「橋梁点検にドローンを使えないか」という検討は、足場や橋梁点検車の費用、桁下や高橋脚への接近の難しさ、点検技術者の不足といった現場の事情から、多くの道路管理者・建設コンサルタントで進んでいます。一方で、実際に動き出すと止まる原因はほぼ決まっていて、「点検要領の条件」と「航空法の手続き」という別々のハードルが1つに混ざって議論されていることにあります。

本記事は、この2つを切り分けて整理します。前者(要領上の位置づけ)はドローン橋梁点検と「近接目視を基本」の関係で扱っているため、ここでは航空法側の手続きと、橋の現場で実際に引っかかるポイントを中心に扱います。

この記事の要点
  • ハードルは2層。①点検要領で「近接目視と同等の評価が行える」こと ②航空法の飛行手続きを満たすこと。片方だけ整えても点検には使えない
  • 橋の点検飛行は、ほぼ確実に航空法の「特定飛行」に該当する(橋という物件から30m未満、桁下での目視外、市街地=人口集中地区など)
  • 供用中の道路・歩道の上を第三者が通る状態で飛ばすなら、立入管理措置(規制・監視)を講じてカテゴリーⅡに収めるのが実務の基本形
  • 総重量25kg未満なら、機体認証・技能証明・立入管理措置をそろえることで、許可・承認の申請自体を不要にできる場合がある

ドローンで「変わること」と「変わらないこと」

期待されている効果と、制度上そのままでは動かない部分を、先に分けておきます。

ドローンで変わりうること

桁下・高橋脚・支承まわりなど、足場や橋梁点検車がないと近づけない箇所へ接近して撮影できる。交通規制が難しい橋、河川上・道路上の大規模橋で、点検体制の組み方の選択肢が増える。高所作業そのものを減らせるため、安全面の負担も下げられる。

ドローンでは変わらないこと

状態の評価と診断は、最後まで点検技術者の責任で行う。撮影画像は「状態把握を支援するデータ」であって診断結果ではない。損傷の記録・損傷図・写真台帳・調書の作成工数は、撮る手段を変えただけでは減らない。飛行のための許可・承認や安全管理の手間は、新たに増える側の作業になる。

つまりドローンは「接近手段の置き換え」であって、点検業務そのものの置き換えではありません。導入検討では、この線引きを最初に共有しておくと、社内の期待値と実際の効果がずれにくくなります。

ハードルは2層構造になっている

ドローン点検の可否は、性質のまったく異なる2つの条件の掛け算で決まります。

1

点検要領の層:近接目視と「同等の評価が行える」か

道路橋定期点検要領(令和6年3月改定)では、状態の把握は近接目視、または近接目視による場合と同等の評価が行える他の方法により収集するという考え方が示されています。ドローン活用は、この「同等性」が成立する範囲での代替という位置づけです。対象とする損傷に応じた撮影条件、使用機器等の記録、点検技術者による確認がそろって初めて成立します。

2

航空法の層:その飛ばし方が法令上できるか

点検要領で認められる方法であっても、その飛行が航空法上できなければ実施できません。航空法上の無人航空機は100g以上の機体が対象で、機体登録を行ったうえで、規制された空域・方法で飛ばす場合には国土交通大臣の許可・承認が必要です。適切な許可・承認を得ずに飛行させた場合には罰則(懲役または罰金)の対象となります。

社内検討でよく起きるのは、①の議論だけで「使えそうだ」と結論を出し、現場直前に②で止まるパターンです。逆に、②の手続きを外注業者任せにして、①の記録要件(使用機器等の情報)が調書側で埋まらないケースもあります。この2層は最初から並べて設計するのが安全です。

橋の点検飛行は「特定飛行」に該当する

航空法では、規制された空域や方法での飛行を「特定飛行」と呼び、原則として飛行許可・承認申請が必要になります。特定飛行に当たる空域と方法は次のとおりです。

区分該当する内容橋梁点検での関係
空域①空港等の周辺の空域空港・ヘリポート周辺の橋。飛行可能な高さが場所ごとに異なり、空港等設置管理者・管制機関との調整が必要
空域②緊急用務空域災害時等に指定される。他の許可があっても飛行不可。飛行前の確認が必須
空域③地表または水面から150m以上の上空通常の橋梁点検では該当しにくいが、高橋脚・長大橋の上部で確認が要る場合がある
空域④人口集中地区(DID)の上空市街地の橋はここに該当しやすい。工業専用地域は告示により除外区域として指定されている
方法①夜間での飛行日中=日出から日没まで。夕方の作業が延びた時点で該当しうる
方法②目視外での飛行桁下・箱桁内部など機体が見えなくなる状況。双眼鏡や補助者による監視は「目視」に含まれない
方法③人または物件と距離を確保できない飛行30m未満。橋そのものが「物件」なので、部材に接近して撮る点検飛行は基本的に該当する
方法④催し場所上空での飛行イベント開催中の会場上空。橋の直下・周辺で催しがある場合に注意
方法⑤危険物の輸送点検業務では通常該当しない
方法⑥物件の投下点検業務では通常該当しない
この記事の結論

「橋に近づいて撮る」という行為そのものが、方法③(人または物件から30m未満)に当たります。つまり橋梁点検のドローン飛行は、原則として特定飛行として扱う前提で計画を立てるのが実務的です。「うちは市街地じゃないから大丈夫」という判断は、この点を見落としがちです。

カテゴリーⅠ・Ⅱ・Ⅲと「第三者の上空」

無人航空機の飛行は、リスクに応じて3つのカテゴリーに分類されます。手続きの重さはこの区分で決まります。

カテゴリー内容手続き
カテゴリーⅠ特定飛行に該当しない飛行航空法上の飛行許可・承認手続きは不要
カテゴリーⅡ特定飛行のうち、第三者の上空を飛行しないよう、飛行経路下で立入管理措置を講じて行う飛行一部のケースを除き許可・承認が必要
カテゴリーⅢ立入管理措置を講じずに行う飛行(=第三者の上空を飛ぶレベル4飛行)機体認証・技能証明を含む高い要件と許可が必要

ここで橋梁点検に効いてくるのが、無人航空機はカテゴリーⅢ飛行を除き第三者の上空を飛行できないという原則です。供用中の道路・歩道・河川敷など、点検対象の橋の周辺には第三者が入りうる場所が多く、そのまま飛ばせばカテゴリーⅢの領域に踏み込みます。

実務でとられるのは、交通規制・立入禁止措置・監視員の配置などの立入管理措置を講じて飛行経路下から第三者を排除し、カテゴリーⅡに収める組み立てです。この「規制をかける手間」は、ドローンを使えば規制が要らなくなるという期待と正面からぶつかる部分なので、計画段階で必ず費用・体制に織り込んでください。

出典:国土交通省「無人航空機の飛行禁止空域と飛行の方法」「無人航空機 飛行許可・承認申請ポータルサイト」「無人航空機の飛行許可・承認手続」、道路橋定期点検要領(令和6年3月)。制度は改正されることがあるため、実施前に最新の告示・審査要領および飛行させる自治体の条例をご確認ください。

手続きを軽くする条件(25kg未満の場合)

カテゴリーⅡの飛行のうち、人口集中地区の上空・夜間・目視外・人または物件から30mの距離を取らない飛行であって、機体の総重量が25kg未満の場合は、次の条件をそろえることで許可・承認を不要にできる場合があります。

  • 立入管理措置を講じること
  • 無人航空機操縦者技能証明(一等・二等)を受けた者が飛行させること
  • 機体認証を受けた無人航空機であること
  • 飛行マニュアルの作成など、飛行の安全を確保するために必要な措置を講じること

点検を反復して行う組織にとっては、この条件を満たす体制(有資格者・認証機)を整えるかどうかが、外注と内製の分かれ目になります。逆にいえば、催し場所上空・危険物輸送・物件投下、および空港等周辺・緊急用務空域・150m以上の空域はこの簡略化の対象外で、許可・承認が必要である点は変わりません。立入管理措置を講じずに飛ばす場合は、一等無人航空機操縦士+第一種機体認証+国土交通大臣の許可という、さらに重い要件になります。

申請の実務:DIPS2.0・10開庁日前・包括申請

手続きが必要な場合、実務上のポイントは次のとおりです。

項目内容
申請システムドローン情報基盤システム(DIPS2.0)でオンライン申請。事前に機体登録を行い、登録記号または試験飛行届出番号の発行を受けている必要がある
申請の期限飛行開始予定日の10開庁日前まで。点検の工程表を引く際は、この日数を必ず前倒しで確保する
反復する飛行同一の申請者が一定期間内に反復・継続して飛行を行う場合は、1年を限度とした包括申請が可能
申請先空港等の周辺・150m以上の空域・緊急用務空域は東京空港事務所または関西空港事務所。それ以外は東京航空局または大阪航空局
保険カテゴリーⅡの審査要領に基づき、令和7年10月1日以降に新たに申請する場合、総重量25kg以上の機体は第三者賠償責任保険への加入が必要
飛行後の義務飛行計画の通報、飛行日誌の作成、事故等が発生した場合の報告および救護義務
航空法以外小型無人機等飛行禁止法の対象空港周辺では原則飛行禁止(空港管理者の同意・都道府県公安委員会への事前通報等が別途必要)。自治体の条例、河川・鉄道等の施設管理者との調整も別枠で必要

点検業務の発注・受注では、この手続き日数(10開庁日前)と包括申請の有無が、工程と単価の両方に効いてきます。年間で複数橋を回る計画なら、包括申請を前提に工程を組めるかどうかで機動力が大きく変わります。

費用と体制をどう見積もるか

ドローン点検の費用は、機材費だけでは決まりません。実際には「操縦者+補助者+交通規制・監視の人工」「申請と飛行マニュアル整備の事務工数」「撮影後の画像整理・損傷抽出・調書作成の工数」が積み上がります。とくに最後の工程は、接近手段を変えても自動的には減りません。

加えて、点検支援技術のような新技術には国の標準積算が存在しないという構造的な問題があります。この点は新技術を使った橋梁点検の費用はどう決まるのかで詳しく整理しています。従来手法との単純比較ではなく、「規制・仮設をどれだけ減らせるか」「調書化までの工数がどう変わるか」で見るのが実態に近い評価です。

技術そのものの選定にあたっては、国土交通省の点検支援技術性能カタログ(橋梁・トンネル、令和8年3月版が最新)に掲載された性能値と適用条件を、自組織が対象とする橋・損傷の条件に当てはめて確認してください。カタログの読み方は点検支援技術性能カタログとは、技術選定全体の考え方は点検支援技術の選び方 完全ガイドにまとめています。

よくある質問

橋梁点検のドローン飛行に、必ず許可・承認は必要ですか?

橋の部材に接近して撮影する飛行は「人または物件と距離を確保できない飛行(30m未満)」に該当するため、原則として特定飛行として扱われます。ただし総重量25kg未満であれば、立入管理措置を講じたうえで、技能証明を受けた者が機体認証を受けた機体を飛行させ、飛行マニュアルの作成等の措置を講じることで、許可・承認を不要にできる場合があります。空港等周辺・緊急用務空域・150m以上の空域や、催し場所上空はこの簡略化の対象外です。

補助者を立てて監視すれば「目視外」になりませんか?

なりません。航空法上の「目視による常時監視」は、飛行させる者が自分の目で見ることを指し、双眼鏡による監視や補助者による監視は含まれません。桁下や箱桁内部など機体が見えなくなる飛行は目視外飛行として扱う前提で計画してください。

ドローンで撮れば近接目視をしなくてよくなりますか?

いいえ。点検要領上は、近接目視による場合と同等の評価が行える方法であることが前提で、最終的な状態把握・診断は点検技術者が確認して行います。対象部材や損傷によっては近接目視や他の方法との併用が必要です。要領側の整理はドローン橋梁点検と「近接目視を基本」の関係をご覧ください。