- 点検記録様式(その5)は、橋を7つのシステムに分けて、そこに属する部材群と部材群番号を書き出す様式です。表題は「力学的な機能を担う部材群(システム)の区分」です
- 「部材」は1本単位です。原典は「付表-1.2に示される部材種別のひとつひとつ(主桁であれば1本1本)を指す」と定義し、それを同じ役割ごとにまとめたものを部材群と呼んでいます
- 様式は径間毎に作りますが、部材群番号は径間をまたいで増えていきます。様式の枚数と番号は別の数え方です
- 単径間でも下部構造・上下部接続部の番号は「02」まで進みます。原典が「径間番号と部材群番号が必ずしも一致するものではないことに留意すること」と明示しています
- 部材群が複数のシステムにまたがるときは、どちらか一方を選ばず、該当する複数のシステムに記入します
- 作成するのは橋梁診断員です。隣の様式(その6)要素番号図及び部材番号図は橋梁検査員が作ると明記されており、担当が分かれています
- この枠組みは直轄版だけのものです。自治体が参照する解説・運用標準(令和6年3月)には、当夜取得した全文テキストで「部材群」「システム」「力学的な機能」の出現がいずれも0件でした
点検記録様式(その8-1・8-2)の記入で手が止まるとき、原因はたいてい様式(その8)側ではなく、その手前にある様式(その5)にあります。様式(その8)の先頭4項目——構成要素名・力学的な機能を担う部材群名・部材群番号・属するシステム名——は、すべて様式(その5)で決めたものをそのまま引き継ぐ作りになっているからです。
ところが様式(その5)そのものの記入要領は、原典でわずか十数行しかありません。短いぶん、読み落とすと後段の様式がまとめてずれます。この記事では、直轄版「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)の付録「点検記録様式への記入方法」5)の原文と、第2章4.2 の条文を突き合わせて、様式(その5)で実務上つまずく4点を整理します。
様式(その8-1・8-2)側の書き方は様式その8-1・8-2の書き方|部材群毎の性能の評価結果に、要素番号・部材番号の付け方は要素番号の付け方:起点側から振る4桁の意味にまとめてあります。調書全体の地図は橋梁点検調書の構成と書き方:様式の全体像と記入の要点と橋梁定期点検 完全ガイドをご覧ください。
様式(その5)が担っている役割
原典の記入要領は、この様式の目的をこう書いています。
つまりこの様式は、損傷を書く紙ではありません。橋の荷重が、どの部材からどの部材へ流れていくのかを、点検の前提として宣言する紙です。ここで立てた部材群が、そのまま様式(その8-1・8-2)の評価単位になり、その評価の組み合わせが構成要素(上部構造・上下部接続部・下部構造)のABC評価につながります。
ABCの3区分は第2章5.2.1(3)で定義されています。A=何らかの変状が生じる可能性は低い、B=致命的な状態となる可能性は低いものの何らかの変状が生じる可能性がある、C=致命的な状態となる可能性がある。対策区分の判定に使うA〜Cとは別物で、原典も「従来同じ記号を用いていた対策区分の判定とは異なり,橋に対する対策の必要性を区分するものではない」と注意しています。構成要素の側の機能の立て方は構成要素に求められる7つの機能とAからCの決め方に整理しました。
評価の単位をどこに置くかという論点は、健全性の診断の考え方そのものにも関わります。健全性の診断は最も厳しい部材で決めるのか?改定後の考え方と合わせて読むと、様式(その5)で部材群を切る作業が診断の結論にどう効くのかが見えます。
7つのシステム:条文の定義をそのまま読む
システムは第2章4.2(2)で定義されています。ⅰ〜ⅶの7つで、構成要素ごとに割り当てが決まっています。
| 構成要素 | 記号 | システム名 | 条文の定義 |
|---|---|---|---|
| 上部構造 | ⅰ | 床版・床組システム | 通行車などによる路面に作用する荷重を直接的に支持する機能を担う部材群 |
| ⅱ | 主桁・主構システム | 上部構造へ作用する鉛直及び水平方向の荷重を支持し,上下部接続部まで伝達する機能を担う部材群 | |
| ⅲ | 立体機能保持システム | 上部構造へ作用する荷重を主桁等が上下部接続部に伝達するとき,荷重の支持,伝達を円滑にするための機能を担う部材群 | |
| 上下部接続部 | ⅳ | 支点反力支持システム | 上部構造からの荷重を支持し,下部構造へ伝達する機能を担う部材群 |
| ⅴ | 位置保持システム | 上部構造と下部構造が機能を発揮する前提として,必要な幾何学的境界条件を付与する機能を担う部材群 | |
| 下部構造 | ⅵ | 支点位置保持システム | 上下部接続部からの荷重を直接支持し,基礎・周辺地盤に伝達するとともに,上下部接続部の位置を保持する機能を担う部材群 |
| ⅶ | 地表面位置保持システム | 橋脚・橋台躯体からの荷重を支持し,橋の安定に関わる周辺地盤等に伝達するとともに,地盤面での橋の位置を保持する機能を担う部材群 |
構成要素そのものの役割も条文に書かれています。上部構造は「道路そのものとして自動車等の通行荷重を載荷させる部分を提供する役割」、上下部接続部は「上部構造の支点となりその影響を下部構造に伝達する役割」、下部構造は「上部構造を支える役割をもつ上下部接続部を適切な位置に提供する役割」です。
注意したいのは、この7つが部材の一覧ではないことです。「支承」や「橋脚」といった部材名ではなく、機能の名前で切られています。同じ支承でも、鉛直反力を受けている側面はⅳ支点反力支持システム、水平方向の位置を決めている側面はⅴ位置保持システムに関わります。支承まわりの評価の難しさは支承部の機能障害とは?評価がaとeしかない理由でも扱いました。
橋ではない構造物にこの枠組みを当てる例として、横断歩道橋の階段部があります。直轄版は階段部にも7つのシステムを立てており、その立て方は横断歩道橋の階段部は7つのシステムで見る|直轄版の部材群の立て方に整理しています。システムの考え方が構造形式に依存しないことを確認するのに向いた例です。
「部材」は1本単位、「部材群」はそのまとまり
記入要領の定義はこうです。
ここで押さえるべきは2点です。
1つ目は、「部材」が1本単位だと明示されていること。主桁G1〜G5の橋なら部材は5つで、それを「同じ役割や機能」でまとめた結果が部材群です。5本すべてが同じ役割なら部材群は1つ、張り出し部だけ条件が違うなら分けることもありうる、という読み方になります。
2つ目は、原文が「ⅰからⅳのシステムの機能を担っている部材」と書いていること。ⅰ〜ⅶではなくⅰ〜ⅳです。様式そのものにはⅰ〜ⅶの全欄があり、下部構造(ⅵ・ⅶ)の部材群名・部材群番号を書く欄も用意されているので、この記述だけを根拠に下部構造を書かないという運用にはなりません。ただし原文の表記はⅳまでであるため、ここは原典の記述とフォームの欄が一致していない箇所として認識しておくのが実務的です。採用版の原典を自分で開いて確かめてください。
部材の名称と記号そのものは付表-1.2 に一覧があります。どの記号を使うかは要素番号の付け方:起点側から振る4桁の意味で扱った要素番号の体系と対応しているので、部材群を切る前に番号の下地が固まっている必要があります。
径間毎に作る。ただし番号は径間をまたいで増える
原典は「本様式は,径間毎に作成する」と1行で指定しています。ここまでは素直です。混乱するのは番号の側です。
1径間目:床版・床組部材群01,主桁・主構部材群01,立体機能保持部材群01
2径間目:床版・床組部材群02,主桁・主構部材群02,立体機能保持部材群02
つまり様式は径間ごとに分かれているのに、番号は橋全体で通して振る設計です。3径間の橋なら様式(その5)は3枚になり、上部構造の部材群番号は01・02・03と進みます。
これは様式(その8-1)の作り方とも整合しています。様式(その8-1)は上部構造について径間毎・部材群毎に作るため、番号が径間をまたいで一意でないと、どの紙がどの部材群のものか特定できなくなります。
単径間でも「02」まで進む:いちばん多い勘違い
原典が明示的に注意しているのがここです。
単径間の橋でも、上部構造を支える支点は起点側と終点側の2か所あります。上下部接続部と下部構造はその2か所それぞれに立つため、1径間しかなくても部材群番号は01と02の2つになります。
| 構成要素 | 単径間の橋での部材群番号 | 理由 |
|---|---|---|
| 上部構造(ⅰ〜ⅲ) | 01 | 径間が1つなので1組 |
| 上下部接続部(ⅳ・ⅴ) | 01・02 | 起点側と終点側の2支点 |
| 下部構造(ⅵ・ⅶ) | 01・02 | 起点側橋台と終点側橋台 |
「径間番号=部材群番号」と思い込んだまま様式(その8-2)を作ると、下部構造2基ぶんの評価を1つの番号に押し込むことになります。様式(その8-2)は下部構造と上下部接続部を橋全体で1枚に集約してよい作りなので、番号が潰れていても紙の上では成立してしまい、後年の読み手が「どちらの橋台の話か」を復元できなくなるのが実害です。
複数のシステムにまたがる部材群は両方に書く
原典は「部材群が複数のシステムに属する場合は,該当する複数のシステムに記入する」としています。選択ではなく併記です。
この指示が要る理由は、条文側の解説に書かれています。「橋梁形式や部材形式などによっても,同じ部材が異なる役割に対して兼用されていたり,着目する役割に寄与している部分の境界が明確でなかったりすることも少なくない」。そのうえで解説は、部材や部位レベルでの厳密な特定までは必要ないことが通常とも述べています。
構造解析や精緻な測量までは求められていない、というのが原典の立場です。境界が曖昧な部材を1つに決めきれないことを理由に様式(その5)が止まる必要はありません。両方に書き、判断の根拠を所見に残す運用が原典に沿います。所見に使う用語の整理は耐荷性能の回復と改善の違い:所見の用語10種にまとめました。
なお、フェールセーフと伸縮装置はこの7つのシステムとは別枠で、様式(その9-1・9-2)で評価します。地震の評価にフェールセーフを考慮してはならないという明示的な禁止もあるため、様式(その5)の部材群にフェールセーフを混ぜないでください。詳細はフェールセーフと伸縮装置の評価|様式その9-1・9-2にあります。
耐荷機構の整理図に書く内容は1行しか決まっていない
様式(その5)には「耐荷機構の整理図」の欄があります。記入要領はこれだけです。
図の様式・縮尺・記号・粒度の指定はありません。何をどこまで描くかは決まっていない、というのが原典の状態です。
記載の程度を決める基準を原典から取るなら、様式(その8-1・8-2)で部材群ごとのABC評価を説明できるところまでになります。評価の根拠を写真で残すのが様式(その2)の役割で、荷重の流れの説明を受け持つのがこの整理図、という分担です。様式(その2)の11項目は様式2の書き方:技術的な評価の根拠を写真で残す11項目に整理しています。
近接目視できなかった箇所がある場合は、様式(その7)の側に方法と条件を書きます。情報の取得手段と信頼性を部材群の評価に反映することが第2章5.2.2(3)で求められているため、点検記録様式(その7)とは?見えなかった箇所の記録と合わせて整えてください。
作成するのは診断員。その6は検査員
様式(その5)の記入者欄は「橋梁診断員」です。一方、隣の様式(その6)要素番号図及び部材番号図は、記入要領の冒頭に「本様式は,橋梁検査員が作成する」と明記され、記入者欄も「橋梁検査員」になっています。
| 様式 | 表題 | 作成者 | 性質 |
|---|---|---|---|
| その5 | 力学的な機能を担う部材群(システム)の区分 | 橋梁診断員 | 部材をシステムへ割り付ける判断 |
| その6 | 要素番号図及び部材番号図 | 橋梁検査員 | 番号の下地を整える作業 |
両者の役割の違いは橋梁診断員とは?資格制度が無い役割の線引きと橋梁検査員とは?診断員と分かれた「記録する側」の要件に整理しました。実務上の意味は、様式(その6)が先に固まっていないと様式(その5)が書けないことです。部材群に属する部材を特定するには、部材1本1本に番号が振られている必要があります。検査員の作業が終わらないうちに診断員が部材群を切ると、後から番号が変わったときに全部の様式を直すことになります。
直轄版にしかない枠組みであること
最後に適用範囲です。この記事が読んでいる原典は直轄版の「橋梁定期点検要領」(令和6年7月)で、適用されるのは国土交通省および内閣府沖縄総合事務局が管理する道路橋です。
自治体が参照する「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)には、当夜取得した全文テキスト(27ページ)を検索した結果、「部材群」「システム」「力学的な機能」の出現がいずれも0件でした。様式の呼び名も「様式1」「様式2」「様式3」の形式で、「様式(その5)」に当たるものはありません。
2つの要領系統の違いは橋梁定期点検要領は2種類ある:直轄版と技術的助言の違いに、どちらに従うかの判断は国の要領と自治体マニュアルの関係:どちらに従うのかに整理しています。様式1の基本情報のように両系統で共通する項目もあるため、様式1の基本情報の書き方:橋梁名・路線名・緯度経度と突き合わせると、どこから先が直轄版固有なのかが切り分けられます。
よくある質問
Q. 点検記録様式(その5)は誰が作りますか。
A. 様式の記入者欄は「橋梁診断員」です。隣の点検記録様式(その6)要素番号図及び部材番号図には「本様式は,橋梁検査員が作成する」と明記されており、こちらは記入者欄も「橋梁検査員」になっています。その5は部材をシステムへ割り付ける判断を伴うため診断員側、その6は番号の下地を整える作業なので検査員側、という分担です。
Q. 様式(その5)は橋全体で1枚ですか、径間毎ですか。
A. 原典に「本様式は,径間毎に作成する」と書かれています。径間毎です。ただし部材群番号の付番は径間をまたいで連番で増えていくため、様式の枚数と番号は別の数え方になります。
Q. 単径間の橋なのに部材群番号が02まであるのはなぜですか。
A. 原典に「上下部接続部や下部構造などの部材群番号は,単径間(もしくは多径間の1径間目)であっても『02』まで付番されるため,径間番号と部材群番号が必ずしも一致するものではないことに留意すること」と明記されています。単径間の橋でも支点は起点側と終点側の2か所あるため、そこに属する部材群が2つ立つ、という数え方です。
Q. システムは何種類ありますか。
A. 7種類です。上部構造にⅰ床版・床組システム、ⅱ主桁・主構システム、ⅲ立体機能保持システム。上下部接続部にⅳ支点反力支持システム、ⅴ位置保持システム。下部構造にⅵ支点位置保持システム、ⅶ地表面位置保持システムです。
Q. 1つの部材群が2つのシステムにまたがるときはどう書きますか。
A. 原典は「部材群が複数のシステムに属する場合は,該当する複数のシステムに記入する」としています。どちらか一方を選ぶのではなく、両方の欄に書きます。
Q. 自治体の点検でもこの様式を使いますか。
A. 自治体が参照する「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」(令和6年3月)には、当夜取得した全文テキストを検索した限り「部材群」「システム」「力学的な機能」のいずれも0件で、様式(その5)に当たる様式もありません。システムによる区分は直轄版に固有の枠組みです。自組織が採用している要領を確認してから使ってください。
Q. 「部材」はどの単位ですか。主桁はまとめて1つですか。
A. 原典は「ここでいう“部材”とは,付表-1.2に示される部材種別のひとつひとつ(主桁であれば1本1本)を指す」としています。部材は1本単位で、それを同じ役割や機能ごとにまとめたものが部材群です。
Q. 耐荷機構の整理図には何を書きますか。
A. 原典の記入要領は「橋の構造体系を橋の耐荷機構に着目して整理した内容を記録する」の1行だけで、図の様式や粒度の指定はありません。記載の程度は、様式(その8-1・8-2)で部材群ごとのABC評価を説明できるところまで、と考えるのが実務的です。
出典・適用範囲
本文の版・記述・引用を確認するための一次資料です。PDFを当夜取得し、該当箇所を原文で照合しました。引用の読点・句点は原典の表記に合わせています。「0件」と記した語の出現数は、当夜取得したPDFの全文テキストに対する実測値です。
- 国土交通省 道路局 国道・技術課「橋梁定期点検要領」(令和6年7月) — 参照箇所:第2章4.2「上部構造,下部構造及び上下部接続部の荷重の支持,伝達機能を担う部材群(システム)の把握」(1)(2)および解説/第2章5.2.1(3) ABCの区分/第2章5.2.2(1)(3)/付録「点検記録様式への記入方法」5)点検記録様式(その5)力学的な機能を担う部材群(システム)の区分・6)点検記録様式(その6)要素番号図及び部材番号図(付録ページ11)/様式集の点検記録様式(その5)・(その6)の記入者欄。当夜取得 HTTP 200・22,125,522バイト・589ページ。
- 国土交通省 道路局「道路橋定期点検要領 技術的助言の解説・運用標準」(令和6年3月) — 「部材群」「システム」「力学的な機能」の出現がいずれも0件であること、様式の呼称が「様式1」等であることの確認に使用。当夜取得 HTTP 200・918,711バイト・27ページ。
- 国土交通省「道路:道路の老朽化対策」 — 各定期点検要領の公開ページ。採用版の確認に使用。
原典リンク確認:2026年10月7日。本記事は点検記録様式(その5)の記入ルールを原文で確認するための実務解説であり、個別の橋梁における部材群の区分やその妥当性を判定するものではありません。引用元の要領は国土交通省および内閣府沖縄総合事務局が管理する道路橋に適用される直轄版であり、地方公共団体の橋に自動的に適用されるものではありません。