点検の発注準備で最初に止まるのが、「この橋はうちの管理なのか」という確認です。市の区域内にある国道の跨道橋、県道と市道が接続する交差点部の橋、政令市に編入された区域の橋——どれも図面の上では同じ道路構造物ですが、点検を行う義務を負う者は同じではありません。

点検の基準を定める省令・要領は、いずれも「道路管理者」を名宛人にしています。ところが道路管理者が誰かは点検要領には書かれていません。決めているのは道路法本体で、しかも国道は路線単位ではなく区間単位で管理者が切れます

この記事では、道路法の条文と「一般国道の指定区間を指定する政令」を実際に確認しながら、点検の義務者がどう決まるのかを整理します。台帳の管理者欄が空欄のまま発注しようとして手が止まった、という場面のための記事です。

この記事の要点
  • 道路法第18条第1項が道路管理者を定義しており、国道については「指定区間内の国道にあつては国土交通大臣、指定区間外の国道にあつては都道府県」と括弧書きで明記されている
  • 指定区間の内容は「一般国道の指定区間を指定する政令」(昭和33年政令第164号)の別表で路線名と区間が特定される
  • 同政令の本則は指定区間の筆頭に「北海道の区域内に存する区間」を挙げている
  • 政令指定都市では、第17条第1項により指定区間外の国道と都道府県道の管理が指定市に移る
  • 点検の義務は道路法第42条から導かれる。同条第3項は技術的基準が「道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない」と定めている

点検の名宛人は「道路管理者」

まず、点検の義務がどこから出ているかを確認します。道路法第42条は次のように定めています(逐語)。

道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」(第1項)

道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。」(第2項)

前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない。」(第3項)

第3項が重要です。点検は独立した義務として書かれているのではなく、維持修繕の技術的基準の中に含まれるものとして位置づけられています。5年に1回・近接目視という具体的な内容は、この委任を受けた政令と省令の側にあります(その系統は橋梁点検はなぜ5年に1回?義務化の法的根拠を整理で解説しています)。

そして第42条の主語はすべて「道路管理者」です。省令・告示・要領のどれを読んでも、実施する者はこの語で指されます。したがって「誰が点検するのか」は「誰が道路管理者か」に置き換えられます

道路管理者の定義は第18条の括弧書きにある

道路法には「道路管理者とは」という独立した定義規定がありません。定義は第18条第1項の本文中に括弧書きで置かれています(逐語)。

第十二条、第十三条第一項若しくは第三項、第十五条、第十六条又は前条第一項から第三項までの規定によつて道路を管理する者(指定区間内の国道にあつては国土交通大臣、指定区間外の国道にあつては都道府県。以下「道路管理者」という。)は……

ここに列挙されている条文が、そのまま管理者を決める規定です。整理すると次のようになります。

根拠条文対象管理する者
第13条第1項国道(指定区間内)国土交通大臣
第13条第1項国道(指定区間外)都道府県
第15条都道府県道路線の存する都道府県
第16条第1項市町村道路線の存する市町村
第17条第1項〜第3項国道(指定区間外)・都道府県道指定市/協議・同意を得た市町村

括弧書きが国道についてだけ言い換えを置いているのは、国道が唯一「同じ路線の中で管理者が2つに割れる」道路だからです。

国道は指定区間で2つに割れる

その割れ方を定めているのが第13条第1項です(逐語)。

前条に規定するものを除くほか、国道の維持、修繕、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和二十六年法律第九十七号)の規定の適用を受ける災害復旧(以下「災害復旧」という。)その他の管理は、政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内については国土交通大臣が行い、その他の部分については都道府県がその路線の当該都道府県の区域内に存する部分について行う。

注意すべきは、この条が対象にしているのが「維持、修繕、災害復旧その他の管理」である点です。新設・改築は前条(第12条)が別に定めており、原則として国土交通大臣が行います。点検は前節のとおり維持修繕の系統に属するので、第13条第1項の切れ目がそのまま点検の切れ目になります。

同条第2項には、指定区間内であっても管理の一部を都道府県・指定市に行わせる仕組みがあります(逐語)。

国土交通大臣は、政令で定めるところにより、指定区間内の国道の維持、修繕及び災害復旧以外の管理を当該部分の存する都道府県又は指定市が行うこととすることができる。

ここで委任できる範囲から「維持、修繕及び災害復旧」が明文で除かれています。指定区間内の国道について、点検を含む維持修繕の系統が都道府県側に移ることは、この規定からは生じません。

指定区間は政令の別表で特定する

では指定区間そのものはどこで決まるのか。第13条第1項が委任した政令が「一般国道の指定区間を指定する政令」(昭和33年政令第164号)です。本則は一文だけで、次のように定めています(逐語)。

一般国道の指定区間は、北海道の区域内に存する区間並びに別表上欄に掲げる路線名の一般国道の同表下欄に掲げる区間及びこれらの区間のうちのいずれかにおいて同表の当該区間に係る項の上欄に掲げる路線名の一般国道と重複する道路の部分を有する一般国道で同表上欄にその路線名が掲げられていないものの当該重複する区間とする。

読みにくい一文ですが、3つの塊に分かれています。

  • 北海道の区域内に存する区間(路線名を問わず、区域で指定されている)
  • 別表の上欄に路線名、下欄に区間が掲げられているもの(本体。実際の指定はここで路線ごとに区間の起終点が特定される)
  • 別表に路線名が載っていない国道でも、別表の区間と重複している部分(重複区間の扱いを揃えるための規定)

3つ目は実務でつまずきやすい部分です。国道は他の国道と重複して指定されることがあり、その重複部分だけが指定区間に含まれることがあります。路線番号で「この国道は県管理」と決め打ちできないのはこのためです。

出典:道路法(昭和27年法律第180号)、一般国道の指定区間を指定する政令(昭和33年政令第164号)。いずれもe-Gov法令検索で令和8年4月1日施行時点の本文を確認しています。実際の区間の特定は同政令の別表および各道路管理者の公示によってください。

政令指定都市では管理が市に移る

もう1つの分岐が政令指定都市です。第17条第1項は次のように定めています(逐語)。

指定市の区域内に存する国道の管理で第十二条ただし書及び第十三条第一項の規定により都道府県が行うこととされているもの並びに指定市の区域内に存する都道府県道の管理は、第十二条ただし書、第十三条第一項及び第十五条の規定にかかわらず、当該指定市が行う。

対象になっているのは「第13条第1項の規定により都道府県が行うこととされているもの」、つまり指定区間外の国道です。指定区間内の国道は国土交通大臣の管理のままで、指定市には移りません。同じ市内を通る国道でも、区間によって管理者が国と市に分かれることになります。

指定市以外の市町村にも道があります。第17条第2項は指定市以外の市について、第3項は町村について、都道府県に協議し、その同意を得て当該区域内の国道(指定区間外)や都道府県道の管理を行うことができると定めています。第4項では歩道の新設等について同様の仕組みが置かれ、第5項は市町村がこれらを行おうとするとき・完了したときにその旨を公示しなければならないとしています。協議と同意、そして公示が伴う点が、区域だけで自動的に決まる指定市の場合との違いです。

さらに第17条第6項には、都道府県・市町村の要請に基づいて国土交通大臣が代わって工事を行える規定があります。対象は「高度の技術を要するもの又は高度の機械力を使用して実施することが適当であると認められるもの」に限られています。修繕代行や直轄診断といった支援制度の位置づけは直轄診断・修繕代行・地域一括発注:市町村の橋梁を支える支援制度で扱っています。

都道府県道・市町村道の管理者

国道以外は単純です。第15条は「都道府県道の管理は、その路線の存する都道府県が行う。」、第16条第1項は「市町村道の管理は、その路線の存する市町村が行う。」と定めています。

例外は市町村の境界をまたぐ場合です。第16条第2項は、市町村長が区域を越えて路線を認定した場合の管理者を認定した市町村とし、ただし書で他の市町村の市町村道の路線と重複する場合には、重複部分の管理の方法について関係市町村長がそれぞれ議会の議決を経て協議しなければならないとしています。第5項では、協議が成立した場合に関係市町村長は成立した協議の内容を公示しなければならないと定めています。境界部の橋で管理者が判然としないときは、この公示があるかどうかが手がかりになります。

道路と他の施設が一体になっている場合(堤防兼用道路など)は、また別の枠組みである第20条の兼用工作物の規定が働きます。こちらは兼用工作物の点検は誰が行うのか。道路法第20条と協議の公示で解説しています。

管理者が変われば従う要領も変わる

管理者の確定は、点検の実務では2つの意味を持ちます。

1つは発注と費用負担の主体が決まること。もう1つはどの要領に従うかが決まることです。国土交通省の定期点検要領は、直轄の国道を対象とする詳細な要領と、地方公共団体向けの技術的助言としての要領という二層構成になっています。管理者が国か自治体かで、適用する版が変わります(この二層構造は定期点検要領の法的位置づけ:省令・告示・技術的助言の関係、自治体独自マニュアルとの関係は国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係:どちらに従う?で整理しています)。

点検の対象となる施設が橋だけではないこと、そして点検結果の登録先については、それぞれ点検義務があるのは橋だけではない|道路の法定点検「5施設」と5年ルール全国道路施設点検データベースとは?登録が義務になる範囲を参照してください。市町村の点検を都道府県単位で支える体制については道路メンテナンス会議とは?市町村の点検を支える都道府県単位の連携体制があります。制度全体の流れは道路橋定期点検 完全ガイド:制度・損傷評価・調書の実務にまとめています。

よくある質問

同じ国道なのに、管理者が国と県で分かれるのはなぜですか?

道路法第13条第1項が、国道の維持・修繕その他の管理について「政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内については国土交通大臣が行い、その他の部分については都道府県がその路線の当該都道府県の区域内に存する部分について行う」と定めているためです。路線の番号ではなく区間で切れるため、同じ国道○号でも区間によって管理者が変わります。

指定区間かどうかは、どこで確認できますか?

「一般国道の指定区間を指定する政令」(昭和33年政令第164号)の別表に、路線名と区間が掲げられています。同政令は本則で、指定区間を「北海道の区域内に存する区間並びに別表上欄に掲げる路線名の一般国道の同表下欄に掲げる区間及びこれらの区間のうちのいずれかにおいて同表の当該区間に係る項の上欄に掲げる路線名の一般国道と重複する道路の部分を有する一般国道で同表上欄にその路線名が掲げられていないものの当該重複する区間」と定めています。

北海道の一般国道はどう扱われますか?

同政令の本則は指定区間の筆頭に「北海道の区域内に存する区間」を挙げています。別表の路線名にかかわらず、北海道の区域内に存する一般国道の区間は指定区間に含まれる書き方になっています。

政令指定都市の中を通る国道は誰が管理しますか?

道路法第17条第1項が管理の特例を定めており、指定市の区域内に存する国道の管理のうち第12条ただし書・第13条第1項により都道府県が行うこととされているもの、および指定市の区域内に存する都道府県道の管理は、当該指定市が行います。つまり指定区間外の国道は、指定市の区域内では指定市の管理になります。指定区間内の国道は国土交通大臣の管理のままです。

指定市以外の市町村が国道や県道を管理することはありますか?

あります。道路法第17条第2項は、指定市以外の市が都道府県に協議し同意を得て、当該市の区域内の国道(指定区間外のもの)や都道府県道の管理を行うことができると定めています。第3項は町村について都道府県道の管理を同様に認めています。いずれも協議と同意が前提で、自動的に移るものではありません。

点検の義務は誰にあると法律に書いてありますか?

道路法第42条第1項が「道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない」と定め、第2項で維持修繕の技術的基準を政令に委ね、第3項で「前項の技術的基準は、道路の修繕を効率的に行うための点検に関する基準を含むものでなければならない」としています。つまり点検の基準は維持修繕の技術的基準の一部として位置づけられ、その名宛人は道路管理者です。