令和6年3月の改定で、点検の記録に「技術的な評価結果」というA〜Cの欄が入りました。定義そのものは短く、A=何らかの変状が生じる可能性は低い、B=致命的な状態となる可能性は低いものの何らかの変状が生じる可能性がある、C=致命的な状態となる可能性がある、の3段階です。

問題は、目の前の腐食や剥離を見て、どうやってA・B・Cのどれかを選ぶのかです。損傷程度がdだからB、という機械的な対応表はありません。要領はここに、はっきりした判断の順序を置いています。この記事では「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)の様式1・様式2の記録の手引きから、構成要素に求められる7つの機能と、その機能から状態を推定する手順を原文で確認します。

この記事の要点
  • A〜Cは、想定する状況に対して荷重を支持・伝達できる状態かから推定する
  • 手引きは構成要素が担う機能をⅰ〜ⅶの7つに分類している(上部3・上下部接続部2・下部2)
  • 部材と機能は1対1ではない。手引きは全て「〜が担う場合が多い」という書き方をしている
  • どこを上部構造・下部構造・上下部接続部と扱うかは橋ごとに決めてよい(形式が同じでも役割は同じとは限らない)
  • 「その他」(フェールセーフ・伸縮装置)は7つの機能によらず、考慮した技術的な観点を書く

A〜Cは何から推定するのか

様式2の記録の手引きの「6.構成要素に求められる機能」は、判断の順序を2文で示しています。

上部構造、下部構造、上下部接続部がそれぞれ求められる役割を果たせる状態かどうか推定するにあたっては、それぞれの役割を果たすために、求められる機能を担える状態であるかどうかから推定することになる。

その機能を担えるかどうかについては、想定する状況に対して、荷重を支持・伝達できる状態であるかどうかから推定することとなる。

3段階の推定になっています。役割を果たせるか ← 機能を担えるか ← 荷重を支持・伝達できるか。いちばん下、つまり実際に判断の手がかりにするのは「荷重を支持・伝達できる状態か」です。

この順序が効くのは、損傷の大きさと評価が直結しない場面です。目立つ剥離があっても、その部材が担う機能が荷重の支持・伝達に関わらないなら、想定する状況に対する評価は変わらないことがあります。逆に、面積の小さな腐食でも、それが荷重の伝達経路の上にあれば評価は動きます。損傷程度の評価とは別のレイヤーだという整理は、性能の見立て(A〜C)で扱っています。

なお「想定する状況」は、様式2の手引きの「2.想定する状況」で「「活荷重」、「地震」、「豪雨・出水」、「その他」から選択する。「その他」の場合は、「暴風」など、該当する状況を記録する。」とされています。同じ損傷でも、どの状況を想定するかで評価は変わります。

出典:国土交通省「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)付録 様式集 様式2の記録の手引き 6.構成要素に求められる機能、2.想定する状況。強調は編集部によるものです。

上部構造の3つの機能

手引きは「それぞれの構成要素が担う機能は以下のように分類できる。」として、上部構造にⅰ〜ⅲの3つを挙げています。

記号機能(原文)担う部材の例(原文)
通行車などによる路面に作用する荷重を直接的に支持する機能床版、縦桁が担う場合が多い
上部構造へ作用する鉛直及び水平方向の荷重を支持し、上下部接続部まで伝達する機能主桁や主構が担う場合が多い。また、床版の一部も主桁の一部としてこの機能を果たす場合がある
上部構造へ作用する荷重を主桁等が上下部接続部に伝達するとき、荷重の支持、伝達を円滑にするための機能荷重に対して上部構造の断面形状を保持する機能を担う、横桁、端対傾構や端横桁、対傾構や横構が担う場合が多い

読み方の要点は2つあります。

1つめは、荷重の道筋が3段階で書かれていることです。路面から直接受ける(ⅰ)→ 支えて上下部接続部まで運ぶ(ⅱ)→ その受け渡しを円滑にする(ⅲ)。上部構造の中でも役割が分かれていて、どこが傷んでいるかによって効く機能が違います。

2つめは、ⅱの但し書きです。「床版の一部も主桁の一部としてこの機能を果たす場合がある」。合成桁のように床版が主桁と一体で働く構造では、床版はⅰだけでなくⅱにも関わります。床版のひびわれを「路面を支える部材の損傷」としてだけ見ていると、この見立てが抜けます。

ⅲはやや抽象的ですが、挙げられている部材を見ると具体的です。横桁・端対傾構・端横桁・対傾構・横構——いずれも断面形状を保持する部材です。これらが変形したり破断したりすると、主桁そのものは健在でも荷重の伝わり方が変わります。鋼部材の損傷の見方は鋼部材の損傷で扱っています。

上下部接続部の2つの機能

次が上下部接続部です。ここは2つに分かれています。

記号機能(原文)担う部材の例(原文)
上部構造からの荷重を支持し、下部構造へ伝達する機能支承部や、上部構造と下部構造が剛結される場合の剛結部が担う場合が多い
上部構造と下部構造が機能を発揮する前提として、必要な幾何学的境界条件を付与する機能ⅳと同様の部位、部材が担う場合が多い

ⅴが、この分類でいちばん見落とされやすい機能です。「必要な幾何学的境界条件を付与する機能」——支承が、上部構造と下部構造の位置関係や可動条件を設計どおりに保つ役割のことです。

ⅳとⅴは「同様の部位、部材が担う場合が多い」とされています。つまり同じ支承部が2つの機能を兼ねている。だからこそ、片方だけが損なわれる状態があり得ます。荷重は問題なく伝わっているのに可動が固着している支承は、ⅳは保たれていてⅴが失われている状態です。支承部の機能障害という損傷種類が独立して置かれている理由も、ここに重なります。

可動の拘束は、上部構造の温度変化による伸縮を妨げ、下部構造に想定外の力をかけます。下部構造の沈下・移動・傾斜の原因の例に「拘束力の発生」が繰り返し出てくるのは、この経路です。

下部構造の2つの機能

記号機能(原文)担う部材の例(原文)
上下部接続部からの荷重を直接支持し、基礎・周辺地盤に伝達するとともに、上下部接続部の位置を保持する機能橋脚、橋台の躯体、及び橋座部、梁部が担う場合が多い
橋脚・橋台躯体からの荷重を支持し、橋の安定に関わる周辺地盤等に伝達するとともに、地盤面での橋の位置を保持する機能橋脚、橋台の基礎、及び基礎周辺地盤が担う場合が多い

ここで目を引くのが、ⅶの「担う部材の例」に基礎周辺地盤が入っていることです。橋の部材ではないものが、機能を担う対象として名指しされています。

実務上の意味は明確です。基礎が健全でも、その周りの地盤が失われていればⅶは損なわれます。洗掘がまさにこれで、構造物そのものに損傷がなくても評価は動き得ます。水中部の見方は橋脚の洗掘で扱っています。

ⅵとⅶの両方に「位置を保持する機能」という語が入っていることも押さえておく価値があります。上下部接続部の位置(ⅵ)、地盤面での橋の位置(ⅶ)。下部構造の役割は荷重を下へ流すことだけではなく、橋を所定の位置に置き続けることでもある、という整理です。

手引きにはあわせて、部材種別ごとに把握しておくのがよい変状の種類の例を示した表も置かれています。上部構造(主桁・主構/横桁/縦桁/床版/その他)には鋼で腐食・亀裂・破断・防食機能の劣化、コンクリートでひびわれ・床版ひびわれ、その他で軸線の異常。下部構造(橋脚/橋台/基礎/その他)にはボルトの緩み・脱落、ひびわれ、洗掘、沈下・移動・傾斜、設計地盤面に対応する地盤面の変状。上下部接続部(支承部/その他)には支承の機能障害が挙げられています。損傷種類の全体像は橋梁の損傷26種類をご覧ください。

構成要素の区分は橋ごとに決める

ここまで「上部構造」「下部構造」「上下部接続部」を所与のものとして扱ってきましたが、要領はその区分自体を固定していません。様式1の記録の手引きの「4.構成要素の構成の例」は、主な構造形式に対する一般的な捉え方の例を示したうえで、こう続けます。

なお、橋梁形式が同じであっても、橋の構造のどの部分が主としてどのような役割を担っているのかは必ずしも同じでない。

そのため、定期点検では、健全性の診断の区分を行うために行う、その橋の性能や状態を評価するにあたって、その橋の構成要素をどのように捉えることとしたのかを反映して、どの構造部分を上部構造、下部構造、上下部接続部として扱うのかを決定すればよい。

形式名だけで機械的に割り振るのではなく、その橋で実際にどこが何を担っているかを見て決めるという立て付けです。ラーメン構造のように上部と下部が剛結されていて支承が存在しない橋、アーチのように荷重の流れが桁橋と異なる橋では、区分の当てはめ方が変わります。石造アーチ橋の点検のような特殊な構造では、なおさらです。

そして手引きは、決めた結果を残すことにも触れています。「なお、次回の定期点検をはじめ将来の維持管理のために、どのように捉えたのかについては必要に応じて記録するのがよい。

これは実務でかなり効きます。区分の当てはめ方が今回と次回で違うと、A〜Cを並べても比較になりません。5年後の点検者が同じ捉え方を再現できるかどうかが、記録の価値を決めます。点検調書の作成では、評価結果そのものより先に、この前提を書き残しておく必要があります。

「その他」の3枠は機能で測らない

様式2の「1.構成要素」は、記録する構成要素として次の6つを挙げています。「上部構造」、「下部構造」、「上下部接続部」、「その他(フェールセーフ)」、「その他(伸縮装置)」、「その他」。

後半の3つは、ここまで見てきたⅰ〜ⅶの機能分類の対象ではありません。橋の耐荷性能を直接担う構成要素ではないためです。要領はそれぞれに別の評価の観点を与えています。

様式1の記録の手引きは、フェールセーフについて「橋に地震時に機能させることを意図したフェールセーフが設けられている場合に、「地震」の影響に対して、その橋がフェールセーフが機能することを期待する状態となることを想定して、フェールセーフの装置等に着目して、それが所定の機能を適正に発揮できるかどうかの観点で評価する。」としています。そのうえで「この場合の何らかの変状とは、フェールセーフが期待される機能を発揮できない状態となることに相当し、致命的な状態とは、フェールセーフが所定の機能を発揮できないままに破壊されたり、その機能を喪失した状態となることに相当する。」と、B・Cの読み替えまで書いています。

伸縮装置については「「活荷重」に対して、伸縮装置の走行性の確保の観点からの評価を行えばよい。」とし、「なお、伸縮装置自体の構造安全性は、結果的に走行の安全性を損なっている状態でもあることが一般であり、それらも考慮して、走行の安全性の確保の観点から評価すればよい。」としています。軸は構造安全性ではなく走行性です。

そして、フェールセーフの扱いには禁止の一文があります。「「地震」の影響に対する状態の技術的な評価にあたっては、フェールセーフの機能を考慮してはならない。」落橋防止があることを理由に、上部構造や上下部接続部の地震に対する評価を緩めることはできません。フェールセーフは別の行で独立して評価する、という切り分けです。

備考欄と写真に何を残すか

様式2の「5.備考」は、7つの機能を実際に使う場所です。手引きは、根拠となる写真について必要に応じて補足するとしたうえで、こう書いています。

「6.構成要素に求められる機能」を参考に、構成要素の機能が保持される可能性が高いかどうか、機能を喪失する可能性が高いかどうか、そのいずれでもない状態かなど、技術的な評価の根拠となる、機能の低下の有無や喪失の可能性などを記録する。

「保持される可能性が高い」「喪失する可能性が高い」「そのいずれでもない」という3つの言い方が、そのままA・C・Bに対応する形になっています。備考欄は感想を書く欄ではなく、A〜Cを選んだ理由を機能の言葉で書く欄だと読めます。

「その他」に区分した部材については、先に見たとおり「これによらず、考慮した技術的な観点がわかるように記録する。」とされています。

写真の位置づけも明確です。「4.写真」は「様式1の健全性の診断の区分や技術的な評価結果の根拠となった道路橋の構成要素の状態について、点検時点で確認した状態を写真で記録する。写真番号や部材番号がある場合は記入する。」としています。

手引きの冒頭には、さらに踏み込んだ記述があります。この様式は「「A:何らかの変状が生じる可能性が低い」に該当する場合であっても、把握した状態を根拠として残すことや、変状が生じる可能性が有ると考えた部材の状態だけではなく、考慮した劣化の進展の根拠なども記録することも可能となる様式としている」。

異常が無かったことも根拠として残せる設計だということです。次回点検で「前回はどこまで見てAだったのか」を確かめられるかどうかは、この一手間で決まります。写真台帳を損傷の記録としてだけ組んでいると、Aの根拠は残りません。

記録全体の位置づけは令和6年3月改定の変更点定期点検の全体像にまとめています。

出典:国土交通省「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)付録 様式集 様式1の記録の手引き(1.技術的な評価結果、3.想定する状況、4.構成要素の構成の例)および様式2の記録の手引き(冒頭、1.構成要素、2.想定する状況、3.構成要素の状態、4.写真、5.備考、6.構成要素に求められる機能、表-1)。強調は編集部によるものです。個別の橋における評価および記録の方法は、各道路管理者の定める要領・様式および点検技術者の確認によってください。

よくある質問

AからCの評価は、何を基準に決めるのですか。

荷重を支持・伝達できる状態かどうかで決めます。道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)(令和6年3月)の様式2の記録の手引きは「上部構造、下部構造、上下部接続部がそれぞれ求められる役割を果たせる状態かどうか推定するにあたっては、それぞれの役割を果たすために、求められる機能を担える状態であるかどうかから推定することになる。その機能を担えるかどうかについては、想定する状況に対して、荷重を支持・伝達できる状態であるかどうかから推定することとなる。」としています。損傷が大きいから悪い評価にする、という決め方ではなく、その損傷によって荷重の支持や伝達に支障が出るかどうかを見る、という順序です。

求められる機能は何種類に分けられていますか。

7つです。様式2の記録の手引きは「それぞれの構成要素が担う機能は以下のように分類できる。」として、上部構造にⅰからⅲの3つ、上下部接続部にⅳとⅴの2つ、下部構造にⅵとⅶの2つを挙げています。上部構造はⅰ路面に作用する荷重を直接的に支持する機能、ⅱ鉛直及び水平方向の荷重を支持し上下部接続部まで伝達する機能、ⅲ荷重の支持・伝達を円滑にするための機能。上下部接続部はⅳ上部構造からの荷重を支持し下部構造へ伝達する機能、ⅴ必要な幾何学的境界条件を付与する機能。下部構造はⅵ上下部接続部からの荷重を直接支持し基礎・周辺地盤に伝達するとともに上下部接続部の位置を保持する機能、ⅶ橋脚・橋台躯体からの荷重を支持し周辺地盤等に伝達するとともに地盤面での橋の位置を保持する機能です。

どの部材が上部構造で、どれが上下部接続部かは決まっているのですか。

橋ごとに決めることとされています。様式1の記録の手引きは、主な構造形式に対する一般的な捉え方の例を示したうえで「なお、橋梁形式が同じであっても、橋の構造のどの部分が主としてどのような役割を担っているのかは必ずしも同じでない。」とし、「その橋の構成要素をどのように捉えることとしたのかを反映して、どの構造部分を上部構造、下部構造、上下部接続部として扱うのかを決定すればよい。」としています。あわせて「次回の定期点検をはじめ将来の維持管理のために、どのように捉えたのかについては必要に応じて記録するのがよい」とされており、区分の仕方そのものが記録の対象になります。

支承の役割は荷重を伝えることだけですか。

それだけではありません。上下部接続部の機能は2つ挙げられており、ⅳが「上部構造からの荷重を支持し、下部構造へ伝達する機能」、ⅴが「上部構造と下部構造が機能を発揮する前提として、必要な幾何学的境界条件を付与する機能」です。ⅴについて手引きは「ⅳと同様の部位、部材が担う場合が多い」としています。つまり同じ支承部が、荷重を伝える役割と、上下部が設計どおりの位置関係や可動条件で成り立つようにする役割の両方を担っています。可動が固着している支承は荷重は伝えていてもⅴの側が損なわれている、という読み方になります。

「その他」に区分した部材は、備考にどう書けばよいですか。

機能の分類によらず、考えた観点が分かるように書きます。様式2の記録の手引きの備考欄の説明は、「6.構成要素に求められる機能」を参考に、構成要素の機能が保持される可能性が高いかどうか、機能を喪失する可能性が高いかどうか、そのいずれでもない状態かなどを記録するとしたうえで、「なお、「その他」に区分される部材等について記録する場合はこれによらず、考慮した技術的な観点がわかるように記録する。」としています。フェールセーフや伸縮装置は耐荷性能を直接担う構成要素ではないため、7つの機能に当てはめず、何を見て評価したのかを書き残す形になります。

写真は何を撮って残せばよいですか。

評価の根拠になった状態を撮ります。様式2の記録の手引きは「様式1の健全性の診断の区分や技術的な評価結果の根拠となった道路橋の構成要素の状態について、点検時点で確認した状態を写真で記録する。写真番号や部材番号がある場合は記入する。」としています。さらに手引きの冒頭は、「A:何らかの変状が生じる可能性が低い」に該当する場合であっても把握した状態を根拠として残すことや、変状が生じる可能性が有ると考えた部材の状態だけではなく考慮した劣化の進展の根拠なども記録できる様式としている、と述べています。異常が無かったことも根拠として残せる設計です。