として入力します。調書の書き方の全体像は点検調書の書き方、写真と根拠の残し方は様式その2の写真と損傷程度の評価根拠で扱っています。
外観に出ないことを前提に見る
要領の参考資料は、補修補強材が設置された箇所の着目点を挙げています。
「補修補強材が設置されている場合、内側で損傷が進行しても外観に変化が現れにくい。」「鋼板や炭素繊維シートや剥落防止材などの補修補強材が設置されている場合、内部に水が浸入すると、母材と補修補強材の接合部に急速に劣化が進行することや、これらの劣化が広範囲にわたることがある。」
床版についても同趣旨の記述があります。「補修補強材に異常が現れた場合には既に床版の劣化が深刻化していたり、補修補強効果が失われている危険性もあるため注意が必要である」。つまり補修材の表面に何か出ている時点で、内側はもっと進んでいる可能性があるという読み方です。
備考として2つの手当てが挙げられています。
- 「補修補強材が設置されている場合にもハンマーによる打音や触診を行うことが有効な場合もある。」表面が覆われていても、うきは打音で拾えることがあります
- 「補修補強材が設置されている場合、過去に損傷等が存在していた可能性があるため、事前に過去の補修履歴や経緯を調べることも有効である。」現地に行く前の準備の話です
2つ目は台帳の使い方に直結します。補修材があるということは、そこに損傷があったということです。何をどう直したかが分かれば、見るべき場所が絞れます。台帳側の整備状況は橋梁台帳とは?、近接目視で求められる距離と範囲は近接目視とは?にまとめています。
よくある質問
Q. コンクリート橋脚に塗ってある塗装が剥がれています。「防食機能の劣化」で書けばよいですか。
A. いいえ。⑤防食機能の劣化の【他の損傷との関係】に「コンクリート部材の塗装は、対象としない。『補修・補強材の損傷』として扱う」と明記されています。⑩の分類4として記録します。
Q. 鋼桁に当てたあて板が錆びています。「腐食」でも書くのですか。
A. 書きません。要領は「分類5において、鋼部材に設置された鋼板(あて板等)の損傷は、この項目のみで扱い、例えば『防食機能の劣化』や『腐食』では扱わない」としています。ただし「鋼板(あて板等)の損傷に伴い本体にも損傷が生じている場合は、本体の当該損傷でも扱う」ともあるので、母材側に損傷があればそちらは別に記録します。
Q. 1つの要素に鋼板と繊維の両方が使われています。どちらで評価しますか。
A. 両方です。評価区分表の注記に「分類が複数該当する場合には、すべての分類でそれぞれ評価して記録する」とあります。代表の1つを選ぶ規定ではありません。
Q. 補強材そのものは無傷ですが、補強したコンクリート部材から漏水があります。評価はaでよいですか。
A. 分類2・3ではaになりません。分類2のcは「補強材に、一部のふくれ等の軽微な損傷がある。又は、補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が生じている」、分類3のcは「補強されたコンクリート部材から漏水や遊離石灰が生じている。又は、補強材に軽微な損傷がある」で、母材からの漏水そのものがcの一般的状況に含まれています。
Q. 補修・補強材が設置されていない要素では、評価欄を空けてよいですか。
A. 空けません。記入要領は表-4.1.1 に示されている損傷について評価(a〜e)を記入するとしており、鋼製主桁の例に⑩が挙げられています。損傷がなければ「a」です。当該要素で明らかに対象外の損傷種類だけが「NA」になります。
Q. 補修材の上からでは中が見えません。どう点検しますか。
A. 参考資料は「補修補強材が設置されている場合にもハンマーによる打音や触診を行うことが有効な場合もある」「事前に過去の補修履歴や経緯を調べることも有効である」の2点を挙げています。外観だけで判断せず、打音・触診と補修履歴を併せて見る前提です。
出典・適用範囲
本文の版・記述・数値を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は本文の表記に合わせています。
- 国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月) — 参照箇所:付録-3 損傷程度の評価要領 ⑩補修・補強材の損傷(分類1〜5の一覧/一般的性状・損傷の特徴/他の損傷との関係の4項/分類ごとのa・c・eの一般的状況/分類が複数該当する場合の注記)/同 ⑤防食機能の劣化 他の損傷との関係(コンクリート部材の塗装の扱い)/同 ⑲変色・劣化 分類の注記(被覆材料の振り分け)/データ記録様式の記入要領(損傷パターン欄と分類欄の対象となる損傷の種類、留意事項①②④、NAとNONの扱い)/参考資料の着目点(補修補強材が設置されている場合の外観と打音・触診、補修履歴の事前確認、床版の記述)。
- 国土交通省「道路:道路の老朽化対策」 — 参照箇所:橋梁定期点検要領(令和6年7月)の掲載状況。
原典リンク確認:2026年9月19日。本記事は損傷の区分と記録方法を確認するための実務解説で、個別の橋の損傷程度の評価や健全性の診断の区分を判断するものではありません。要領は改定されることがあります。評価にあたっては、その時点の最新版と各道路管理者の運用をご確認ください。