「5か年加速化対策が令和7年度で終わったが、点検と修繕の予算はこの先どうなるのか」——今年度に入ってから、道路管理の現場で最も多く交わされている問いのひとつです。

答えは第1次国土強靱化実施中期計画にあります。令和7年6月6日に閣議決定され、計画期間は令和8年度から令和12年度までの5年間。つまり2026年8月現在、すでに初年度が進行中です。この記事では閣議決定文書の原文をもとに、①5か年加速化対策と何が違うのか ②道路の老朽化対策がどこに置かれたのか ③自治体が交付金・補助を取りにいくために今なにを整えておくべきか、の3点を整理します。

この記事の要点
  • 後継の名前は「第2次加速化対策」ではなく第1次国土強靱化実施中期計画。令和7年6月6日 閣議決定、期間は令和8年度〜令和12年度で加速化対策との間に空白はない
  • 最大の変化は根拠。加速化対策は閣議決定のみだったが、中期計画は国土強靱化基本法 第11条の2に基づく法定計画になった
  • 事業規模は今後5年間でおおむね20兆円強程度を目途。ただし本文は「予算編成過程で検討」としており、各年度の額は確定していない
  • 老朽化対策は独立した柱ではなくなり、「予防保全型メンテナンスへの早期転換」として柱の中に組み込まれた
  • 道路の目標は緊急・早期に対策を講ずべき橋梁(約92,000橋)の修繕措置(完了)率 55%【R5】→ 80%【R12】→ 100%【R33】
  • 本文は「AIやドローン等のデジタル等新技術の活用等により、早期に確実な点検・診断を進める」と明記している

紛らわしい4つの計画を先に整理する

国土強靱化には名前の似た計画が4つあります。ここを取り違えると、以降の話がすべてずれます。

名称根拠決定の形期間役割
国土強靱化基本計画基本法 第10条閣議決定(最新は令和5年7月28日)定めなし他の計画等の指針。事業規模は持たない
国土強靱化実施中期計画基本法 第11条の2閣議決定(令和7年6月6日)令和8年度〜令和12年度施策の内容と事業規模を定める。本記事の主役
国土強靱化年次計画国土強靱化推進本部決定各年度当年度の施策とフォローアップ
国土強靱化地域計画基本法 第13条都道府県・市町村が策定各団体が設定地域の他の計画の指針。基本計画との調和が必要

予算の話をしているときに出てくる「20兆円強」は、このうち実施中期計画の数字です。基本計画は指針であって金額を持ちません。一方、自治体が自分で作るのは地域計画で、これは第13条の「定めることができる」という規定=任意です。ただし後述のとおり、実務上は地域計画に書いてあるかどうかが配分に効きます。

5か年加速化対策は何だったのか

比較の起点として、終わったばかりの対策を押さえます。正式名称は「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」。令和2年12月11日の閣議決定で、対象期間は令和3年度から令和7年度まででした。原文は事業規模をこう書いています。

5か年加速化対策の事業規模(原文)
「追加的に必要となる事業規模は、今後5年間でおおむね 15 兆円程度を目途として……」

この15兆円は3本の柱に分かれていて、老朽化対策は独立した柱を与えられていました。

事業規模
1 激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策おおむね12.3兆円程度
2 予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策おおむね2.7兆円程度
3 国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進おおむね0.2兆円程度
合計おおむね15兆円程度

この「柱2」という言い方が現場に定着していたため、後継計画の構成を見たときに戸惑う担当者が多いのですが、それは名前の付け替えであって、老朽化対策が消えたわけではありません。次の節で見ます。

後継計画で変わった3点

第1次国土強靱化実施中期計画は、加速化対策と比べて次の3点が変わりました。

1根拠が法律になった加速化対策は閣議決定のみだったが、中期計画は国土強靱化基本法 第11条の2 第1項に基づく法定計画。同条は「政府は、国土強靱化基本計画に基づく施策の実施に関する中期的な計画……を定めるものとする」と規定している。「第1次」という呼称のとおり、以後も継続する枠組みになった
2規模が大きくなったおおむね15兆円程度(5年)→ おおむね20兆円強程度(5年)。ただし後述のとおり各年度の額は確定していない
3老朽化が柱から中身へ移った独立した柱としての「老朽化対策」は無くなり、防災インフラとライフラインの各柱の中に「予防保全型メンテナンスへの早期転換」として組み込まれた。柱立ては5本になった

柱と事業規模の対応は次のとおりです。道路を含むライフライン側の柱がおおむね10.6兆円と、全体の半分を占めます。

事業規模
1 国民の生命と財産を守る防災インフラの整備・管理おおむね5.8兆円程度
2 経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギーなどライフラインの強靱化おおむね10.6兆円程度
3 デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化おおむね0.3兆円程度
4 災害時における事業継続性確保を始めとした官民連携強化おおむね1.8兆円程度
5 地域における防災力の一層の強化おおむね1.8兆円程度
合計おおむね20兆円強程度
20兆円強を5で割って「毎年4兆円」と読んではいけません。本文は事業規模について「今後の資材価格・人件費高騰等の影響については予算編成過程で適切に反映する」「次年度以降の各年度における取扱いについても、予算編成過程で検討することとし……機動的・弾力的に対応する」と書いています。単年度の額は確定していないという前提で計画を立ててください。

道路の老朽化対策はどこに置かれたか

老朽化を語る文脈が、加速化対策のときとはっきり変わっています。中期計画本文は、老朽化を「災害耐力の低下」という言葉で防災と直結させました。

基本的な考え方(原文)
「高度経済成長期に整備されたインフラの老朽化が加速度的に進行する中、著しい劣化や損傷が『災害耐力の低下』をもたらし、災害時に被害を拡大させることが懸念されている。令和7年1月に埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、社会経済活動に大きな影響をもたらしており、来るべき大規模災害に備える上でも対策は急務である。目では見えないほどゆっくりとした速度で、着実に忍び寄るインフラの老朽化は、災害に対する脆弱性を高め、耐力の限界を超えた時、突如としてリスクが顕在化する。」

閣議決定文書に個別の事故が名指しで入るのは異例です。それだけ、老朽化を「維持管理の課題」ではなく「防災の課題」として扱う姿勢が明確になっています。さらに柱2の記述では、事後保全に追われている状態を「負のスパイラル」と呼び、脱却の手段を具体的に挙げています。

柱2「進行するインフラ老朽化への対応」(原文)
「このような負のスパイラルからの脱却を図るため、AI やドローン等のデジタル等新技術の活用等により、早期に確実な点検・診断を進めるとともに、防災・減災対策と老朽化対策の一体的推進や地域インフラ群再生戦略マネジメントの推進を図り、緊急的に対策を講ずる必要のある要緊急対応箇所の早期解消を図る。」

「早期に確実な点検・診断」を進める手段として、閣議決定文書が新技術の活用を名指ししている点は、点検の発注・積算を担当する立場からは押さえておく価値があります。関連する制度の読み方は新技術の導入手順点検支援技術ガイドで扱っています。また「地域インフラ群再生戦略マネジメント」は群マネの記事で詳しく整理しました。

数字で示された目標

中期計画は「推進が特に必要となる施策」ごとに数値目標を置いています。道路施設の老朽化対策(推進施策29・国土交通省)の目標は次のとおりです。

対象(母数と時点)令和5年度令和12年度最終
国・地方公共団体が管理する道路で緊急又は早期に対策を講ずべき橋梁(約92,000橋・令和5年度末時点)の修繕措置(完了)率55%80%100%【R33】
緊急輸送道路(約110,000km)等における舗装(約8,300km・令和5年度末時点)の修繕措置(完了)率0%61%100%【R38】
地方公共団体が管理する道路で緊急又は早期に対策を講ずべきトンネル(約1,700か所・令和5年度末時点)の修繕措置(完了)率0%83%100%【R20】
地方公共団体が管理する道路で緊急又は早期に対策を講ずべき道路附属物(うち大型附属物 約2,100か所・令和5年度末時点)の修繕措置(完了)率0%83%100%【R23】

あわせて、農道・林道の目標も同じ計画に入っています(推進施策30・農林水産省)。機能保全計画で早期に対策が必要と判明している農道橋・農道トンネル237か所は0%【R5】→21%【R12】→100%【R26】、林道橋・林道トンネル3,252施設は30%【R5】→71%【R12】→100%【R16】です。道路法の法定点検の外側にある施設も同じ計画の中に並んでいる点は、市町村の管理者にとって見落としやすいところです。

数字を並べるときの注意
5か年加速化対策の道路KPI(「地方公共団体が管理する道路の緊急又は早期に対策を講ずべき橋梁の修繕措置率」約34%【令和元年度】→約73%)と、中期計画のKPI(国+地方・母数 約92,000橋・55%【R5】)は、母数の定義も基準年度も違います。34% → 73% → 55% → 80% のように1本の折れ線でつなぐことはできません。

背景となる老朽化の進行そのものは、国土交通省の資料で確認できます。「建設後50年以上経過する社会資本の割合」(2025年3月時点)によれば、道路橋は約42%が建設後50年以上で、2040年3月には約75%になる見通しです。トンネルは同じ順に約28%→約52%です。判定区分と措置の考え方は健全性の判定区分、予防保全と事後保全の違いは予防保全と事後保全で整理しています。

財源の受け皿は交付金と個別補助

中期計画は事業規模を示すだけで、自治体に直接お金が降りてくる仕組みではありません。実際の受け皿は国土交通省の3つの制度です。

制度創設位置づけ
社会資本整備総合交付金平成22年度個別補助を原則一括した総合的な交付金。成長力強化・地域活性化につながる事業向け
防災・安全交付金平成24年度補正老朽化対策の主な受け皿。目的の原文は「地域住民の命と暮らしを守る総合的な老朽化対策や、事前防災・減災対策の取組み……を集中的に支援するため」
道路メンテナンス事業補助制度令和2年度橋梁等の修繕の個別補助。長寿命化修繕計画に基づく事業を計画的・集中的に支援

道路メンテナンス事業補助制度で重要なのは、対象事業が修繕・更新・撤去だけでなく、その計画的な実施にあたり必要となる点検、計画の策定及び更新を含むとされている点です。つまり点検そのものが補助の対象です。財源の全体像は道路メンテナンスの財源、計画の作り方は長寿命化修繕計画で扱っています。

出典:内閣官房 国土強靱化推進室「第1次国土強靱化実施中期計画」(令和7年6月6日閣議決定)cas.go.jp/同「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2年12月11日閣議決定)cas.go.jp/国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」mlit.go.jp。最新の掲載状況は内閣官房 国土強靱化のページでご確認ください。

自治体が今年度に整えておく4つのこと

中期計画そのものには自治体への義務規定はありません。効いてくるのは、その下で運用される交付金・補助の配分要件のほうです。原典から拾えるものを4つに整理しました。

1地域計画に書く国土強靱化基本計画は「地域計画に明記された取組に対する支援の重点化等を図る」としている。道路の老朽化対策事業を地域計画に明記しておく
2長寿命化修繕計画を公表する防災・安全交付金の配分の考え方(令和8年度)には、道路施設の長寿命化修繕計画(個別施設計画・橋梁)が未公表の地方公共団体を除くという注記がある。策定しているだけでは足りず、公表まで必要
3計画に数値目標を書き込む道路メンテナンス事業補助制度の令和8年度の追加要件として、長寿命化修繕計画に「集約・撤去や新技術等の活用に関する短期的な数値目標及びそのコスト縮減効果」を記載することが挙げられている
4群マネ・包括委託を検討する同制度の優先支援事業として、新技術等を活用する事業と、群マネ(実施方針の公表が必要)や包括的民間委託により実施する事業が挙げられている

2と3は書類の話に見えますが、実際には点検の結果がそのまま計画の中身になるため、点検の記録と診断が整理されていないと書けません。調書の書き方は点検調書の書き方、記録のデータベース登録は新様式とデータベース登録で扱っています。点検の担い手の確保については点検の担い手不足、包括的民間委託は包括的民間委託をご覧ください。全体像から確認したい場合は定期点検の完全ガイドが入口になります。

よくある質問

Q. 5か年加速化対策の後継は「第2次加速化対策」という名前ですか。
A. 違います。正式名称は「第1次国土強靱化実施中期計画」で、令和7年6月6日に閣議決定されました。加速化対策が閣議決定のみを根拠としていたのに対し、中期計画は国土強靱化基本法 第11条の2 第1項に基づく法定計画です。

Q. 加速化対策の終了と中期計画の開始のあいだに空白期間はありますか。
A. ありません。5か年加速化対策の対象期間は令和3年度から令和7年度まで、中期計画の計画期間は令和8年度から令和12年度までの5年間で、切れ目なくつながっています。2026年8月時点ではすでに中期計画の初年度が進行中です。

Q. 20兆円強を5年で割れば、毎年度いくら来るかが分かりますか。
A. 分かりません。本文は事業規模について「今後の資材価格・人件費高騰等の影響については予算編成過程で適切に反映する」「次年度以降の各年度における取扱いについても、予算編成過程で検討することとし、今後の災害の発生状況や事業の進捗状況、経済情勢・財政事情等を踏まえ、機動的・弾力的に対応する」としており、各年度の額は確定していません。

Q. 中期計画で老朽化対策の柱がなくなったのですか。
A. 独立した柱としては無くなりましたが、対策が縮小したという意味ではありません。5か年加速化対策では「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策」が単独の柱(おおむね2.7兆円程度)でしたが、中期計画では防災インフラとライフラインの各柱の中に「予防保全型メンテナンスへの早期転換」として組み込まれています。ライフラインの柱だけでおおむね10.6兆円程度です。

Q. 中期計画に自治体の義務は書かれていますか。
A. 中期計画そのものに自治体への義務規定はありません。国土強靱化地域計画は基本法第13条の「定めることができる」規定です。実務で効いてくるのは、防災・安全交付金や道路メンテナンス事業補助制度の配分の考え方に置かれた条件(地域計画への明記、長寿命化修繕計画の公表、新技術活用の数値目標の記載など)のほうです。

Q. 新技術を使った点検は、この計画のもとで有利になりますか。
A. 中期計画の本文は「AI やドローン等のデジタル等新技術の活用等により、早期に確実な点検・診断を進める」と明記しています。また道路メンテナンス事業補助制度の優先支援事業にも、新技術等を活用する事業(コスト縮減・効率化等の効果を明確にしているもの)が挙げられています。ただし個別の採択は各年度の要件と審査によりますので、最新の配分の考え方をご確認ください。