洗掘は、定期点検では㉖洗掘として損傷程度の評価の対象になっています。ただし直轄の要領では、それとは別枠で「データを取る」ことが求められているのをご存じでしょうか。

「橋梁定期点検要領」(令和6年7月・国土交通省 道路局 国道・技術課)は、第4章「状態の記録」の5.に「水中部の地盤面に関連するデータ」という節を置いています。損傷の評価が「今どういう状態か」を区分するものであるのに対し、こちらは次の点検、さらにその先と比べるための素データを残す規定です。

この記事では、その節が求めている記録の中身——写真等で残す4点と、実際に高さを計測する橋脚の条件——を条文から整理します。

この記事の要点
  • 洗掘は損傷程度の評価(第4章4.1)と別に、第4章5.でデータ取得が求められる。目的が違う2本立て
  • 記録は2つ。(1) 写真等による状態の記録(2) 直接基礎を有する水中部の橋脚の基礎周辺地盤の高さの計測
  • 写真で分かるようにする項目は4つ。局所的な河床低下/フーチング上面・下面の露出/対策工の変状/流れに影響を及ぼす範囲の地形条件と流路
  • 高さを計測する対象は2条件のいずれか。a=直接基礎で支持地盤が砂または砂礫/b=基礎形式によらず過去の評価が a 以外
  • 被災は基礎形式によらず発生している。ただし事例の大半は砂・砂礫を支持地盤とする直接基礎
  • 海中部など潮流の影響を受ける橋も「適宜検討するのがよい」とされる。対象は河川に限られない

評価する洗掘と、記録する洗掘

まず、同じ「洗掘」が要領の中で2回出てくることを押さえます。

どこ何をするか目的
第2章「点検・診断」特定の事象の評価の対象次回点検までの性能の推定と措置の必要性の判断
第4章4.1「損傷程度の評価」㉖洗掘として損傷程度を区分客観的事実としての状態の記録
第4章5.「水中部の地盤面に関連するデータ」写真等の記録と、地盤面の高さの計測計画的な対策の検討と、洗掘の予防の必要性を検討するための基礎データ

要領本文は、第4章5.の柱書きを次のように書いています。

「河川流により洗掘の影響を受けるおそれのある橋梁基礎の周辺地盤を対象に,以下の(1)から(2)により,水中部の地盤面に関するデータの取得を行うことを基本とする。」(橋梁定期点検要領 令和6年7月 第4章5.)

「行うことを基本とする」という書き方で、対象は「河川流により洗掘の影響を受けるおそれのある橋梁基礎の周辺地盤」です。橋全体ではなく、その条件に当たる基礎の周辺地盤だけが対象になります。

解説には、この節を置いた経緯も書かれています。「これまでも度々,橋梁基礎の洗掘に起因すると考えられる被害が生じている」なかで、「計画的な対策に資する情報であることや昨今の豪雨災害の発生状況も考慮し」たという説明です。損傷の区分だけでは足りず、経年で比較できる素データが要る、という判断がここに表れています。

洗掘そのものの定義と、水中を誰がどう見るのかという実務上の壁は橋脚の洗掘は誰が水中を見るのかにまとめています。損傷程度の評価(a〜e)の考え方は損傷程度の評価(a〜e)とは?をご覧ください。

写真等で分かるようにする4点

(1)の写真等による記録について、要領は「河川内の橋脚橋台に対して,写真の撮影等による記録は,以下が分かるよう行う」として4項目を挙げています。

#写真等で分かるようにする内容
1)橋台・橋脚周辺の局所的な河床低下の有無
2)フーチングの上面又は下面の露出の有無
3)対策工の変状の有無
4)流れに影響を及ぼす範囲の地形条件や流路

実務で効くのは、この4つが「有無が分かるように」という要求だという点です。損傷の写真は普通、変状のある箇所を寄って撮ります。しかし1)と4)は、寄った写真では成立しません。周辺の河床がどうなっているか、流路がどこを通っているかは、引いた画角でないと写らないからです。

2)のフーチングの露出も同じで、上面と下面のどちらが出ているのかを区別できる撮り方が要ります。ここは損傷写真の作法とは別に設計が要る部分です。撮影と整理の一般的な進め方は損傷写真台帳の作り方に、位置と写真の対応づけは損傷図(その5)の書き方と作図ルールに整理しています。

なお柱書きは(1)を「底質の状態や洗掘対策工の外観の状態を写真等により記録する」と書いており、「写真等」です。写真に限定されていないため、点群や測深のデータを併用して残す余地があります。点群を点検に使うときの一般的な位置づけはLiDAR・点群データの橋梁点検活用にまとめています。

高さを計測する橋脚の2条件

(2)は写真ではなく計測です。柱書きは「直接基礎を有する水中部の橋脚の基礎周辺地盤の高さを計測する」としています。そして解説が、対象を絞る条件を明示しています。

「以下のいずれかの条件に該当する水中部の橋脚を対象に,中長期的な対策の必要性の検討や出水時の洗掘被害のリスク評価などにも活用できるように橋脚基礎の周辺地盤の高さを計測する。
a:基礎形式が直接基礎であり,その支持地盤が砂又は砂礫である橋梁
b:基礎形式によらず,過去の点検結果において洗掘に対する損傷程度の評価が a 以外の橋梁」(同 第4章5.解説(2))

ここは読み違えが起きやすいので、2点だけ確認します。

1つめ。条件bの「評価が a 以外」の「a」は損傷程度の評価の記号で、条件記号のaとは別物です。損傷程度の評価では a が最も軽い側なので、「a 以外」は過去に何らかの洗掘が記録されている橋という意味になります。同じ段落に条件記号のaとbが並んでいるため、条文を抜き書きすると取り違えやすい箇所です。

2つめ。bには基礎形式の限定がありません。柱書きは「直接基礎を有する水中部の橋脚」と書いていますが、解説のbは「基礎形式によらず」です。過去に洗掘の記録がある橋なら、杭基礎でもケーソンでも高さの計測対象になると読めます。

この計測の使いみちも書かれています。「中長期的な対策の必要性の検討」と「出水時の洗掘被害のリスク評価」です。点検の場でその橋の区分を決めるためというより、複数回ぶんを並べて河床が下がっているかを見るためのデータという位置づけです。措置としての監視の考え方は措置としての「監視」とは?モニタリング計画の立て方で扱っています。

なぜ直接基礎と砂・砂礫なのか

解説は、対象を絞った理由を実績から説明しています。

「これまでの被災は,基礎形式によらず生じている。中でも,特に砂,砂礫を支持地盤とする直接基礎で生じている事例が大半である。」(同 第4章5.解説(2))

この2文は順序が重要です。まず「基礎形式によらず生じている」と言い切っており、そのうえで事例の大半が砂・砂礫の直接基礎だとしています。つまり「杭基礎なら洗掘の被害は起きない」という読み方は要領自身が否定しています。計測の対象を絞ったのは、リスクが集中している側から優先して定量データを積むためであって、それ以外が安全だという判断ではありません。

(1)の写真等の記録についても、解説は同じ言い方をしています。「これまでの橋梁基礎の洗掘に起因すると考えられる被害は基礎形式によらず発生していることから,河川内の橋脚橋台に対して」記録を行う、という書き出しです。写真の側は基礎形式で絞っていないことになります。この非対称は、調書の作り込みで見落としやすいところです。

(1) 写真等の記録(2) 地盤面の高さの計測
対象河川内の橋脚・橋台水中部の橋脚のうち条件a または b
基礎形式による絞り込みなしあり(ただしbは基礎形式によらない)
残すもの4項目の有無が分かる写真等基礎周辺地盤の高さ

平成19年の洗掘点検実施要領との関係

この節にはもう1つ前提があります。解説は、国が管理する道路橋について「定期点検に加えて,例えば『橋梁基礎の洗掘に係る点検実施要領』(平成 19 年 10 月,道路局国道・防災課)による点検が行われるなど,被害を避けるための取り組みがされてきた」と書いています。

そのうえで、第4章5.はその要領で取り組んできた「確実な状態の記録」と「洗掘の予防の必要性を検討するための基礎的なデータの取得」を兼ねるものだと位置づけられています。定期点検とは別の要領で個別に行われてきたことを、定期点検の記録側に取り込んだ形です。

実務上の意味は、同じ橋で似た記録を二重に作らない設計にできるという点にあります。ただし平成19年の要領そのものの手順や様式は、この定期点検要領には収録されていません。両方の対象になる橋で記録をどう束ねるかは、道路管理者側の運用の話になります。定期点検以外の各種点検の関係は定期点検だけではない橋梁点検に、要領同士の上下関係は定期点検要領の法的位置づけ国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係にまとめています。

なお、この第4章5.は直轄の要領(令和6年7月版)の規定です。地方公共団体向けの道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)は構成が異なるため、自治体の橋にそのまま適用される規定ではありません。2つの要領の違いは道路橋定期点検要領と橋梁定期点検要領は何が違うのかで扱っています。

河川だけではない:海中部の扱い

柱書きは「河川流により」と書いていますが、解説が範囲を広げています。

「なお,上記以外にも,潮流の影響を受ける海中部の基礎等の流水の影響を受ける橋梁についても長期的には基礎周辺の地盤の洗掘が進行することも想定されるため,損傷程度の評価の他に適宜水中部の地盤面に関するデータの取得を検討するのがよい。」(同 第4章5.解説)

語尾が「検討するのがよい」で、「行うことを基本とする」(河川)とは強度が違います。海中部は推奨の水準にとどまるという整理です。ただし理由は「長期的には基礎周辺の地盤の洗掘が進行することも想定される」ことであり、現象として起きないとは書かれていません。海上橋や河口部の橋を持っている管理者は、記録の設計時に判断が要る箇所になります。

あわせて、塩害地域のコンクリート橋については同じ第4章の6.で、かぶりと全塩化物イオン量の記録が求められています。こちらも「損傷の評価とは別に定量データを残す」という同じ思想です。塩害側の制度は塩害の特定点検要領橋梁の塩害とは?地域区分A〜Cと対策区分にまとめています。

出典:国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)第4章「状態の記録」5.「水中部の地盤面に関連するデータ」および同6.。引用は同要領の本文と解説によります。実務では各道路管理者が採用している要領の版を必ずご確認ください。

点検の全体像は道路橋定期点検 完全ガイドに、調書側の作法は橋梁点検調書の構成と書き方点検調書作成の工数を減らす方法にまとめています。

よくある質問

洗掘の損傷程度を評価していれば、地盤面のデータ取得は不要ですか。

いいえ。要領は第4章4.1の損傷程度の評価とは別に、第4章5.で「水中部の地盤面に関するデータの取得を行うことを基本とする」と定めています。解説も「4.1の損傷程度の評価に加えて」と書いており、加算の関係です。目的も違い、評価は状態の区分、データ取得は計画的な対策の検討と洗掘の予防の必要性の検討に使われます。

杭基礎の橋脚は高さの計測をしなくてよいのですか。

条件bに該当すれば対象です。bは「基礎形式によらず,過去の点検結果において洗掘に対する損傷程度の評価が a 以外の橋梁」で、基礎形式を限定していません。また要領は「これまでの被災は,基礎形式によらず生じている」とも明記しているため、杭基礎なら安全という読み方はできません。

条件bの「a 以外」の a は、条件記号の a のことですか。

いいえ。損傷程度の評価の記号です。条件a・bの並びの直後に出てくるため紛らわしいのですが、洗掘に対する損傷程度の評価が a 以外、つまり過去に何らかの洗掘が記録されている橋という意味になります。

写真は損傷箇所を寄って撮るだけでよいですか。

足りません。要領が挙げる4項目のうち「橋台・橋脚周辺の局所的な河床低下の有無」と「流れに影響を及ぼす範囲の地形条件や流路」は、周辺が写っていないと有無を判断できません。「以下が分かるよう行う」という要求なので、画角の設計が必要になります。

記録は写真でなければいけませんか。

柱書きは「写真等により記録する」で、写真に限定していません。ただし要領はここで具体的な代替手段を列挙していないため、どの手段が「等」に含まれるかは書かれていません。用いた方法とその条件を記録に残しておくのが安全です。

海に架かる橋も対象になりますか。

柱書きの対象は「河川流により洗掘の影響を受けるおそれのある橋梁基礎の周辺地盤」ですが、解説が「潮流の影響を受ける海中部の基礎等の流水の影響を受ける橋梁についても……適宜水中部の地盤面に関するデータの取得を検討するのがよい」としています。河川側が「基本とする」、海中部側が「検討するのがよい」で、要求の強度が異なります。