令和6年3月の改定で、道路橋定期点検要領の記録様式は様式1・様式2・様式3の3枚になりました。様式1が健全性の診断の区分、様式2が状況写真、そして様式3です。

この様式3が、実務でいちばん迷います。特定事象のチェック欄と所見の自由記述が同じ紙に載っていて、どこまで書けばよいのかが分かりにくいためです。要領本体には「様式3の記録の手引き」が付いており、ここに4つの記録項目と、所見に含めるべき事項が列挙されています。

この記事では、その手引きの原文をもとに、様式3の4つの構成、特定事象の6区分、そして所見に書くべき8項目を整理します。様式の全体像は点検調書の構成と書き方、特定事象そのものの定義は特定事象とはで扱っています。

この記事の要点
  • 様式3は「予防保全の必要性の観点」「健全性の診断の区分の前提条件」「所見」を残すための様式
  • 記録項目は4つ=①特定事象 ②健全性の診断の区分の前提 ③特記事項(応急措置) ④所見
  • 特定事象は疲労・塩害・ASR・防食機能の低下・洗掘・その他の6区分。どこまで把握するかは道路管理者の判断
  • 近接目視で状態が把握できない部位・部材があれば、前提条件として記録する。点検支援技術を使ったときは使用機器等の情報も残す
  • 所見に含めるべき事項は要領が8項目を列挙している。単なる状態の記述では足りない

様式3は何を残すための様式か

手引きの冒頭は、様式3の目的をこう書いています。

「本様式は、様式1の『健全性の診断の区分』にあたって考慮される予防保全の必要性の観点や健全性の診断の区分の前提条件及び所見を記録するためのものである。」

3つの言葉が並んでいます。予防保全の必要性の観点(=特定事象)、前提条件所見。様式1が結論(Ⅰ〜Ⅳ)、様式2がその根拠となる状態の写真だとすると、様式3はその結論に至るまでに何を前提にして、どう考えたかを残す紙です。

記録項目は次の4つです。

項目記録するもの
1.特定事象疲労・塩害・ASR・防食機能の低下・洗掘・その他への該当の有無
2.健全性の診断の区分の前提近接目視で状態が把握できない部位・部材/点検支援技術や非破壊検査を使った部位・部材と使用機器等の情報
3.特記事項第三者被害の可能性に対する応急措置の実施の有無と、次回点検までの第三者被害の可能性についての所見
4.所見健全性の診断の区分の決定に大きく関わる技術的見解
出典:国土交通省「道路橋定期点検要領」(令和6年3月)。本記事の引用は同要領の付録「様式集」に収録された「様式3の記録の手引き」および本文5.の記述によります。改定の全体像は令和6年3月改定の変更点まとめを参照してください。

①特定事象:6つの区分

手引きは「主な特定事象の例」として6つを挙げ、それぞれに定義を付けています。

特定事象対象要領の定義(要点)
1)疲労鋼部材・コンクリート部材交通荷重等による繰り返し荷重を受け、亀裂やひびわれ等が生じる状態
2)塩害コンクリート部材塩化物イオンが一定量以上となり、内部鋼材の腐食が生じる状態。飛来塩分による場合に限定しない
3)アルカリ骨材反応(ASR)コンクリート部材アルカリ成分と反応性を有する骨材(シリカ)が反応し、ひびわれ等が発生する状態
4)防食機能の低下鋼部材塗装・めっき・金属溶射等が劣化した状態、耐候性鋼材では保護性錆が形成されていない状態。「腐食」には至っていない状態
5)洗掘基礎周辺基礎周辺の土砂が流水により洗い流され、消失している状態
6)その他維持管理上特別な扱いを行う可能性のある事象(例:中性化、凍害、斜面上の基礎の周辺地盤の浸食)

4)防食機能の低下の定義には、要領自身が線を引いています。板厚減少等を伴う錆が発生している「腐食」には至っていない状態が防食機能の低下です。腐食まで進んでいれば、それは特定事象ではなく損傷⑤側の話になります(防食機能の劣化とは)。

2)塩害の定義にも注意点があります。「原因として飛来塩分による場合に限定せず、そのような状態が確認された場合が該当する」。海から遠いから塩害ではない、とは書けないということです。凍結防止剤による塩分でも状態が確認されれば該当します(塩害の特定点検要領塩害の地域区分)。

なぜ特定事象を別枠で記録するのか

手引きは、この欄を設けた理由を説明しています。要点は「5年では普通は大きく変わらない。ただし例外がある」という構造です。

「道路橋では、一般に5年程度の期間では耐久性能として評価されるような環境作用や疲労現象などの経年的影響のみでは橋の状態が大きく変化することは少なく、点検時点の状態を主たる根拠として健全性の診断の区分を行えばよいことが一般的である。」

そのうえで例外を挙げます。疲労耐久性が著しく劣る構造や厳しい重交通、塩分の影響による腐食が急速に進行する可能性、ASRによる劣化が進行しつつあると判断される場合。これらは「次回の定期点検までにこれらの影響による急速な状態の変化が生じる可能性も疑う必要がある」とされています。

洗掘はさらに別の理由です。「洪水時など定期点検時点の確認だけでは把握が困難な状態の変化が生じる可能性がある現象」であり、点検時に問題が無くても洪水後に確認が要る、という性質があります。

もう1点、手引きは前向きな側面も書いています。「これらの事象は、着実に劣化が進行することが多く、適切な時期に適切な措置を行うことで予防保全効果が期待できることも多いとされている。」該当の有無を残しておくこと自体が、予防保全の判断材料になるという位置づけです(予防保全と事後保全の違い)。

どこまで調べるかについては、要領は道路管理者の判断としています。「定期点検では近接目視が基本とされており、これらの特定事象に対して定期点検の一環としてどこまでの状態の把握や情報の取得を行うのかについては、道路管理者の判断による必要があるが、得られた情報を反映した最新の評価が記録されていることが重要である。」

②健全性の診断の区分の前提

ここが、点検支援技術を使う組織にとって重要な欄です。手引きはこう定めています。

「状態の把握の精度が性能の見立ての評価に影響を及ぼすことから、健全性の診断の区分にあたって、近接目視により状態が把握できない部位・部材がある場合は、健全性の診断の区分の前提条件として記録する。

そして次の一文が続きます。「また、点検支援技術や非破壊検査技術等を活用する場合は、その部位・部材について記録するとともに、今後の検証が可能となるように使用機器等の情報を記録する。

「今後の検証が可能となるように」という条件が付いている点が実務上の要点です。機器名を1行書けば足りるのではなく、後年に第三者が同じ判断を検証できる粒度が求められています。使った機器・条件・その部位をどこまで見られたのかを残すことになります(点検支援技術の選び方点検支援技術性能カタログ)。

旧要領(平成31年3月)で「記録様式(その7)」が担っていた「近接目視によらない場合の記録」に相当する考え方です(記録様式(その7)とは)。LiDAR・点群データドローンを使った箇所は、この欄に前提として残ります。

③特記事項:応急措置の有無

3つ目の欄は、点検の場でその日に手を入れたかどうかの記録です。

「道路橋の状態の把握を行うときに、応急措置として、第三者被害の可能性のあるうき・剥離部や腐食片などを除去したり、付属物等の取付状態の改善等を行うことが標準的であることから、その実施の有無を記載する。」

要領は応急措置を標準的な行為として扱っています。そのうえで、措置の有無も考慮した第三者被害の可能性についての所見を書きます。「応急措置の実施の有無も考慮した上で、次回定期点検までの第三者被害の発生の可能性についての道路橋の状態に関する所見として、措置が必要であるかどうかをあわせて記録する。」

ここが健全性の診断の区分に直結します。要領本文5.の解説は、応急措置を行った場合は「その措置後の状態に対して、次回の点検までに想定する状況に対して、どのような状態となる可能性があるのかといった技術的な評価を行った結果を用いて区分すればよい」としています。叩き落とす前の状態ではなく、落とした後の状態で区分するということです(第三者被害予防措置とは)。

記入位置の指定もあります。「なお、該当する付属物等が設置されている上部構造等の構成要素の欄にあわせて記録する。」構成要素の区分は構成要素に求められる機能の考え方に従います。

④所見:含めるべき8項目

所見は自由記述ですが、要領は「一般的に所見に含まれるべき事項」として8項目を列挙しています。

#所見に含めるべき事項
1性能の見立ての根拠となる点検で把握した状態(損傷の種類・位置・性状)
2損傷の原因、進行の可能性の推定。その根拠として点検で把握した状態や参考にした情報
3想定する状況に対する上部構造、下部構造、上下部接続部の構造安全性の推定
4該当する特定事象の状態も勘案した、予防保全の必要性や長寿命化の実現などの観点から経年的劣化に対する評価
5道路利用者への影響や第三者被害の発生等の可能性
6措置の必要性に関する技術的観点からの見解(道路橋を取り巻く状況も勘案)
7措置の緊急性の有無
8情報の精度に基づく見込み違いの可能性など、詳細調査や追跡調査の必要性の有無

1が状態、2が原因、3が構造安全性、4が経年劣化、5が第三者被害、6が措置の要否、7が緊急性、8が追加調査の要否。状態から措置まで一続きに書く構成になっています。「損傷が見られる」で止まる所見は、この8項目のうち1しか埋めていないことになります。

要領は総合所見についても要求を書いています。「総合所見として、様式1,2及び様式3の特定事象にかかる所見を踏まえたうえで、それらの各状態や評価の結果から、どのように『健全性の診断の区分』の決定に反映される措置の考え方が妥当なものとして導き出されるのかについて技術的見解などの根拠が記載されていることが特に重要である。

加えて、前提を置いた場合の記録も求められます。「規制や監視の実施を前提として健全性の診断の区分を行ったなど、考慮した前提条件や仮定がある場合には、それらについても記録する。」通行規制や監視を前提にⅡやⅢとした場合は、その前提を書かなければ後年に読み解けません。8項目のうち8は詳細調査の必要性に直結します。

3枚の様式の役割分担

令和6年3月改定の様式は、次の役割で分かれています。

様式役割
様式1施設諸元と健全性の診断の区分(結論)
様式2様式1の根拠となる状態の写真(構成要素・想定する状況・A〜Cの評価)
様式3特定事象・前提条件・応急措置・所見(判断の過程)

手引きは、記録の様式について要領本文でこう前置きしています。「定期点検に関わる記録の様式、内容や項目について法令上の定めはなく、道路管理者が定めるものである」。様式1〜3は法令で決まった帳票ではないため、発注者ごとに追加項目や独自様式があります。実際の業務では発注仕様書の様式を正とし、この手引きは記載内容の水準を測るものとして使うのが実務的です。

写真と図の作成側は損傷写真台帳の作り方損傷図(その5)の書き方に、登録側の注意は道路橋記録様式(令和6年3月)にまとめています。

よくある質問

特定事象に該当したら、健全性の診断の区分は自動的に下がりますか。

いいえ。手引きは特定事象について「それらへの該当の有無を記録できるようにしている」と述べているだけで、区分と連動させる規定はありません。目的は「合理的な維持管理に資する」ことと説明されており、次回点検までに急速な状態の変化が生じる可能性を疑う手がかりとして残すものです。区分そのものは、次回定期点検までに行うことが望ましい措置の内容から決まります。

「防食機能の低下」と「腐食」はどう書き分けますか。

板厚減少等を伴う錆が発生している状態が「腐食」で、そこまで至っていない塗装・めっき・金属溶射の劣化、耐候性鋼材で保護性錆が形成されていない状態が「防食機能の低下」です。手引きの4)は「板厚減少等を伴う錆が発生している状態である『腐食』には至っていない状態である」と明示しています。腐食まで進んでいれば特定事象欄ではなく損傷側で扱います。

近接目視ができなかった箇所は、どこに書けばよいですか。

様式3の「2.健全性の診断の区分の前提」です。手引きは「近接目視により状態が把握できない部位・部材がある場合は、健全性の診断の区分の前提条件として記録する」と定めています。点検支援技術や非破壊検査技術を使った場合は、その部位・部材に加えて「今後の検証が可能となるように使用機器等の情報を記録する」ことが求められます。

点検の場でうきを叩き落とした場合、区分は落とす前と後のどちらで決めますか。

落とした後です。要領本文5.の解説は「点検時点で何らかの応急措置を行った場合には、その措置後の状態に対して、次回の点検までに想定する状況に対して、どのような状態となる可能性があるのかといった技術的な評価を行った結果を用いて区分すればよい」としています。あわせて、応急措置を行った事実そのものを様式3の特記事項に記録します。

所見に最低限書くべきことは何ですか。

要領は8項目を列挙しています。状態、原因と進行の可能性、構造安全性の推定、経年的劣化の評価、第三者被害の可能性、措置の必要性、緊急性の有無、詳細調査・追跡調査の必要性です。さらに総合所見では、これらから「措置の考え方が妥当なものとして導き出されるのかについて技術的見解などの根拠」を書くことが「特に重要である」とされています。状態の記述だけでは要求を満たしません。

様式1〜3は法令で決まった帳票ですか。

いいえ。要領は「定期点検に関わる記録の様式、内容や項目について法令上の定めはなく、道路管理者が定めるものである」と明記しています。様式1〜3は要領が示す標準であって、実際の業務では発注者が定める様式に従います。手引きは、その様式に何をどの水準で書くべきかを測る基準として使えます。