橋梁・トンネル・附属物の定期点検は「5年に1回・近接目視・健全性Ⅰ〜Ⅳの診断」という共通の枠組みで運用されています。ところが、同じ道路施設でも舗装(車道の路面)の点検は、これとは別の制度で動いています。根拠となる政令の号が違い、点検頻度も一律ではなく、健全性の診断区分もⅠ〜Ⅳの4段階ではありません。橋梁点検の感覚のまま舗装点検を発注・管理すると、頻度設定や診断区分の対応で食い違いが起きやすい領域です。
本記事では、国土交通省「舗装点検要領」(平成28年10月)に基づき、舗装点検の法的位置づけ、道路の分類A〜D、点検頻度、管理指標(ひび割れ率・わだち掘れ量・IRI)、健全性の3区分を、橋梁点検との違いを軸に点検管理職向けに整理します。橋梁側の制度全体像は道路橋定期点検 完全ガイドを参照してください。
- 舗装点検の根拠は道路法施行令第35条の2第1項第二号で、橋・トンネル(第一号)とは別枠
- 管内の道路を分類A〜Dに区分し、損傷の進行が早い分類A・Bは5年に1回程度以上の頻度が目安
- 管理指標はひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの3指標が基本(MCI等の複合指標の併用も可)
- 健全性の診断は橋梁のⅠ〜Ⅳではなく、Ⅰ健全/Ⅱ表層機能保持段階/Ⅲ修繕段階の3区分
法的根拠:橋・トンネルとは別の条文で義務づけられている
道路管理者に点検を義務づける道路法施行令第35条の2第1項は、点検対象を号ごとに分けて規定しています。橋・トンネル等の構造物点検が第一号に基づくのに対し、舗装の点検は第二号(=「舗装の修繕を効率的に行うために行う点検」)に基づくものです。舗装点検要領も冒頭で「本要領は、道路法施行令第35条の2第1項第二号の規定に基づいて行う点検のうち車道上の舗装の点検に適用される」と明記しています。
この違いは実務上重要です。橋・トンネルの点検が「損傷したら道路構造・交通に大きな支障を及ぼすおそれのある施設を、5年に1回・近接目視で確認し健全性を診断する」ことを主目的とするのに対し(5年に1回の法的根拠参照)、舗装点検は要領上「舗装の修繕を効率的に実施するため、舗装の現状について必要な情報を得ること」を目的としています。つまり、橋・トンネルは「安全確保のための点検」、舗装は「効率的な修繕(長寿命化・LCC削減)のための点検」という性格の違いがあり、これが頻度や診断区分の考え方の差につながっています。要領・告示・技術的助言の関係の一般論は定期点検要領の法的位置づけで整理しています。
対象範囲:車道上の舗装。ポットホール対応は対象外
舗装点検要領の対象は「道路法第2条第1項に規定する道路における車道上の舗装」です。橋梁部・トンネル部の車道舗装も含まれ、実際の点検では構造物の点検とあわせて効率的・総合的に実施することとされています。
一方で、注意したいのが対象外の範囲です。要領は、安全性に関わる突発的な損傷(ポットホール等)への対応は「巡視等により発見次第対応すべき事象」であり、長寿命化を目的とする本要領の点検とは性格が異なるため対象外である、と明記しています。舗装点検要領が扱うのは、あくまで表層等の適時修繕によって路盤以下の層を保護し、修繕間隔を延ばして長寿命化を図るための計画的な点検です。日常のポットホール補修は「点検」ではなく巡視・維持管理の枠で扱う、という区分を押さえておく必要があります。
道路の分類A〜D:一律ではなく特性で区分する
舗装点検の最大の特徴は、すべての道路を一律に扱わず、管内の道路を分類A〜Dに区分してから点検・管理する点です。橋・トンネルが施設ごとに一律5年に1回であるのとは対照的に、舗装は「損傷の進行が早いか緩やかか」で管理の密度を変えます。
| 分類 | 大分類 | 主な道路のイメージ |
|---|---|---|
| A | 損傷の進行が早い道路等 | 高規格幹線道路など、高速走行など求められるサービス水準が高い道路 |
| B | 大型車交通量が多い道路、舗装が早期劣化する道路など | |
| C | 損傷の進行が緩やかな道路等 | 大型車交通量が少ない道路、舗装の劣化が緩やかな道路など |
| D | 生活道路など、損傷の進行が極めて遅く占用工事等の影響がなければ長寿命な道路 |
どの道路をどの分類とするかは各道路管理者の判断に委ねられており、市町村道であっても管理者の判断で分類Bに区分して差し支えないとされています。また、交通量の変化に応じて分類Dを分類Cへ、分類Cを分類Bへ組み入れるなど、分類は適宜見直すことが求められます。要領では、舗装計画交通量区分をN7(旧D)・N6(旧C)・N5(旧B)として整理する考え方も示されています(大型車交通量が多いほど損傷の進行が早い)。国交省要領を踏まえつつ都道府県・市町村が独自の舗装点検要領(案)を定めている点は橋梁と同様です(国交省要領と自治体マニュアルの関係参照)。
点検頻度:分類A・Bは5年に1回程度以上
点検頻度は分類(損傷の進行の速さ)によって考え方が分かれます。
- 分類A・B(損傷の進行が早い道路等):路面の状態を定期的に把握することが重要なため、5年に1回程度以上の頻度を目安として道路管理者が適切に設定する
- 分類C・D(損傷の進行が緩やかな道路等):対象道路を何年で一巡して点検するかという点検計画を立て、各年次の点検路線(エリア)を設定して網羅する。分類Dは巡視の機会を通じた損傷把握・措置・記録による管理とすることができる
「5年に1回」という数字は橋梁点検と同じに見えますが、意味合いは異なります。橋梁の5年は省令が定める一律の義務頻度ですが、舗装の場合は分類A・Bに対する「程度以上」の目安であり、分類C・Dはむしろ「数年〜十数年で一巡する点検計画」を管理者が組み立てる建て付けです。この違いを踏まえずに舗装を一律5年で発注しようとすると、生活道路まで過剰な頻度になったり、逆に幹線で頻度不足になったりします。
管理指標:ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの3指標
舗装(アスファルト舗装)の状態は、ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの3指標を管理基準に用いることが基本とされています(これらに加えてMCI等の複合指標を併用することも差し支えない)。
| 指標 | 内容 | 管理基準の設定事例※ |
|---|---|---|
| ひび割れ率 | 路面のひび割れの発生割合(構造的な破壊の指標) | 分類A相当:15〜20%/分類B以下相当:20〜40% |
| わだち掘れ量 | 車輪通過部の轍(わだち)のへこみ量 | 分類A相当:20〜25mm/分類B以下相当:20〜40mm |
| IRI(国際ラフネス指標) | 縦断方向の凹凸(平坦性)を表す走行性の指標 | 分類A相当:3.5mm/m/分類B以下相当:8mm/m |
※要領本文に示された採用事例値。実際の管理基準は各道路管理者が道路の特性に応じて設定する。
点検手法は、目視(巡視の機会を通じた車上または徒歩による目視)、路面性状測定車による路面性状調査、簡易な機器を用いた調査などが挙げられ、道路管理者が適切な手法を設定します。車上からの目視が困難な場合は降車して直接目視するなど、他の手法との併用が求められます。ひび割れの検出・数量化は、まさに画像解析やLiDAR等の点検支援技術が効果を発揮しやすい領域です(点検支援技術の選び方参照)。
健全性の診断:橋梁のⅠ〜Ⅳとは違う3区分
ここが橋梁点検と最も混同しやすいポイントです。橋・トンネル・附属物の健全性はⅠ〜Ⅳの4区分で診断しますが(判定区分Ⅰ〜Ⅳの定義参照)、舗装(アスファルト舗装)の診断は3区分です。
| 区分 | 状態 | 目視の目安(ひび割れ率/わだち掘れ量/IRI) |
|---|---|---|
| Ⅰ 健全 | 損傷レベル小。劣化の程度が小さく舗装表面が健全 | 0〜20%/0〜20mm/0〜3mm/m 程度 |
| Ⅱ 表層機能保持段階 | 損傷レベル中。劣化の程度が中程度 | 20〜40%/20〜40mm/3〜8mm/m 程度 |
| Ⅲ 修繕段階 | 損傷レベル大。管理基準を超過、または早期の超過が予見される | 40%以上/40mm以上/8mm/m 以上 程度 |
さらにアスファルト舗装の区分Ⅲは、表層の供用年数と使用目標年数の関係によりⅢ-1(表層等修繕:切削オーバーレイ等)とⅢ-2(路盤打換等:詳細調査を踏まえた修繕)に細分されます。橋梁の「対策区分(A・B・C1・C2…)」(対策区分の考え方参照)とは体系が異なる点に注意が必要です。なお、コンクリート舗装の場合はⅠ健全/Ⅱ補修段階/Ⅲ修繕段階と、Ⅱの呼称が「表層機能保持段階」ではなく「補修段階」になります。診断は、管理基準(3指標)に照らして最も損傷レベルの大きい指標を当該区間の区分とする考え方が基本です。
舗装点検は、橋・トンネルとは別の政令(施行令第35条の2第1項第二号)に基づく「効率的な修繕のための点検」であり、道路を分類A〜Dに区分し、ひび割れ率・わだち掘れ量・IRIの3指標で健全性を3区分(Ⅰ健全/Ⅱ表層機能保持段階/Ⅲ修繕段階)に診断する制度です。「5年に1回・近接目視・Ⅰ〜Ⅳ」という橋梁点検の枠組みをそのまま当てはめず、分類ごとに頻度と管理密度を設計することが、点検管理職にとっての勘所になります。
点検管理職・実務者から見た舗装点検の勘所
舗装点検を発注・管理する立場では、次の3点が実務上の要になります。第一に分類の設定と見直し。管内の路線をA〜Dに区分し、大型車交通量の増減に応じて分類を上げ下げする作業が、点検計画と予算配分の起点になります。第二に使用目標年数の設定。要領は、表層を使い続ける目標期間として道路管理者が「使用目標年数」を設定し、これを意識した管理で全体を長寿命化へ誘導することを求めています。同じ区分Ⅱ・Ⅲでも、表層の供用年数が使用目標年数に達しているかどうかで採る措置(補修か修繕か、切削オーバーレイか路盤打換えか)が変わるため、台帳上で供用年数を把握しておくことが前提になります。
第三に指標データの取得と記録です。路面性状測定車による調査は精度が高い一方でコストがかかり、全延長を高頻度で回すのは難しいため、巡視時の目視や画像・簡易計測をどう組み合わせるかが管理設計の勘所になります。ひび割れ率のような指標は、現場写真からのひび割れ検出・数量化を自動化できれば記録・診断の工数を圧縮できます。橋梁の損傷図・写真台帳の作成を効率化する発想(点検DXの進め方参照)は、舗装のひび割れ記録にも応用が利きます。点検・診断・措置の結果は、当該舗装が供用されている期間は保存することが要領で定められている点も押さえておきましょう。
よくある質問
舗装点検も5年に1回の近接目視が義務ですか?
いいえ。橋・トンネルの「5年に1回・近接目視」とは制度が異なります。舗装点検要領では、損傷の進行が早い分類A・Bで「5年に1回程度以上」を頻度の目安とし、分類C・Dは点検計画で何年かけて一巡するかを道路管理者が設定します。点検手法も近接目視に限定されず、目視・路面性状調査・簡易機器などから適切な手法を選べます。
健全性の診断区分は橋梁のⅠ〜Ⅳと同じですか?
異なります。舗装(アスファルト舗装)はⅠ健全/Ⅱ表層機能保持段階/Ⅲ修繕段階の3区分で、Ⅲはさらに表層等修繕(Ⅲ-1)と路盤打換等(Ⅲ-2)に分かれます。コンクリート舗装はⅡが「補修段階」という呼称になります。橋・トンネルのⅠ〜Ⅳとは体系が別である点に注意してください。
ポットホールの穴埋めは舗装点検に含まれますか?
要領上、安全性に関わる突発的な損傷(ポットホール等)への応急対応は巡視等で発見次第対応すべき事象であり、長寿命化を目的とする舗装点検要領の対象外とされています。ただし、巡視の機会に得た路面情報からシール材注入等の必要性を判断・措置した場合は、点検・診断・措置を実施したものとして扱えます。