令和6年3月の道路橋定期点検要領(技術的助言)の改定で、橋の状態の把握は「近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法」により行うことが明文化されました。画像計測やドローンなどの点検支援技術が、制度のうえでも現実の選択肢になったということです。

そこで実務上の問いになるのが、「同等の評価が行える」かどうかをどう確認するかです。その拠り所となるのが、国土交通省が取りまとめている「点検支援技術性能カタログ」です。本記事では、カタログの位置づけと経緯、掲載情報の読み方、実務での技術選定の手順、そして毎年の更新に追従する運用までを整理します。

この記事の要点
  • 点検支援技術性能カタログは、点検支援技術の標準的な性能項目(性能値・適用条件等)を国土交通省が取りまとめたカタログ
  • 平成31年2月の初版以降、毎年度の公募をふまえて更新・拡充。令和7年4月版で計375技術、最新は令和8年3月版
  • 令和6年3月の定期点検要領改定で「近接目視と同等の評価が行える他の方法」が明文化され、その性能確認の拠り所として重要性が増した
  • カタログ掲載は国の性能保証ではない。使うかどうか・どう使うかは道路管理者・点検技術者の判断

点検支援技術性能カタログとは

点検支援技術性能カタログとは、国土交通省が、橋梁・トンネル等の点検に活用可能な点検支援技術について、標準的な性能項目(性能値・適用条件等)を点検技術者が確認できるよう取りまとめたカタログです。対象となる技術は、画像計測技術、非破壊検査技術、計測モニタリング技術、データ収集通信技術など多岐にわたります。

経緯としては、平成31年(2019年)2月に「点検支援技術性能カタログ(案)」として初版が公表され、以降、毎年度の公募をふまえて更新・拡充が続けられています。令和7年4月版では60技術が追加され、橋梁・トンネル・舗装・道路巡視をあわせて計375技術が掲載されました。本記事執筆時点(2026年7月)の最新版は令和8年3月版(橋梁・トンネル)です。版ごとに掲載数・掲載技術は変わるため、正確な掲載数と最新の技術一覧は必ず原典をご確認ください。

出典:国土交通省「点検支援技術性能カタログ」掲載ページ(https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/inspection-support/)。掲載数・掲載技術は版により異なります。

なぜ重要性が増したのか:令和6年3月の定期点検要領改定

カタログ自体は平成31年から存在していましたが、その重要性が大きく増した契機は、令和6年3月27日付で行われた道路橋定期点検要領(技術的助言)の改定です。この改定は、3巡目の定期点検(令和6年度〜令和10年度)の開始に合わせて行われました。

改定前の要領では、状態の把握は「近接目視により行うことを基本」とされていました。改定後は「近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法」により情報を収集すると改められ、点検支援技術の活用が制度上明確に位置づけられました。背景には、点検技術者の不足や新技術の未活用といった、点検の負担に関する課題があります。

ここで実務の論点になるのが、ある技術が「同等の評価が行える」かどうかを何で確認するかです。その確認の拠り所となるのが、標準的な性能項目に沿って各技術の性能値・適用条件を確認できる性能カタログです。要領のもとで点検支援技術を使う際は、カタログで性能を確認したうえで採否を判断する、という流れが基本形になります。改定内容の全体像は「【令和6年3月改定】道路橋定期点検要領の変更点まとめ」で解説しています。

出典:国土交通省「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)(https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/tenken/yobo7_6.pdf

掲載情報の読み方:技術区分・性能値・適用条件

技術区分ごとに得意分野が異なる

カタログに掲載される点検支援技術は、大きく次のような区分に整理されています。まず自分の目的がどの区分に対応するかを押さえると、探しやすくなります。

技術区分概要(一般的な用途)
画像計測技術カメラ・ドローン等で取得した画像から、ひび割れ等の表面の損傷の状態を把握する
非破壊検査技術対象を壊さずに、外観からは分からない内部の状態を調べる
計測モニタリング技術変位・振動等を計測し、構造物の状態を継続的に監視する
データ収集通信技術点検で得たデータの収集・伝送・管理を支援する

性能値は「適用条件」とセットで読む

カタログの中心情報は、標準的な性能項目に沿って記載された各技術の性能値と適用条件です。性能値は単体では判断材料になりません。その値がどのような条件のもとで成立するのか(対象とする損傷や部材、環境・運用上の前提など)を必ずセットで確認し、自らの現場条件に当てはまるかを照合します。同じ区分の技術でも、適用条件が合わなければ期待した性能は得られません。

掲載=国の性能保証ではない

注意すべきは、カタログへの掲載が、国がその技術の性能を保証するものではないという点です。カタログは、標準的な性能項目で各技術の性能値を確認できるようにするための仕組みであり、掲載された性能値を確認して使うかどうか・どう使うかは、道路管理者・点検技術者の判断に委ねられています。点検支援技術を使う場合でも、健全性の診断を「必要な知識及び技能を有する者」が行うという枠組みは変わりません。

技術選定の手順:現場条件の整理から本格導入まで

カタログを実務で使う際は、次のステップで進めると判断がぶれにくくなります。

1
現場条件の整理

対象橋梁の橋長・構造形式、桁下条件(河川・道路等)、交通規制の可否、把握したい損傷の種類など、技術に求める条件を先に洗い出します。

2
候補技術の絞り込み

技術区分(画像計測・非破壊検査など)から、目的に対応する区分の技術を候補として抽出します。

3
性能値・適用条件の確認

候補技術の性能値と適用条件をカタログで確認し、手順1で整理した現場条件に当てはまるかを照合します。

4
小規模試行

条件の合う少数の橋で試行し、得られる成果品の品質・工数・従来手法との差を検証します。

5
本格導入

試行結果をふまえて発注仕様や社内標準に反映し、適用範囲を段階的に広げます。

特に画像計測技術(AIひび割れ検出など)を検討する場合は、適合率・再現率といった精度指標の読み方と、技術者による確認の設計が試行段階の鍵になります。詳しくは「AIひび割れ検出の「精度」の見方と技術者確認の設計」をご覧ください。

更新への追従:毎年春の更新をチェックする運用

カタログは毎年度の公募をふまえて更新・拡充されるため、「一度確認して終わり」にはできません。実際に、令和7年4月版では60技術が追加され、令和8年(2026年)春にも令和8年3月版として拡充が発表されています。担当者の個人的な情報収集に頼らず、組織の運用に組み込むことをおすすめします。

  • 年度初め(春)にカタログの最新版を確認する担当とタイミングを決めておく
  • 発注仕様書や社内標準では「点検支援技術性能カタログ(令和8年3月版)」のように版を明記し、どの版に基づく確認かを特定できるようにする
  • すでに使用している技術についても、新しい版での掲載状況・性能項目の変化を確認する

版の特定は、受発注間の認識合わせにも、後から採用判断の根拠を説明する際にも効きます。小さな運用ルールですが、技術活用の説明責任を支える土台になります。

この記事の結論

性能カタログは「近接目視と同等の評価が行える方法」を確認する拠り所であり、掲載=国の性能保証ではありません。性能値は適用条件とセットで読み、参照する版(令和8年3月版など)を明記して毎年春の更新に追従する運用が実務の要点です。

よくある質問

カタログに掲載された技術は、国が性能を保証したものですか?

いいえ。カタログへの掲載は国による性能保証ではありません。標準的な性能項目に沿って性能値・適用条件を確認できるよう取りまとめたものであり、使うかどうか・どう使うかは道路管理者・点検技術者の判断に委ねられています。

点検支援技術性能カタログの最新版はどれですか?

本記事執筆時点(2026年7月)では令和8年3月版(橋梁・トンネル)が最新です。令和7年4月版では計375技術が掲載されました。毎年度更新されるため、最新の版と掲載数は国土交通省の掲載ページでご確認ください。

カタログ掲載技術を使えば近接目視は不要になりますか?

一律に不要になるわけではありません。令和6年3月改定で「近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法」が明文化されましたが、同等の評価が行えるかどうかは、性能値・適用条件をふまえた道路管理者・点検技術者の判断によります。