桁の下フランジに、うっすら赤さびが出ている。塗膜も少し変色している。これは「①腐食」なのか「⑤防食機能の劣化」なのか。調書に書く記号がひとつ違うだけですが、両者は別の損傷として別々に評価する決まりになっているので、取り違えると次回点検との比較が成立しなくなります。

この2つを分ける基準を、令和6年7月の橋梁定期点検要領は非常に短く書いています。板厚減少等を伴うかどうか。それだけです。さび色でも、さびの形状でも、面積でもありません。そして判断に迷ったときにどちらへ倒すかも、要領があらかじめ決めています。

この記事では、要領の付録-3「損傷程度の評価要領」の原文をもとに、防食機能の劣化の定義、腐食との切り分け、分類1〜3それぞれの評価区分、そして耐候性鋼材にだけ「損傷なし」が2つある理由を整理します。

この記事の要点
  • 腐食との境目は板厚減少等の有無ひとつ。さびの状態(層状・孔食など)では分けない。判断が難しい場合は「腐食」として扱うと要領が決めている
  • 分類は3つ(1=塗装/2=めっき、金属溶射/3=耐候性鋼材)。使える記号は分類ごとに違い、a〜eが全部そろっているのは分類3だけ
  • 耐候性鋼材の「b」は損傷なし。ただし保護性錆が生成されていない状態を指す。「損傷なしだが安心はできない」を記録するための区分

防食機能の劣化は鋼部材だけの損傷

要領が対象とする損傷は26種類あり、そのうち鋼部材に固有のものは①腐食・②亀裂・③ゆるみ・脱落・④破断・⑤防食機能の劣化の5つです。防食機能の劣化はこの5番目にあたります。

要領の定義は次のとおりです。

⑤防食機能の劣化(付録-3・一般的性状・損傷の特徴・原文)
「鋼部材を対象として,分類1においては防食塗膜の劣化,分類2においては防食皮膜の劣化により,変色,ひびわれ,ふくれ,はがれ等が生じている状態をいう。分類3においては,保護性錆が形成されていない状態をいう。」

ここで押さえておきたいのは、コンクリート部材に塗られた塗装はこの損傷では扱わないという点です。要領は「コンクリート部材の塗装は,対象としない。『補修・補強材の損傷』として扱う。」と明記しています。コンクリート部材側の個別の損傷の見方は漏水・遊離石灰、剥離・鉄筋露出の記事で扱っています。

逆に、見た目はコンクリート構造でも鋼部材として扱うものがあります。要領は「鋼コンクリート合成床版の底鋼板及びI型鋼格子床版の底型枠は,鋼部材として扱う。」としており、これは腐食の項にも防食機能の劣化の項にも同じ文が置かれています。

腐食との境目は「板厚減少等の有無」ひとつ

実務でいちばん迷うのがここです。要領は腐食の項で、両者の関係を次のように書いています。

①腐食・他の損傷との関係(付録-3・原文)
「基本的には,板厚減少等を伴う錆の発生を『腐食』として扱い,板厚減少等を伴わないと見なせる程度の軽微な錆の発生は『防食機能の劣化』として扱う。」
板厚減少等の有無の判断が難しい場合には,『腐食』として扱う。
「ボルトの場合も同様に,減肉等を伴う錆の発生を腐食として扱い,板厚減少等を伴わないと見なせる程度の軽微な錆の発生は『防食機能の劣化』として扱う。」

迷ったときの倒し方まで書いてあるのが要領の特徴です。分からなければ重いほう(腐食)へ倒す。この一文があるおかげで、現場での判断は「どちらか決められない」で止まらずに済みます。

耐候性鋼材の場合も原則は同じで、「耐候性鋼材においては,板厚減少を伴う異常錆が生じた場合に『腐食』として扱い,粗い錆やウロコ状の錆が生じた場合は『防食機能の劣化』として扱う。」とされています。

もうひとつ、混同されやすいのがさびの形状で分けようとする発想です。層状のさびだから重い、孔食だから重い、という判断は要領の考え方ではありません。腐食の評価区分には次の注記が付いています。

①腐食・損傷程度の評価区分の注記(原文)
「注)錆の状態(層状,孔食など)にかかわらず,板厚減少等の有無によって評価する。」

なお腐食のほうは、a〜eの区分が「損傷の深さ」と「損傷の面積」の2軸の組合せで決まります(深さ小×面積小=b、深さ小×面積大=c、深さ大×面積小=d、深さ大×面積大=e)。面積の大小については「大小の区分の閾値の目安は,50%である。」と数字が示されており、ここでいう全体とは「評価単位である当該要素全体」を指します。防食機能の劣化のほうは、後述のとおり2軸ではなく1本の区分表になっています。

分類1〜3の評価区分

防食機能の劣化は、防食のやり方ごとに3つの分類に分かれ、分類ごとに使う記号が違います。要領の区分表は次のとおりです。

区分分類1:塗装分類2:めっき、金属溶射分類3:耐候性鋼材
a損傷なし損傷なし損傷なし(保護性錆は粒子が細かく、一様に分布、黒褐色を呈す)
b損傷なし。ただし、保護性錆は生成されていない状態である
c最外層の防食塗膜に変色が生じたり、局所的なうきが生じている局所的に防食皮膜が劣化し、点錆が発生している錆の大きさは1〜5mm程度で粗い
d部分的に防食塗膜が剥離し、下塗りが露出している錆の大きさは5〜25mm程度のうろこ状である
e防食塗膜の劣化範囲が広く、点錆が発生している防食皮膜の劣化範囲が広く、点錆が発生している錆の層状剥離がある

表を横に見ると、分類2はa・c・eの3つしか使わないことが分かります。分類1はbが無く、a・c・d・eの4つ。全部そろっているのは分類3だけです。損傷程度の評価(a〜e)は損傷の種類ごとに使える記号が違い、亀裂のようにa・c・eしか無いものもあります。「dが無いのは記入漏れではないか」と差し戻される場面がありますが、区分表に「—」と書かれているものは、そもそも存在しない区分です。

分類1・分類2に出てくる「劣化範囲が広い」の意味も要領が定義しており、「劣化範囲が広いとは,評価単位の要素の大半を占める場合をいう。」とされています。判断の単位は橋でも径間でもなく要素です。

耐候性鋼材にだけ「損傷なし」が2つある

分類3の表でいちばん目を引くのは、aとbが両方とも「損傷なし」であることです。要領はこの区分をわざわざ設けた理由を書いています。

分類3:耐候性鋼材の注記(原文)
「注)一般に,錆の色は黄色・赤色から黒褐色へと変化して安定していく。ただし,錆色だけで保護性錆かどうかを判断することはできない。また,保護性錆が形成される過程では,安定化処理を施した場合に,皮膜の残っている状態で錆むらが生じることがある。損傷がない状態を,保護性錆が生成される過程にあるのか,生成されていない状態かを明確にするため,『b』を設けている。」

つまりbは「今は損傷が無いが、防食のしくみがまだ立ち上がっていない」を記録するための区分です。耐候性鋼材は保護性錆そのものが防食層なので、それが生成されていない状態は、損傷が無くても次回点検で見るべき対象になります。aとbを区別せずに全部aで記録してしまうと、この情報が永久に残らないことになります。

また、a欄の括弧書きにある「保護性錆は粒子が細かく,一様に分布,黒褐色を呈す。」と「(保護性錆の形成過程では,黄色,赤色,褐色を呈す。)」は、色そのものを基準にしているのではなく、あくまで一般的な見え方の説明です。判断を色に依存させてはいけないことは、上の注記が明示しています。

損傷として扱わないもの

要領は「これは損傷ではない」と明示しているものをいくつか挙げています。記録する必要が無いものと、記録の仕方が違うものが混ざっているので、分けて整理します。

対象要領の扱い
溶融亜鉛めっき表面に生じる白錆損傷として扱わない
分類2の白錆・"やけ"直ちに耐食性に影響を及ぼすものではないため損傷とは扱わない。ただし、その状況は損傷図に記録する
耐候性鋼材の表面に塗布した表面処理剤の塗膜の剥離損傷として扱わない
耐候性鋼材に塗装している部分塗装(分類1)として扱う
コンクリート部材の塗装対象としない。「補修・補強材の損傷」として扱う
火災による塗装の焼失・ススの付着による変色「⑰その他」としても扱う

注意したいのが2行目です。「損傷ではない」と「記録しない」は同じではありません。白錆・やけは損傷程度の評価には乗せないが、損傷図(その5)には状況を書き残すことになっています。次回の点検者が「前回は白錆だったのか、それとも見ていないのか」を区別できるようにするための決まりです。

同じ箇所を二重に記録する場面

腐食と防食機能の劣化は排他ではありません。要領は、同じ部材で両方を記録する場面を具体的に書いています。

⑤防食機能の劣化・その他の留意点(原文)
「局部的に『腐食』として扱われる錆を生じた箇所がある場合において,腐食箇所以外に防食機能の低下が認められる場合は,『防食機能の劣化』としても扱う。」
「耐候性鋼材で保護性錆が生じるまでの期間は,錆の状態が一様でなく異常腐食かどうかの判断が困難な場合があるものの,板厚減少等を伴うと見なせる場合には『腐食』としても扱う。」

腐食の項にも「腐食を記録する場合,塗装などの防食機能にも損傷が生じていることが一般的であり,これらについても同時に記録する必要がある。」という記述があります。腐食が出ている部材で防食機能の劣化がaのまま、というのは通常は考えにくいということです。

記録様式の側でも、防食機能の劣化は特別扱いになっています。要領の記入要領によれば、「分類」欄に値を記入するのは防食機能の劣化・支承部の機能障害・その他・補修・補強材の損傷・定着部の異常・変色・劣化の6つだけです。分類1〜3のどれなのかを書かないと、cやeの意味が確定しません。様式全体の書き方は橋梁点検調書の構成と書き方にまとめています。

もうひとつ、記入要領には見落としやすいルールがあります。

データ記録様式(その3-3)の留意事項(原文・抜粋)
「例えば,鋼製主桁において,損傷が⑤防食機能の劣化の劣化のみ『c』であった場合,同表に示される残りの損傷(②亀裂,③ゆるみ・脱落,④破断,⑩補修・補強材の損傷,⑬遊間の異常,⑱定着部の異常,⑳漏水・滞水,㉑異常な音・振動,㉒異常なたわみ,㉓変形・欠損)に『a』を記入する。ただし,当該要素において明らかに対象外である損傷種類(例えば,ボルトが使われていない要素での③ゆるみ・脱落)では,『NA』とする。」

つまり、ひとつの損傷を書いたら、その部材で対象となる残りの損傷にも全部aを埋めるのが原則です。空欄は「損傷なし」を意味しません。そして対象外のものは空欄でもaでもなくNAです。この作業量が、要素数の多い橋で調書作成の工数を押し上げる要因のひとつになっています。

評価に原因も将来予測も含めない

最後に、防食機能の劣化に限らず損傷程度の評価に共通する原則を確認しておきます。

データ記録様式(その3-3)の説明(原文)
「損傷程度の評価は,損傷の程度をあらわす客観的な事実を示すものであり,すなわち,損傷の現状を要素毎に記号化して記録するものである。ここでの『損傷程度の評価』は,その原因や将来予測,橋全体の耐荷性能等へ与える影響度合い等は含まないことに留意する。」

要領は第3章の記録について「道路橋の性能や措置の必要性に関する工学的な判断が混入することは許容されず,その時点の事実を記録する。」とも書いています。「このまま進みそうだからdにしておく」は、この原則に反します。進行の見立ては健全性の診断対策区分の側で扱うものです。

とはいえ、防食機能の劣化を軽く見てよいという話ではありません。要領の参考資料2「道路橋の損傷事例」には、次の指摘があります。

参考資料2・鋼部材の損傷①腐食(原文)
「板厚減少はほとんど生じていない場合でも,広範囲に防食被膜の劣化が進行している場合には,防錆機能が著しく低下しているため,放置すると急速に腐食が進行する場合もある。」

板厚が減っていないから軽い、ではなく、防食層が広く失われた時点で「これから急に進む」条件がそろっているという読み方になります。分類1のeや分類2のeは、記号としては同じ1文字でも、次の5年間の意味がかなり違います。塩害地域など特定の事象が絡む場合の扱いは特定事象の記事を参照してください。

出典:国土交通省「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)付録-3「損傷程度の評価要領」・付録-1「定期点検結果の記入要領」・第3章・参考資料2。引用は同要領の原文表記(読点は「,」)に従っています。最新の要領・様式は必ず原典をご確認ください。

よくある質問

Q. 防食機能の劣化と腐食はどう見分けますか。
A. 板厚減少等を伴うかどうかで分けます。要領は「板厚減少等を伴う錆の発生を『腐食』として扱い,板厚減少等を伴わないと見なせる程度の軽微な錆の発生は『防食機能の劣化』として扱う。」としています。さびの色や形状(層状、孔食など)では分けません。腐食の評価区分には「錆の状態(層状,孔食など)にかかわらず,板厚減少等の有無によって評価する。」という注記が付いています。

Q. 板厚が減っているかどうか判断できないときはどちらにしますか。
A. 腐食として扱います。要領は「板厚減少等の有無の判断が難しい場合には,『腐食』として扱う。」と明記しています。耐候性鋼材についても「板厚減少の有無の判断が難しい場合には,『腐食』として扱う。」と同じ扱いが示されています。

Q. 防食機能の劣化の分類1〜3は何を指しますか。
A. 分類1が塗装、分類2がめっき・金属溶射、分類3が耐候性鋼材です。分類ごとに使える評価区分が異なり、分類1はb、分類2はbとdが「—」で存在しません。a〜eがすべてそろっているのは分類3だけです。記録様式では「分類」欄に番号を記入することになっており、これを書かないとcやeの意味が確定しません。

Q. 耐候性鋼材の「b」はどういう状態ですか。
A. 損傷なしですが、保護性錆が生成されていない状態です。要領は「損傷がない状態を,保護性錆が生成される過程にあるのか,生成されていない状態かを明確にするため,『b』を設けている。」と理由を書いています。aと同じ「損傷なし」でも意味が違うため、両方をaで記録すると保護性錆が立ち上がっていないという情報が残りません。

Q. めっきの白錆は損傷として記録しますか。
A. 損傷としては扱いません。分類2の注記に「白錆や"やけ"は,直ちに耐食性に影響を及ぼすものではないため,損傷とは扱わない。」とあります。ただし同じ注記に「その状況は損傷図に記録する。」と続いており、損傷程度の評価には乗せないが記録自体は残します。また「溶融亜鉛めっき表面に生じる白錆は,損傷として扱わない。」という記述もあります。

Q. コンクリート橋脚に塗った塗装が剥がれています。防食機能の劣化ですか。
A. 違います。要領は「コンクリート部材の塗装は,対象としない。『補修・補強材の損傷』として扱う。」としています。防食機能の劣化は鋼部材を対象とした損傷です。ただし鋼コンクリート合成床版の底鋼板とI型鋼格子床版の底型枠は、鋼部材として扱うと定められています。

Q. 腐食を記録したら、防食機能の劣化も同時に記録すべきですか。
A. 多くの場合そうなります。要領は「腐食を記録する場合,塗装などの防食機能にも損傷が生じていることが一般的であり,これらについても同時に記録する必要がある。」としており、さらに「局部的に『腐食』として扱われる錆を生じた箇所がある場合において,腐食箇所以外に防食機能の低下が認められる場合は,『防食機能の劣化』としても扱う。」と二重に記録する場面を挙げています。