協力会社から上がってきた調書に「桁端部から異常音」とだけ書かれていて、原因の損傷が別に記録されていない——このパターンでの差し戻しは珍しくありません。逆に、亀裂として記録したから㉑は不要だろうと省いてしまう例もあります。どちらも要領の求める書き方とは違います。

損傷の26種類のうち、㉑異常な音・振動と㉒異常なたわみの2つだけは性格が違います。ほかの損傷が「どこがどうなっているか」を記録するのに対し、この2つは「橋がどう振る舞っているか」という現象を記録します。そのため記録の作法も、評価の区分も、ほかと同じにはなりません。この記事は、国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(平成31年3月)の付録-1・付録-2・付録-3から、この2つの損傷の扱いを原典の言い回しのまま整理したものです。

この記事の要点
  • ㉑と㉒は、原因となった損傷とは別に、それ自体としても記録する(二重に記録するのが要領の求める形)
  • 損傷程度の評価はaとeの2区分だけ。b・c・dは「-」で用意されていない
  • ㉑は発生時の状況(車両通過、風の強さ・向き)まで損傷図に書く。発生箇所が特定できないときの記載文言も要領が指定している
  • ㉒の対象は死荷重による垂れ下がりだけ。活荷重による一時的なたわみは「異常として評価できない」ため対象外
  • 対策区分はE1・E2・S1・S2・Mのいずれにも振れる。音の大小ではなく構造安全性と第三者への影響で分かれる

26種類のなかで2つだけ性格が違う

要領の付録-1「対策区分判定要領」は、㉑異常な音・振動の一般的性状をひとことで書いています。「通常では発生することのないような異常な音・振動が生じている状態をいう。」㉒異常なたわみも同じ形で「通常では発生することのないような異常なたわみが生じている状態をいう。」です。

ほかの損傷、たとえば①腐食や②亀裂は、部材のどこにどういう状態が出ているかで定義されています。それに対してこの2つは、状態ではなく通常と違う振る舞いを指しています。だから現場では、まず「聞こえた」「揺れた」「垂れている」という気づきから入り、そのあとで原因を探すことになります。近接目視で見つける損傷とは、発見の順序が逆です。

この性格の違いが、以降の記録の作法をすべて決めています。

出典:国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(平成31年3月)付録-1「対策区分判定要領」㉑・㉒。強調は編集部によるものです。

原因の損傷と二重に記録する

要領は「他の損傷との関係」という項を設けて、扱い方を明示しています。㉑についてはこうです。

異常な音・振動は,橋梁の構造的欠陥又は損傷が原因となり発生するものであり,それぞれが複合して生じる場合があるため,別途,それらの損傷として扱うとともに,「異常な音・振動」としても扱う。

㉒も同じ書き方で、「異常なたわみは,橋梁の構造的欠陥又は損傷が原因となり発生するものであり,それぞれが複合して生じる場合があるため,別途,それらの損傷として扱うとともに,「異常なたわみ」としても扱う。」とされています。

読み方は素直です。原因が特定できたら、その損傷種類で記録する。そのうえで㉑または㉒としても記録する。支承のゆるみが原因で音が出ているなら③ゆるみ・脱落と㉑の両方、亀裂が原因なら②亀裂と㉑の両方です。片方だけにすると、次回点検の担当者は「音は消えたのか、記録から漏れたのか」を判断できません。

ここで気をつけたいのが、対策区分の判定単位との関係です。対策区分は部材区分あるいは部位ごと、損傷種類ごとに付けるので、同じ箇所で②亀裂と㉑異常な音・振動を記録すれば対策区分も2つ付きます。数が増えること自体は誤りではありません。

評価はaとeの2区分だけ

付録-2「損傷程度の評価要領」を見ると、㉑の評価区分表はこうなっています。

区分一般的状況(㉑異常な音・振動)
損傷なし
落橋防止システム,伸縮装置,支承,遮音壁,桁,点検施設等から異常な音が聞こえる,又は異常な振動や揺れを確認することができる。

㉒も同じ構成で、aが「損傷なし」、b・c・dが「-」、eが「主桁,点検施設等に異常なたわみが確認できる。」です。

中間の段階が用意されていないので、判断は有無だけになります。「少し音がするのでc」という書き方は、そもそも区分が存在しません。損傷程度の評価(a〜e)を5段階だと思い込んで表を作ると、この2つでプルダウンが埋まらないことになります。

eの文面に列挙されている対象にも注目してください。㉑には落橋防止システム・伸縮装置・支承・遮音壁・桁・点検施設等が並んでいます。桁だけでなく、附属的な部位からの音も含む書き方です。

㉑は「発生時の状況」まで書く

付録-2の「その他の記録」が、㉑の記録の作法を決めています。

異常な音・振動の発生位置やその範囲をスケッチや写真で記録するとともに,発生時の状況(車両通過,風の強さ・向きなど)を損傷図に記載する。

音は写真に写りません。だからいつ鳴ったのかを言葉で残すことが要求されています。要領が例示しているのは車両通過と風の強さ・向きです。大型車が通ったときだけ鳴るのか、風が吹いたときに鳴るのかで、疑うべき原因が変わるためです。

そして、特定できなかった場合の書き方も指定されています。

また,発生箇所の特定に努めたものの,発生箇所が特定できない場合は,「異常を有する(発生箇所不明)」と損傷図に記載するものとする。

記載する文言そのものが要領に書かれているのは珍しい部類です。「不明」とだけ書いたり、記録を省いたりせず、この語で残します。損傷図への書き込み方は損傷図(その5)の記事で扱っています。

㉒の「その他の記録」はもう少し簡素で、「異常なたわみの発生位置やその範囲・状況をスケッチや写真で記録するとともに,必要に応じて損傷の主要寸法等を損傷図に記載するものとする。」です。たわみは形として残るため、寸法で押さえられます。

㉒は死荷重による垂れ下がりだけ

㉒でいちばん取り違えられているのが、対象の範囲です。要領は明確に線を引いています。

定期点検で判断可能な「異常なたわみ」として対象としているのは,死荷重による垂れ下がりであり,活荷重による一時的なたわみは異常として評価できないため,対象としない。

つまり記録するのは、荷重が載っていない状態で残っている垂れ下がりです。車両が通過するときに桁がたわむのは設計どおりの挙動で、㉒には当たりません。現場で「大型車が乗るとかなり下がる」という所見が出たときは、それを㉒として記録するのではなく、㉑異常な音・振動として扱えるか、あるいは原因側の損傷として扱えるかを考えることになります。

理由も理解しておくと現場で迷いません。定期点検は特定の時点で外観を見る行為なので、載荷条件が揃わない一時的な現象は、比較できる基準を持てないのです。付録-1が「判断可能な」という限定を付けているのはそのためです。

対策区分は状況で大きく振れる

損傷程度が2区分しかない一方で、対策区分のほうはほぼ全域に振れます。付録-1が挙げている㉑の例を並べます。

判定区分要領が挙げている状況の例
E2車両の通過時に大きな異常音が発生し,近接住民に障害を及ぼしている懸念がある状況など
S1・S2原因不明の異常な音・振動が発生しており,発生源や原因を特定できない状況など
添架物の支持金具のゆるみによるビビリ音があり,その規模が小さい状況など

同じ「音がする」でも、近接住民への影響があればE2、原因が分からなければS1・S2、小さなビビリ音なら維持工事のMです。判断軸は音量そのものではなく、構造安全性と第三者への影響、そして原因が特定できているかどうかです。第三者被害の予防の観点が直接効いてくる損傷でもあります。

㉒についてはE1の例が挙がっています。「主桁にたわみが発生し,構造機能の喪失によって構造安全性を著しく損なう状況など」です。S1・S2の例は「コンクリート桁の支間中央部が垂れ下がっており,原因を特定できない状況など」とされています。

付録-1は㉑の「所見を記載する上での参考」として、損傷箇所を鋼部材全般、代表的な損傷原因の例を走行車両による振動、懸念される構造物への影響の例を亀裂の主部材への進行および応力集中による亀裂への進展としています。音や振動を放置したときに何が起きるのかを、要領は亀裂の進展として説明しています。

鋼橋で着目する箇所と、書き漏らしの防ぎ方

付録-1の「損傷の主な着目箇所」には、鋼橋で重点的に見る箇所が損傷種類ごとに整理されています。㉑・㉒については桁支間中央、桁端部(伸縮装置、支承部)が挙げられています。異常な音・振動と異常なたわみが同じ行にまとめられているのも、この2つが現象として近い扱いを受けている表れです。

最後に、書き漏らしを防ぐ仕組みに触れておきます。付録-3「定期点検結果の記入要領」は、記録の考え方をこう定めています。

全ての要素において,橋梁定期点検要領の「表-5.1.1 対象とする損傷の種類の標準」に示されている損傷に対して,点検した結果を確実に残すため,損傷程度の評価(a~e)を記入する。

そして具体例が続きます。鋼製主桁で⑤防食機能の劣化だけが「c」だった場合、同じ表に示される残りの損傷——②亀裂、③ゆるみ・脱落、④破断、⑩補修・補強材の損傷、⑬遊間の異常、⑱定着部の異常、⑳漏水・滞水、㉑異常な音・振動、㉒異常なたわみ、㉓変形・欠損——に「a」を記入する、という書き方です。

ただし例外があります。「ただし,当該要素において明らかに対象外である損傷種類(例えば,ボルトが使われていない要素での③ゆるみ・脱落)では,NA」とする。」また、全く損傷がない要素は損傷の種類を「NON」、損傷程度を「a」として入力するとされています。

㉑と㉒は、音も揺れもたわみも無かった要素では「a」が入る——ここが実務上の要点です。空欄のまま提出すると、点検したのかしていないのかが記録から判別できなくなります。点検調書の書き方で扱っている整合確認の一環として、この2つが空欄で残っていないかを最後に確認しておくと差し戻しが減ります。

出典:国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(平成31年3月)付録-1「対策区分判定要領」、付録-2「損傷程度の評価要領」、付録-3「定期点検結果の記入要領」。強調は編集部によるものです。様式・記入要領は各道路管理者の定めによって異なる場合があります。

よくある質問

異常な音・振動を記録したら、原因の損傷は書かなくてよいのですか。

両方を書きます。橋梁定期点検要領(平成31年3月・国土交通省道路局国道・技術課)の付録-1は「異常な音・振動は,橋梁の構造的欠陥又は損傷が原因となり発生するものであり,それぞれが複合して生じる場合があるため,別途,それらの損傷として扱うとともに,「異常な音・振動」としても扱う。」としています。原因が亀裂ならば②亀裂として記録し、あわせて㉑としても記録します。二重に記録するのが要領の求める形です。

異常な音・振動の損傷程度はa〜eのどれを使いますか。

aとeの2つだけです。同要領の付録-2では、㉑異常な音・振動の評価区分はaが「損傷なし」、b・c・dが「-」、eが「落橋防止システム,伸縮装置,支承,遮音壁,桁,点検施設等から異常な音が聞こえる,又は異常な振動や揺れを確認することができる。」となっています。㉒異常なたわみも同じ構成で、eは「主桁,点検施設等に異常なたわみが確認できる。」です。中間の段階が用意されていないため、有無の判断だけになります。

音の発生源が特定できないときはどう書きますか。

同要領の付録-2は「発生箇所の特定に努めたものの,発生箇所が特定できない場合は,「異常を有する(発生箇所不明)」と損傷図に記載するものとする。」と、記載する文言まで指定しています。あわせて発生位置や範囲をスケッチや写真で記録し、発生時の状況(車両通過、風の強さ・向きなど)も損傷図に記載することが求められています。なお付録-1は、原因不明の異常な音・振動で発生源や原因を特定できない状況では、詳細調査(S1・S2)が妥当と判断できる場合があるとしています。

車が通ったときに桁がたわむのは異常なたわみですか。

対象外です。同要領の付録-1は「定期点検で判断可能な「異常なたわみ」として対象としているのは,死荷重による垂れ下がりであり,活荷重による一時的なたわみは異常として評価できないため,対象としない。」と明記しています。したがって記録するのは、荷重が載っていない状態で残っている垂れ下がりです。車両通過時のたわみそのものは㉒には該当しません。

異常な音があるだけで緊急対応になりますか。

状況によります。同要領の付録-1は判定区分E2について「車両の通過時に大きな異常音が発生し,近接住民に障害を及ぼしている懸念がある状況などにおいては,緊急対応が妥当と判断できる場合がある。」としています。一方でMについては「添架物の支持金具のゆるみによるビビリ音があり,その規模が小さい状況においては,維持工事で対応することが妥当と判断できる場合がある。」としており、規模と影響で分かれます。音の大小ではなく、構造安全性と第三者への影響で判断する構造です。

音も振動も無かった場合、調書には何を書きますか。

a(損傷なし)を記入します。同要領の付録-3は、対象とする損傷の種類の標準に示された損傷について「点検した結果を確実に残すため,損傷程度の評価(a~e)を記入する」とし、例として鋼製主桁で⑤防食機能の劣化だけがcだった場合に、②亀裂・③ゆるみ・脱落・④破断・⑩補修・補強材の損傷・⑬遊間の異常・⑱定着部の異常・⑳漏水・滞水・㉑異常な音・振動・㉒異常なたわみ・㉓変形・欠損へaを記入するとしています。ただし当該要素で明らかに対象外の損傷種類は「NA」とします。