橋梁の損傷26種類のうち、㉓変形・欠損はいちばん見つけやすい損傷です。部材がへこんでいる、欠けている。写真を見れば誰でも分かります。

それなのに調書を書く段になると迷います。ぶつけられた痕は㉓でよいのか、コンクリートが欠けて鉄筋が見えていたら⑦剥離・鉄筋露出ではないのか、原因が分からないまま㉓と書いてよいのか。判断が分かれるのは、見え方ではなくどの欄に書くかのほうです。

この記事では、橋梁定期点検要領(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の本文・付録-1・付録-3の原文で、㉓変形・欠損の定義、評価区分、他の損傷との重ね方、記録の書き方を整理します。

この記事の要点
  • 定義に「その原因にかかわらず」と明記されている。26種類で原因を問わないと書かれているのは㉓だけ
  • 評価はa・c・eの3段。b・dは「-」で、cとeを分けるのは「著しく」の1語だけ
  • コンクリートの剥離・鉄筋露出、鋼部材の亀裂・破断とは「どちらか」ではなく「両方に書く」
  • 表-4.1.1に現れる回数は26種類の中で最多。上部構造から添架物まで橋の全域に及ぶ
  • 損傷が無い要素でも評価欄には「a」が入る。対象外なら「NA」、無損傷の要素は「NON」
  • 損傷パターン番号も分類番号も使わないため、様式に残るのは1文字だけ。根拠は損傷図と写真の側にある

定義に「その原因にかかわらず」と書いてある

付録-3「損傷程度の評価要領」の㉓変形・欠損は、一般的性状をこう定めています。

「車の衝突や施工時の当てきず,地震の影響など,その原因にかかわらず,部材が局部的な変形を生じている状態,又はその一部が欠損している状態をいう。」

原因の例を3つ挙げたうえで、「その原因にかかわらず」と続けています。付録-3の26項目を通して読むと、この書き方は㉓だけです。①腐食は錆の進行、②亀裂は疲労、⑥ひびわれは発生原因ごとの損傷パターン番号というように、他の損傷は原因や現象と結びついた説明を持っています。㉓は現象の側からではなく、結果の形(局部的な変形/一部の欠損)だけで定義されています。

この作りは、損傷程度の評価そのものの位置づけと整合しています。要領の第4章の解説はこう書いています。

「損傷程度の評価には,措置の必要性や部材の性能に関する工学的な見立てを入れず,観察事実を,数値区分や参考写真に適合する区分へあてはめることが求められる。」

原因を推定できなくても、変形しているという観察事実は記録できます。原因の不明さを扱うのは、所見と対策区分の判定の側です。詳細調査(S1)が要るかどうかはそちらで判断され、㉓の評価欄を空けたままにする理由にはなりません。

評価はa・c・eの3段。分けるのは「著しく」の1語

付録-3の㉓の評価区分は次のとおりです。

区分一般的状況(原文)
損傷なし
部材が局部的に変形している。又は,その一部が欠損している。
部材が局部的に著しく変形している。又は,その一部が著しく欠損している。

損傷程度の評価はaからeの5段階の枠組みですが、㉓で選べるのは3つです。⑬遊間の異常③ゆるみ・脱落と同じ3段構成で、aとeの2段しかない⑯支承部の機能障害よりは1つ多い作りです。

ただし③と決定的に違う点があります。cとeの境目に数値が無いことです。③は「一群あたり本数の5%未満/以上」という割合で分かれますが、㉓の2つの文を並べると、違いは「著しく」という1語しかありません。

「著しく」を再現できる形で残す

㉓のcとeは、点検者の見立てで分かれます。それでも要領は工学的な見立てを評価に入れるなと求めているので、実務では「どのくらい変形していたのか」を数値と写真の側に残すことになります。要領の第4章は、損傷程度の評価を行ったときはその根拠となった外観の状態を写真等で記録することとしています。へこみの深さ、欠損の範囲、部材の元の形からのずれ。次回点検で進行を比べるには、区分の1文字ではなく損傷図(その5)写真台帳の側の情報が要ります。

他の損傷と重ねて書く。どちらかを選ぶ規定ではない

㉓の【他の損傷との関係】は2項目です。

「変形・欠損以外に,コンクリート部材で剥離・鉄筋露出が生じているものは,別途,『剥離・鉄筋露出』としても扱う。」

「鋼部材における亀裂や破断などが同時に生じている場合には,それぞれの項目でも扱う。」

どちらも「としても扱う」「それぞれの項目でも扱う」という書き方です。㉓か⑦か、㉓か②かを選ぶ規定ではありません。該当する項目のすべてに記録します。

⑦剥離・鉄筋露出の側にも、対になる規定が置かれています。

「剥離・鉄筋露出とともに変形・欠損(衝突痕)が生じているものは,別途,それらの損傷としても扱う。」

㉓から見ても⑦から見ても同じ結論になるよう、両側に書かれています。コンクリート部材の個別損傷と㉓が同時に立つ典型が、この衝突痕です。

現地の状態記録する項目根拠(原文の趣旨)
桁の下フランジがへこんでいるだけ㉓のみ局部的な変形=㉓の定義そのもの
コンクリート桁の角が欠け、鉄筋が見えている㉓+⑦「別途,『剥離・鉄筋露出』としても扱う。」
鋼部材が変形し、同じ箇所に亀裂がある㉓+②「それぞれの項目でも扱う。」
鋼部材が変形し、部材が破断している㉓+④同上

なお、④破断には「ボルトやリベットの破断,折損は,『破断』ではなく,『ゆるみ・脱落』として扱う。」という別の線引きがあります。締結が壊れているのか、部材そのものが変形・欠損しているのかで、書き先が変わります。

表-4.1.1で最も多くの部材に現れる

要領の第4章 表-4.1.1「対象とする損傷の種類の標準」は、部位・部材ごとに対象となる損傷の種類を示した表です。この表で㉓変形・欠損が挙げられている箇所を数えると、26種類の中で最も多くなります(本記事で令和6年7月版の表を数えたところ34か所。次に多い⑲変色・劣化が20か所、㉑異常な音・振動が19か所)。

損傷の種類表-4.1.1に現れる箇所数(本記事の集計)
㉓ 変形・欠損34
⑲ 変色・劣化20
㉑ 異常な音・振動19
⑳ 漏水・滞水17
④ 破断 / ⑦ 剥離・鉄筋露出16
① 腐食 / ⑤ 防食機能の劣化 / ⑬ 遊間の異常15

理由は定義の広さです。「局部的な変形」「一部の欠損」は材料も部位も選びません。表の中で㉓は、主桁・横桁・縦桁・床版といった上部構造から、橋台・橋脚の各部位、支承本体・アンカーボルト・落橋防止システム、高欄・防護柵・地覆・中央分離帯、伸縮装置、遮音施設・照明施設・標識施設、排水施設、そして点検施設・添架物まで、鋼・コンクリート・その他の3つの材料区分をまたいで現れます。

部材単位の判定を組み立てるとき、㉓はほとんどの要素で評価欄に登場する項目になります。添架物小規模附属物のように、本体構造とは別の管理者が関わる部材でも同じです。

損傷が無くても評価欄には「a」が入る

㉓の対象範囲の広さは、記録様式にそのまま効いてきます。付録-1「定期点検結果の記入要領」の留意事項は、こう定めています。

「全ての要素において,第4章表-4.1.1に示されている損傷に対して,点検した結果を確実に残すため,損傷程度の評価(a~e)を記入する。例えば,鋼製主桁において,損傷が⑤防食機能の劣化の劣化のみ『c』であった場合,同表に示される残りの損傷(②亀裂,③ゆるみ・脱落,④破断,⑩補修・補強材の損傷,⑬遊間の異常,⑱定着部の異常,⑳漏水・滞水,㉑異常な音・振動,㉒異常なたわみ,㉓変形・欠損)に『a』を記入する。」

要領が挙げた例の末尾に㉓が入っています。見て何も無かったことを「a」で残すのがこの規定の趣旨で、空欄は「点検していない」と読まれてしまうためです。

続けて例外が2つ定められています。

記入意味原文の定め
見たが損傷が無かった表-4.1.1の損傷に対して評価を記入する
NAその要素では明らかに対象外「当該要素において明らかに対象外である損傷種類(例えば,ボルトが使われていない要素での③ゆるみ・脱落)では,『NA』とする。」
NON(損傷の種類)+aその要素に損傷がまったく無い「全く損傷がない要素にあっては,損傷の種類を『NON』,損傷程度を『a』として入力する。」

㉓は、この3つのうち「NA」になりにくい損傷です。ボルトが使われていない要素では③がNAになりますが、部材がある以上そこが変形・欠損する可能性は残るため、㉓を「明らかに対象外」と言い切れる要素はほとんどありません。道路橋記録様式へ登録するときに、㉓の欄が全要素で埋まるのはこのためです。

記録様式に残るのは1文字だけ

付録-1のデータ記録様式(その3-3)は、損傷1件ごとに「損傷程度の評価」「損傷パターン」「分類」の欄を持ちます。ただし、後ろの2つには記入する損傷種類が限定されています。

記入する損傷の種類(原文)㉓は該当するか
損傷パターン「亀裂」「ひびわれ」「床版ひびわれ」「舗装の異常」「支承部の機能障害」「補修補強材の損傷」「定着部の異常」該当しない
分類「防食機能の劣化」「支承部の機能障害」「その他」「補修・補強材の損傷」「定着部の異常」「変色・劣化」該当しない

㉓はどちらのリストにも入りません。様式に残るのは、a・c・eのいずれか1文字だけです。床版ひびわれのようにパターン番号で状況を絞り込める損傷とも、⑱定着部の異常のように分類番号で内容を分けられる損傷とも違います。

だからこそ、㉓では損傷図と写真の役割が重くなります。同じ「c」でも、車がこすった地覆の欠けと、地震で曲がった上横構では意味がまったく違うためです。所見に何を書くかは様式3の書き方に、損傷図の描き方は損傷図(その5)にそれぞれ規定があります。

次回点検で比較できる形にする

㉓の記録が1文字である以上、進行の判断は前回の写真との比較に頼ることになります。要領は、写真は損傷の発生時期や変化を客観的に把握するために定期点検間で比較されることを想定していると述べ、記録作業を支援する機器を使う場合は外観の再現能力が明らかでないと比較・考察が困難になるとして、適用性や誤差程度を現地でキャリブレーションして記録しておくのがよいとしています。撮影位置と縮尺が毎回変われば、へこみが進んだのか撮り方が変わったのかを切り分けられません。点検記録の保存は、この比較のために効いてきます。

参考資料が挙げる変形・欠損の起こり方

要領の参考資料2「道路橋の損傷事例」は、㉓変形・欠損について複数の事例を挙げています。一般的性状の説明は「車両や船舶の衝突などにより、部材が局部的に欠損したり変形している状態」で、付録-3より原因の例が具体的です。

起こり方参考資料に書かれている留意点(趣旨)
車両の衝突・部材同士の干渉部材に大きな変形や欠損が見られる場合、原因によっては当該部位以外にも様々な変状が生じていることがある
洪水・津波時の漂流物の衝突部位・部材によっては構造安全性に大きな影響が生じている場合もある
地震時の水平力上横構など横方向の部材に変形や破断が生じることがあり、地震の影響に対して耐荷力が低下している場合もある
下路橋への車両・積載物の衝突部材の変形や破断を生じることがあり、部位・部材によっては構造安全性に大きな影響が生じている場合もある
支点の移動アーチリブに顕著な変形が生じ、アーチリブ軸線の異常が生じている場合は、他の損傷も発生している可能性がある

5つに共通しているのは、変形・欠損が単独では終わらないという指摘です。当該部位以外の変状、構造安全性への影響、耐荷力の低下、他の損傷の併発。㉓の評価区分は外観の記録に徹していますが、参考資料の側は「その変形が何の結果か」を疑う視点を求めています。

とくに地震と支点移動の2つは、㉕沈下・移動・傾斜㉒異常なたわみと同じ現場で立つ可能性があります。部材1つの変形として㉓に「c」と記録しつつ、橋全体の挙動として何が起きているかは所見の側で扱う、という二段構えになります。

要領は参考資料の位置づけについて、これらは技術情報をまとめたものであり、記載の事項のみを考慮すればよいということではなく、参考資料を基準のごとく扱ってはならないと注意しています。損傷の判断の根拠は本文と付録に置き、参考資料は着眼点として使うのが要領の想定です。

出典:国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)本文・付録-1「定期点検結果の記入要領」・付録-3「損傷程度の評価要領」・参考資料2「道路橋の損傷事例」。引用は原文の表記に従いました。表-4.1.1の箇所数は本記事で同版の表を集計したもので、要領が示している数値ではありません。最新の要領・様式は必ず原典をご確認ください。

なお、ここで引用したのは直轄の橋梁定期点検要領です。国土交通省が地方公共団体向けに示している道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)とは位置づけが異なります。2つの要領の違いを踏まえ、実際の業務では各道路管理者が採用している要領の版をご確認ください。

よくある質問

変形・欠損は、原因が分からなくても記録してよいのですか。

要領はむしろ原因を問わないと書いています。付録-3の一般的性状は「車の衝突や施工時の当てきず,地震の影響など,その原因にかかわらず,部材が局部的な変形を生じている状態,又はその一部が欠損している状態をいう。」と定めています。26種類の中で「その原因にかかわらず」と明記されているのは㉓だけです。損傷程度の評価は外観という客観事実の記録なので、原因の推定が付かないことは記録を止める理由になりません。原因の不明さは、所見と対策区分の判定の側で扱います。

変形・欠損の評価は何段階ありますか。

実際に使えるのは3段です。付録-3の区分表はa「損傷なし」、c「部材が局部的に変形している。又は,その一部が欠損している。」、e「部材が局部的に著しく変形している。又は,その一部が著しく欠損している。」で、bとdは「-」です。cとeを分けるのは「著しく」の1語だけで、数値の境目は置かれていません。⑬遊間の異常と同じ3段構成です。

コンクリート部材が欠けていて鉄筋が見えている場合、㉓と⑦のどちらで書きますか。

両方に書きます。付録-3の㉓の【他の損傷との関係】に「変形・欠損以外に,コンクリート部材で剥離・鉄筋露出が生じているものは,別途,『剥離・鉄筋露出』としても扱う。」とあり、⑦剥離・鉄筋露出の側にも「剥離・鉄筋露出とともに変形・欠損(衝突痕)が生じているものは,別途,それらの損傷としても扱う。」と書かれています。どちらを選ぶかではなく、両方の項目に記録する規定です。

鋼部材が変形していて亀裂も入っている場合はどうしますか。

こちらも両方です。㉓の【他の損傷との関係】は「鋼部材における亀裂や破断などが同時に生じている場合には,それぞれの項目でも扱う。」と定めています。②亀裂・④破断は鋼部材の損傷として別に評価区分を持っているため、㉓に吸収させずにそれぞれ記録します。

損傷が無い要素にも、変形・欠損の評価欄を埋めるのですか。

埋めます。付録-1の記入方法は「全ての要素において,第4章表-4.1.1に示されている損傷に対して,点検した結果を確実に残すため,損傷程度の評価(a~e)を記入する。」と定め、鋼製主桁で防食機能の劣化だけがcだった場合の例として、残る損傷に㉓変形・欠損を含めて「a」を記入すると示しています。ただし当該要素で明らかに対象外の損傷種類は「NA」、まったく損傷がない要素は損傷の種類を「NON」・損傷程度を「a」として入力します。

変形・欠損では、損傷パターン番号や分類番号を書きますか。

どちらも書きません。付録-1の留意事項は、損傷パターン番号を記入するのは「亀裂」「ひびわれ」「床版ひびわれ」「舗装の異常」「支承部の機能障害」「補修補強材の損傷」「定着部の異常」の場合、分類欄に値を記入するのは「防食機能の劣化」「支承部の機能障害」「その他」「補修・補強材の損傷」「定着部の異常」「変色・劣化」の場合と限定しています。㉓はどちらのリストにも入っていないため、記録様式に残るのはa・c・eの1文字だけになります。