点検業務を受注したものの、現場作業の人手が足りない。高所作業車のオペレータは外注しなければ回らない。写真の整理やトレースまで自社で抱えると採算が合わない――受注側の管理職が最初に突き当たるのが、この「どこまで外に出してよいのか」です。
答えは点検要領には書かれていません。書かれているのは契約書と共通仕様書です。本記事では、「土木設計業務等委託契約書」第7条と「土木設計業務等共通仕様書(案)」第1128条の原文をもとに、再委託が禁じられる範囲、承諾が要る範囲、承諾なしでよい範囲を整理します。
- 禁じられているのは「業務の全部の一括再委託」と「主たる部分」の2つ。加えて発注者が設計図書で指定した部分も出せない
- 「主たる部分」は共通仕様書が定義しており、総合的企画・業務遂行管理・手法の決定・技術的判断等を指す
- 「軽微な部分」は13項目が具体的に列挙されている。トレース、データ入力、資料の収集・単純な集計、電子納品の作成補助などが含まれる
- その中間はすべて発注者の承諾が必要。随意契約の業務では原則として業務委託料の3分の1以内が承諾の目安
- 共通仕様書の「主要技術基準及び参考図書」一覧には橋梁定期点検要領が第134番として載っている。ただし版はH31.3で、令和6年3月改定版ではない
契約書第7条が禁じている2つのこと
出発点は契約書です。土木設計業務等委託契約書の第7条は「一括再委託等の禁止」という見出しで、次のように定めています(逐語)。
2 受注者は、前項の主たる部分のほか、発注者が設計図書において指定した部分を第三者に委任し、又は請け負わせてはならない。
3 受注者は、業務の一部を第三者に委任し、又は請け負わせようとするときは、あらかじめ、発注者の承諾を得なければならない。ただし、発注者が設計図書において指定した軽微な部分を委任し、又は請け負わせようとするときは、この限りでない。
4 発注者は、受注者に対して、業務の一部を委任し、又は請け負わせた者の商号又は名称その他必要な事項の通知を請求することができる。
構造を整理すると、外注の可否は3段階に分かれます。
- 絶対に出せない……業務の全部の一括再委託、設計図書で指定された主たる部分、発注者が設計図書で指定したその他の部分(第1項・第2項)
- あらかじめ承諾が必要……上記以外の業務の一部(第3項本文)
- 承諾が不要……発注者が設計図書で指定した軽微な部分(第3項ただし書き)
ここで注意したいのは、第1項も第3項ただし書きも「設計図書において指定した」という条件が付いていることです。何が主たる部分で、何が軽微な部分かは、契約書本体ではなく設計図書(特記仕様書と共通仕様書)の側に置かれています。契約書だけを読んでも線引きは分かりません。
そして第4項により、発注者は再委託先の商号や名称の通知を求めることができます。承諾を得たあとも、誰にやらせているかは把握される前提だということです。
「主たる部分」は共通仕様書が定義している
その線引きを書いているのが、設計業務等共通仕様書の第1128条「再委託」です。第1項は次のとおりです(逐語)。
(1)設計業務等における総合的企画、業務遂行管理、手法の決定及び技術的判断等
(2)解析業務における手法の決定及び技術的判断
点検業務に置き換えると、ここが本記事の芯になります。禁じられているのは「判断」であって「作業」ではないということです。
橋梁点検でいえば、損傷程度の評価をどう付けるか、健全性の診断区分をどう決めるか、どの部材をどの方法で見るかといった手法の決定と技術的判断は、受注者自身が行わなければなりません。区分の決め方そのものについては健全性の判定区分で扱っています。一方、その判断を下すために必要な撮影・計測・整理といった作業は、この定義には含まれていません。
あわせて押さえておきたいのが、同じ共通仕様書の第1107条が管理技術者について定めていることです。第3項は、管理技術者を技術士、国土交通省登録技術者資格、RCCM、土木学会認定土木技術者(特別上級・上級・1級)等の業務内容に応じた資格保有者又はこれと同等の能力と経験を有する技術者とし、さらに「日本語に堪能(日本語通訳が確保できれば可)でなければならない」と定めています。第7項は「管理技術者は、原則として変更できない」とし、死亡・傷病・退職・出産・育児・介護等のやむを得ない理由による場合に限り、同等以上の技術者への変更を認めています。
つまり、判断の主体は資格要件つきで特定され、しかも簡単には差し替えられません。この人が持ち場を離れられない構造になっているからこそ、主たる部分の再委託が正面から禁止されているわけです。管理技術者の資格要件については橋梁点検に必要な資格もあわせてご覧ください。
「軽微な部分」に列挙された13項目
反対側の線が第1128条第2項です。契約書第7条第3項ただし書きの「軽微な部分」として、次の項目が列挙されています(逐語)。
点検業務のとりまとめ工程に引き寄せて読むと、実務上効いてくるのは次の4つです。
| 列挙されている項目 | 点検業務での対応する作業 |
|---|---|
| トレース | 手描きスケッチや現地野帳から損傷図を清書する作業 |
| データ入力 | 点検調書の様式へ数値・記号を打ち込む作業 |
| 資料の収集・単純な集計 | 過去の点検記録・台帳の収集、部材数の単純集計 |
| 電子納品の作成補助 | 管理ファイルの作成やフォルダ整理などの補助作業 |
いずれも判断を含まない定型作業であることが共通しています。損傷図の作成工数そのものを減らす方向については点検調書作成の工数を減らす方法で扱っています。電子納品側の枠組みは点検業務の電子納品にまとめました。
ただし、この列挙の末尾には「その他特記仕様書に定める事項」が付いています。軽微な部分は共通仕様書の13項目で閉じておらず、発注者が特記仕様書で足すことができます。逆にいえば、自分の契約の特記仕様書を読まないと確定しないということです。
承諾が要る中間領域と、3分の1の目安
主たる部分でもなく、軽微な部分でもないもの――ここが実務でいちばん量が多い領域です。第1128条第3項は次のように定めています(逐語)。
現地での近接目視の補助、高所作業車の運転、足場の設置、写真撮影といった作業はここに入ります。禁止ではなく、あらかじめ承諾を得れば出せるという位置づけです。橋梁点検車のオペレータをどう手当てするかについては橋梁点検車と必要な資格で扱っています。
金額の目安も書かれています。第4項です(逐語)。
注意したいのは、この3分の1がすべての業務に一律で掛かる上限ではないことです。条文が対象にしているのは「会計法第29条の3第4項の規定に基づき契約の性質又は目的が競争を許さないとして随意契約により契約を締結した業務」に限られています。一般競争入札で受注した業務にこの数値が自動的に適用されると読むのは、条文の範囲を超えた解釈です。
そのうえで、この数値は発注者側が承諾の可否を判断するときの相場観として機能します。体制を組む段階で、外に出す想定の金額が業務委託料に占める割合を把握しておくと、承諾申請の見通しが立てやすくなります。費用の考え方は橋梁点検の費用で扱っています。
協力者を使うときに受注者が負う義務
承諾を得れば終わり、ではありません。第1128条第5項は、再委託した後の受注者の義務を定めています(逐語)。
なお、協力者は、国土交通省○○地方整備局の建設コンサルタント業務等指名競争参加資格者である場合は、国土交通省○○地方整備局の指名停止期間中であってはならない。
ここから読み取れる実務上の要件は3つです。
- 書面による契約。口頭の応援や慣行的な貸し借りでは要件を満たしません
- 適切な指導・管理。作業を渡して終わりではなく、受注者が管理責任を負い続けます
- 指名停止の確認。協力者が指名競争参加資格者である場合、指名停止期間中でないことを確認する必要があります
3つ目は見落としやすい項目です。協力会社を選ぶ段階で、当該地方整備局の指名停止措置の公表を確認しておく作業が実質的に求められます。担い手の確保そのものの難しさについては橋梁点検の担い手不足で扱っています。
この枠組みは点検業務にどう当たるのか
最後に、ここまで見てきた規定が点検業務にそのまま適用されるのかを確認しておきます。共通仕様書の第1101条第1項は、適用範囲を次のように書いています(逐語)。
名指しされているのは「設計及び計画業務」と、それと一体で契約される「調査業務」です。点検業務という言葉は適用条文に出てきません。第4項は、発注者支援業務・測量業務・地質土質調査業務等については別に定める各共通仕様書によるとしています。
一方で、この共通仕様書の巻末にある「主要技術基準及び参考図書」の一覧には、点検要領がまとまって収録されています。本体が該当ページを確認したところ、第134番に「橋梁定期点検要領(国土交通省道路局国道・技術課)」、第135番に「道路土工構造物点検要領」、第136番に「舗装点検要領」、第137番に「道路トンネル定期点検要領」、第138番に「シェッド・大型カルバート等定期点検要領」、第140番に「橋梁における第三者被害予防措置要領(案)」が並んでいました。
ただし、ここに載っている橋梁定期点検要領の発行年月はH31.3と記載されています。現行の令和6年3月改定版ではありません。この共通仕様書自体が平成31年3月12日の一部改定を最後としているためで、一覧の版が実務の版に追いついていない状態です。
したがって実務的な結論はこうなります。点検業務の再委託の可否は、この契約書・共通仕様書の枠組みで判断されるのが一般的だが、その適用は自分の契約書と特記仕様書がどれを引いているかで決まる。都道府県・市町村が発注する点検業務では、各発注者が独自の共通仕様書を持っている場合があります。国の要領と自治体側の運用の関係については国交省要領と都道府県の点検マニュアルの関係で扱っています。まず契約書の第7条と、設計図書のどこに主たる部分・軽微な部分の指定があるかを探すところから始めてください。
よくある質問
点検業務の現地作業を、まるごと協力会社に出すことはできますか?
「業務の全部を一括して」第三者に委任・請負させることは契約書第7条第1項で禁じられています。現地作業だけを切り出す場合は全部の一括再委託には当たりませんが、主たる部分(総合的企画、業務遂行管理、手法の決定及び技術的判断等)は出せません。それ以外の部分は、あらかじめ発注者の承諾を得れば再委託できます。
損傷図のトレースを外注するのに、発注者の承諾は要りますか?
共通仕様書第1128条第2項は「軽微な部分」としてトレースを明記しており、軽微な部分については契約書第7条第3項ただし書きにより承諾は不要とされています。ただし条文は「発注者が設計図書において指定した軽微な部分」と書いているため、自分の契約の特記仕様書でどう指定されているかの確認が前提になります。
「主たる部分」とは具体的に何を指しますか?
共通仕様書第1128条第1項が定義しており、設計業務等における総合的企画、業務遂行管理、手法の決定及び技術的判断等と、解析業務における手法の決定及び技術的判断の2つです。点検業務に置き換えると、損傷の評価や健全性の診断区分をどう決めるかといった判断がこれに当たります。
再委託は業務委託料の3分の1までという理解で合っていますか?
条件付きです。共通仕様書第1128条第4項が3分の1に言及しているのは、会計法第29条の3第4項に基づき、契約の性質又は目的が競争を許さないとして随意契約で締結した業務についてです。しかも「原則として」であり、業務の性質上やむを得ないと発注者が認めた場合はこの限りではないとされています。すべての業務に一律の上限が掛かるわけではありません。
橋梁点検車のオペレータを外注するのは再委託にあたりますか?
共通仕様書が列挙する「軽微な部分」13項目に運転作業は含まれていません。主たる部分(手法の決定及び技術的判断等)にも当たらないため、第1128条第3項の「それ以外の再委託」としてあらかじめ発注者の承諾を得る対象になると読むのが素直です。個別の扱いは特記仕様書と調査職員との協議で確認してください。
協力会社に出したあと、受注者は何をしなければなりませんか?
共通仕様書第1128条第5項により、書面により協力者との契約関係を明確にしておくことと、協力者に対し適切な指導・管理のもとに業務を実施することが求められます。また協力者が当該地方整備局の建設コンサルタント業務等指名競争参加資格者である場合、指名停止期間中であってはならないとされています。
市町村が発注する点検業務でも同じルールですか?
ここで扱っているのは国土交通省の契約書と共通仕様書です。都道府県・市町村が発注する業務では、各発注者が独自の契約書・共通仕様書を定めている場合があり、主たる部分や軽微な部分の指定内容が異なることがあります。自分の契約に添付された設計図書を確認してください。