橋梁点検車の手配は決まった。では、誰が運転して、誰が乗るのか。ここで「高所作業車の資格が要る」とだけ覚えていると、見積の職種欄で手が止まります。
橋梁点検車に必要な資格は、一律ではありません。車の形式によって根拠となる制度が変わり、しかも運転する人だけでなく作業床に乗って点検する人にも同じ資格が要ります。この2点は、国土交通省の積算基準に注記としてはっきり書かれています。
この記事では、橋梁定期点検業務等積算基準(暫定版・令和5年3月)の原文と、労働安全衛生法令の条文をもとに、資格の分かれ目、積算での職種の立て方、使用前後に事業者が負う義務を整理します。近接目視という要件そのものについては近接目視とはにまとめています。
- 橋梁点検車は近接目視のためのアクセス手段の一つ。積算基準は「橋梁点検車,高所作業車,点検用足場,あるいは梯子等」と並べて挙げている
- 労働安全衛生法令では作業床の高さ10mが境目。10m以上は技能講習、10m未満は特別教育。ただしどちらも「道路上を走行させる運転を除く」
- 歩廊式は「ゴンドラの特別教育でよいものがある」と積算基準が明記している。同じ橋梁点検車でも根拠制度が変わる
- ゴンドラや歩廊で操作を行う点検員にも同様の資格が必要。運転手だけの話ではない
橋梁点検車は何をする車か
橋梁点検車は、桁下や床版下面のように地上から手が届かない部位へ、作業床ごと人を運ぶための特殊車両です。橋の上に停めてブームを路肩の外へ回し、桁の下側へ降ろして近づく形が代表的です。
制度上の位置づけは、国土交通省の積算基準に書かれています。
「「定期点検要領」に基づき,橋梁点検車,高所作業車,点検用足場,あるいは梯子等を用いて,橋梁点検を近接目視にて行う。また,必要に応じて橋梁台帳の記載事項を補完するために現地計測を行う。」
ここで押さえたいのは、橋梁点検車が近接目視を実現するための手段の一つとして、足場や梯子と横並びで挙げられていることです。点検車を使うこと自体が要件ではありません。令和6年3月改定の定期点検要領が求めているのは近接目視であって、そこへ至る手段は現場の条件で選ぶことになります。
なお同じ積算基準は、注記で「モニター式点検車歩掛については別途計上する。」としています。作業床に人が乗るのではなく、カメラで確認する形式は別扱いということです。
法令上の位置づけは高所作業車
資格の根拠は労働安全衛生法令にあります。まず、労働安全衛生法施行令第10条第7号が対象を定めています。
「作業床の高さ(作業床を最も高く上昇させた場合におけるその床面の高さをいう。以下同じ。)が二メートル以上の高所作業車」
そのうえで、資格の区分が2段階に分かれます。
| 作業床の高さ | 必要なもの | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 10m以上 | 技能講習の修了(就業制限業務) | 労働安全衛生法施行令 第20条第15号 |
| 10m未満 | 特別教育 | 労働安全衛生規則 第36条第10号の5 |
「作業床の高さが十メートル以上の高所作業車の運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務」
労働安全衛生規則 第三十六条第十号の五・原文
「作業床の高さ(令第十条第七号の作業床の高さをいう。)が十メートル未満の高所作業車(令第十条第七号の高所作業車をいう。以下同じ。)の運転(道路上を走行させる運転を除く。)の業務」
両方に共通する括弧書きが「道路上を走行させる運転を除く」です。ここを読み飛ばすと理解が逆になります。公道を走らせること自体はこの資格の対象外で、そちらは車両の区分に応じた運転免許の話です。技能講習や特別教育が求めているのは、作業のための操作のほうです。
もうひとつ、「作業床の高さ」の定義も条文が示しているとおり「作業床を最も高く上昇させた場合におけるその床面の高さ」です。実際にその日どこまで上げたかではなく、その車が上げられる高さで決まります。桁下へ降ろす使い方をする日でも、この判定は変わりません。
歩廊式は根拠制度が変わる
ここが実務でいちばん取り違えやすいところです。橋梁点検車と呼ばれる車のなかには、ブームの先に作業床が付いた形式のほかに、桁下に歩廊を張り出す形式があります。積算基準は、この違いを資格の注記として書き分けています。
「運転手の職種については,リフト車規格「作業床高 10m 以上」及び橋梁点検車等のうち「高所作業 10m 以上」等の技能講習資格が必要な場合は特殊運転手,特別教育で良い場合(橋梁点検車【歩廊式】は,ゴンドラの特別教育でよいものがある)は一般運転手を計上する。なお,ゴンドラ又は歩廊で操作を行う点検員にも同様の資格が必要であるが,点検歩掛において単価,職種の変更はしない。」
読みどころは「橋梁点検車【歩廊式】は,ゴンドラの特別教育でよいものがある」です。同じ橋梁点検車でも、歩廊式には高所作業車ではなくゴンドラの特別教育で足りるものがある、と国が積算の前提として書いています。
注意したいのは「ものがある」という書き方です。歩廊式ならすべてがそうだ、とは書かれていません。手配する車ごとに、どの制度に基づく資格が要るのかを確認する必要があります。
| 形式 | 資格の根拠になり得るもの | 積算上の運転手の職種 |
|---|---|---|
| ブーム式など(作業床10m以上) | 高所作業車運転技能講習 | 特殊運転手 |
| 同(作業床10m未満) | 高所作業車の特別教育 | 一般運転手 |
| 歩廊式 | ゴンドラの特別教育でよいものがある | 一般運転手 |
点検員にも同じ資格が要る
前節に引いた注記の最後の一文を、もう一度取り出します。
「なお,ゴンドラ又は歩廊で操作を行う点検員にも同様の資格が必要であるが,点検歩掛において単価,職種の変更はしない。」
つまり作業床の上で操作をする点検員も、運転手と同じ資格を持っていなければなりません。「運転は業者、点検は技術者」と役割を分けても、技術者側が作業床の操作盤を触るなら資格が要ります。
そして後半に、積算上の扱いが書かれています。資格は要るが、点検歩掛の単価と職種は変えないということです。費用としては上がらないが、要件としては満たさなければならない。ここがずれると、見積は通ったのに現場で人を入れ替える事態になります。橋梁点検に必要な資格で扱っている技術者要件とは別枠の話なので、両方を突き合わせておく必要があります。
積算では職種と歩掛が変わる
機械経費の立て方も同じ節に示されています。1日当たりで、運転手1人・燃料費・機械損料・諸雑費を計上する構成です。機械損料については「機械の持ち込み,無償貸与又はリース等に応じて損料又は賃料を計上する。」とされています。
点検そのものの日数にも、点検車を使うかどうかが効いてきます。積算基準は1橋当たりの点検日数を次の式で出します。
「D= A1 ÷ ((8×Yb)×K1) +Dm」
A1:定期点検面積(平方メートル。橋長×全幅員)/Yb:1時間当りの基準作業量/K1:足元条件係数/Dm:橋梁間の移動時間(0.1日/橋)
この足元条件係数が、アクセス手段ごとに決められています。
| 足元条件 | 係数(K1) | 足元条件 | 係数(K1) |
|---|---|---|---|
| 地上 | 1.0 | 点検車 | 1.2 |
| リフト車 | 0.9 | 足場 | 1.0 |
| 梯子 | 0.9 | 船上 | 1.2 |
係数は式の分母にあります。したがって係数が大きいほど算定される点検日数は少なくなります。点検車と船上が1.2、地上と足場が1.0、リフト車と梯子が0.9という並びです。梯子とリフト車は地上より日数がかかる前提で組まれている、と読めます。
あわせて注記が2つ効いてきます。ひとつは「仮設費(作業用足場等近接手段)は別途計上する。」で、足場を組む費用はこの歩掛に含まれていません。もうひとつは「1橋梁で複数の足元条件となる場合は支配的な足元条件を適用する。」で、部位ごとに手段が変わる橋でも係数は1つに寄せる、ということです。
使う側が負う義務
資格だけ揃えれば使えるわけではありません。労働安全衛生規則は高所作業車について1つの節(第194条の8から第194条の28)を設けており、事業者側の義務が並んでいます。点検業務の計画段階で押さえておくべきものを抜き出します。
| 条文 | 義務の内容 |
|---|---|
| 第194条の9 | あらかじめ作業計画を定め、それにより作業を行う。計画には作業の方法を示す |
| 第194条の10 | 作業の指揮者を定め、作業計画に基づいて指揮させる |
| 第194条の11 | 転倒・転落防止のため、アウトリガーの張り出し、地盤の不同沈下防止、路肩の崩壊防止等の措置を講じる |
| 第194条の12 | 作業床以外の箇所で作業床を操作するときは、一定の合図を定めて合図者を指名する |
| 第194条の19 | ブーム等を上げ、その下で修理・点検を行うときは安全支柱・安全ブロック等を使用させる |
| 第194条の23 | 1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行う(原動機・走行装置・作業装置・油圧装置ほか9項目) |
| 第194条の24 | 1月以内ごとに1回、定期に自主検査を行う(制動装置・作業装置・安全装置) |
| 第194条の25 | 自主検査の記録を3年間保存する |
| 第194条の27 | その日の作業を開始する前に、制動装置・操作装置・作業装置の機能を点検する |
| 第194条の28 | 自主検査・点検で異常を認めたときは、直ちに補修その他必要な措置を講じる |
実務で効くのは第194条の11です。アウトリガーを張り出す、地盤の不同沈下を防ぐ、路肩の崩壊を防ぐ、と条文が具体的に書いています。橋梁点検車は橋の上に停めて路肩の外へブームを回すため、まさに路肩の上で使うことになります。現地踏査の段階で、点検車が据えられる路肩かどうかを見ておく必要があります。
もうひとつ、第194条の27の作業開始前点検はその日の作業ごとです。複数橋を1日で回る場合も、始業前に1回行うことになります。
点検車を使わない選択肢との比較
積算基準が並べているとおり、近接目視の手段は点検車だけではありません。それぞれ制約が違います。
| 手段 | 足元条件係数 | 主な制約 |
|---|---|---|
| 橋梁点検車 | 1.2 | 資格が要る。路肩に据えられること。交通規制が必要になることが多い |
| 足場 | 1.0 | 仮設費が別途。組立・解体の期間が要る |
| 梯子 | 0.9 | 届く範囲が限られる。日数が増える前提の係数 |
| 船上 | 1.2 | 河川・海上に限られる。水位と流況に左右される |
ここにドローンやLiDAR・点群といった点検支援技術が加わりますが、これらは近接目視の代替として無条件に使えるわけではありません。要領上の整理はドローンと「近接目視を基本」の関係に、選定の考え方は点検支援技術の選び方と性能カタログの読み方にまとめています。
費用の比較を考えるときは、点検車の1日当たり機械経費だけでなく、交通規制の費用と、それに伴う実作業可能時間の減少まで含めて見る必要があります。積算基準にも「作業時間の制約を受ける場合は,移動時間(Dm)を除く運転日数について8h/作業時間の割り増しを行う。」という注記があり、実働が短くなれば日数側で調整される建て付けになっています。
よくある質問
Q. 橋梁点検車の運転には何の資格が必要ですか。
A. 一律ではありません。高所作業車に当たる場合、作業床の高さが10m以上なら技能講習の修了、10m未満なら特別教育が必要です(労働安全衛生法施行令第20条第15号、労働安全衛生規則第36条第10号の5)。ただし国土交通省の積算基準は「橋梁点検車【歩廊式】は,ゴンドラの特別教育でよいものがある」としており、形式によって根拠制度が変わります。
Q. 公道を走らせるのにも技能講習が要りますか。
A. 条文はどちらも「道路上を走行させる運転を除く。」と括弧書きしています。公道の走行そのものはこの資格の対象外で、車両区分に応じた運転免許の話になります。技能講習や特別教育が対象としているのは作業のための操作です。
Q. 作業床の高さはその日に上げた高さで判定するのですか。
A. 違います。労働安全衛生法施行令第10条第7号が「作業床を最も高く上昇させた場合におけるその床面の高さ」と定義しています。その車が上げられる高さで決まるため、桁下へ降ろす使い方をした日でも判定は変わりません。
Q. 点検する技術者にも資格が要りますか。
A. 要ります。積算基準の注記に「ゴンドラ又は歩廊で操作を行う点検員にも同様の資格が必要である」と明記されています。運転を業者に任せても、技術者が作業床の操作を行うなら同じ資格が必要です。ただし同じ注記に「点検歩掛において単価,職種の変更はしない。」ともあり、費用としては反映されません。
Q. 橋梁点検車を使うと点検日数はどう変わりますか。
A. 積算基準の点検日数の式では、足元条件係数が分母に入ります。点検車は1.2で、地上や足場の1.0、梯子やリフト車の0.9より大きいため、算定される日数は少なくなります。ただし仮設費は別途計上で、1橋梁で複数の足元条件となる場合は支配的な条件を適用するとされています。
Q. 高所作業車の定期自主検査はどのくらいの頻度ですか。
A. 2種類あります。労働安全衛生規則第194条の23が1年以内ごとに1回、第194条の24が1月以内ごとに1回で、それぞれ検査項目が定められています。記録は第194条の25により3年間保存します。加えて第194条の27で、その日の作業を開始する前に制動装置・操作装置・作業装置の機能を点検することが求められています。
Q. 点検車が入れない橋はどうすればよいですか。
A. 積算基準は近接目視の手段として「橋梁点検車,高所作業車,点検用足場,あるいは梯子等」を並べており、点検車の使用が要件ではありません。足場・梯子・船上のいずれかを選ぶことになり、それぞれ足元条件係数が定められています。足場を組む場合の仮設費は点検歩掛に含まれず別途計上です。