橋台の裏側が民地の畑に接している。のり面の下端が住宅の庭で終わっている。桁下に立とうとすると、道路区域の外にある月極駐車場を横切らないと届かない。点検の技術的な難所ではなく、土地の境界のほうが先に工程を止めるという場面は、実際の現場でよく起こります。

このとき参照するのは点検要領ではありません。道路法(昭和27年法律第180号)第六十六条から第六十九条までが、道路管理者が他人の土地に立ち入るための手続を定めています。条文が求めているのは同意ではなく通知であること、囲まれた土地と早朝・夜間だけ扱いが変わること、そして損失が出たときの補償の手順まで書かれていること。この記事では、道路法とその施行令・施行規則の条文を原文のまま並べて、点検の段取りに落とす形で整理します。

この記事の要点
  • 根拠は道路法第六十六条第一項。「道路に関する調査、測量若しくは工事又は道路の維持のためやむを得ない必要がある場合」に立入りができる
  • 主語は道路管理者だけではなく「その命じた者若しくはその委任を受けた者」を含む。委託した点検業者の位置づけはここで決まる
  • 手続は4つ。事前通知/囲まれた土地では立入りの際に告げる/日出前・日没後は承諾/証票の携帯と呈示
  • 証票の様式は道路法施行規則第五条第一項の別記様式第六(国の職員が携帯するものを除く)
  • 拒否には第六十七条の受忍義務第百三条第九号の罰則がある。損失は第六十九条で「通常生ずべき損失」を補償する

立入りの根拠は道路法第六十六条第一項

まず条文そのものを見ます。道路法第六十六条は「他人の土地の立入又は一時使用」という見出しで、第一項がこう書かれています。

道路管理者又はその命じた者若しくはその委任を受けた者は、道路に関する調査、測量若しくは工事又は道路の維持のためやむを得ない必要がある場合においては、他人の土地に立ち入り、又は特別の用途のない他人の土地を材料置場若しくは作業場として一時使用することができる。

一文に2つの行為が入っています。立入りと、材料置場・作業場としての一時使用です。後者は要件も手続も別なので、後の節で分けて扱います。

目的として並んでいるのは「道路に関する調査、測量若しくは工事」と「道路の維持」の4つです。条文に「点検」という語はありません。定期点検が調査に当たるのか維持に当たるのかは、条文の文言だけからは一意に決まらず、実際の運用は各道路管理者の判断になります。ただ、どちらに寄せても「やむを得ない必要がある場合」という限定がかかる点は共通です。近接目視のために接近が必要だという理由づけは、この「やむを得ない必要」を説明する材料そのものになります。

もう一点、対象は他人の土地であって、他人の建物や工作物の内部ではありません。桁下に建っている建築物の中に入る必要がある場合は、この条文の射程の外です。兼用工作物占用物件・添架物のように所有と管理が分かれている対象では、そもそも誰の承諾を取るのかを先に整理しておく必要があります。

出典:道路法(昭和27年法律第180号)第六十六条第一項。デジタル庁 e-Gov 法令検索の法令データから引用。強調は編集部によるものです。

誰が入れるのか:委任を受けた者まで含む

第一項の主語は「道路管理者又はその命じた者若しくはその委任を受けた者」です。道路管理者本人に限られていません。命令または委任という形が挟まれば、主語の側に立てる構造になっています。

実務でこの一文が効くのは、点検業務を外注しているときです。委託先の技術者が民地に入る必要があるとき、根拠は委託契約そのものではなく道路法第六十六条第一項であり、契約はその「委任」の中身を示すものという関係になります。したがって特記仕様書に立入りの範囲が書かれているか、証票を誰が発行するかが、着手前に決めておくべき事項になります。点検業務の再委託が入る体制では、委任の連鎖がどこまで及ぶのかも同じ場で確認しておくことになります。

費用の観点では、立入りの調整に要する日数は工程に直結します。橋梁点検の費用の考え方を組み立てるとき、地権者への通知・調整が発生する橋がどれかを事前に洗い出しておくと、見積の前提が現場と食い違いにくくなります。

手続は4つ:通知・告知・時間帯・証票

第二項から第五項までが手続です。並べると4つになります。

条文の求め実務での意味
第二項あらかじめ当該土地の占有者にその旨を通知しなければならない(あらかじめ通知することが困難である場合を除く)相手は所有者ではなく占有者。借地・小作の土地では通知先が登記名義人と異なる
第三項宅地又はかき、さく等で囲まれた土地に立ち入ろうとする場合は、立入の際あらかじめその旨を当該土地の占有者に告げなければならない事前通知に加えてその場でもう一度告げる。留守なら立ち入らない運用になる
第四項日出前及び日没後においては、占有者の承諾があつた場合を除き、前項に規定する土地に立ち入つてはならない囲まれた土地の早朝・夜間は承諾が要件。冬期の日没時刻が工程の制約になる
第五項その身分を示す証票を携帯し、関係人の請求があつた場合においては、これを呈示しなければならない携帯だけでなく呈示まで。現地で求められる相手は地権者とは限らない

読み分けの要点は3つあります。

1つめ、第二項の通知先は「占有者」です。所有者ではありません。耕作している人と登記名義人が違う土地では、通知先を取り違えると手続を尽くしたことになりません。

2つめ、第三項と第四項の対象は「宅地又はかき、さく等で囲まれた土地」に限られていることです。柵のない山林ののり面と、フェンスで囲われた資材置場とでは、条文がかける制約が違います。第四項の日出前・日没後の禁止も、この囲まれた土地に対するものです。

3つめ、第二項のただし書です。「但し、あらかじめ通知することが困難である場合においては、この限りでない。」とあり、事前通知が不可能な場面を想定しています。ただしこれは通知の免除であって、第三項の告知や第五項の証票まで外れるわけではありません。定期点検以外の点検道路防災点検のように急いで現地を見る場面ほど、どの手続が残るのかを整理しておく価値があります。

証票の様式は法律ではなく省令にあります。第七項が「第五項の規定による証票の様式その他必要な事項は、国土交通省令で定める。」とし、道路法施行規則第五条第一項が「法第六十六条第七項の規定による証票(国の職員が携帯するものを除く。第三項において同じ。)の様式は、別記様式第六とする。」と定めています。国の職員が携帯するものは括弧書きで除かれているので、直轄国道と都道府県道・市町村道で扱いが分かれます。

出典:道路法(昭和27年法律第180号)第六十六条第二項から第七項まで、道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)第五条第一項。デジタル庁 e-Gov 法令検索の法令データから引用。強調は編集部によるものです。

材料置場としての一時使用は要件が別

第一項の後段にある一時使用は、立入りより要件が絞られています。まず対象が「特別の用途のない他人の土地」に限られます。そのうえで第六項が手続を加えています。

第一項の規定により特別の用途のない他人の土地を材料置場又は作業場として一時使用しようとする場合においては、あらかじめ当該土地の占有者及び所有者に通知して、その者の意見を聞かなければならない。

立入りとの違いは2つです。相手方が「占有者及び所有者」に広がること、そして通知だけでなく意見を聞くこと。点検そのものでは使う場面は多くありませんが、足場を組む、高所作業車を据える、資材を仮置きするといった作業が伴うときは一時使用の側に寄ります。交通規制と保安の計画で車両の据え付け位置を検討する段階で、道路区域の外に出る部分がないかを確認しておくと、後から手続をやり直さずに済みます。

拒まれたとき:受忍義務と罰則

第六十七条は「立入又は一時使用の受忍」という見出しで、一文だけです。

土地の占有者又は所有者は、正当な事由がない限り、前条第一項の規定による立入又は一時使用を拒み、又は妨げてはならない。

そして罰則が第百三条にあります。同条柱書は「次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」とし、第九号に「第六十七条の規定に違反して土地の立入り又は一時使用を拒み、又は妨げたとき。」を挙げています。

ここで押さえておきたいのは条文の構造です。第六十六条と第六十七条には、拒まれた場合に実力で立ち入ることを認める規定は置かれていません。置かれているのは受忍義務と罰則で、拒否があったときに現場で押し通す根拠にはなりません。手続を尽くして記録を残すこと、そして「正当な事由」に当たる事情があるなら日程や範囲を調整することが、実際の解決手段になります。

なお、非常災害の場面は別の条文です。第六十八条第一項が「道路管理者は、道路に関する非常災害のためやむを得ない必要がある場合においては、災害の現場において、必要な土地を一時使用し、又は土石、竹木その他の物件を使用し、収用し、若しくは処分することができる。」としており、平常時の第六十六条とは要件も及ぶ範囲も違います。災害時の運用を平常時の点検に流用しないという切り分けが必要です。

損失補償の手順は3段構え

立入りや一時使用で損失が出たときの規定が第六十九条です。第一項は「道路管理者は、第六十六条又は前条の規定による処分に因り損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。」、第二項は「第四十四条第六項及び第七項の規定は、前項の規定による損失の補償について準用する。」です。

準用先の第四十四条第六項・第七項をたどると、手順は3段になります。

段階条文(第四十四条)内容
1第六項損失の補償については、道路管理者と損失を受けた者とが協議しなければならない
2第七項前段協議が成立しない場合は、道路管理者は自己の見積もつた金額を損失を受けた者に支払わなければならない
3第七項後段その金額に不服がある者は、政令で定めるところにより、補償金額の支払を受けた日から一月以内に収用委員会に土地収用法第九十四条の規定による裁決を申請することができる

実務上の含意は2段目にあります。協議がまとまらないまま止まるのではなく、道路管理者の側が自ら見積もった額をいったん支払う建て付けです。そのうえで不服申立ての窓口を収用委員会に置き、期間を1か月に区切っています。

3段目の手続は政令と省令にも書かれています。道路法施行令第三十五条の四は、裁決を申請しようとする者が裁決申請書に記載する事項として、裁決申請者の氏名及び住所/相手方の氏名及び住所/損失の事実/損失の補償の見積り及びその内訳/協議の経過の5つを挙げています。道路法施行規則第四条の五の七は、その様式を別記様式第五の二とし、「正本一部及び写一部を提出するものとする」と定めています。

記載事項に「協議の経過」が入っている点は、現場の記録の残し方に直結します。通知をいつ、誰に、どの方法で行ったか。立入りの日時と範囲。相手方の反応。これらが残っていないと、後の手続で説明できるものがありません。点検調書橋梁台帳とは別のファイルになりますが、同じ点検業務の記録として管理する対象です。

出典:道路法(昭和27年法律第180号)第六十七条、第六十八条第一項、第六十九条、第四十四条第六項・第七項、第百三条第九号、道路法施行令(昭和27年政令第479号)第三十五条の四、道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)第四条の五の七。デジタル庁 e-Gov 法令検索の法令データから引用しました。強調は編集部によるものです。個別の事案における手続の要否・補償の要否は、土地の状況および各道路管理者の運用によって異なります。

点検の段取りにどう落とすか

条文を並べると、点検計画の側でやっておくことが3つに整理できます。

1つめは立入りが要る施設の洗い出しです。法定点検の対象施設を一覧にする段階で、施設の区分とは別に「道路区域の外に出ないと近接できるか」を見ておきます。橋台まわり、のり面の下端、道路土工構造物の背面は、境界の外に出やすい代表です。

2つめは通知の設計です。占有者が誰かの確認、通知の方法と時期、囲まれた土地かどうかの区分、そして日没時刻。第四項の制約があるため、冬期に工程を寄せると実作業可能な時間が短くなります。

3つめはそもそも入らずに済ませられるかの検討です。対岸や上空から計測できるなら、手続の対象が減ります。ドローンによる橋梁点検点群データの活用は、要領上の位置づけとは別に、立入りの調整コストを下げる手段としても評価できます。ただし、機器を用いた方法が近接目視と同等と扱えるかは要領側の論点であり、近接目視の代替可否で扱っている条件を満たすかを別途確認する必要があります。手続が楽になることと、点検として成立することは別の話です。

最後に、境界そのものが曖昧な場合について。道路区域の外か内かが確定していない土地では、そもそも第六十六条を使う場面かどうかが決まりません。指定区間と道路管理者の整理と同じく、管理の範囲を先に確定させることが、手続の出発点になります。ここが曖昧なまま入ると、後から管理瑕疵の議論に巻き込まれる余地を残すことになります。

よくある質問

点検のために民地へ入るには、地権者の同意が必要ですか。

道路法第六十六条第二項が求めているのは同意ではなく通知です。「前項の規定により他人の土地に立ち入ろうとする場合においては、あらかじめ当該土地の占有者にその旨を通知しなければならない。但し、あらかじめ通知することが困難である場合においては、この限りでない。」と定められています。ただし宅地またはかき、さく等で囲まれた土地では、同条第三項により立入りの際にあらかじめその旨を占有者に告げることが必要で、同条第四項は「日出前及び日没後においては、占有者の承諾があつた場合を除き、前項に規定する土地に立ち入つてはならない。」としています。囲まれた土地の早朝・夜間だけは、条文が承諾を求めている形です。

委託した点検業者も道路法第六十六条で立ち入れますか。

条文の主語は「道路管理者又はその命じた者若しくはその委任を受けた者」です。道路管理者本人に限定されていないため、命令または委任を受けた者が主語に含まれる形になっています。実務では、委託の範囲に立入りが含まれているかを契約書と特記仕様書で確認し、同条第五項の証票を誰が発行して誰が携帯するのかを着手前に決めておくことになります。証票は「その身分を示す証票」と書かれており、携帯していることに加えて、関係人の請求があった場合の呈示までが条文の求めです。

立入りのときに携帯する証票には決まった様式がありますか。

あります。道路法第六十六条第七項が「第五項の規定による証票の様式その他必要な事項は、国土交通省令で定める。」としており、道路法施行規則第五条第一項が「法第六十六条第七項の規定による証票(国の職員が携帯するものを除く。第三項において同じ。)の様式は、別記様式第六とする。」と定めています。括弧書きのとおり、国の職員が携帯するものはこの様式の対象から除かれています。都道府県道・市町村道の管理者やその委任を受けた者が携帯する証票が、別記様式第六に当たります。

地権者に立入りを断られた場合はどうなりますか。

道路法第六十七条が「土地の占有者又は所有者は、正当な事由がない限り、前条第一項の規定による立入又は一時使用を拒み、又は妨げてはならない。」と受忍義務を定めています。これに違反したときは同法第百三条第九号により「六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金」の対象になります。ただし第六十六条・第六十七条には、拒まれた場合に実力で立ち入ることを認める規定は置かれていません。条文の構造は、受忍義務と罰則を置いたうえで手続を尽くすことを求める形になっています。

立入りで作物や設置物を傷めた場合、補償はどうなりますか。

道路法第六十九条第一項が「道路管理者は、第六十六条又は前条の規定による処分に因り損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。」と定めています。手続は同条第二項により第四十四条第六項・第七項が準用され、まず道路管理者と損失を受けた者が協議し、協議が成立しない場合は道路管理者が自己の見積もった金額を支払い、その金額に不服がある者は補償金額の支払を受けた日から一月以内に収用委員会へ土地収用法第九十四条の規定による裁決を申請できます。

立入りと一時使用は手続が違うのですか。

違います。立入りは道路法第六十六条第二項の事前通知が原則ですが、材料置場または作業場としての一時使用は同条第六項により「あらかじめ当該土地の占有者及び所有者に通知して、その者の意見を聞かなければならない」とされています。相手方が占有者だけでなく所有者にも広がり、通知に加えて意見を聞く手順が入ります。対象も「特別の用途のない他人の土地」に限られており、立入りより要件が絞られています。