橋梁の長寿命化修繕計画は、市区町村でも99.8%が策定済みです(2024年度末時点)。計画はある。点検も回っている。それでも修繕が追いつかず、担当者が1人もいない自治体がある——この段階で出てきたのが「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、通称「群マネ」です。
紛らわしいのは、道路分野にはすでに包括的民間委託も地域一括発注も道路メンテナンス会議もあることです。「また似た仕組みが増えたのか」と受け取られがちですが、公式には明確な線引きがあります。この記事では、提言と手引きの原文をもとに群マネの定義・既存制度との違い・モデル地域で実際に何が動いているか・国の予算とKPIまでを整理します。
- 群マネは「複数自治体のインフラや複数分野のインフラを『群』として捉える」取組。初出は令和4年12月2日の技術部会提言で、所管は国土交通省総合政策局(道路局ではない)
- 公式の線引きは明快。「単独自治体×単一分野」が従前の包括的民間委託の領域で、それ以外(複数自治体、または多分野)が群マネの領域
- 令和5年12月にモデル地域11件・40地方公共団体を選定。道路分野では橋梁点検・修繕設計・修繕工事の共同発注が実際に動いている
- 第6次社会資本整備重点計画(令和8年1月16日閣議決定)のKPIは「効率的・効果的なインフラメンテナンスの取組を行っている地方公共団体の割合 令和7年度62%→令和12年度100%」
- 道路メンテナンス事業補助制度は令和8年度から優先支援の対象がモデル地域限定でなくなり、群マネ(広域連携・多分野連携)や包括的民間委託により実施する事業が広く対象になった
群マネとは(定義の原文)
初出は、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会の提言『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~』(令和4年12月2日、国土交通大臣へ手交)です。提言はこう定義しています。
その後、令和7年10月14日に公表された「群マネの手引き Ver.1」では、より平易に言い換えられています。
注意したいのは所管です。群マネの総括は国土交通省総合政策局公共事業企画調整課で、道路局の施策ではありません。道路・河川・公園・下水道などを横断する枠組みなので、道路の担当課だけで完結しないという前提がここに表れています。
背景にある数字も押さえておきましょう。市区町村の土木部門職員数は1997年の12.4万人から2024年には9.1万人へ、直近約30年で26%減っています。建設業従業者数も1996年度の685万人から2024年度の477万人へ約30%減。技術系職員が0人の市区町村は435団体・25%にのぼります(令和6年4月1日時点、総務省 地方公共団体定員管理調査)。点検の担い手不足で扱ったとおり、これは一時的な人手不足ではなく構造的な変化です。
道路分野に絞れば、道路メンテナンス年報が「橋梁管理に携わる土木技術者が存在しない市区町村の割合」を出しています。2025年5月時点で村55%・町19%・市区3%。2014年11月時点の村63%・町29%・市区9%からは改善していますが、村の半分以上に橋の担当技術者がいないという状況は変わっていません。
「群」は3つの軸で束ねる
提言は「群」を複数・広域・多分野の3語で説明しています。分野の範囲は次のとおりです。
地域の範囲についても、行政区域にこだわらないことが明記されています。
手引きVer.1では、実務向けに2類型に整理されています。
| 類型 | 内容 | 役割分担のパターン |
|---|---|---|
| 広域連携の群マネ | 市区町村同士の「水平連携」や、都道府県も関与する「垂直連携」により、自治体の枠を越えてマネジメント | 代行/共同発注/協議会 |
| 多分野連携の群マネ | 道路や河川、公園、下水道など、インフラ分野の枠を越えてマネジメント | — |
個別施設計画との関係
「長寿命化修繕計画があるのに、なぜ別の枠組みが要るのか」という疑問はもっともです。提言はこの点を明確に扱っています。
つまり群マネは個別施設計画を置き換えるものではなく、その上に重ねるものです。個別施設計画が「いつ何を直すか」を施設ごとに決めるのに対し、群マネは「そもそもどの機能を残す/加える/やめるか」を分野横断・自治体横断で決め、発注単位まで束ねる——という階層の違いになります。
数字で見ると、この階層の必要性がはっきりします。長寿命化修繕計画の策定率は2024年度末時点で橋梁が全体99.6%(市区町村99.8%)、トンネル98%、道路附属物等98%。計画づくりはすでにほぼ終わっているのです。詰まっているのはその先で、判定Ⅲ・Ⅳの修繕措置完了率は令和5年度末で55%にとどまります。計画の作り方は長寿命化修繕計画、財源の枠組みはメンテナンスの財源で扱っています。
包括的民間委託・地域一括発注との違い
ここがいちばん混同されるところです。手引きVer.1は、縦軸を「単独自治体/複数自治体」、横軸を「単一分野/多分野」とした領域図で線を引いています。
| 単一分野 | 多分野 | |
|---|---|---|
| 単独自治体 | 従前の包括的民間委託の領域 | 群マネ(多分野連携) |
| 複数自治体 | 群マネ(広域連携) | 群マネ(広域+多分野連携) |
手引き本文も「本手引きでは、国土交通省所管分野のインフラメンテナンスについて、従前の包括的民間委託の領域を越えた広域連携や多分野連携の取組を解説します」としています。整理すると、包括的民間委託は「発注の束ね方(契約手法)」、群マネは「自治体と分野を越えて束ねるマネジメントの枠組み」です。群マネの実施手段として包括的民間委託を使うことは想定されていますが、単独自治体・単一分野の包括的民間委託は群マネには含まれません。
この線引きは補助制度の書き方にも表れています。道路メンテナンス事業補助制度(令和8年度)の優先支援は「『地域インフラ群再生戦略マネジメント』(広域連携・多分野連携)や包括的民間委託により実施する事業」と、両者を並列かつ括弧書きで区別して書かれています。
道路分野の既存の仕組みとの関係は次のとおりです。
| 仕組み | 対象 | 群マネとの関係 |
|---|---|---|
| 地域一括発注 | 点検・診断の発注事務を都道府県が代行。道路分野のみ | 群マネの先行形。業務プロセスと分野を横断する点が群マネとの差 |
| 包括的民間委託 | 複数の業務や施設を包括的に民間へ委託 | 群マネの実施手段のひとつ。単独自治体×単一分野なら群マネには含まれない |
| 集約・撤去 | 必要性のなくなった施設の撤去・機能転換 | 群マネの出口のひとつ。第6次重点計画のKPIで連動 |
| 道路メンテナンス会議 | 都道府県単位の合議体(国・県・市町村・高速会社) | 広域連携の入口。意見交換・事例共有・一括発注の支援を担う |
地域一括発注は道路メンテナンス年報が「市区町村の人不足・技術力不足を補うため、市区町村の点検・診断の発注事務を都道府県が一括して実施しています」と説明しているとおり、対象が点検・診断に限られます。活用状況は2024年度で392市区町村(29道府県)・23%。2016年度の605市区町村(35%)をピークに、以降は横ばいから微減という推移です。既存の仕組みが伸び悩んでいることが、群マネが出てきた実務上の理由でもあります。集約・撤去そのものの判断基準は道路施設の集約・撤去ガイドラインで扱っています。
道路法改正で入った「連携協力道路制度」
群マネの道路分野での法的裏付けとして、令和7年に道路法が改正されています。「道路法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第22号)は令和7年2月7日に閣議決定、4月16日に公布され、一部を除き令和7年10月1日に施行されました。改正の概要は次のとおりです。
改正前の課題として挙げられていたのは、「足場の占用、巡回での落下物の処理、放置車両の移動等において、別途、本来道路管理者の意思決定が必要」という点でした。実務で共同発注をしようとすると、こまごまとした行政処分のたびに本来の管理者の判断が要り、束ねた意味が薄れてしまう。そこを法律で通したのが連携協力道路制度です。「協議により代行できる」ことが法定されたのが実質的な変化で、広域連携の群マネはこの制度に乗せて進めやすくなりました。
モデル地域で実際に動いていること
国土交通省は令和5年9月に群マネのモデル地域を公募し、同年12月1日に11件・40地方公共団体を選定しました。支援は補助金ではなく現物支援で、データ整理・類似事例の提供・導入効果(VFM)の試算・発注図書の素案作成・先行事例自治体への合同視察などが提供されています。
令和8年3月時点で公表されている、道路分野の到達点を抜き出します。
| 地域 | 類型 | 道路分野の内容 |
|---|---|---|
| 奈良県宇陀市+曽爾村・御杖村・東吉野村 | 水平連携 | 橋梁の一括管理。令和7年度に試行業務として橋梁点検(3市村)を発注、令和8年度は点検・設計・工事を1市3村で共同発注予定 |
| 和歌山県+橋本市・かつらぎ町・九度山町・高野町 | 垂直連携 | 伊都地域の橋梁の集約・再編計画を県主導で共同策定。令和7年度に橋梁スクリーニング、令和8年度以降は包括的な業務発注を検討 |
| 島根県益田市+津和野町・吉賀町 | 水平連携 | 農林道を含む橋梁・トンネルの一括管理。令和7年度に橋梁点検(1市2町)を発注 |
| 兵庫県養父市+豊岡市・朝来市・香美町・新温泉町 | 水平連携 | 橋梁の一括管理(修繕設計・修繕工事)。令和8年度に一部市町限定の先行発注を想定 |
| 大阪府貝塚市ほか泉州12市町 | 水平連携 | 令和7年度にモデル事業を実装。道路はドラレコを活用したAI道路点検を12市町で実施 |
| 北海道幕別町+音更町 | 水平連携+多分野 | 橋梁の点検・設計・計画策定を2町で束ね、令和9年度に一括発注予定。幕別町単独で道路+河川+公園の日常維持管理を包括化 |
| 秋田県大館市 | 多分野連携 | 道路(農林道含む)+河川+公園の日常維持管理を地元業者のみのJVで包括。令和8年度に下水道も包括化 |
ここから読み取れる実務上の特徴が3つあります。第1に、橋梁点検が入口になっていること。点検は仕様が標準化されていて束ねやすく、成果物の比較もしやすいためです。第2に、点検だけで終わらせず、設計・工事まで段階的に広げる設計になっていること。第3に、農林道を含める例が複数あること。道路法の道路ではないため定期点検の枠組みから外れがちですが、地域から見れば同じ橋です。
モデル地域以外の先行事例としては、奈良県(県が市町村の橋梁・トンネル点検、補修設計、修繕工事等を代行し、市町村職員の県への派遣で技術的ノウハウも習得)、静岡県と下田市(県道と市道の日常維持管理を共同発注)、栃木県(事業協同組合が包括的民間委託を受注し、組合員が地域ごとに担当を分担)などが手引きに掲載されています。
予算とKPI
第6次社会資本整備重点計画(令和8年1月16日閣議決定、計画期間 令和7年度〜令和12年度)で、群マネは重点目標Ⅳの政策パッケージ「広域・複数・多分野の施設を一体として捉えた戦略的なインフラ管理の主流化」に位置づけられました。同計画は現状をこう認識しています。
関連するKPIは次のとおりです。
| 指標 | 基準 | 目標 |
|---|---|---|
| 全国の市区町村(1,741市区町村)のうち、効率的・効果的なインフラメンテナンスの取組を行っている地方公共団体の割合 | 令和7年度 62% | 令和12年度 100% |
| (道路)集約・撤去、機能縮小等を実施した施設数(令和7年度以降) | 令和6年度 0施設 | 令和12年度 1,000施設 |
| (道路)緊急又は早期に対策を講ずべき橋梁(約92,000橋)の修繕措置(完了)率 | 令和5年度 55% | 令和12年度 80% |
ただし1つ目のKPIについて、「効率的・効果的なインフラメンテナンスの取組」の判定基準は、計画本文・別紙・概要のいずれにも定義が見当たりません。基準値62%の算出根拠も公表資料からは特定できませんでした。何をもって該当と数えるかが分からないため、自組織が62%の側に入っているのかどうかは、現時点では判断できないということです。
予算面では、道路分野で直接効くのが道路メンテナンス事業補助制度です。2020年度創設の個別補助制度で、国費率は5.5/10×δ(δ=財政力指数に応じた引上率)。令和8年度の優先支援事業に群マネと包括的民間委託が明記されました。令和7年度の書きぶりは「モデル地域において広域連携により実施する事業」で、モデル地域に限定されていました。令和8年度からその限定が外れています。あわせて、令和8年度からは「長寿命化修繕計画に集約・撤去や新技術等の活用に関する短期的な数値目標及びそのコスト縮減効果を記載」という要件が追加されました。計画に数値目標を書いていないと優先支援に乗れないという構造です。
現場で詰まっている論点
令和8年3月18日の第10回検討会には、モデル地域での試行を踏まえた検討課題と、自治体の生の声が並べて示されています。導入を検討する側にとっては、ここがいちばん実用的です。
| 検討課題 | 自治体等における悩み(原文) |
|---|---|
| 代表自治体へのインセンティブ付与 | 「現状では、意識の高い県や代表市の善意に基づき実施」 |
| 責任分担の明確化 | 「長期契約となった場合、官側の技術力が低下して、民間事業者をチェックできなくなる懸念」 |
| 新たな組織における人材の確保 | 「複数自治体で新たな組織体(一部事務組合等)を設置する際、県や市町村から人員を集めることが困難」 |
| 長期契約における履行の保証 | 「発注時点では詳細な工事積算に必要な設計成果は揃っていないことが想定され、予算説明に苦慮」 |
| 事業者の安定的な確保 | 「事業協同組合やJVの場合、1者応札となることも想定される」 |
| 導入に向けた調査検討費 | 「群マネの導入検討費の支援メニューが無い(通常業務の片手間で直営検討は負担大)」 |
| 日常維持管理業務の予算化 | 「日常維持管理業務は補助・交付金の対象外であり、包括化によって新たに必要となる経費の予算化(単費)にハードル」 |
集約・再編を扱った和歌山県の成果報告では、さらに踏み込んだ声が出ています。「地震等による落橋のリスクを踏まえると、集約することがリダンダンシーの観点からは好ましくない場合もある」「橋梁を撤去する説明は住民にとってデメリットしかない。たとえ1人しか利用していなくても撤去の同意を得られるような状況ではない」「他地域の事例では、橋梁の通行止め実施から撤去完了まで約10年要するなど長期間に及んだ。地元からは撤去しないでほしいとの要望が想定されるが担当職員が孤立しない体制構築が重要」——群マネは技術の話である以上に、合意形成と体制の話だということが、現場の言葉から読み取れます。
データの標準化も提言段階から課題に挙がっています。「維持管理の効率化を図るため、データ更新の省力化やシステム間のAPI連携等を行いながら、各管理者においてデータベース化を推進していくことが求められている」とされ、全国道路施設点検データベースと国土交通データプラットフォームの連携も明記されています。複数自治体で点検を束ねるなら、成果物の様式と保存形式が揃っていることが前提になります。ここが揃わないまま発注だけ束ねると、集まった成果を後から比較できません。様式の考え方は新様式とデータベース登録、業務のデジタル化の進め方は点検DXの進め方で扱っています。
最後に、導入を検討する組織が最初に確認すべきことを3つ挙げます。
- 長寿命化修繕計画に、集約・撤去や新技術活用の短期的な数値目標とコスト縮減効果が書かれているか。令和8年度からの補助制度の優先支援の要件です
- 道路メンテナンス会議で、周辺自治体の動きを把握しているか。広域連携は相手がいて初めて成立します。県が主導する垂直連携か、近隣市町村との水平連携かで進め方が変わります
- 点検成果の様式と保存形式が、束ねる相手と揃っているか。まず点検から束ねるのが実際のパターンなので、ここが最初のボトルネックになります
よくある質問
Q. 群マネと包括的民間委託は何が違うのですか。
A. 手引きVer.1は、縦軸を単独自治体/複数自治体、横軸を単一分野/多分野とした図で線を引いており、「単独自治体×単一分野」が従前の包括的民間委託の領域、それ以外が群マネの領域とされています。包括的民間委託は発注の束ね方(契約手法)で、群マネは自治体と分野を越えて束ねるマネジメントの枠組みです。群マネの実施手段として包括的民間委託を使うことは想定されています。
Q. 地域一括発注をすでにやっていれば群マネに該当しますか。
A. 地域一括発注は都道府県が市区町村の点検・診断の発注事務を代行する仕組みで、対象は点検・診断に限られ、分野も道路単独です。群マネは計画策定・点検・設計・工事・日常維持・窓口業務といった業務プロセスと、分野を横断して束ねる点が異なります。地域一括発注は群マネの先行形と位置づけられます。
Q. 群マネの補助金はありますか。
A. 群マネそのものに紐づく単独の補助金は公表資料では確認できませんでした。モデル地域への支援は補助金ではなく現物支援(データ整理、事例提供、VFM試算、発注図書の素案作成など)です。道路分野では道路メンテナンス事業補助制度の優先支援に、令和8年度から群マネ(広域連携・多分野連携)や包括的民間委託により実施する事業が位置づけられています。なお検討会では「群マネの導入検討費の支援メニューが無い」ことが課題として挙げられています。
Q. 自分の自治体が第6次重点計画のKPIの分子に入っているか、どう確認しますか。
A. 現時点では確認できません。KPIの指標名は「効率的・効果的なインフラメンテナンスの取組を行っている地方公共団体の割合」ですが、何をもって該当と数えるかの判定基準が計画本文・別紙・概要のいずれにも記載されておらず、基準値である令和7年度62%の算出根拠資料も公表資料からは特定できませんでした。