対策区分の記号そのもの(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)は、対策区分一覧の記事で整理しました。実務で次に詰まるのは記号の意味ではなく、「どの範囲にひとつの記号を付けるのか」と「補修したあと、その判定をどこに書き直すのか」の2点です。協力会社から上がってきた調書をチェックしていて、桁1本ぶんの腐食に対策区分が3つ付いていたり、去年C2だった箇所が補修済みなのに調書が書き換えられていたりする——このどちらも、単位と記録先の取り違えから起きます。
この記事は、国土交通省道路局国道・技術課「橋梁定期点検要領」(平成31年3月)の本文と解説から、判定の単位・再判定の記録先・初回点検の扱い・詳細調査の線引きを原典の言い回しのまま拾って整理したものです。同要領は「国土交通省及び内閣府沖縄総合事務局が管理する道路橋の定期点検に適用する」ものですが、自治体の要領がこの構成を踏襲していることが多く、発注図書の読み解きにも使えます。
- 対策区分の単位は「構造上の部材区分あるいは部位」×「損傷種類」。桁は径間毎の各1本単位、橋台等は下部構造一基単位、床版や対傾構は径間単位
- 損傷程度の評価(a〜e)は要素単位なので、対策区分より細かい。同じ表で並べられない
- 措置後の再判定は橋梁管理カルテに書き、点検調書には反映させない
- 初回点検で原因・規模が明確な軽微な損傷は、B相当でもC1が望ましい。原因不明はS1が望ましい
- 補修設計の数量出しのための詳細調査を理由にS1と判定することは「行ってはならない」
対策区分は「部材区分あるいは部位」×「損傷種類」で付ける
要領の6.1は、判定の対象を次のように書いています。「定期点検では, 橋梁の損傷状況を把握したうえで, 構造上の部材区分あるいは部位毎,損傷種類毎の対策区分について, 付録-1「対策区分判定要領」 を参考にしながら,表-6.1.1の判定区分による判定を行う。」
読み落としやすいのは「損傷種類毎」のほうです。単位は部位だけでも損傷だけでもなく、その2つの掛け算です。ある主桁に腐食とひびわれの両方があれば対策区分は2つ付きますが、同じ主桁の同じ腐食が3か所にあっても、その桁の腐食についての対策区分は1つです。損傷の種類は26種類に整理されているので、掛け算の右側は有限のリストになります。
同じ条文には、記録についての条件も続きます。「A以外の判定区分については,損傷の状況,損傷の原因,損傷の進行可能性,当該判定区分とした理由など,定期点検後の維持管理に必要な所見を記録する。」そのうえで「複数の部材の複数の損傷を総合的に評価するなどした橋梁全体の状態や対策の必要性についての所見も記録する。」とされています。所見は部材ごとのものと橋全体のものの2階建てです。
判定単位の3分類:桁1本・下部構造一基・径間
「構造上の部材区分あるいは部位」が具体的にどこまでを指すのかは、同じ6.1の解説に列挙されています。3つのグループに分かれます。
| 単位 | 対象となる部材・部位 |
|---|---|
| 径間毎の桁等各1本単位 | 主桁、横桁、縦桁、主桁のゲルバー部、PC定着部、主構トラスの上・下弦材、主構トラスの格点、主構トラスの斜材・垂直材のコンクリート埋込部、アーチのアーチリブ・補剛桁、アーチの格点、アーチの吊材等のコンクリート埋込部、ラーメンの主構(桁・脚)、斜張橋の塔柱 |
| 下部構造一基単位 | 橋台等 |
| 径間単位 | 床版、対傾構等(上記以外のもの) |
要領はこの1つ目のグループについて「径間毎の桁等各1 本単位 (付録-3 「定期点検結果の記入要領」 に記載の部材番号を付す単位である。)」と補っています。つまり調書に部材番号を振る単位が、そのまま対策区分を付ける単位だということです。部材番号の振り方に迷ったときは付録-3側を見れば、判定の単位も同時に決まります。
ここを径間単位で丸めてしまうと、G1桁だけに出ている桁端部の腐食が全桁の判定に化けます。逆に細かく割りすぎると、同じ桁の同じ損傷種類に複数の区分が並び、集計時にどれを採るかが決められなくなります。損傷図(その5)や写真台帳の整理でも、この単位に沿って束ねておくと後段の集計が素直に通ります。
損傷程度の評価は要素単位。対策区分と粒度が違う
同じ要領の付録-2「損傷程度の評価要領」には、①腐食の項に、以降のすべての損傷に効く注意書きが置かれています。「損傷程度の評価にあたって,主桁ゲルバー部,格点,コンクリート埋込部においては当該要素でのみ扱い,当該部位を含む主桁等においては当該部位を除いた要素において評価する(以下,各損傷において同じ。また,対策区分の判定の単位とは評価単位が異なるので注意のこと)」
つまり損傷程度は要素単位、対策区分は部材区分あるいは部位ごとです。同じ桁でも、ゲルバー部は要素として切り出して評価し、その桁の残りの部分は別の要素として評価します。損傷程度の評価(a〜e)の一覧表と対策区分の一覧表を、同じ行番号で突き合わせようとすると必ずどこかで合いません。合わないのが正常です。
付録-2はさらに、損傷程度の評価が何をする行為なのかを冒頭で規定しています。「損傷程度の評価は,対策区分の判定や健全性の診断と異なり,橋梁各部の外観の状態を客観的かつ記号化して記録するものである。」そして「損傷程度の評価ではこれらの推定・判断を含むこと無く,外観として観察された事実が記録されることが求められる。」——記録の行為(a〜e)と、技術的判断の行為(対策区分)を、要領自身がはっきり分けています。
措置後の再判定は「カルテ」に書き、調書には反映させない
ここが実務でいちばん取り違えられている箇所です。要領はまず、措置をとったら再判定することを求めています。「また,Aを除く判定区分については,しかるべき対策がとられた場合には,速やかに表-6.1.1の対策区分の 判定区分によって再判定を行い,その結果を記録に残すものとする。」
要領が挙げている例は3つです。
- 定期点検でMの判定区分としていた排水施設の土砂詰まりを、維持工事で除去したためAの判定区分に変更
- 定期点検でS1の判定区分としていた損傷を、詳細調査の結果を踏まえてBに再判定
- 定期点検でC2の判定区分としていたひびわれを補修したためにAの判定区分に変更
そのうえで、記録先が明記されています。「その記録の方法は,定期点検時の判定結果は点検調書に記載,その後の措置を踏まえた再判定結果は橋梁管理カルテに記載とし,再判定結果は点検調書には反映させない。」
点検調書は、その点検を行った時点の結果を保存する文書です。あとから直してしまうと、5年後に前回との比較ができなくなります。措置の履歴と現在の状態は橋梁管理カルテ側で追う——この二層構造が要領の設計です。カルテについては要領の1.(適用の範囲)が「橋梁に係る各種点検やその記録等の一元管理については,「橋梁の維持管理の体系と橋梁管理カルテ作成要領(案)」(平成16年3月)(以下「カルテ作成要領」という。)に定められているので,それによること。」と参照先を示しています。台帳・カルテの関係は橋梁台帳の記事もあわせてご覧ください。
初回点検の損傷は、原則C1かS1に寄せる
初回点検(架設後の最初の定期点検)だけは、判定の寄せ方が変わります。要領はC1・C2の説明の末尾で次のように書いています。
「また,初回点検で発見された損傷については,早急に補修等を行うことにより長寿命化とライフサイクルコストの縮減に繋がると考えられるので,損傷の原因・規模が明確なものについては,損傷が軽微(B相当)であっても,損傷の進行状況にかかわらず, C1判定とすることが望ましい (原因調査が必要な場合は, S1判定。 補修等の規模が維持工事で対応可能な場合は,M判定。なお,B判定を排除する意図ではない。)。」該当例として、コンクリート主桁に生じた乾燥収縮又は温度応力を原因とするひびわれ、床版防水工の不良による漏水・遊離石灰が挙げられています。
原因が分からない場合は、より強い書き方になります。「初回点検で発見された損傷については,供用開始後2年程度で損傷が発生するというのは正常とは考え難いことから,その原因を調査して適切な措置を講じることが長寿命化,ライフサイクルコストの縮減に繋がると考えられるので,C1判定又はM判定とした以外の損傷は,損傷の原因・規模が明確なものを除き,S1判定とするのが望ましい」。S1・S2の使い分けは通常点検と初回点検で重みが違う、と理解しておくと発注者との協議が早くなります。
迷ったときの寄せ方と、やってはいけない判定
要領は、区分が重なるときの処理を明示しています。
- C1とC2の両方の理由に当たるとき:「一つの損傷でC1,C2両者の理由から速やかな補修等が必要と判断される場合は,C2に区分する。」
- E1とE2の両方の理由に当たるとき:「一つの損傷でE1,E2両者の理由から緊急対応が必要と判断される場合は,E1に区分する。」
- 主要部材でC2またはE1と判定したとき:「主要部材についてC2又はE1の判定を行った場合は,対策として補修で足りるか,又は更新(部材の更新又は橋の架け替え)が必要かを併せて判定するものとする。」
逆に、明確に禁じられている判定もあります。6.5の解説です。「なお,C1又はC2判定が行われて実際に補修工事を行うに際しては,工事内容と工事規模(数量)を決定するための調査及び補修設計が行われるのが一般的である。この調査は,対策区分の判定としての詳細調査とは意味や内容,観点が異なることから,補修設計の実施を目的として工事規模のみを明確にするために詳細調査の必要があるとの判定は,行ってはならない。」
S1は「補修等の必要性の判定を行うにあたって原因の確定など詳細な調査が必要」な場合の区分であって、数量を出すための調査を発注するための欄ではない、ということです。ここを混ぜると、S1の件数が実態より膨らみ、次年度の調査費の説明がつかなくなります。
なお、原因が不明でも必ずS1になるわけではありません。要領は「高欄のボルトのゆるみのように原因が不明であっても,容易に補修や改善の対応が可能であり, 直ちに対処することが望ましいと考えられるものについては, 例えばMに判定するなど, 必ずしも詳細調査が必要とはならない場合も考えられる」と補っています。
健全性の診断との対応は「一般には」でしかない
要領の7.1は、部材単位の健全性の診断と対策区分の関係を次のように書いています。「「健全性の診断」と「対策区分の判定」は,あくまでそれぞれの定義に基づいて独立して行うことが原則であるが,一般には次のような対応となる。」として、Ⅰ=A・B、Ⅱ=C1・M、Ⅲ=C2、Ⅳ=E1・E2 を挙げています。
大事なのは前半の「独立して行うことが原則」のほうです。同じ条文には「部材単位の健全性の診断は,着目する部材と その損傷が 道路橋の機能 に及ぼす影響の観点から行う。 換言すれば,表7.1 の「道路橋の機能」を 「部材の 機能」に機械的に置き換えるものではない。」ともあります。対策区分の一覧から健全性の診断を自動生成する変換表を組みたくなりますが、要領はそれを想定していません。健全性の診断を最も厳しい部材で決めるのかという論点も、この「独立して行う」から出発すると読みやすくなります。区分Ⅰ〜Ⅳの定義そのものは健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)で扱っています。
また、判定の単位についても7.1(2)が「部材単位の健全性の診断における,構造上の部材区分あるいは部位毎,損傷種類毎は,6.1の「対策区分の判定」と同じとすることを基本とする。」としています。単位はそろえる、判断は独立させる——という整理です。
よくある質問
対策区分は損傷1つごとに付けるのですか。
橋梁定期点検要領(平成31年3月・国土交通省道路局国道・技術課)は「構造上の部材区分あるいは部位毎,損傷種類毎の対策区分について」判定を行うと定めています。つまり単位は「部材区分あるいは部位」×「損傷種類」です。同じ主桁に同じ種類の腐食が複数あっても、その桁1本についての腐食の対策区分は1つです。一方、損傷程度の評価(a〜e)は要素単位で付けるため、集計の粒度が対策区分より細かくなります。
「部材区分あるいは部位」とは具体的にどの範囲ですか。
同要領の解説は3通りに分けています。主桁・横桁・縦桁・主桁のゲルバー部・PC定着部・主構トラスの上下弦材・主構トラスの格点・アーチのアーチリブや補剛桁・ラーメンの主構・斜張橋の塔柱などは「径間毎の桁等各1本単位」、橋台等は「下部構造一基単位」、床版や対傾構などそれ以外は「径間単位」です。
補修が終わったら、点検調書の判定を書き換えるのですか。
書き換えません。同要領は「定期点検時の判定結果は点検調書に記載,その後の措置を踏まえた再判定結果は橋梁管理カルテに記載とし,再判定結果は点検調書には反映させない。」と明記しています。措置をとったら速やかに再判定して記録に残しますが、その記録先はカルテ側です。点検調書はその時点の点検結果を保存する文書として、当時の判定のまま残します。
初回点検で見つけた軽微な損傷はB判定でよいですか。
同要領は、初回点検で発見された損傷については、損傷の原因・規模が明確なものは損傷が軽微(B相当)であっても、損傷の進行状況にかかわらずC1判定とすることが望ましいとしています。原因調査が必要ならS1、補修等の規模が維持工事で対応可能ならMです。ただし「なお,B判定を排除する意図ではない。」という但し書きも同時に置かれています。
C1とC2、E1とE2の両方の理由に当たるときはどちらにしますか。
重いほうに寄せます。同要領は「一つの損傷でC1,C2両者の理由から速やかな補修等が必要と判断される場合は,C2に区分する。」「一つの損傷でE1,E2両者の理由から緊急対応が必要と判断される場合は,E1に区分する。」としています。
補修設計の数量を出すために詳細調査が必要、という理由でS1にしてよいですか。
できません。同要領は、C1またはC2判定で実際に補修工事を行う際の工事内容・工事規模を決める調査は「対策区分の判定としての詳細調査とは意味や内容,観点が異なる」とし、「補修設計の実施を目的として工事規模のみを明確にするために詳細調査の必要があるとの判定は,行ってはならない。」と明記しています。S1は補修等の必要性を判定するために原因の確定などが要る場合の区分です。