この記事の要点
  • この要領(案)は「鉄筋の破断が生じた事例が明らかになったことから」作られた。見ているのは外観の美観ではなく耐荷性能に関わる鉄筋の破断
  • 下部構造を前提に定めたもの。上部構造への準用は「別途、専門家を交え十分な検討を行うことが必要」
  • 鉄筋健全度の詳細調査に進む入口はひび割れ幅2mm以上の連続したひび割れ/T型橋脚の特定部位で1mm以上/表面の段差2mm以上
  • はつり出しの範囲は2段階。全数が望ましいのが5mm以上・図解パターンで3mm以上・段差5mm以上、代表箇所で足りるのが2mm〜5mm・図解パターンで1mm以上3mm未満・段差2mm〜5mm
  • 補修済みなら補修前の幅と再開口幅の合計で判断する
  • 将来の進行を予測する試験はコアの残存膨張量試験が「唯一のもの」。コアは湿布で包み、含水状態を変えずに運ぶ
  • 未補修に新たに補修するなら撥水系の表面保護工。既補修なら現在と同じ系統を上塗り
  • ASRと判断された橋は少なくとも5年以内に外観調査。変状が著しいものは1〜3年程度に一回

橋のひび割れ幅で実務が動く数値といえば、0.2mmや0.3mmが思い浮かびます。ところがアルカリ骨材反応(以下、ASR)の話になると、現れる数値は1mm・2mm・3mm・5mmです。桁が1つ違います。

これは基準が緩いのではなく、見ている対象が違うためです。0.2mm・0.3mmはひび割れそのものの評価に使う目安で、ASRの1mm・2mmはコンクリートの膨張で内部の鉄筋が破断しているおそれがあるかの目安です。次に続く行為も、ひび割れ注入ではなく鉄筋のはつり出しになります。定期点検側のひび割れ幅の考え方は橋梁のひび割れ幅の評価基準:0.2mm・0.3mmの意味と測定方法で扱っています。

この数値を定めているのが「道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案)」(平成15年3月・国土交通省道路局)です。全17ページ・45.8KBという薄い資料で、12の章と2枚の図解だけで構成されています。この記事では、どの幅で何をするのか、はつり出しの範囲はどう分かれるのか、残存膨張量試験が何のための試験なのかを、要領(案)の原文から整理します。

鉄筋が破断した事例から書かれた要領(案)

この要領(案)がなぜ作られたのかは、土木研究所CAESARの関連図書一覧の紹介文に書かれています。

「アルカリ骨材反応に起因する橋梁の損傷として、鉄筋の破断が生じた事例が明らかになったことから、鉄筋の破断のおそれのある場合の見分け方や対処方法などについて示したものである。」

つまりこの資料の主題は、ひび割れの見た目ではなく鉄筋が切れているかどうかです。要領(案)の本文もそれを裏づける書き方をしています。1章の冒頭は次の一文です。

「橋梁にアルカリ骨材反応(以下、「ASR」という)によるものと疑われる変状が生じている場合には、必要な調査等を行い、適切に対応しなければならない。」

続く解説では、ASRがどういう現象かを「コンクリート中のアルカリと反応性骨材との化学反応により生成するアルカリシリカゲルが水分の供給により膨張する現象」と定義し、評価にあたっては外観的特徴以外にも骨材の種類や残存膨張量、構造物の種類や構造、環境条件を考慮しなければならないとしています。

適用範囲でひとつ注意が要ります。

「この維持管理要領(案)は、橋梁の下部構造を前提に定めたものであるが、上部構造に対しても共通する部分が多く基本的な事項については参考にできる。ただし、上部構造と下部構造では補修の要否の判断基準や補強に対する考え方など異なる部分もあるため上部構造へ準用するにあたっては別途、専門家を交え十分な検討を行うことが必要である。」

後に出てくる図解−5.1がT型橋脚の図であることも、この前提から来ています。床版や主桁のASRをこの数値でそのまま判定することは、要領(案)の想定の外です。床版のひび割れの評価は床版ひびわれの評価a〜e:格子の大きさと漏水で決まるが別の体系になっています。

1章には全体の対応フロー(図−1.1)が置かれ、定期点検等でのひび割れ発見からASRの可能性の判定、外観詳細調査、ASRの判定、補修の必要性、補修で十分かの判断、2系統の詳細調査、補修または補強、記録、定期的な監視まで、12章がそのまま流れの順番になっています。

ASRかどうかは、まず外観の3つの特徴で疑う

2章は、定期点検で見つかった変状がASRによるものかどうかを定期点検時の所見や概略のひび割れ状況図・変状箇所の写真から判定することを原則としています。追加の調査を先に求めていないところが実務上は重要です。

挙げられている特徴は3つです。

記号ASRによるひび割れの特徴(原文)出やすい部材(解説より)
ⅰ)コンクリート表面の網目状のひび割れ鉄筋量が少なく周囲からそれほど拘束を受けない壁状の構造物(橋台や擁壁など)
ⅱ)主鉄筋やPC鋼材の方向に沿ったひび割れ鉄筋量が多い部材やPC部材など(網目状の特徴を残しながら直線的になる)
ⅲ)微細なひび割れ等における白色のゲル状物質の析出内部から白色(乳白色、黄褐色の場合もある)のゲル状物質が滲み出す

ただし要領(案)は、ゲルが見えないことを否定の根拠にしてはいけないと明記しています。

「ただし,ASRによるひび割れでも,ゲル状物質が観察されるとは限らないので注意する必要がある。」

白色の析出物という点では遊離石灰と紛らわしく、記録上の書き分けが問題になります。コンクリート橋の個別損傷としての漏水・遊離石灰の見方は漏水・遊離石灰、剥離・鉄筋露出とは?コンクリート橋の個別損傷の見方で扱っています。

外観以外で簡易に参考にできるものとして、解説は2つを挙げています。1つは過去の定期点検記録(特にひび割れ図)で、ここに時間軸の手がかりが書かれています。

「ASRによるひび割れは竣工後2〜3年以上が経過した後に発生し,5〜6年以上後に目立つようになることが多い。竣工当初から発生しているひび割れについては,ASR以外の原因があると考えることが妥当である。」

もう1つは周囲の構造物に対する定期点検結果で、地理的・時間的に近い時期に竣工した周囲の構造物にASRによる変状が著しい場合は、判定対象もASRの影響を受けている可能性が高いと考えられるとしています。同じ時期・同じ生コン工場という推定が効く場面です。

コアを採ってより詳しく調べる方法(骨材破断面の反応リムの確認、偏光顕微鏡による反応性骨材の確認、残存膨張量、強度やヤング率の変化)も参考として挙がりますが、要領(案)はこう続けます。

「しかし,これらの方法は,試料採取のため少なからず構造物を傷つけるので,多用することは望ましくない。」

3章では、必要に応じてより詳細な外観調査を行い、詳細なひび割れ図の作成や個々のひび割れの性状(ひび割れ幅、ゲル状の析出物質等で埋まっているかどうか、漏水、錆汁の有無)を記録することとされています。ひび割れ幅をどう測るかはひび割れの測定方法:クラックスケールから画像計測までにまとめています。

補修を急がず経過観察にできる場合

4章は、補修の検討を始めるかどうかの判断です。ここで要領(案)は、補修しないという選択を明示的に認めています。

ひび割れ幅が小さく、反応ゲルや炭酸カルシウムなどで充填されている場合、すぐに補修の検討を行わず経過観察を行ってもよい理由が3つ並びます。

理由内容(要領(案)解説より)
1)ひび割れ幅が小さい場合には、ひび割れが反応ゲルや炭酸カルシウム(遊離石灰)などで充填されるため水や空気の鉄筋近傍への侵入が抑制され、コンクリート中の鉄筋は健全であることが多い
2)ひび割れ幅が小さく、ひび割れが反応ゲル等で充填されている場合には、ひび割れへの補修材料の注入が困難である
3)補修(特に、表面保護工)を行うことで、外観からの経過観察が困難になる場合がある

3)は見落としやすい視点です。塗ってしまうと、次の点検でひび割れの進展が読めなくなる——つまり補修が監視能力を削るという判断が、要領(案)の側に書かれています。

ただし無条件ではありません。経過観察と判断する場合でも、上部構造からの漏水が著しくASRによる変状が生じている部位に水分が供給されている場合には、水分の供給を防ぐための対策を行うこととされています。

すでにASRに対する補修を行った構造物で外観上の変化が認められないものについては、外観調査の結果等を記録し、経過観察を続けるものとしてよいと4章の本文に書かれています。

2mm・1mm・段差2mm——詳細調査に進む入口

5章が、この要領(案)でもっとも実務に効く部分です。表題は「補修で十分であるかの判断」で、本文はこう始まります。

「ASRによる変状が認められる場合でも鉄筋に損傷がない場合には、ASRが進行することを防ぐことを目的とした補修を実施する。しかし、構造物中の鉄筋が破断しているおそれがある場合には,構造物の補強を行うことも視野に入れた検討を行うものとする。」

その前提として、解説(1)は耐荷力についての考え方を示しています。

「既往の研究では,ASRにより著しいひび割れが発生しているなど外見上かなりの変状が見られる場合でも,ひび割れの深さが鉄筋のかぶり程度までにとどまっていることが多く,内部の鉄筋が健全であれば,耐荷力の低下はほとんどないと考えられている。」

だから一般的な対策は表面保護工・ひび割れ注入工になる。ところが鉄筋が破断している事例が出てきたため、その見分け方を数値で置いたのが次の表です。該当すれば「鉄筋の健全度に関する詳細調査を行う」ことになります。

過去にひび割れ注入工による補修を該当条件(いずれかに当たれば鉄筋健全度の詳細調査)
実施していない場合① ひび割れ幅2mm以上の連続したひび割れがある
② T型橋脚の図解−5.1に示す部位において、同図に示したような幅が1mm以上の連続したひび割れがある
③ ひび割れ箇所のコンクリート表面に2mm以上の段差がある
実施している場合
(補修前の幅+再開口幅の合計で判断)
① ひび割れ幅2mm以上の連続したひび割れがある
② 補修前のひび割れ幅が明確でなく、そのひび割れが再度1mm以上の幅に開口している場合
③ T型橋脚の図解−5.1に示す部位において、同図に示したような幅が1mm以上の連続したひび割れがある
④ ひび割れ箇所のコンクリート表面に2mm以上の段差がある

3つの点に注意が必要です。

1つ目は「連続した」という条件です。2mmの幅が点でどこかにあるのではなく、連続しているひび割れであることが条件に入っています。

2つ目は部位で基準が下がることです。T型橋脚の図解−5.1に示された部位では、他の場所の半分である1mmで該当します。図解−5.1は本文中に「ひび割れ幅が1mm 以上」の注記付きで置かれた図で、どの部位かは図そのもので示されています。この記事では図の形状までは再現できないため、現場で部位を特定するときは原典の図解−5.1を直接参照してください(PDF 8ページ目)。

3つ目が段差です。ひび割れ幅ではなく、ひび割れ箇所のコンクリート表面に生じた面外のずれを2mmで見ます。クラックスケールでは拾えない指標なので、調査項目として意識して記録しないと落ちます。

そして補修済みの橋では、幅の数え方が変わります。

「なお、ひび割れ幅は、補修前のひび割れ幅と補修後に開いた開口幅(ひび割れが再度開いた場合)の合計で判断する。」

補修後に0.8mm開いただけに見えても、補修前が1.5mmなら合計2.3mmで該当する。補修記録が残っていないと、この判定ができないことになります。だから11章の記録の規定が効いてきます。

5mm・3mm・段差5mm——はつり出しの範囲を分ける数値

5章で詳細調査に進むと決まった後、8章が実際の調べ方を定めます。方法については選択肢がありません。

「構造物中の鉄筋の破断について正確に調査する方法としては,現状では鉄筋を部分的にはつり出して観察する以外にない。ただし,鉄筋のはつり出しは構造物に与える影響が大きいので,特にひび割れ幅が大きい箇所や代表的な損傷のパターンが見られる箇所を選択して調査を行うものとする。」

そのうえで、調査の密度が2段階に分かれます。

調査の密度対象となる箇所
全数を調査することが望ましい1) ひび割れ幅が5mm以上の連続したひび割れがある
2) 図解−5.1のようなパターンでひび割れ幅3mm以上のひび割れがある
3) ひび割れ箇所のコンクリート表面に5mm以上の段差がある
代表的な構造物や箇所を調査し、その結果から周囲の同様の箇所の状態を推測するとよい1) ひび割れ幅が2mm〜5mmの連続したひび割れがある
2) 図解−5.1のようなパターンで、ひび割れ幅1mm以上3mm未満のひび割れがある
3) ひび割れ箇所のコンクリート表面に2mm〜5mmの段差がある
4) 過去にひび割れ注入工などの補修を行って充填したひび割れにおいて、再度ひび割れ箇所が開口し、開口幅が1mm以上である

並べると、5章と8章で同じ数値が別の役割を担っていることが分かります。2mmは「詳細調査に進むか」の線、5mmは「全数か代表かを分ける」線です。図解−5.1の部位ではそれが1mmと3mmに下がります。この構造を取り違えると、2mmのひび割れに全数はつり出しを当てて過剰になるか、5mmを代表調査で済ませて見逃すことになります。

要領(案)は、どこが切れていたかについての実績も1行だけ残しています。

「既往の鉄筋破断箇所は、帯鉄筋の折り曲げ部の他に、一部の主鉄筋の圧接部にも見られている。したがって、帯鉄筋の折り曲げ部に破断が発見された場合には、周辺の主鉄筋の圧接箇所についてもその状態を調査することが望ましい。」

帯鉄筋の折り曲げ部と主鉄筋の圧接部——どちらも加工・接合によって断面や性能が変わる箇所です。はつり出しの位置を決めるときの手がかりになります。

9章は結果の使い方です。鉄筋の破断が生じている場合は専門家を交えて補強の必要性と方法を検討し、鉄筋が健全と確認された場合は補強は必要ないものと判断し、補修のための詳細調査を検討するとしています。10章では、鉄筋が破断するほどの事例は少なく「その補強方法は現状では確立されていない」ため、個々の構造物ごとに専門家を交えて検討しなければならないと書かれています。定期点検側で詳細調査に回す判定の仕組みは橋梁点検の詳細調査とは?判定S1・S2の使い分けで整理しています。

残存膨張量試験が「唯一」とされる理由

6章は、補修を検討する構造物で行う詳細調査(ASR等状況調査)です。実施すべき調査として挙がるのは3つだけです。

調査何のために使うか(解説より)
1) 過去の調査記録の把握竣工後の経時的な変化を把握し、将来のASRの進行をおおまかに推定する。竣工後40年以上が経過しているような構造物では今後急激に変状の程度が変化するとは考えにくく、逆に比較的新しい構造物では今後も進行することが十分考えられる
2) 今後のコンクリート膨張量に関する調査(残存膨張量試験)補修材料は適用できるひび割れ幅やひび割れの変動量が異なるため、今後の進行によって幅が変化する可能性が高いかどうかを調べる
3) 変状が見られる箇所付近の雨水の流下状況に関する調査ASRの反応には水が不可欠で、実構造物では雨水が流下する経路など水分が豊富に供給される箇所で著しい変状が見られることが多い

2)について、要領(案)はかなり強い言い方をしています。

「今後のASRの進行性を予測するための試験方法としては,現状では,コアの残存膨張量試験が唯一のものである。なお、残存膨張量試験を行うためのコアを採取・運搬する際には、コアの含水状態が変化しないように、湿布でつつむなどして乾燥しないようにするものとする。」

試験室に着くまでのコアの養生まで要領(案)が指定しているのは、含水状態が結果を左右するからです。採取は受注者、運搬は別、試験は third party という分担になりがちな部分なので、特記仕様に落とす価値があります。

一方で、ASRの判定には有効でも補修の検討には使いにくい調査として、採取コアの骨材調査(反応リムの観察、岩種判定)、アルカリ量測定、圧縮強度試験・静弾性係数試験、超音波伝播速度試験が参考に挙げられ、こう整理されています。

「一方で,超音波伝播速度試験を除くと,調査のためにコアを採取する必要があり,構造物に与える影響も少なくない。そこで,これらの試験は,特に必要な場合にのみ追加して行うものとする。」

塩害の方は特定点検という独立した枠組みが用意されていて、調査の組み立て方が違います。そちらは塩害の特定点検要領:10年に1度、下部構造から調べると橋梁の塩害とは?地域区分A〜Cと対策区分にまとめています。

撥水系と遮水系、そして水を絶つ対策

7章は補修対策工です。ASRはコンクリート中のアルカリ分、骨材に含まれる反応性鉱物、および水の三者がそろうことで反応が進行するため、代表的な補修工法は2つに整理されます。

工法目的(原文)
表面保護工コンクリートへの水分の供給を絶ってASRの反応を抑制することを目的とした
ひび割れ注入工鉄筋近傍への水や塩化物イオンなどの劣化因子の侵入を防止しすることを目的とした

表面保護工の選び方には明確な指示があります。

系統性質(原文)選び方
撥水系表面保護工外部からの水の侵入を防ぐ。また,内部からの水分の蒸発は妨げない未補修の構造物に新たに補修を行う場合は、こちらを採用するとよい(既往の適用例から効果が高いと考えられている)
遮水系表面保護工外部からの水の侵入を防ぐ。一方,内部からの水分の蒸発も妨げられる既補修の構造物に再度補修を行う場合は、現在補修されているものと同じ系統の表面保護工を再度上塗りする

「同じ系統を上塗り」という指示は、系統を混ぜると内部の水分の挙動が変わるためです。既存の塗膜が撥水系か遮水系かが分からないと、この指示には従えません。ここでも記録が前提になります。表面被覆の劣化そのものの判定は変色・劣化とは?材質で判定が変わり被覆材は対象外、鋼部材側の防食機能は防食機能の劣化とは?腐食との違いと分類1〜3で扱っています。

補修工とは別に、要領(案)は水を絶つ対策を具体的に並べています。橋台・橋脚など下部構造では上部構造から流下する雨水の通りみちで著しい変状が見られることが多いためです。

  • 1) ジョイント部の漏水対策工
    • 非排水型伸縮装置の採用
    • ジョイント部周辺への防水シートの採用
    • 排水桝、配水管の補修・更新
  • 2) その他、上部構造からの漏水防止

つまり橋脚のASR対策の答えが、伸縮装置と排水桝の側にあるという構造になっています。部材をまたいだ対策になるため、点検調書を部材単位で読んでいるだけでは結びつきません。

7章は最後に、補修後の監視のしやすさを設計に織り込むよう求めています。

「補修を行った構造物でも,ASRがさらに進行する可能性があるので,これを容易に監視できるような補修方法を選定することが望ましい。また、例えばコンタクトゲージを取り付けるなどして,ひび割れ幅の変動が監視できるような工夫をするのがよい。」

10章にも同趣旨の記述があり、補強後もASRの進行を監視できる方法を選定することや、進行を監視するための工夫を行うことが望ましいとされています。

監視は5年以内、著しいものは1〜3年

11章は記録、12章は監視です。記録の規定は、5章の「合計で判断する」を成立させるための裏づけになっています。特に記録を残しておく必要がある項目として、次が挙げられています。

  • 外観詳細調査時のひび割れ図、ひび割れ幅、ひび割れ密度
  • 変状が見られた箇所の写真
  • コンクリートコア試料を用いた各種試験の結果
  • 鉄筋調査箇所の状況図
  • 選定した補修、補強工法
  • 補修、補強に使用した材料
  • 施工の内容や品質管理結果

検討の結果補修を行わなかった場合でも、今後の維持管理の参考にするために外観詳細調査等で得られた結果を適切に記録しておくものとされています。経過観察という判断にも記録義務が付いてくる、ということです。

ひび割れ密度については、要領(案)自身が限界を書いています。

「しかし、現状では、ひび割れ密度を用いた構造物の評価方法は確立されていない。そこで、当面の間は、調査結果を蓄積するための記録のみをおこなうものとした。」

評価に使えないが記録は取る、という割り切りです。記録項目に入っているからといって判定に使ってはいけない指標がある、という点は読み落としやすいところです。

12章の監視の頻度は、通常の定期点検とは別建てになります。

「ASRの影響を受けていると判断された構造物は,定期的な監視を行うものとし,通常の定期点検よりも頻度を多くして近接目視による外観調査を行う。少なくとも5年以内に外観調査を行うものとするが,変状が著しい構造物については,これよりも高い頻度(1〜3年程度に一回)で定期的に調査することとする。」

着目点は4つです。

記号特に着目すべき点(原文)
ⅰ)新たに発生したひび割れの有無
ⅱ)ひび割れ幅が比較的大きなひび割れの進展状況
ⅲ)補修(ひび割れ注入工)を行った箇所のひび割れ再発の有無
ⅳ)外部からの水分の供給状況の変化

ひび割れ図の書き方にも指定があります。既存のひび割れと新たに発生したひび割れが区別できるように記入する、幅が大きなものはその幅を記録して点検時に増加していないか確認する、ひび割れ箇所からの錆汁・漏水・遊離石灰やゲルの滲出状況も記入する——の3点です。前回図との差分が読める形で残すことが前提になっています。

最後に、見えない部位の扱いです。

「上部にコンクリート桁がある天端、掛違い部、ピルツ連結部など外観調査が困難(場合によっては不可能)な箇所についてもできるだけ調査する。また、周辺の調査できる部位や面の状況から、これらの部位の損傷状況を推定する。」

橋脚天端や掛違い部は、まさに上部構造からの水が集まる場所です。水が集まる場所が、同時にもっとも見えない場所になっている。だから周辺から推定するという手順が明示されています。うき・剥離を近接せずに拾う手段としての赤外線法は赤外線法によるうき・剥離調査とは?打音検査との関係にまとめています。

T型橋脚の1基を詳細調査の判断まで持っていく流れ

要領(案)の章立てを、1基のT型橋脚に当てはめると次の順になります。数値はすべて要領(案)の規定で、判定の例として並べたものです。

手順やること判断の分かれ目
1定期点検のひび割れ図・写真を見て、網目状か、主鉄筋方向か、白色のゲルがあるかを確認する当たればASRの疑い。竣工当初から出ているひび割れなら別の原因を考える(2章)
2過去の点検記録と、周囲の同時期の構造物の点検結果を見る竣工後2〜3年以降に発生しているか。周辺に著しいASRがあるか(2章解説(4))
3必要に応じて外観詳細調査。ひび割れ幅・充填の有無・漏水・錆汁を個々に記録する判定が困難なら専門家の意見を聞く(3章)
4ひび割れが小さく反応ゲル等で充填されているかを見る充填されていれば経過観察を選べる。ただし上部からの漏水が著しければ水を絶つ対策を行う(4章)
5幅と段差を測る。補修履歴があれば補修前の幅と再開口幅を合算する2mm以上の連続/図解−5.1の部位で1mm以上/段差2mm以上のいずれかで鉄筋健全度の詳細調査へ(5章)
6はつり出しの範囲を決める5mm以上・図解パターン3mm以上・段差5mm以上は全数が望ましい。2〜5mm・図解パターン1mm以上3mm未満・段差2〜5mm・再開口1mm以上は代表箇所(8章)
7はつり出し位置を選ぶ帯鉄筋の折り曲げ部。そこで破断が見つかれば周辺の主鉄筋の圧接箇所も(8章 参考)
8結果で分岐する破断あり→専門家を交えて補強を検討(9章・10章)。鉄筋健全→補強不要と判断し補修の詳細調査へ(9章)
9補修を検討するなら残存膨張量試験・雨水の流下状況調査・過去記録の把握コアは湿布で包んで含水状態を保つ(6章)
10表面保護工の系統を決める未補修なら撥水系。既補修なら既存と同じ系統を上塗り(7章)
11記録して監視周期を決める少なくとも5年以内。著しければ1〜3年程度に一回(11章・12章)

5と6のあいだで、必要な数値が「幅」から「幅と段差の両方」に増える点が実務の要点です。段差は現場で意識していないと測りません。点検調書の様式そのものに段差の欄が無いことも多いため、特記で項目を立てる必要があります。定期点検側の判定体系との対応は健全性の診断(判定区分Ⅰ〜Ⅳ)とは?定義と判定の考え方と対策区分(A・B・C1・C2・E1・E2・M・S1・S2)一覧と判定の考え方をご覧ください。

よくある質問

ASRのひび割れ幅の基準が、定期点検の0.2mm・0.3mmと違うのはなぜですか。

見ている対象が違います。定期点検側の0.2mm・0.3mmは、ひび割れそのものの評価や鉄筋腐食の進行を見るための目安です。これに対して維持管理要領(案)の1mm・2mm・3mm・5mmは、コンクリートの膨張によって内部の鉄筋が破断しているおそれがあるかを判断するための目安で、はつり出し調査に進むかどうかの入口になります。同じ「ひび割れ幅」という言葉でも、次に続く行為が別物です。

ひび割れ幅が2mmを超えたら、必ず鉄筋をはつり出すのですか。

要領(案)が求めているのは、2mm以上の連続したひび割れがある場合に「鉄筋の健全度に関する詳細調査を行う」ところまでです。そのうえで8章が、はつり出しの範囲を全数と代表箇所に分けています。全数調査が望ましいのは5mm以上の連続したひび割れ・図解−5.1のパターンで3mm以上・段差5mm以上で、2mm〜5mmや段差2mm〜5mmは代表的な箇所を調べて周囲を推測してよいとされています。

補修でひび割れを注入した橋は、どの幅で判断すればよいですか。

合算します。要領(案)は「ひび割れ幅は、補修前のひび割れ幅と補修後に開いた開口幅(ひび割れが再度開いた場合)の合計で判断する」としています。加えて、補修前の幅が明確でない場合は、そのひび割れが再度1mm以上に開口していること自体が詳細調査の条件に挙げられています。

網目状のひび割れが出ていれば、ASRと判定してよいのですか。

外観だけでは判定の入口までです。要領(案)はASRのひび割れの特徴として網目状、主鉄筋やPC鋼材の方向に沿ったもの、白色のゲル状物質の析出の3つを挙げていますが、「ASRによるひび割れでも,ゲル状物質が観察されるとは限らない」とも書いています。竣工時期との関係(2〜3年以上経ってから発生し、5〜6年以上後に目立つ)や周囲の構造物の状況も参考にし、判断が難しい場合は専門家の意見を聞くこととされています。

ひび割れが小さいうちは、補修を急がなくてよいのですか。

要領(案)は経過観察を選べる場合を書いています。ひび割れ幅が小さく反応ゲルや炭酸カルシウムで充填されている場合は、水や空気の侵入が抑制されて鉄筋が健全であることが多い、補修材の注入が困難である、表面保護工を行うと外観からの経過観察が困難になる——の3点を理由に、すぐに補修の検討を行わなくてもよいとしています。ただし上部構造からの漏水が著しい場合は、水分の供給を防ぐ対策を行うこととされています。

今後ASRがどこまで進むかを調べる方法はありますか。

要領(案)は「今後のASRの進行性を予測するための試験方法としては,現状では,コアの残存膨張量試験が唯一のものである」と書いています。コアを採取・運搬する際は含水状態が変わらないよう、湿布で包むなどして乾燥させないこととされています。

表面保護工は撥水系と遮水系のどちらを選ぶのですか。

未補修の構造物に新たに補修する場合は撥水系を採用するとよい、とされています。要領(案)は撥水系を「外部からの水の侵入を防ぐ。また,内部からの水分の蒸発は妨げない」、遮水系を「外部からの水の侵入を防ぐ。一方,内部からの水分の蒸発も妨げられる」と整理し、既往の適用例からは撥水系の効果が高いと考えられていると書いています。既補修の構造物に再度補修する場合は、現在と同じ系統を再度上塗りします。

この要領(案)は上部構造にも使えますか。

そのままでは使えません。要領(案)は「橋梁の下部構造を前提に定めたもの」と自ら書いており、上部構造には共通する部分が多く基本的な事項は参考にできるとしながら、補修の要否の判断基準や補強に対する考え方など異なる部分もあるため、準用には別途専門家を交えた十分な検討が必要としています。

ASRと判定された橋は、通常の定期点検の頻度でよいのですか。

要領(案)は補修・補強の有無に関わらず定期的な監視を求めています。「少なくとも5年以内に外観調査を行うものとするが,変状が著しい構造物については,これよりも高い頻度(1〜3年程度に一回)で定期的に調査することとする」とされ、通常の定期点検より頻度を多くして近接目視による外観調査を行うことになります。

出典・適用範囲

  • 国土交通省 道路局「道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案)」(平成15年3月) — 1.対応の基本的な考え方(図−1.1 対応フロー・下部構造を前提とする適用範囲)/2.ASRの影響を受けている可能性があるかどうかの判定(ひび割れの特徴ⅰ〜ⅲ・部材別の出方・竣工後2〜3年の時間軸・周囲の構造物・コアによる詳細な調査方法)/3.外観詳細調査と判定/4.補修の検討を行う必要性の判断(経過観察を選べる3つの理由・漏水時の例外)/5.補修で十分であるかの判断(耐荷力の考え方・ひび割れ幅2mm/図解−5.1の部位で1mm/段差2mm・補修済みの合算)/6.詳細調査(ASR等状況調査)(3つの調査・残存膨張量試験・コアの養生・追加試験の位置づけ)/7.補修対策工の検討(表面保護工とひび割れ注入工・撥水系と遮水系の選び方・ジョイント部の漏水対策・コンタクトゲージ)/8.詳細調査(鉄筋健全度調査)(はつり出し以外にない旨・全数と代表の数値・帯鉄筋の折り曲げ部と主鉄筋の圧接部)/9.補強の要否の判断/10.構造物の補強方法の検討/11.記録(項目一覧・ひび割れ密度の位置づけ)/12.定期的な監視(5年以内・1〜3年・着目点ⅰ〜ⅳ・ひび割れ図の書き方・天端や掛違い部の推定)の確認に使用(当夜取得 HTTP 200・全17ページ・46,980バイト)
  • 国立研究開発法人土木研究所 構造物メンテナンス研究センター(CAESAR)「維持管理関係(点検・調査)」 — 上記PDFの掲載一覧における書名「道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案) 平成15年3月」・分類「ASR」・出版者「国土交通省 道路局」・出版年2003、および作成の経緯(「アルカリ骨材反応に起因する橋梁の損傷として、鉄筋の破断が生じた事例が明らかになったことから、鉄筋の破断のおそれのある場合の見分け方や対処方法などについて示したものである。」)の確認に使用(当夜取得 HTTP 200)

本記事は、道路橋のアルカリ骨材反応に対する維持管理要領(案)が定める数値基準と調査の順番を原文から読み解くための実務解説です。扱っているのは1章から12章までの本文と解説のうち、判定の分かれ目になる記述と数値です。図−1.1の対応フローの図形、および図解−5.1(T型橋脚におけるひび割れのパターン)の図そのものは本記事では再現していません。「図解−5.1に示す部位」がどこを指すかは図でのみ示されているため、現場で部位を特定する際は原典のPDF(8ページ目)を直接参照してください。また本要領(案)は橋梁の下部構造を前提に定めたもので、上部構造への準用には「別途、専門家を交え十分な検討を行うことが必要」と要領(案)自身が記しています。補修・補強方法の選定や鉄筋破断時の対応は、要領(案)が繰り返し専門家を交えた検討を求めている領域であり、本記事は個別の構造物に対する診断や設計の判断を示すものではありません。要領(案)からの引用は、当夜取得したPDFの表記(全角英字「ASR」、全角数字、全角読点「,」などを含む)をそのまま転記しています。