定期点検以外の点検のうち、「特定点検」は名前だけが知られていて中身が伝わりにくい枠です。定期点検の一部なのか、別に発注するのか、誰がやるのか——ここが曖昧なまま、実施されていない橋があります。
特定点検には要領があります。コンクリート橋の塩害に関する特定点検要領(案)(平成27年3月・国土交通省 道路局 国道・防災課)です。この記事では、その原文で塩害点検の対象・頻度・手順・記録を整理します。塩害の地域区分を確認したあと、実際に何をするのかがここに書かれています。
- 特定点検は「塩害という特定の劣化原因に着目して予防保全的な観点から行う」点検。定期点検とは目的も頻度も別
- 頻度は原則10年に1度。定期点検の5年とは違う。ただし実施時期は定期点検と同時が推奨されている
- 対象は「損傷原因が塩害と判定できないもの」。すでに塩害と分かっている橋は対象外
- 構造物の状態をⅠ〜Ⅴに分け、塩化物イオン量を測るのは点検方針Aだけ。塗装済み・塗装鉄筋・補修済みはそれぞれ別の方針
- 試料は下部構造から採る。上部構造は鉄筋・PC鋼材が密で、採取時に傷つけるおそれがあるため
- 下部構造の結果が1.0kg/m3以上で上部構造の試験へ、2.5kg/m3以上で下部構造の対策検討へと分岐する
特定点検は定期点検の一部ではない
要領(案)の適用の範囲は次のとおりです。
「本要領(案)は、国土交通省及び内閣府沖縄総合事務局が管理する道路の塩害による劣化が生じる可能性があるコンクリート橋の特定点検(以下「塩害点検」という。)に適用する。」
解説は性格をこう説明しています。「本要領(案)は、橋梁に与える各種の劣化原因のうち、『塩害』という特定の劣化原因に着目して予防保全的な観点から行う特定点検について定めたもので、国土交通省地方整備局及び北海道開発局並びに内閣府沖縄総合事務局が管理する道路の塩害による劣化が生じる可能性があるコンクリート橋の特定点検に適用する。」
ここで押さえておきたいのは2点です。1つは適用の対象が国の管理道路であること。地方公共団体が管理する橋について、この要領(案)が直接に適用されるとは書かれていません。もう1つは「予防保全的な観点から行う」と明記されていることです。5年に1回の定期点検が状態の把握と健全性の診断を目的にしているのに対し、塩害点検は劣化が表に出る前に原因物質を測る点検です。
なお対象の範囲について、解説は「コンクリート橋には、鋼橋のコンクリート床版を含むものとする。」としています。鋼橋であっても、床版がコンクリートなら対象に入ります。
対象は「まだ塩害と判定できない橋」
対象の定義が、この要領(案)で最も読み落とされやすい箇所です。
「『塩害による劣化が生じる可能性があるコンクリート橋』とは、塩害の影響地域に位置するコンクリート橋(「道路橋示方書・同解説 Ⅲコンクリート橋編」平成24年3月 社団法人 日本道路協会 P175 表-5.2.2)のうち、定期点検時において、上部構造に損傷が生じていない、損傷が生じていても損傷原因が『塩害』と判定できないものをいう。」
つまりすでに塩害と判定できる損傷が出ている橋は、塩害点検の対象ではありません。その橋は補修の検討に進む段階にあります。塩害点検は、定期点検で剥離・鉄筋露出や防食機能の劣化が出ていない、あるいは出ていても原因が塩害と特定できていない橋を対象にしています。
この定義があるため、「塩害の影響地域にある橋を全部やる」という発注の仕方は要領(案)の想定と合いません。定期点検の結果を先に見て、対象から外れる橋を除いてから数を数えることになります。点検費用を積むときも、この絞り込みが前提になります。
頻度は10年に1度。定期点検と同時に行う
頻度の規定は1行です。「塩害点検は、原則として10年に1度行うものとする。」
理由も書かれています。「塩害点検は、試料採取のために構造物を傷つけるので、これをむやみに多数回行うことは好ましくない。そこで、10年に1回実施するものとした。」点検そのものが構造物を傷つける行為であることを前提に、間隔が決められています。
短縮する条件も定められています。「非常に厳しい周辺環境にある構造物で、竣工後10数年で塩害による著しい腐食が見られた事例もあるので、周辺環境が特に厳しい場合や鉄筋のかぶりが設計よりも小さいことが明らかになった場合などでは、点検間隔を5年に1回まで縮めるのがよい。」
そして実施時期については、定期点検と重ねることが推奨されています。
「塩害点検の実施時期は、定期点検と同時に行うのがよい。これは、定期点検と塩害点検により総合的な診断ができること、試料採取にあたり定期点検における近接の手段(例えば、橋梁点検車による方法、点検足場による方法等)を効率的に利用できることによる。」
足場や点検車を共用できるという、費用に直結する理由が原文に書かれています。定期点検の年度計画を立てる時点で、10年周期の塩害点検が当たる橋を重ねておくのが要領(案)の想定です。別々に発注すると、同じ橋に2回足場を架けることになります。
構造物の状態Ⅰ〜Ⅴと点検方針A〜D
塩害点検は、すべての橋で同じことをするわけではありません。要領(案)は構造物の状態を5つに分類し、それぞれに点検方針を割り当てています。
| 構造物の状態 | 点検方針 | その方針で何をするか |
|---|---|---|
| Ⅰ 無補修・無塗装の構造物 | A | 鋼材周囲のコンクリートに含まれる塩化物イオン量の測定・予測 |
| Ⅱ 竣工時に塩害対策せず供用された後に塗装した構造物 | A | 同上 |
| Ⅲ 竣工時に塩害対策として塗装を施した構造物 | B | コンクリート塗装の健全度を点検する |
| Ⅳ 塩害対策として塗装鉄筋が用いられている構造物 | C | 塩害の影響を受けない地域にある場合と同様とする |
| Ⅴ 塩害による劣化を補修した構造物 | D | 実施した補修方法や規模などに応じて定めた方法による |
Ⅱが方針Aに入っているのが要点です。後から塗装した橋も、塗装していない橋と同じ扱いになります。理由も明記されています。「竣工から一定の期間供用された後にコンクリート表面に塗装が施された場合には、塗装によって新たな塩分の侵入が防止される一方、すでにコンクリート中に侵入している塩分が内部で移動し、鋼材周辺での塩化物イオン量が高くなることも考えられる。したがって、無塗装の場合と同様に、点検時にコンクリート中の塩化物イオン量を測定することが必要である。」
方針Cにも注意書きがあります。「構造物中に塗装鉄筋と通常の鋼材が混在している場合には、コンクリートの表面に最も近い通常の鋼材を対象に点検方針Aにしたがった塩害点検を行うものとする。」。塗装鉄筋を使っているという記録だけで方針Cに振り分けると、混在の橋を取りこぼします。
Ⅰ〜Ⅴの区別は、現地を見て決まるものではありません。竣工時に塩害対策をしたか、その後に塗装したか、塗装鉄筋を使っているか、補修したか——いずれも設計・施工・補修の履歴です。橋梁台帳や過去の補修記録が整理されていないと、点検方針の振り分けそのものができません。
下部構造から先に調べる理由
方針Aの橋では、塩化物イオン試験を行います。ここで手順が独特です。上部構造ではなく、下部構造から試料を採ります。
解説は理想と現実を並べて説明しています。
「塩分が比較的付着しやすく、かつかぶりも小さくなりがちな上部構造の桁下面などで試料採取を行って、塩化物イオン量の試験を行うのが理想的である。しかし、このような箇所には、鉄筋やPC鋼材などが密に配置されているので、調査時の試料採取のために鉄筋等を傷つけてしまうおそれがある。」
「そこで、塩害点検では、まずかぶりが比較的大きく鉄筋の間隔も広い下部構造から試料を採取して塩化物イオンの分布を調査し、その結果、塩害を受ける可能性が高いと判断された構造物に限定して、上部構造の塩化物イオン試験を行うこととした。」
本当に知りたいのは上部構造の状態です。しかしそこを直接調べると構造物を傷める。だから安全に採れる下部構造でふるいにかけ、絞り込んでから上部構造に入るという二段構えになっています。試料採取という不可逆な行為の回数を減らすための設計です。
例外も定められています。「鉄道など交差対象により現地での日数に制約等がある場合は、下部構造、上部構造から同時に採取してもよい。」跨線橋のように立入の機会が限られる橋では、二段構えを崩してよいということです。
1.0と2.5という2つの数値
下部構造の試験結果は、2つの数値で分岐します。
「下部構造の塩化物イオン試験を行った結果、上部構造のかぶりの代表値に相当する深さの試料の全塩化物イオン量が1.0kg/m3以上である場合には、上部構造の塩化物イオン試験を行うものとする。さらに、この位置で全塩化物イオン量が2.5kg/m3以上である場合には、下部構造についてもかぶりを測定し、必要に応じて下部構造への対策の要否を検討する。」
| 下部構造の全塩化物イオン量 | 次に進む先 |
|---|---|
| 1.0kg/m3 未満 | 上部構造の試験は行わない(点検結果を記録して終了) |
| 1.0kg/m3 以上 | 上部構造の塩化物イオン試験を実施 |
| 2.5kg/m3 以上 | 上記に加えて、下部構造のかぶり測定と対策の要否の検討 |
この2つの数値の根拠も書かれています。「コンクリート中の鋼材の腐食が始まる全塩化物イオン量は、1.2〜2.5kg/m3程度と考えられている。したがって、鋼材位置での全塩化物イオン量が1.2kg/m3に達しないように、維持管理を行っていくことが基本となる。」
腐食が始まる範囲の下限より少し手前の1.0を上部構造へ進む閾値に、上限の2.5を下部構造自身の対策検討の閾値に置いている、という構成です。
ただし、下部構造の値から上部構造を推定することの限界も明記されています。「橋梁の上部構造と下部構造では、部位によって外部からの塩分の付着状況が異なるおそれがあること、用いられているコンクリートの品質が異なること、といった条件の違いがあり、下部構造の塩化物イオン試験結果から上部構造のコンクリートに含まれる塩化物イオンの量を推定することは難しい。」
そのうえで「本要領(案)では、下部構造の塩化物イオン試験の結果、上部構造のかぶりの代表値に相当する深さの試料で全塩化物イオン量の含有量が1.0kg/m3に達していなければ、上部構造でもすぐに塩害による劣化が生じるほどの塩化物イオンは含まれていないものと判断することにした。」としています。推定できないと認めたうえで、安全側の閾値で運用を決めているという書き方です。所見に「下部構造の値のみで判断した」と残しておくと、次回の判断材料になります。
かぶりは初回だけ測る
かぶりの調査には、他の点検項目にはない扱いがあります。
「かぶりについては,供用期間中に大きく変化することが考えにくいので、初回の塩害点検時に一度だけ測定し、二回目以降の点検ではその記録を活用することにした。」
10年に1度の点検で、測るのは1回だけ。2回目以降は記録を使います。裏を返すと、初回の測定記録を失うと次回の点検が成立しません。
例外も定められています。「この場合も、コンクリートの凍結融解によるスケーリング等により、かぶりコンクリートが失われていることが明らかな場合は、改めて測定を行うものとする。」
測定方法は指定があります。「かぶりの調査は、これまでの実績や測定の容易さから、電磁誘導法または電磁波反射法により行うものとする。」。非破壊で行う前提です。かぶりを測る理由は「かぶりコンクリートには、コンクリート中の鋼材を塩化物イオン等の腐食因子から保護するという役割があり、かぶりの大小は塩害を防ぐ性能と直結している」ためで、解説は「既存構造物の調査結果でも、何らかの理由でかぶりの確保が十分でなかったために、損傷が生じている場合が数多く認められている」としています。
記録は既存の点検調書に載せる
塩害点検の結果は、別冊の報告書だけで完結しません。要領(案)は既存の点検調書への記載を定めています。
- 点検調書(その6)損傷写真:「鉄筋かぶりの測定状況写真、資料採取状況写真等を記録する。」
- 点検調書(その10)対策区分判定結果(主要部材):「上部構造の該当欄全て(主桁、横桁等。試験結果を適用する他の径間を含む。)に、損傷の種類を『塩害』として当該判定結果を記載する。」「原因の確定欄には、『塩害』と記載する。」
さらに径間の扱いも定められています。「1橋梁あたり複数箇所で塩化物イオン試験を実施した場合は、試験した箇所が適用できると見なせる径間全てに当該試験の結果を記載するものとする。」。試験は全径間で行わなくてよいが、結果は適用できる径間すべてに書くという指示です。
上部構造の塩化物イオン試験を実施した場合に記載する事項も列挙されています。かぶりの代表値(10%分位点)、見掛けの拡散係数、表面の塩化物イオン量、初期塩化物イオン量、鉄筋位置の塩化物イオン量、そして将来(次回点検予定時)の鉄筋位置での塩化物イオン量です。備考欄には構造物の状態がⅠかⅡかを記入します。
最後の「将来の鉄筋位置での塩化物イオン量」が、この点検を予防保全にしている項目です。今の値ではなく、次回点検時点での予測値を調書に残します。写真台帳と併せて、10年後に読む人が判断できる形にしておくことになります。
実施体制については「塩害点検は、橋梁及びコンクリートに関して十分な知識と実務経験を有する者がこれを行わなければならない。」と定められ、橋梁点検員の要件として「橋梁に関する実務経験を有する者」「橋梁の設計、施工に関する基礎知識を有すること」「コンクリートの品質に関する基礎知識を有すること」「当該点検に関する技術と実務経験を有すること」の4つが挙げられています。特定事象としての塩害を定期点検の中で扱う場合とは、求められる知識の範囲が違います。
よくある質問
塩害の特定点検は、定期点検とは別に行うのですか。
別の点検です。要領(案)は「橋梁に与える各種の劣化原因のうち、『塩害』という特定の劣化原因に着目して予防保全的な観点から行う特定点検について定めたもの」としています。頻度も違い、定期点検が5年に1回であるのに対し、塩害点検は「原則として10年に1度行うものとする。」と定められています。ただし解説は「塩害点検の実施時期は、定期点検と同時に行うのがよい。」としており、実施のタイミングは重ねることが推奨されています。
すでに塩害の損傷が出ている橋も対象ですか。
対象外です。要領(案)が定める「塩害による劣化が生じる可能性があるコンクリート橋」とは、塩害の影響地域に位置するコンクリート橋のうち「定期点検時において、上部構造に損傷が生じていない、損傷が生じていても損傷原因が『塩害』と判定できないもの」と定義されています。すでに塩害と判定できる損傷が出ている橋は、この点検ではなく補修の検討に進みます。予防保全の観点で行う点検なので、まだ表に出ていない橋を対象にしています。
なぜ上部構造ではなく下部構造から試料を採るのですか。
鉄筋を傷つけるおそれがあるためです。解説は「塩分が比較的付着しやすく、かつかぶりも小さくなりがちな上部構造の桁下面などで試料採取を行って、塩化物イオン量の試験を行うのが理想的である。しかし、このような箇所には、鉄筋やPC鋼材などが密に配置されているので、調査時の試料採取のために鉄筋等を傷つけてしまうおそれがある。」としています。そこで「まずかぶりが比較的大きく鉄筋の間隔も広い下部構造から試料を採取して塩化物イオンの分布を調査し、その結果、塩害を受ける可能性が高いと判断された構造物に限定して、上部構造の塩化物イオン試験を行うこととした。」と定められています。
1.0kg/m3 と 2.5kg/m3 は何を分ける数値ですか。
進む先が違います。下部構造の試験で、上部構造のかぶりの代表値に相当する深さの試料の全塩化物イオン量が1.0kg/m3以上なら上部構造の塩化物イオン試験に進みます。同じ位置で2.5kg/m3以上なら、下部構造についてもかぶりを測定し、必要に応じて下部構造への対策の要否を検討します。判断の背景として解説は「コンクリート中の鋼材の腐食が始まる全塩化物イオン量は、1.2〜2.5kg/m3程度と考えられている。したがって、鋼材位置での全塩化物イオン量が1.2kg/m3に達しないように、維持管理を行っていくことが基本となる。」としています。
かぶりは点検のたびに測るのですか。
初回だけです。解説は「かぶりについては,供用期間中に大きく変化することが考えにくいので、初回の塩害点検時に一度だけ測定し、二回目以降の点検ではその記録を活用することにした。」としています。過去に測定した記録があれば、改めて測定せずその記録を活用するのがよいとされています。ただし例外があり、「コンクリートの凍結融解によるスケーリング等により、かぶりコンクリートが失われていることが明らかな場合は、改めて測定を行うものとする。」と定められています。測定方法は電磁誘導法または電磁波反射法によるものとされています。
塗装されている橋や塗装鉄筋の橋も、同じ手順で点検するのですか。
違います。要領(案)は構造物の状態をⅠ〜Ⅴに分類し、表-1で点検方針A〜Dを割り当てています。塩化物イオン量を測るのは点検方針A(無補修・無塗装、および竣工時に塩害対策せず供用された後に塗装したもの)だけです。竣工時から塗装している構造物は点検方針Bで「コンクリート塗装の健全度を点検するものとする。」、塗装鉄筋を用いている構造物は点検方針Cで「塩害の影響を受けない地域にある場合と同様とする。」、補修済みの構造物は点検方針Dで「実施した補修方法や規模などに応じて定めた方法に従って行うものとする。」とされています。