点検計画を組むとき、橋梁の点検要領は繰り返し読まれます。一方で、中に人が入る点検にどの安全規則がかかるのかは、点検要領のどこにも書かれていません。箱桁の内部、ボックスカルバート、道路排水のマンホール——閉じた空間に立ち入る点検で参照すべきなのは、点検要領ではなく労働安全衛生法の体系です。
ここで扱う酸素欠乏症等防止規則(昭和47年労働省令第42号。略称は酸欠則)は、該当するかどうかを「作業の種類」ではなく「場所の性状」で決めます。同じ会社の同じ技術者が、同じ日に、同じ橋で作業していても、入る空間によって必要な体制が変わります。この記事は、労働安全衛生法施行令 別表第六と酸素欠乏症等防止規則の条文を原文のまま並べ、道路構造物の点検で当たりやすい要件と、当たったときに何が必要になるのかを整理したものです。
- 該当は場所で決まる。労働安全衛生法施行令 別表第六に掲げる場所での作業が酸素欠乏危険作業になる
- 道路構造物で当たりやすいのは第三号(地下埋設物を収容する暗きよ・マンホール等)・第三号の二(雨水等が滞留したことのある槽等)・第四号(相当期間密閉されていた鋼製施設等)
- 第二種になるのは第三号の三・第九号・第十二号だけ。汚水系の管・マンホールは第九号で第二種に振れる
- 該当したら、作業開始前の測定と3年間の記録/18パーセント以上への換気/作業主任者/特別教育/監視人/人員点検/避難用具が同時にかかる
- 換気できない場合に使うのは空気呼吸器、酸素呼吸器または送気マスク。ろ過して使う面体は条文の列挙に入っていない
該当するかどうかは、場所で決まる
出発点は労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)です。同令第六条は作業主任者を選任すべき作業を号で並べており、その第二十一号が「別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所における作業」です。同令第二十一条第九号は作業環境測定を行うべき作業場として「別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所において作業を行う場合の当該作業場」を挙げています。
そして酸素欠乏症等防止規則第二条第六号が、この2つをつなぎます。
「酸素欠乏危険作業 労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号。以下「令」という。)別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所(以下「酸素欠乏危険場所」という。)における作業をいう。」
ここが実務上いちばん大事な点です。条文はどこにも「点検」や「調査」という語を使っていません。近接目視であれ打音であれ、機器を据えるだけであれ、別表第六に掲げる場所に入れば酸素欠乏危険作業です。逆に、外から近接目視するだけで中に入らないなら、この規則の対象にはなりません。判断の軸は行為ではなく場所である、と押さえておくと迷いません。
もうひとつ、酸素欠乏の定義も条文に置かれています。同規則第二条第一号は酸素欠乏を「空気中の酸素の濃度が十八パーセント未満である状態をいう。」、第二号は酸素欠乏等を「前号に該当する状態又は空気中の硫化水素の濃度が百万分の十を超える状態をいう。」としています。18パーセントと10ppmという2つの数字が、以降の測定・換気の基準になります。
道路構造物で当たりやすい3つの号
別表第六は第一号から第十二号まで並んでいます。醸造槽やサイロなど道路の管理者には縁のない場所も多いので、点検で当たりやすい号だけを抜き出します。
| 号 | 別表第六の文言 | 点検で当たる場面の例 |
|---|---|---|
| 三 | ケーブル、ガス管その他地下に敷設される物を収容するための暗きよ、マンホール又はピツトの内部 | 電線共同溝、共同溝、地下埋設物の収容施設 |
| 三の二 | 雨水、河川の流水又は湧水が滞留しており、又は滞留したことのある槽、暗きよ、マンホール又はピツトの内部 | 道路排水の集水ます、管渠、暗きよ化された水路 |
| 四 | 相当期間密閉されていた鋼製のボイラー、タンク、反応塔、船倉その他その内壁が酸化されやすい施設(その内壁がステンレス鋼製のもの又はその内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜられているものを除く。)の内部 | 長期間閉じられていた鋼製の閉断面の内部 |
| 九 | し尿、腐泥、汚水、パルプ液その他腐敗し、又は分解しやすい物質を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、船倉、槽、管、暗きよ、マンホール、溝又はピツトの内部 | 汚水系の管・マンホール、堆積物のある溝 |
読むときのコツは「したことのある」という過去形です。第三号の二も第九号も、いま水や汚水が入っているかではなく、滞留したことがあるか/入れたことがあるかで書かれています。点検当日に空だったから対象外、という読み方はできません。
第四号は限定が二重になっているので、要件を分けて確認します。①相当期間密閉されていたこと、②鋼製のボイラー・タンク・反応塔・船倉その他その内壁が酸化されやすい施設であること、③内壁がステンレス鋼製でなく、かつ酸化を防止するために必要な措置が講じられていないこと。この3つが揃って初めて第四号の場所になります。塗装や防食の状態がここに効いてくるので、防食機能の劣化の記録は安全側の判断材料としても使えます。
なおシェッド・大型カルバート等や道路土工構造物の点検では、閉断面の内部に入る場面が構造上まとまって出てきます。法定点検の対象施設を単位に計画を組むとき、施設の区分とは別に「中に入る空間があるか」でもう一度洗い直しておくと、着手後の手戻りが減ります。
第一種と第二種の分かれ目
酸素欠乏危険作業は2つに分かれます。分け方は場所の号で、判断に裁量はありません。酸素欠乏症等防止規則第二条第八号がこう定義しています。
「第二種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険場所のうち、令別表第六第三号の三、第九号又は第十二号に掲げる酸素欠乏危険場所(同号に掲げる場所にあつては、酸素欠乏症にかかるおそれ及び硫化水素中毒にかかるおそれのある場所として厚生労働大臣が定める場所に限る。)における作業をいう。」
そして第七号が「第一種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険作業のうち、第二種酸素欠乏危険作業以外の作業をいう。」です。第二種は列挙された3つの号だけで、残りはすべて第一種になります。
道路の管理で意味を持つのは第九号です。し尿・腐泥・汚水その他腐敗し、または分解しやすい物質を入れたことのある管・暗きよ・マンホール・溝の内部は第二種になります。同じマンホールでも、雨水系なら第三号の二で第一種、汚水系なら第九号で第二種という分かれ方をします。合流式で汚水が入る可能性がある区間、堆積した泥が腐敗している溝などは、第九号の要件に当たらないかを先に確認しておくことになります。
第二種になると、変わるのは3つです。①測定と換気の対象に硫化水素が加わる、②作業主任者は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の修了者に限られる、③特別教育の読み替えが入り、酸素欠乏症等(硫化水素中毒を含む)が対象になる。第一種の資格しか持っていない人を第二種の現場に置くことはできません。
該当したときにかかる措置の一覧
別表第六に当たると判断したら、以下が同時にかかります。ひとつずつ別の条文なので、抜けが起きやすいところです。
| 条 | 求められていること |
|---|---|
| 第三条 | その日の作業を開始する前に酸素(第二種は酸素及び硫化水素)の濃度を測定し、測定日時・測定方法・測定箇所・測定条件・測定結果・実施者の氏名・講じた措置の概要を記録して3年間保存する |
| 第四条 | 測定に必要な測定器具を備え、または容易に利用できるような措置を講じておく |
| 第五条 | 酸素の濃度を18パーセント以上(第二種は加えて硫化水素10ppm以下)に保つように換気する。純酸素は使用しない |
| 第五条の二 | 換気できない場合は、同時に就業する労働者の人数と同数以上の空気呼吸器等を備え、使用させる |
| 第六条 | 酸素欠乏症等にかかって転落するおそれがあるときは要求性能墜落制止用器具等を使用させ、安全に取り付けるための設備等を設ける |
| 第七条 | 空気呼吸器等・要求性能墜落制止用器具等および取付設備を、その日の作業を開始する前に点検する |
| 第八条 | 入場・退場のたびに人員を点検する |
| 第九条 | 作業従事者以外の立入りを禁止し、その旨を見やすい箇所に表示する |
| 第十一条 | 技能講習の修了者のうちから酸素欠乏危険作業主任者を選任する |
| 第十二条 | 業務に就かせる労働者に特別の教育を行う |
| 第十三条 | 常時作業の状況を監視し、異常があったときに直ちに通報する者を置く等の措置を講じる |
| 第十四条 | 酸素欠乏等のおそれが生じたら直ちに作業を中止して退避させる |
| 第十五条 | 空気呼吸器等、はしご、繊維ロープ等の避難用具等を備える |
| 第十六条 | 救出作業に従事する労働者に空気呼吸器等を使用させる |
この並びを見て気づくのは、測定と点検が「その日の作業を開始する前」に3か所出てくることです。第三条の濃度測定、第七条の保護具の点検、第十一条第二項第二号の作業主任者による測定。同規則第十一条第二項第二号は作業主任者の職務として「その日の作業を開始する前、作業に従事するすべての労働者が作業を行う場所を離れた後再び作業を開始する前及び労働者の身体、換気装置等に異常があつたときに、作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を測定すること。」と定めています。昼休みで全員が外に出て、午後にまた入るなら、その前にもう一度測ることになります。
第十六条も読み落とされやすい条です。倒れた人を助けに入る作業そのものが規制の対象で、救出に向かう労働者にも空気呼吸器等を使用させなければなりません。装備の数は「中に入る人数」ではなく「救出に入る人数まで含めた数」で考えることになります。
作業主任者と特別教育は別のもの
混同されやすいので分けて書きます。作業主任者は選任するもの、特別教育は実施するものです。
酸素欠乏症等防止規則第十一条第一項は「事業者は、酸素欠乏危険作業については、第一種酸素欠乏危険作業にあつては酸素欠乏危険作業主任者技能講習又は酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、第二種酸素欠乏危険作業にあつては酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから、酸素欠乏危険作業主任者を選任しなければならない。」としています。第二種では選べる講習が1つに絞られることが、条文の書き分けから読み取れます。
職務も同条第二項に列挙されています。作業の方法を決定して労働者を指揮すること、前掲の測定を行うこと、測定器具・換気装置・空気呼吸器等を点検すること、空気呼吸器等の使用状況を監視すること。測定は作業主任者の職務として名指しされているので、外注や自動化で済ませられる部分ではありません。
一方の特別教育は第十二条第一項で、科目まで定められています。「酸素欠乏の発生の原因」「酸素欠乏症の症状」「空気呼吸器等の使用の方法」「事故の場合の退避及び救急そ生の方法」、そして「前各号に掲げるもののほか、酸素欠乏症の防止に関し必要な事項」の5つです。対象は業務に就かせる労働者なので、中に入る全員が受けている必要があります。
橋梁点検に必要な資格を整理するときは、点検技術者としての資格とこの安全関係の資格を別の欄で管理しておくと、配置の可否をその場で判断できます。担い手不足のなかで人員をやりくりする場面では、技能講習の修了者が1人しかいないことが実際のボトルネックになります。
換気できないときに使えるもの
第五条第一項にはただし書があります。「ただし、爆発、酸化等を防止するため換気することができない場合又は作業の性質上換気することが著しく困難な場合は、この限りでない。」
この場合に何を使うかは第五条の二第一項が定めています。「事業者は、前条第一項ただし書の場合においては、同時に就業する労働者の人数と同数以上の空気呼吸器等(空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスクをいう。以下同じ。)を備え、労働者にこれを使用させなければならない。」
括弧内の定義がすべてです。列挙されているのは空気呼吸器・酸素呼吸器・送気マスクの3つで、いずれも呼吸する空気を外から供給する方式です。防じんマスクや防毒マスクのように周囲の空気をろ過して使うものは、この定義に含まれていません。理屈も単純で、酸素が足りない空気をろ過しても酸素は増えないからです。
あわせて第六条が要求性能墜落制止用器具等の使用を求めています。「労働者が酸素欠乏症等にかかつて転落するおそれのあるとき」という条件付きで、意識を失って落ちる可能性を前提にした規定です。第二項は「安全に取り付けるための設備等を設けなければならない」としており、器具を持たせるだけでは足りません。マンホールの内部のように、たて坑状の空間へ降りる形の点検では、この取付設備をどこに取るかを事前に決めておくことになります。
第十条の「連絡」も現場では効きます。「近接する作業場で行われる作業による酸素欠乏等のおそれがあるとき」は当該作業場との間の連絡を保つ、という規定で、同じ路線で別業者が同時に動いているときの取り決めがこれに当たります。交通規制と保安の調整と同じ場で決めておくのが現実的です。
発注・積算にどう効くか
ここまでの措置は、そのまま歩掛と工程に効きます。中に入る点検は、外から見る点検と同じ単価では組めません。測定器具、換気装置、空気呼吸器等、避難用具等という装備が要り、作業主任者と監視人という直接には点検しない人員が現場に必要になるためです。第十三条の監視人は「常時作業の状況を監視」する役割なので、中に入る技術者と兼務させることはできません。
第五条第二項、第十三条第二項、第十六条第三項には、作業の一部を請負人に請け負わせるときの規定が置かれています。たとえば第十三条第二項は「当該請負人に対し、常時作業の状況を監視し、異常があつたときに直ちにその旨を事業者及びその他の関係者に通報する者を置く等異常を早期に把握するために必要な措置を講ずること等について配慮しなければならない。」としています。再委託が入る体制では、条文が元請側にも役割を残しているという読み方になります。点検業務の再委託の可否を検討するときは、この配慮義務の所在も一緒に確認しておく必要があります。
費用面については橋梁点検の費用で単価の考え方を扱っていますが、閉空間に入る点検はそこに安全管理の実費が積み上がります。特記仕様書に「箱桁内部に立ち入る」と書いてあるのに、酸欠則の体制に相当する費用が積算されていないという食い違いは、着手後に気づくと工程ごと組み直しになります。定期点検の全体像を発注前に押さえる段階で、立入りの有無を施設ごとに確定させておくのが結局は早道です。
最後に、記録の残し方に触れておきます。第三条の測定記録は3年間保存で、点検調書とは保存期間も保存先も別です。点検調書のファイルに測定記録が綴じられていないケースは珍しくありませんが、求められているのは事業者としての保存なので、成果品の外にも管理の実体が要ります。
よくある質問
橋の箱桁の内部に入る点検は、酸素欠乏危険作業に当たりますか。
構造と履歴を令別表第六の要件に当てはめて判断します。関係するのは第四号「相当期間密閉されていた鋼製のボイラー、タンク、反応塔、船倉その他その内壁が酸化されやすい施設(その内壁がステンレス鋼製のもの又はその内壁の酸化を防止するために必要な措置が講ぜられているものを除く。)の内部」です。ここでの分かれ目は橋かどうかではなく、相当期間密閉されていたか、内壁が酸化されやすいか、酸化を防止する措置が講じられているかの3点です。作業の種類ではなく場所の性状で決まるので、同じ橋でも桁ごとに結論が変わることがあります。
第一種酸素欠乏危険作業と第二種は何が違うのですか。
場所の号で分かれます。酸素欠乏症等防止規則第二条第八号は第二種酸素欠乏危険作業を「酸素欠乏危険場所のうち、令別表第六第三号の三、第九号又は第十二号に掲げる酸素欠乏危険場所(同号に掲げる場所にあつては、酸素欠乏症にかかるおそれ及び硫化水素中毒にかかるおそれのある場所として厚生労働大臣が定める場所に限る。)における作業をいう」と定義し、第七号でそれ以外を第一種としています。第九号は「し尿、腐泥、汚水、パルプ液その他腐敗し、又は分解しやすい物質を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、船倉、槽、管、暗きよ、マンホール、溝又はピツトの内部」です。第二種になると測定と換気の対象に硫化水素が加わり、作業主任者も酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習の修了者に限られます。
酸素濃度は何パーセント以上に保つ必要がありますか。
18パーセント以上です。酸素欠乏症等防止規則第五条第一項は「当該作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を十八パーセント以上(第二種酸素欠乏危険作業に係る場所にあつては、空気中の酸素の濃度を十八パーセント以上、かつ、硫化水素の濃度を百万分の十以下。次項において同じ。)に保つように換気しなければならない」と定めています。同条第三項は「前二項の規定により換気が行われるときは、純酸素を使用してはならない」としており、酸素ボンベによる置換は認められていません。
作業主任者の選任と特別教育は、どちらか一方でよいですか。
両方が必要で、対象者も別です。酸素欠乏症等防止規則第十一条第一項は、第一種では酸素欠乏危険作業主任者技能講習または酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習を修了した者のうちから作業主任者を選任することを求めています。一方、同規則第十二条第一項は業務に就かせる労働者に対し、酸素欠乏の発生の原因、酸素欠乏症の症状、空気呼吸器等の使用の方法、事故の場合の退避及び救急そ生の方法などの科目について特別の教育を行うことを求めています。作業主任者は指揮する1人、特別教育は中に入る全員が対象という関係です。
換気ができない場合、防じんマスクで代用できますか。
代用できません。酸素欠乏症等防止規則第五条の二第一項は、換気できない場合に備えるものを「空気呼吸器等(空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスクをいう。以下同じ。)」と定義し、同時に就業する労働者の人数と同数以上を備えて使用させることを求めています。列挙されているのは自ら空気を供給する方式の3つで、周囲の空気をろ過して使う面体は含まれていません。酸素が足りない空気をろ過しても酸素は増えないためです。
測定の記録はどれくらい保存しますか。
3年間です。酸素欠乏症等防止規則第三条第二項は、測定を行ったときは「そのつど、次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない」とし、測定日時、測定方法、測定箇所、測定条件、測定結果、測定を実施した者の氏名、測定結果に基づいて酸素欠乏症等の防止措置を講じたときは当該措置の概要の7項目を挙げています。測定の頻度は同条第一項の「その日の作業を開始する前」で、点検が複数日にわたるなら日ごとに記録が残ります。