床版下面のひびわれを前にして、クラックスケールで幅を測り、間隔を測り、それでも評価がaからeのどこに落ちるのか決めきれない、ということが起こります。原因は測り方ではなく、この損傷の区分表が他の損傷と違う形をしていることにあります。
橋梁定期点検要領の損傷程度の評価要領は、26の損傷種類ごとに区分表を持っています。そのなかで床版ひびわれの表だけが、左右に二つのブロックを持ち、しかも「漏水・遊離石灰」の列が表の内側に入っています。つまり床版ひびわれは、幅と間隔の二つの数字だけでは決まりません。
本記事では、この区分表を原典の文言のまま追いかけ、現場でどの順に判断すれば評価が一意に決まるのかを整理します。あわせて、隣にある「抜け落ち」への切り替わり方と、eを「危険」と読み替えてはいけない理由も扱います。
- 床版ひびわれの区分表は「一方向ひびわれ」と「二方向ひびわれ」で左右に分かれ、二方向側の刻みは間隔ではなく格子の大きさで表される
- 二方向(格子状)が確認された時点で、評価にbは存在しない。最も軽くてもcから始まる
- 漏水・遊離石灰の有無が区分表そのものに入っている。二方向の場合、漏水があると格子の大きさの条件が外れてdに上がる
- 幅の閾値は0.05mm/0.1mm/0.2mmで、コンクリート部材の「ひびわれ」(RC0.2mm・0.3mm)とは別体系。床版のひびわれは「ひびわれ」としては扱わない
- コンクリート塊が抜け落ちる直前までは床版ひびわれ。落ちたら「抜け落ち」に切り替わり、そちらはaとeしかない
床版ひびわれの区分表はなぜ左右に分かれているのか
床版ひびわれは、要領の定義では「鋼橋のコンクリート床版を対象としたひびわれであり,床版下面に一方向又は二方向のひびわれが生じている状態」です。コンクリート橋のT桁橋のウェブ間(間詰め部を含む)、箱桁橋の箱桁内上面、中空床版橋および箱桁橋の張り出し部のひびわれも対象に含まれます。
ここで「一方向又は二方向」と定義に書かれていることが、そのまま区分表の形に反映されています。橋軸直角方向だけにひびわれが並んでいる状態と、橋軸方向のひびわれが加わって格子ができた状態は、進行の意味がまったく違います。そこで要領は、同じa〜eのラベルを使いながら、判定条件を左右二つのブロックに分けて書いています。
もうひとつの特徴は、「漏水・遊離石灰」の列が区分表の内側にあることです。26損傷のなかで、他の損傷の有無を自分の区分の軸に組み込んでいるのは床版ひびわれだけです。他の損傷、たとえば鋼部材の腐食は深さと面積、コンクリート部材のひびわれは幅と間隔という具合に、自分の性状だけで決まります。
a〜eの評価区分(原典の区分表)
要領の区分表を、原文の条件のまま整理したものが次の表です。一方向・二方向のどちらかに当てはめて読みます。
| 区分 | 一方向ひびわれ | 漏水・遊離石灰 | 二方向ひびわれ | 漏水・遊離石灰 |
|---|---|---|---|---|
| a | 損傷なし | なし | — | — |
| b | ひびわれは主として1方向のみ/最小ひびわれ間隔は概ね1m以上/最大ひびわれ幅は0.05mm以下(ヘアークラック程度) | なし | — | — |
| c | ひびわれは主として1方向のみ/ひびわれ間隔は問わない/ひびわれ幅は0.1mm以下が主(一部には0.1mm以上も存在) | なし | ひびわれは格子状/格子の大きさは0.5m程度以上/ひびわれ幅は0.1mm以下が主(一部には0.1mm以上も存在) | なし |
| d | ひびわれは主として1方向のみ/ひびわれ間隔は問わない/最大ひびわれ幅は0.2mm以下が主(一部には0.2mm以上も存在) | なし | ひびわれは格子状/格子の大きさは0.5m〜0.2m/ひびわれ幅は0.2mm以下が主(一部には0.2mm以上も存在) | なし |
| d | 同上(性状は同じ) | あり | ひびわれは格子状/格子の大きさは問わない/ひびわれ幅は0.2mm以下が主(一部には0.2mm以上も存在) | あり |
| e | ひびわれは主として1方向のみ/ひびわれ間隔は問わない/ひびわれ幅は0.2mm以上が目立ち、部分的な角落ちも見られる | なし | ひびわれは格子状/格子の大きさは0.2m以下/ひびわれ幅は0.2mm以上が目立ち、部分的な角落ちも見られる | なし |
| e | 同上(性状は同じ) | あり | ひびわれは格子状/格子の大きさは問わない/ひびわれ幅は0.2mm以上が目立ち、部分的な角落ちも見られる | あり |
あわせて、損傷パターンの区分として「1方向」ならパターン1、「2方向」ならパターン2の番号を記録します。区分のアルファベットとは別に、この番号も調書に残ります。
二方向が出た時点でbはない
区分表の二方向ひびわれ側を上から見ると、aとbの欄は「—」です。二方向の条件が書かれているのはcからで、最も軽い格子状の状態が「格子の大きさは0.5m程度以上/ひびわれ幅は0.1mm以下が主」のcです。
したがって、橋軸方向のひびわれが入って格子ができていることを確認したら、その要素の評価はどんなに細くてもcより軽くなりません。逆にいえば、bは「一方向のみで、最小間隔が概ね1m以上あり、最大幅が0.05mm以下のヘアークラック」という、かなり限定された状態にだけ与えられる区分です。乾燥収縮によるひびわれが橋軸直角方向にだけ並んでいる段階が、これに当たります。
この違いは、点検の現場では「格子になっているかどうか」を最初に見分けるべき理由になります。幅を先に測り始めると、一方向側の刻み(0.05mm・0.1mm・0.2mm)に引きずられて、そもそも参照すべき表の左右を間違えます。
漏水・遊離石灰があると一段上がる
床版ひびわれの区分表で最も見落としやすいのが、漏水・遊離石灰の扱いです。二方向ひびわれの欄をたどると、漏水・遊離石灰が「なし」の行では格子の大きさが刻まれている(0.5m程度以上/0.5m〜0.2m/0.2m以下)のに対し、「あり」の行ではいずれも格子の大きさは問わないと書かれています。
つまり、格子が0.5mより粗くても、漏水や遊離石灰が確認されれば、格子の大きさを根拠にcに留めることはできません。幅が0.2mm以下が主であればdの「あり」の行に当てはまります。一方向の場合も同じ構造で、幅0.1mm以下でも漏水があれば、性状の条件が同じdの「あり」の行に該当します。
この設計は、旧要領との対応表からも読み取れます。要領には「参考までに,新旧区分の対応を次表に示す。」として、平成16年要領で「床版ひびわれ」と「漏水・遊離石灰」を独立の2項目として評価していたものを、現行の1つの区分に読み替える表が載っています。そこでは、旧b(ひびわれ幅0.2mm以下)が旧漏水・遊離石灰aならc、旧漏水・遊離石灰c・d・eならdになります。漏水の有無で一段動く関係が、そのまま表になっているわけです。
注意したいのは、これが「漏水・遊離石灰を床版ひびわれに吸収して済ませてよい」という意味ではないことです。要領は「床版ひびわれからの漏水,遊離石灰,錆汁などの状態は,本項目で扱うとともに,『漏水・遊離石灰』の項目でも扱う。」と明記しています。二重に記録するのが正しい運用です(漏水・遊離石灰、剥離・鉄筋露出の見方)。
床版ひびわれは、幅と間隔を測るだけでは評価が決まりません。先に一方向か二方向かを見分け、二方向なら格子の大きさで刻み、そのうえで漏水・遊離石灰の有無を確認する。この順で見ると評価が一意に決まり、漏水を見落として一段軽く記録する事故も防げます。
「ひびわれ」と「床版ひびわれ」は幅の体系が違う
要領は、コンクリート部材の「ひびわれ」の項目に「床版に生じるひびわれは『床版ひびわれ』として扱い,『ひびわれ』としては扱わない。」という排他規定を置いています。床版下面のひびわれを、うっかり「ひびわれ」として記録してはいけません。
これは単なる項目の振り分けの問題ではなく、判定に使う数字が違います。「ひびわれ」の側は最大ひびわれ幅を大・中・小の3段階に分け、その境界は「大 ひびわれ幅が大きい(RC構造物0.3mm以上,PC構造物0.2mm以上)」「小 ひびわれ幅が小さい(RC構造物0.2mm未満,PC構造物0.1mm未満)」と定められています。最小ひびわれ間隔の側は概ね0.5mが境界です。
一方の床版ひびわれは0.05mm・0.1mm・0.2mmの3つの数字と、格子の大きさ0.5m・0.2mで刻まれます。同じ現場で同じクラックスケールを使っていても、参照する表を間違えれば評価が変わります。ひびわれの測定方法を揃えるだけでは足りず、どの項目の表を見るかまで揃える必要があります。
抜け落ちへの切り替わりと、他の損傷との重複記録
床版ひびわれの隣にある損傷が「抜け落ち」です。こちらの区分は極端で、a(損傷なし)とe(コンクリート塊の抜け落ちがある。)しかなく、b・c・dはいずれも「—」です。
両者の境目は、要領が両側から書いています。抜け落ちの側には「床版の場合には,著しいひびわれが生じていてもコンクリート塊が抜け落ちる直前までは,『床版ひびわれ』として扱う。」とあり、床版ひびわれの側には「著しいひびわれが生じ,コンクリート塊が抜け落ちた場合には,当該要素では『抜け落ち』として扱う。」とあります。塊が落ちたかどうかが分かれ目で、それ以前はどれだけ格子が細かくなっても床版ひびわれのeです。
なお抜け落ちの対象は床版だけではありません。要領は「間詰めコンクリートや張り出し部のコンクリートでは,周囲に顕著なひびわれを伴うことなく鋼材間でコンクリート塊が抜け落ちることもある。」としています。格子状のひびわれを伴わない抜け落ちもあるということです。
| 現場の状態 | 記録する損傷種類 | 根拠 |
|---|---|---|
| 床版下面に格子状のひびわれ。塊は落ちていない | 床版ひびわれ | 抜け落ちる直前までは床版ひびわれとして扱う |
| コンクリート塊が抜け落ちた | 抜け落ち(e)+床版ひびわれ | 当該要素では抜け落ちとして扱う |
| ひびわれとともに剥離・鉄筋露出がある | 床版ひびわれ+剥離・鉄筋露出 | 性状にかかわらずそれらの損傷としても扱う |
| ひびわれから漏水・遊離石灰が出ている | 床版ひびわれ+漏水・遊離石灰 | 本項目で扱うとともに漏水・遊離石灰の項目でも扱う |
| 表層が浮いている(打音で判別) | 床版ひびわれ+うき | コンクリート床版の場合も本損傷がある場合は本損傷で扱う |
| 舗装のうき・ポットホールがあり、床版上面の土砂化が疑われる | 舗装の異常(+該当する床版側の損傷) | 床版上面損傷の影響が下面にも及ぶ場合はそれぞれの項目でも扱う |
要領は床版下面の着目点として「床版下面に鋼板や炭素繊維シートや剥落防止材などが設置されている場合,内側で損傷が進行しても外観に変化が現れにくい。」とも書いています。補修補強材が入っている径間では、外から見えるひびわれの評価だけで進行を判断できないことを、記録の側に残しておく必要があります。
eは「危険」ではない:評価と診断の切り分け
床版ひびわれのeを「要補強」「通行に危険」と書き換えたくなりますが、要領の建て方はそうなっていません。損傷程度の評価の基本には「損傷程度の評価は,部材群毎の性能の概略評価や措置の必要性に直接関係づけれるものではない。」(原文のまま)とあり、続けて「記録としての客観性を確保するために,評価では,部材等の性能や措置の必要性などの観点を入れずに,観察事実を数値区分や参考写真に適合させあてはめることが求められる。」と書かれています。
a〜eは観察事実のラベルであって、判断ではありません。措置が必要かどうかは健全性の診断(判定区分I〜IV)と対策区分の側で扱われます。この切り分けを崩すと、調書のなかで観察事実と判断が混ざり、次回点検で進行を比較できなくなります(損傷程度の評価(a〜e)と健全性の診断の関係)。
関連して、疲労は要領の特定事象の1つに挙げられています。特定事象の例として並んでいるのは「1)疲労 2)塩害 3)アルカリ骨材反応(ASR) 4)防食機能の低下 5)洗掘 6)その他」で、疲労の定義は「鋼部材,コンクリート部材を対象とする。交通荷重等による繰り返し荷重を受け,亀裂やひびわれ等が生じる状態」です。コンクリート部材も明示的に対象に入っているので、床版の格子状ひびわれは特定事象「疲労」の該当を検討する対象になります。ただし要領に「床版ひびわれならば疲労に該当する」という直接の対応表はなく、該当の有無は状態から推定して記録します。
現場で判断する順番
ここまでの内容を、判断の順序に組み替えると次のようになります。
| 順 | 見ること | これで決まること |
|---|---|---|
| 1 | ひびわれが一方向のみか、格子状(二方向)か | 参照する表の左右。格子状ならbはない |
| 2 | 二方向なら格子の大きさ(0.5m程度以上/0.5m〜0.2m/0.2m以下) | c・d・eの一次の当たり |
| 3 | 一方向なら最小ひびわれ間隔(概ね1m以上か)と幅(0.05/0.1/0.2mm) | b・c・d・eの一次の当たり |
| 4 | 角落ちが部分的に見られるか | eに上げるかどうか |
| 5 | 漏水・遊離石灰があるか | 「あり」の行に移る。二方向では格子の大きさの条件が外れる |
| 6 | 剥離・鉄筋露出、うき、抜け落ちがあるか | 別項目としても記録するか、抜け落ちに切り替わるか |
| 7 | 近接目視・打音・触診ができたか | できなかった範囲と理由、代替手段の記録 |
最後の項目は調書の側の話です。床版下面は添架物や桁高の制約で近接できないことが多く、要領は近接目視や打音、触診ができなかった箇所を専用の様式に記録させます。要領の記載例にも「添架物により床版下面が目視できない。」が挙げられています。見えなかったことを空欄で済ませず、範囲と理由と代替手段を残すところまでが記録です(点検記録様式(その7)と状態把握の記録、近接目視と「同等の評価が行える他の方法」、点検調書の構成と書き方)。
よくある質問
格子状のひびわれなのに幅が細い場合、bになりますか?
なりません。区分表の二方向ひびわれ側はaとbが「—」で、条件が書かれているのはcからです。格子が確認できた時点で、最も軽くてもcになります。bは「一方向のみ/最小ひびわれ間隔が概ね1m以上/最大幅0.05mm以下」に限られた区分です。
漏水・遊離石灰があると、必ず評価が上がるのですか?
区分表の「あり」の行に移ります。二方向の場合、「あり」の行はいずれも格子の大きさを問わないと定められているため、格子が粗くても格子の大きさを根拠にcへ留めることはできません。ただし幅や角落ちの条件は残るので、機械的に一段上がると覚えるのではなく、該当する行を表で確かめてください。
床版下面のひびわれを「ひびわれ」として記録してもよいですか?
いけません。要領は「床版に生じるひびわれは『床版ひびわれ』として扱い,『ひびわれ』としては扱わない。」と定めています。幅の判定基準も別体系(床版ひびわれは0.05/0.1/0.2mm、ひびわれはRC0.2mm・0.3mm)なので、項目を間違えると評価そのものが変わります。
コンクリート塊が落ちたら、床版ひびわれは記録しなくてよいのですか?
抜け落ちた要素については「抜け落ち」として扱います。抜け落ちの区分はaとeだけで、e は「コンクリート塊の抜け落ちがある。」です。抜け落ちる直前までの状態は床版ひびわれとして扱う建て方なので、周囲のひびわれの状態は引き続き床版ひびわれとして記録します。
床版ひびわれのeは、そのまま補強が必要という意味ですか?
違います。要領は「損傷程度の評価は,部材群毎の性能の概略評価や措置の必要性に直接関係づけれるものではない。」としています。a〜eは観察事実の記録で、措置の必要性は健全性の診断と対策区分の側で判断されます。
床版下面に鋼板や繊維シートが貼られている場合はどう見ますか?
要領は着目点として「床版下面に鋼板や炭素繊維シートや剥落防止材などが設置されている場合,内側で損傷が進行しても外観に変化が現れにくい。」と挙げています。外観の評価だけで進行を判断できないため、補修補強材の設置範囲と、状態把握に用いた方法を記録に残すことが重要です。
床版ひびわれは特定事象の「疲労」に該当しますか?
特定事象の例に「疲労」があり、その定義は鋼部材とコンクリート部材の双方を対象に「交通荷重等による繰り返し荷重を受け,亀裂やひびわれ等が生じる状態」とされています。該当の有無は状態から推定して記録するもので、「床版ひびわれなら疲労」という直接の対応表は要領にはありません。