点検調書を仕上げる段階で、「これは次の人に伝えておきたい」という情報が必ず出てきます。近接できなかった箇所、通行止めの協議に時間がかかったこと、応急措置で外したボルト——どれも損傷ではないので、損傷図にも評価にも書けません。

「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)の付録―1「定期点検結果の記入要領」を読むと、引き継ぎのための記載は5か所に分かれて用意されています。1つの「引き継ぎ欄」があるのではなく、伝える相手と目的でページが分かれている構造です。

この記事では、その5か所が何を受け持っているのかを原文から整理します。どこに書くか迷って所見に全部詰め込む、という状態を避けるためのものです。

この記事の要点
  • 引き継ぎの記載は5か所。様式(その1)の所見・総合結果の補足・備考欄、様式(その11)、データ記録様式(その6)
  • 所見=判断の理由。具体的な工法・時期・範囲は書かないと要領が明記している
  • 様式(その11)=やることの指示。径間番号・箇所・状態と必要な行為・写真番号の4項目で、箇所を特定して書く
  • データ記録様式(その6)=データの取り方の申し送り。取得方法の変更に伴う注意点を残す欄
  • 備考欄=次回の点検計画のための情報。近接方法・交通規制・協議の有無など9項目が例示されている
  • 区分が前回から変わったときは、変わった根拠を所見に書くことが求められている

引き継ぎ欄は1か所ではない

まず全体像です。記入要領を通して読むと、引き継ぎに関する記載の指示は次の5か所に現れます。

場所要領が求めている内容受け取る相手
点検記録様式(その1)橋梁診断員所見次回定期点検等への引き継ぎ事項/区分が変わった場合の根拠次回の点検者・道路管理者
同(その1)定期点検総合結果維持行為や詳細調査等の必要性の有無に関する引き継ぎ事項道路管理者
同(その1)定期点検総合結果に関する補足次回点検の時期、措置の優先性、監視や調査の必要性などの維持管理上の申し送り事項道路管理者
同(その1)備考欄近接条件等・構造等の特記事項次回の点検の計画を立てる人
点検記録様式(その11)点検結果を踏まえた維持管理への指示・引き継ぎ事項維持工事を担当する人
データ記録様式(その6)データ記録時の特記事項、データ取得方法の変更に伴う注意点、現地で行った応急処置次回データを取る人・比較する人

並べると、受け取る相手が違うことがはっきりします。同じ「引き継ぎ」でも、次に点検する人に要るものと、工事を発注する人に要るものは別だという整理です。調書全体の構成は橋梁点検調書の構成と書き方にまとめています。

所見:判断の理由を残す

点検記録様式(その1)の橋梁診断員所見は、健全性の診断の区分の決定に関わる技術的見解を書く欄です。要領は所見の末尾に、引き継ぎについて次の指示を置いています。

「以上の他,次回定期点検等への引き継ぎ事項がある場合には記載する。また,前回定期点検結果から健全性の診断の区分が変わった場合には,橋の性能の評価結果の変化や道路橋を取り巻く状況の変化等,その根拠についても記載する。」(橋梁定期点検要領 令和6年7月 付録―1 1.1))

後半が重要です。区分が動いたときは、動いた根拠を書く。Ⅱ からⅢ に上がった、という結果だけでは、次に読む人は「損傷が進んだのか、見方が変わったのか、周辺の状況が変わったのか」を判断できません。要領は根拠として「橋の性能の評価結果の変化」と「道路橋を取り巻く状況の変化等」の2つを挙げています。区分そのものの定義は健全性の診断区分Ⅰ〜Ⅳとはをご覧ください。

もう1つ、所見に書かない範囲も明示されています。

「具体的な材料や工法を特定するような記述は行わない。措置の内容については,定期的あるいは常時の監視,維持や補修・補強などの修繕,撤去,通行規制・通行止めを想定するが,具体的な措置工法や時期,範囲等まで検討した内容について所見欄に記載することは想定していない。」(同)

つまり所見は判断とその理由の場所であって、作業指示の場所ではありません。所見で使う措置の用語は要領が10語を定義しています(耐荷性能の回復と改善の違い)。あわせて要領は所見の重複についても、「他の様式に記載されている内容との重複はなるべく避け,健全性の診断の区分の決定にあたって,その直接的な理由がわかるように記録するのがよい」としています。同じことを5か所に書くのは、要領の想定ではありません。

なお、様式(その1)の「定期点検総合結果に関する補足」は所見とは別枠です。要領は「次回点検の時期,措置の優先性,監視や調査の調査の必要性を補足するなど,維持管理上の申し送り事項などを適宜記載する」としています。判断の理由が所見、運用上の申し送りが補足欄という分担になります。

様式(その11):やることを箇所つきで指示する

点検記録様式(その11)は、位置づけ自体が引き継ぎです。

「本様式は,点検結果を踏まえた維持管理への指示・引き継ぎ事項を整理するものである。次回定期点検までの維持工事等での対応の必要性を有りとした場合に,必要な行為等を記載する。また,橋梁利用者及び第三者被害予防の措置の必要性がある場合に,その内容を記載する。」(同 付録―1 1.12))

記入要領は4項目で、書き方まで指定されています。

項目要領の記入要領
径間番号該当部分に対応した径間番号
箇所対象となる箇所。「A1橋台側排水管,下流側排水桝 など,箇所が特定できるよう記載」
状態と必要な行為上述箇所の状態と、それに対して必要な行為
写真番号補足資料。様式(その8-1,8-2)の写真を使う場合は「点検記録様式(その8-1,8-2)写真番号○」など参照先が分かるように記載

この欄の性格は「箇所が特定できるよう記載」という一文に出ています。行く人が現地でそこにたどり着けることが要求水準です。「排水不良」だけでは足りず、どの径間のどの位置かまで書く。写真番号の書き方まで例示されているのも同じ理由で、参照先をたどれることを求めています。

第三者被害の予防措置の内容もここに書きます。予防措置そのものの考え方は第三者被害予防措置とはに、措置の必要性の判定区分は対策区分(判定区分)とはにまとめています。

データ記録様式(その6):取り方の変更を伝える

5か所のうち、もっとも見落とされやすいのがここです。

「本様式では,定期点検の基礎データ記録時の特記事項,データ取得方法の変更に伴う注意点,現地で行った応急処置などの引き継ぎ事項を記載する。作成にあたっては,対象位置や内容が詳細に分かるように記載すること。」(同 付録―1 3.11))

挙げられているのは3種類です。

種類何のためか
基礎データ記録時の特記事項そのとき何が普通と違ったかを残す
データ取得方法の変更に伴う注意点次回、同じ指標として比べてよいかを判断できるようにする
現地で行った応急措置次に見る人が「元の状態ではない」と分かるようにする

2つめが効きます。取得方法が変わったのに何も書かれていないと、次回の値の差が「状態の変化」に見えます。洗掘の地盤面の高さや塩化物イオン量のように、複数回ぶんを並べて傾向を見るデータでは、この段差の読み違えが判断そのものを変えます。データの取り方が変わったこと自体は損傷ではないので、ほかのどの様式にも書く場所がありません。水中部のデータ取得の規定は水中部の地盤面データとは?に整理しています。

3つめの応急措置は、様式(その2)の「現地での応急措置」欄にも「有無とその応急措置の内容を記入する」とあります。データ側の様式にも同じ項目があるのは、データを取った時点の状態を再現できるようにするためと読めます。

備考欄:次回の点検計画のための情報

点検記録様式(その1)の備考欄は、次回の段取りのための欄です。要領は「次の事項から必要事項を抽出し,記載する」として9項目を挙げています。

項目要領が挙げる理由
近接方法緊急時及び次回以降の定期点検の計画立案の際に、必要な架橋環境及び近接の難易度の把握に活用できる
交通規制の有無確保が必要な車線数及び交通量が把握でき、次回以降の定期点検計画立案に有益
協議の有無(相手)点検するためには必須な情報である
上部構造分割の有無(項目として挙げられている)
予防措置の実施の有無(対象径間の記載)補修・補強の緊急度を判断するための有益な情報の一つ
海岸線からの距離損傷の原因を絞り込むに際しての判断材料の一つ
塩害特定点検対象及び実施の有無措置方針を検討するときの参考にできる
検査路(上下部構造別に設置箇所)緊急時及び次回の定期点検計画立案時の有益な情報
補修補強工事の有無(前回定期点検以降の補修工事のみが対象)前回確認された損傷への対応が把握でき、次回の計画立案時に有益

9項目のうち5項目が「次回の点検計画」に言及しています。備考欄は状態の記録ではなく、次に点検する人が段取りを組むための欄だという性格がはっきり出ています。交通規制や協議の相手は、現地に行った人しか知らない情報でもあります。点検時の交通規制と保安の考え方は点検時の交通規制と保安に、塩害の特定点検は塩害の特定点検要領にまとめています。

ただし要領は歯止めも置いています。「別途の橋梁管理のためのデータベース等で容易に参照できる事項は,記載する必要ない」。台帳を見れば分かることを転記する欄ではありません。橋梁台帳との関係は橋梁台帳とはをご覧ください。

もう1つ、備考欄には「その他」として次の指示があります。真にやむを得ない理由で目視・打音・触診を実施できない場合や近接目視によらない方法により実施した場合は、その位置を備考欄に記録として残すというものです。要領は詳細について「点検記録様式(その7)が参考にできる」としており、状態把握の方法を記録する様式(その7)と連動しています(点検記録様式(その7)とは?)。

迷ったときの書き分け

実務では「これはどこに書くか」で手が止まります。要領の構造から整理すると、次の順で判断できます。

書きたいこと書く場所
なぜその区分にしたのか/区分が変わった根拠様式(その1)橋梁診断員所見
次回点検の時期や措置の優先性など、運用上の申し送り様式(その1)定期点検総合結果に関する補足
次に点検する人が段取りを組むために要る情報様式(その1)備考欄
次回定期点検までに現場で何をするか様式(その11)
データの取り方が変わった/応急措置をしたデータ記録様式(その6)

迷ったときの目安は「誰が読む情報か」です。判断を検証する人なら所見、工事を手配する人なら(その11)、次に同じ橋を測る人なら(その6)、次に現地へ行く人なら備考欄。要領が重複を避けるよう求めている以上、どれか1か所に置いて、他からは参照するのが素直な形になります。

出典:国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)付録―1「定期点検結果の記入要領」1.1) 点検記録様式(その1)、同 1.12) 点検記録様式(その11)、同 3.11) データ記録様式(その6)。引用は同要領の本文によります。地方公共団体が管理する橋では適用される要領および様式の版が異なるため、実務では各道路管理者が採用している要領を必ずご確認ください。

本記事は直轄の要領(令和6年7月版)の様式を扱っています。地方公共団体向けの様式との関係は道路橋記録様式(令和6年3月)とは?道路橋定期点検要領と橋梁定期点検要領は何が違うのかで、調書作成の工数を減らす方向の話は点検調書作成の工数を減らす方法にまとめています。点検全体の流れは道路橋定期点検 完全ガイドをご覧ください。

よくある質問

引き継ぎ事項を書く欄は1つではないのですか。

1つではありません。直轄の橋梁定期点検要領の記入要領には、点検記録様式(その1)の橋梁診断員所見、同(その1)の定期点検総合結果に関する補足、同(その1)の備考欄、点検記録様式(その11)、データ記録様式(その6)の5か所に、それぞれ性格の違う引き継ぎの記載が求められています。

様式(その11)には何を書きますか。

要領は「点検結果を踏まえた維持管理への指示・引き継ぎ事項を整理するもの」と位置づけ、次回定期点検までの維持工事等での対応の必要性を有りとした場合に必要な行為等を記載するとしています。記入要領は径間番号・箇所・状態と必要な行為・写真番号の4項目で、箇所は「A1橋台側排水管,下流側排水桝 など,箇所が特定できるよう記載」と例示されています。

所見と様式(その11)はどう書き分けますか。

所見は健全性の診断の区分の決定に関わる技術的見解の総括で、要領は具体的な措置工法や時期、範囲まで書くことは想定していないとしています。一方(その11)は「必要な行為等」を箇所を特定して書く欄です。判断の理由は所見、やることの指示は(その11)、と分けるのが要領の構造に沿います。

データ記録様式(その6)は何のための欄ですか。

要領は「定期点検の基礎データ記録時の特記事項,データ取得方法の変更に伴う注意点,現地で行った応急処置などの引き継ぎ事項を記載する」としています。橋の状態ではなく、データの取り方が変わったことを次回に伝える欄です。同じ指標を経年で比べるとき、取得方法の変更を知らないと段差を状態の変化と読み違えます。

備考欄には何を書けばよいですか。

点検記録様式(その1)の(5)が、近接方法・交通規制の有無・協議の有無(相手)・上部構造分割の有無・予防措置の実施の有無・海岸線からの距離・塩害特定点検対象及び実施の有無・検査路・補修補強工事の有無を挙げています。ただし「別途の橋梁管理のためのデータベース等で容易に参照できる事項は,記載する必要ない」とも書かれており、必要事項を抽出して書く欄です。

健全性の診断の区分が前回から変わったときは何を書きますか。

要領は所見について「前回定期点検結果から健全性の診断の区分が変わった場合には,橋の性能の評価結果の変化や道路橋を取り巻く状況の変化等,その根拠についても記載する」としています。区分が動いた事実だけでなく、なぜ動いたのかを残すことが求められています。