管内に1橋だけ石橋がある——そんな道路管理者は少なくありません。ところが調書を開くと手が止まります。主桁も横桁も床版もない。損傷26種類のどれを選べばいいのか。腐食でも、ひびわれでも、どうもしっくりこない。
石橋は道路橋定期点検要領の対象ですが、要領が前提にしている鋼橋・コンクリート橋の枠組みがそのままでは当てはまりません。そのために国が別途用意しているのが「道路橋石橋の定期点検に関する参考資料[石造アーチ橋]」で、この資料が令和8年3月に改定されました。同時に「道路橋石橋の損傷事例集[石造アーチ橋・石桁橋]」も公表されています。
この記事では、改定された参考資料の原文をもとに、①この資料の位置づけ ②何が改定されたのか ③部材の呼び名が違うこと ④アーチ機構と「ライズ比」 ⑤状態の把握で押さえる7項目 ⑥健全性の診断の出し方 ⑦記録様式が2つ増えること ⑧デジタル計測の扱い、を整理します。定期点検の全体像は定期点検の完全ガイドにまとめています。
- 石橋の参考資料は令和8年3月に改定。令和5年3月版からの改定で、理由は令和6年3月の要領改定への対応とデジタル計測の記述の充実の2つ
- 資料の性格は要領の置き換えではなく補完。石材以外の部材(拡幅したRC床版など)は一般の橋と同じ要領で点検すると明記されている
- 部材名が独自。輪石・要石・輪石基礎・壁石・中詰という石橋固有の名称で構造を捉える
- ライズ比(ライズ/スパン)が1/4 が構造評価の分岐点。これより小さいとアーチ機構の成立に大きな軸力が要り、基礎の変状の影響を受けやすくなる
- 健全性の診断の前にABCの概略評価を構造の区別ごとに行う。上下部接続部=最下段の輪石という独特の切り分けがある
- 記録は要領の様式1〜3に加え、石橋固有の[様式4][様式5](橋の概況と近接手法/形状計測結果と計測方法)を使う
- 改定で付録2「デジタル計測による状態の把握の活用検討資料」が加わり、レーザスキャナ・モバイル端末のLiDARスキャナが名指しで位置づけられた
この資料は何を補うのか
まず押さえておきたいのは、この参考資料が要領を置き換えるものではないという点です。冒頭の「本資料の位置付け」にこう書かれています。
「定期点検の実施や結果の記録は、法令の趣旨や道路橋定期点検要領に則って、各道路管理者の責任において適切に行う必要がある。」
そのうえで、この資料の役割はこう定義されています。
「本資料は、アーチ構造の石橋(以下、「石造アーチ橋」という)について、技術的評価を行うために適切かつ効果的に状態の把握が行われるように、その構造や材料の特性を踏まえて個々の石造アーチ橋の状態の把握の方法を計画するための参考資料である。」
作成主体は国土交通省道路局ではなく道路橋石橋維持管理検討委員会です。上位にあるのは道路橋定期点検要領(令和6年3月)の技術的助言版と解説・運用標準版で、この参考資料はその下に置かれます。国の要領と自治体側のマニュアルの関係は国交省要領と都道府県マニュアルで整理しています。
実務でいちばん効くのは、次の一文です。石橋には後年の拡幅や補修でコンクリートが入っているものが多いためです。
「石造アーチ橋には、幅員拡幅のために主構造である石造アーチ橋の上部にコンクリート床版などで拡幅されたもの、また輪石、壁石や橋台などの変状をコンクリート等で補修補強したものもある。これら石材以外の部材については、一般の橋と同様に「道路橋定期点検要領(令和6年3月)」により点検を実施する必要がある。」
つまり1つの橋の中で石材部分は参考資料、後付けのコンクリート部分は通常の要領という二本立てになります。コンクリート部分の損傷の見方はコンクリート橋の個別損傷、損傷の分類全体は損傷26種類一覧をご覧ください。
令和8年3月改定で変わった点
今回の版は、令和5年3月版からの改定です。改定の理由は原文に2つ明示されています。
「今回、「道路橋定期点検要領(技術的助言)令和6年3月」及び「道路橋定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)令和6年3月」(以下、「道路橋定期点検要領(令和6年3月)」という)の改定を踏まえ、「道路橋石橋の定期点検に関する参考資料[石造アーチ橋](令和5年3月)」の改定を行った。また、令和2年に「デジタル社会に向けた改革の基本方針」が閣議決定され、令和2年7月に国土交通省にてインフラ分野のDX推進本部が設置されるなど、国の施策として道路システムのDX化が推進中であり、デジタル計測に関して内容を充実し、「付録2.デジタル計測による状態の把握の活用検討資料」としてとりまとめた。」
注意したいのは、本文の考え方そのものは大きく変わっていないことです。原文は令和5年版について「このように実質的に、改定された道路橋定期点検要領(令和6年3月)の内容に対応したものとなっていた。そこで、今回の改定でも、R5年版の内容を踏襲したうえで、必要に応じて記載の充実などを図った。」としています。令和8年版で実質的に新しいのは付録2と考えて差し支えありません。
もう1つ、同じ令和8年3月に損傷事例集が別冊で公表された点も見落とせません。事例集は石造アーチ橋だけでなく石桁橋も対象に含み、位置づけをこう説明しています。
「道路橋石橋を点検する機会は一般の橋に比べて少ないと考えられるため、点検要領や参考資料を活用する際の情報として提供する。」
事例集の掲載写真の出所も明記されています。「本資料の掲載写真は、全国道路施設点検データベースに登録されている写真もしくは、道路管理者から提供いただいた点検調書等の写真を使用している。」——日々の調書が全国のデータベースに積み上がり、こうした資料に還元されている実例です。記録様式とデータベース登録の関係は道路橋記録様式(令和6年3月)で扱っています。
部材の呼び名が違う
石造アーチ橋には主桁も横桁もありません。参考資料の別紙1は、独自の部材名称を定義しています。
| 名称 | 定義(原文の要旨) | 役割 |
|---|---|---|
| 輪石(わいし) | アーチを構成する石。アーチ石、拱環石ともいう | 壁石と中詰からの荷重を受けて橋台・基礎地盤へ伝達する |
| 要石(かなめいし) | アーチの頂部にある輪石 | アーチ頂部。ライズの計測基準にもなる |
| 輪石基礎(わいしきそ) | 基礎地盤に接する最下端の輪石。起拱石ともいう | 上下部接続部として扱われる |
| 壁石(かべいし) | アーチ側面に積み上げる石積(擁壁) | アーチの変形を拘束し、中詰材の崩壊を防ぐ |
| 中詰(なかづめ) | アーチと壁石に囲まれた空間を充填した部材 | アーチを拘束し、路面以下の荷重を支える路体の機能 |
| ライズ | アーチ輪石の最も低い位置から要石の下端までの距離。拱矢ともいう | — |
| スパン | アーチ輪石の最も低い位置の河川面からアーチの中心までの距離の2倍。径間長ともいう | — |
橋長の定義も一般の橋と異なり、原文は「親柱の両端間の距離をもって橋長と呼ぶ。」としています。調書に諸元を書き写すとき、ここを一般橋の定義で埋めると次回点検で比較できなくなります。
用語の使い分けにも注意が必要です。参考資料は「損傷」と「変状」を「変状」に統一しています。原文は「損傷とは、主に石材単体に生じるひびわれや亀裂等により劣化した状態をいい、変状とは、主に石組みの状態においてアーチ軸線や壁石面に生じる形状が変化した状態や路面に生じた変化などの状態を示すが、本資料では混乱を招かないように、損傷と変状を「変状」に統一する。」と説明しています。一方で損傷事例集のほうは石桁橋も扱うため「変状と損傷を適宜使い分けて呼称する」としており、2冊で用語の扱いが違います。引用するときは出典をそろえてください。
アーチ機構とライズ比1/4
石造アーチ橋を評価する軸は「アーチ機構が成立しているか」の一点に集約されます。原文の定義はこうです。
「背面地盤から左右均等に土圧を受け、上部からもアーチ軸線に対して対称に鉛直荷重を受けることで、壁石及び中詰を介して輪石に荷重が伝達され、最終的に、輪石同士は主として圧縮状態となって耐荷機構を発揮し、アーチ軸線に沿って橋台を介して地盤に荷重を伝達する(以降、アーチ機構と定義する)」
そのうえで、実務で使える具体的な閾値が1つだけ示されています。
「ライズ比(ライズ/スパン)が1/4 より大きいときは、概ねこのようなアーチ機構が成立することが分かっている。これより小さくなると、輪石同士を圧縮状態にするために大きな軸力が必要になっていくこと、また、基礎に生じる水平力が大きくなり、基礎の変状の影響を受けやすくなっていく特徴があるため、技術的な評価を行う時に留意する必要がある。」
半円アーチならライズ比は0.5です。扁平な橋ほど1/4に近づき、基礎のわずかな移動が致命的になりやすいということです。点検計画の段階でライズ比を計算しておけば、どの橋で基礎まわりを重点的に見るべきかが先に決まります。
保全の着眼点も4つに整理されています。原文は「① 基礎を移動させないための保全 ② 輪石のアーチ形状を変えないための保全 ③ 中詰材の変形及び流出を抑制するための保全 ④ 側方にはらみ出し等しないための保全」としており、いずれも石材そのものの強度ではなく「形状の保持」を問題にしています。
実際、石材の耐久性は高い水準にあります。原文は「日本で最も古い石造アーチ橋といわれている長崎眼鏡橋は、寛永 11 年(1635 年)に竣工し、洪水による流出後に復元され、再利用された石材(安山岩が用いられている)は未だに遜色なく現存している」と記しています。石は劣化しないが、石組みは動く——これが石橋の点検の勘所です。予防保全の考え方は予防保全と事後保全の違いで解説しています。
例外もあります。原文は砂岩について「厚さ数ミリ程度で板状に剥離したり、表面に小穴が密集したりしてハニカム状の風化が発生している事例もある。劣化メカニズムは明確ではないため、定期点検時等に砂岩表面の劣化状況を把握することが望ましい。」とし、溶結凝灰岩については凍結融解作用によるひびわれの進行を挙げています。使われている石材が5種類(花崗岩・安山岩・溶結凝灰岩・砂岩・凝灰岩)のどれかを把握しておくと、着目点が絞れます。
状態の把握で押さえる7項目
参考資料は状態の把握の留意点を7つ挙げています。一般の橋の点検にはない項目が並びます。
| # | 留意点 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 1 | 河川内に橋台・橋脚がある場合は、洗掘の有無を近接目視により直接的に把握するのが望ましい | 洗掘はアーチ機構に直結する。桁下・水中へのアクセス計画が必要 |
| 2 | 植生や樹木が繁茂しやすい構造のため、点検前に必要に応じて除去する | 伐採が点検の前工程になる。工程と費用に織り込む |
| 3 | 変状が疑われる場合はその要因を、変状がない場合でも変状につながる要因を多角的に把握する | 「異常なし」で終えず、次回までの変化の可能性を書く |
| 4 | 石片や目地材等の落下等による第三者被害の観点での変状は、その場で必要な措置を行う | 点検中の応急措置が前提。判断できる技術者の同行が要る |
| 5 | 樹根は石組み形状の変化や水みちの要因になるため、点検時に取り除くことを基本とする | ただし除去で形状が変わる恐れがあるときは別途検討し、記録に残す |
| 6 | 文化財指定を受けているものがあるため、[様式1]に文化財指定と指定機関を記載しておくことが望ましい | 措置の際に協議が必要になる。点検時点で調べておく |
| 7 | 石材以外の部材は、一般の橋と同様に要領により点検する | 拡幅RC床版・補修コンクリートは通常の要領側 |
2と5の樹木・樹根は、一般の橋の点検要領には出てこない項目です。点検の前に伐採の段取りが要るという点は、発注時の仕様と工期に直接効きます。発注の考え方は総合評価落札方式と品質確保を参考にしてください。
なお、状態の把握が近接目視を基本とする点は一般の橋と同じで、原文も「必要な知識と技能を有する者が自ら近接目視を行うことによって把握されることが基本とされているが、他の手段による状態に関する情報の把握によっても、最終的に「健全性の診断の区分」の決定が同等の信頼性で行えることが明らかな場合には、必ずしもすべての部材に知識と技能を有する者が近接目視による状態の把握を行わなくてもよい場合もあると考えられ、法令はこれを妨げるものではない」としています。この考え方は近接目視とはで詳しく扱っています。
健全性の診断はABCの概略評価から
最終的に出す健全性の診断(Ⅰ〜Ⅳ)は一般の橋と同じ枠組みです。ただし、そこへ至る途中に石橋固有の手順が入ります。
「技術的な評価は橋本体の状態に着目して、構造の区別毎にABCの概略評価を実施する。なお、致命的な状態には構造安全性の観点以外にも走行安全性の観点等も含まれる。
A:何らかの変状が生じる可能性は低い。
B:致命的な状態となる可能性は低いものの何らかの変状が生じる可能性がある。
C:致命的な状態となる可能性がある。」
このA〜Cは、令和6年改定で導入された性能の見立て(A〜C)と同じ考え方の系列にあります。横断歩道橋や門型標識でも同様のA〜C評価が入っており、令和6年改定セット全体に共通する設計です。
構造の区分の切り方が独特です。
「構造の区分は、一般に上部構造は、輪石・壁石・中詰・背面土、下部構造は橋台・橋脚・基礎(輪石基礎)とし、上下部接続部は最下段の輪石と考えてよい。これによらない構造の場合は、荷重伝達経路や構造特性等を考慮して区分する必要がある。」
一般の橋なら上下部接続部は支承部です。石橋には支承がないため、最下段の輪石がその役割を担うという読み替えになります。ここを一般橋の感覚で「支承なし=該当なし」と書くと、いちばん力の集まる部位が調書から抜け落ちます。
もう1点、評価の限界も明記されています。原文は「石造アーチ橋の各部材の技術的な評価は、定量的に判断することは困難であるため、定期点検においては、石造アーチ橋の条件(構造、活荷重、架橋状態等)を考慮して適切な区分に判定する必要がある。」としています。数値基準で機械的に決める作りになっていない以上、なぜその区分にしたのかの記述が調書の本体になります。
記録様式が2つ増える
記録は要領の様式をベースにしつつ、石橋固有のものが加わります。
「各様式の [様式1]、 [様式2] 、[様式3]は、「道路橋定期点検要領(令和6年3月)」に示される様式1~3と同様式としている。 また、[様式4]、[様式5]は、石造アーチ橋特有の記録様式として、[様式4]に橋の概況と近接手法、[様式5]に形状計測結果と計測方法を記録する。」
様式5が置かれている理由は、石橋の評価が形状の変化に依存するためです。原文は「アーチや壁石面などの経年的な形状の変化および変状を把握するために、形状確認図や橋全体の写真を記録に残すことが望ましい。なお、形状確認図は写真に寸法を記載するなどでよい。」としています。専用のCADが要るわけではなく、寸法を書き込んだ写真でよいと明示されている点は、実務では重要です。写真の整理は損傷写真台帳の作り方が参考になります。
措置の記録の作法も一般の橋と違います。
「一方で、道路橋定期点検要領(令和6年3月)の記録内容と同様に各部について告示の区分に準じた措置の必要性の区分を行う必要はない。むしろ、最終的に、道路管理者が石造アーチ橋全体として評価するためには、定期点検を行う者は、上部構造、下部構造、上下部接続部、また、耐荷性能や耐久性能などの観点での必要と考えられる、または、望ましいと考えられる措置の内容を記述しておくことが有用である。」
つまり各部にA・B・C1といった対策区分の記号を振る必要はなく、文章で措置の内容を書くのが石橋の作法です。記号を埋めることに慣れていると、かえって手が止まる箇所なので注意してください。調書の全体像は点検調書の構成と書き方にまとめています。
記録に残さない情報の扱いにも一言があります。「石造アーチ橋の点検結果に関して、記録に残す必要のない現地確認時に取得した情報(形状の変化や変状のほか、周辺状況などの写真データなど)においても、将来の変状確認時などの有用な情報として活用できる可能性があるため、データフォルダなどに保存しておくとよい。」——次の5年後に効いてくる指示です。
デジタル計測の位置づけ
令和8年3月改定で新設された付録2が、この資料でいちばん新しい部分です。目的はこう書かれています。
「石造アーチ橋の全体形状の変化を捉えるための計測は、計測目的ごとに手法を選定する必要がある。また、デジタル計測の技術開発は日進月歩で進んでいるため、これらの技術動向を確認しながら、本資料の趣旨を踏まえ、その採用について検討することが重要である。」
用語の定義が整理されているのが実用的です。デジタル計測=三次元計測と画像計測の総称、三次元計測=レーザスキャナを用いた三次元点群データを取得する計測、画像計測=デジタルカメラを用いた画像による計測。そしてモバイル端末について、原文は「計測に利用するセンサーは、モバイル端末に搭載されているLiDAR スキャナーやカメラの他、モバイル端末に携帯可能なセンサーを組み合わせたものを含むものとする」と定義しています。手持ち端末のLiDARが、国の資料の中で明示的に位置づけられた形です。
なぜ石橋でデジタル計測なのか。理由は面的に測れることにあります。
「道路橋石橋(石造アーチ橋)は、メジャー・コンベックス等による計測やトータルステーションによる計測では、限定した箇所の計測となることが一般的に考えられるが、デジタル計測では、三次元データとして面的に全体を計測できるため、全体形状の把握の観点から有効である。」
三次元計測と画像計測の使い分けも表で示されています。要点だけ抜き出すと次のとおりです。
| 観点 | 三次元計測(レーザスキャナ) | 画像計測(デジタルカメラ) | 従来(トータルステーション) |
|---|---|---|---|
| 計測可能範囲(一般値) | 200m程度 | カメラ性能による | 500m程度 |
| 得られるデータ | 複数の点の三次元座標値等(座標値を直接取得できる) | 画像からSfM/MVS解析による三次元座標値等 | 1地点ずつの点の三次元座標値 |
| データの特徴 | 短時間で高密度広範囲の点群が取得できるが、後処理が必要 | 現地で取得したデータの妥当性の確認が困難 | 単独の座標であるため、後処理は不要 |
| 現場条件 | 計測対象を見通せること/機器の設置場所が確保できること | 計測対象全体を多面的に見通せる視点場が確保できること | 計測対象を見通せること/機器の設置場所が確保できること |
使うときの注意も6項目挙げられています。石橋に特有なのは次の3つです。①基礎が水中にある場合や漏水・滞水がある場所ではデジタル計測によるデータの取得ができない可能性があるため、近接目視で把握し記録の方法を分ける。②植生・樹木・藻類があると有効なデータが取れないため撤去が要る(添架物も不可視部分を作る)。③モバイル端末はGNSSと連動させれば基準点測量を省略できることもあるが、山間部などGNSSが取得困難な場合がある。石橋は谷筋にあることが多く、③は現実的な制約です。
そして最も大事な一線が引かれています。
「定期点検における健全性の診断の根拠となる状態の把握は、近接目視により行うことが基本であるが、デジタル計測は全体形状と変状の状態把握にあたり、記録の質の向上や作業の省力化が期待できるものである。」
デジタル計測は近接目視の代替ではなく、記録の質と省力化のための手段という位置づけです。この線引きはドローン点検と近接目視の関係やLiDAR・点群データの活用と同じ構図で、点検支援技術全般に共通します。技術の選び方は点検支援技術の選び方 完全ガイド、費用の考え方は新技術を使った点検の費用で扱っています。
納品形式についての指示も明快です。「一般的なソフトウェアで閲覧可能なファイルを納品することを標準とし、それ以外のビューア等は閲覧手段を合わせて納品することが望ましい。」——5年後に開けないデータを納品させないための一文です。
よくある質問
Q. 石橋は道路橋定期点検要領の対象ですか。
A. 対象です。参考資料は「「道路橋定期点検要領(令和6年3月)」の適用範囲に示される道路橋のうち、石材を組み合わせて構築した石橋(以下、「石造アーチ橋」という。)の定期点検に関する参考資料である。」としており、要領の適用範囲の内側にあることを前提に、構造・材料の特性を補う位置づけになっています。5年に1回という頻度も一般の道路橋と同じです。
Q. 令和8年3月の改定で何が変わったのですか。
A. 実質的に新しいのは付録2「デジタル計測による状態の把握の活用検討資料」です。本文は令和5年3月版の内容を踏襲しており、原文も「R5年版の内容を踏襲したうえで、必要に応じて記載の充実などを図った。」としています。改定の理由は、令和6年3月の道路橋定期点検要領の改定への対応と、道路システムのDX化の推進の2つです。
Q. 損傷26種類のどれを選んで記録すればよいですか。
A. 石材部分については26種類の番号を無理に当てはめる必要はありません。参考資料は損傷と変状を「変状」に統一し、アーチ機構の石組みの変化に起因する変状として評価する枠組みを取っています。一方、拡幅されたコンクリート床版や補修コンクリートなど石材以外の部材は、一般の橋と同様に道路橋定期点検要領により点検するため、こちらは通常の損傷分類で記録します。
Q. 上下部接続部は何を指しますか。石橋には支承がありませんが。
A. 最下段の輪石です。参考資料は「上下部接続部は最下段の輪石と考えてよい」としています。上部構造は輪石・壁石・中詰・背面土、下部構造は橋台・橋脚・基礎(輪石基礎)です。支承がないことを理由に上下部接続部を「該当なし」とすると、荷重が集中する部位が記録から抜け落ちます。
Q. ライズ比はなぜ確認するのですか。
A. アーチ機構が成立しているかの目安になるためです。参考資料は「ライズ比(ライズ/スパン)が1/4 より大きいときは、概ねこのようなアーチ機構が成立することが分かっている。」とし、これより小さい場合は輪石同士を圧縮状態にするために大きな軸力が必要になり、基礎に生じる水平力も大きくなって基礎の変状の影響を受けやすくなるとしています。半円アーチのライズ比は0.5です。点検計画の段階で計算しておくと、基礎まわりを重点的に見るべき橋を先に絞り込めます。
Q. 石は劣化しないと聞きますが、点検で何を見ればよいのですか。
A. 石材そのものより石組みの形状の変化を見ます。参考資料は保全の観点を「基礎を移動させないための保全」「輪石のアーチ形状を変えないための保全」「中詰材の変形及び流出を抑制するための保全」「側方にはらみ出し等しないための保全」の4つに整理しています。材料としての石は、長崎眼鏡橋の再利用石材が寛永11年(1635年)の竣工から現存している例が挙げられるほど耐久性が高い一方、砂岩の板状剥離やハニカム状の風化、溶結凝灰岩の凍結融解によるひびわれといった例外も記載されています。
Q. LiDARやモバイル端末で計測すれば、近接目視は省略できますか。
A. できません。参考資料は「定期点検における健全性の診断の根拠となる状態の把握は、近接目視により行うことが基本である」としたうえで、デジタル計測は「記録の質の向上や作業の省力化が期待できるもの」と位置づけています。また、基礎が水中にある場合や漏水・滞水がある場所ではデータの取得ができない可能性があるため、そうした箇所は近接目視で把握し記録の実施方法を分けるよう求めています。