複数の市町村がまとまって道路の点検や修繕を進めようとすると、必ず同じところで止まります。巡回中に落下物を見つけたとき、隣の市の道路だと自分では処理できないという問題です。委託契約でまとめて発注しても、除去そのものは公権力の行使にあたるため、その都度その道路の管理者に協議して承認を得る必要がありました。

この詰まりを解くために、令和7年の道路法改正で連携協力道路制度が設けられました。道路管理者どうしが協議して協定を結べば、点検や修繕にかかわる権限を隣の自治体が代行できるようになる仕組みです。

この記事では、国土交通省道路局が公表した「連携協力道路制度ガイドライン」と道路法・道路法施行令の条文から、何を代行できて、何ができないのか、手続きは何段階かを整理します。

この記事の要点
  • 根拠は道路法第20条の2(連携協力道路の管理)。関係道路管理者が協議して、別に管理の方法を定められる
  • 対象は隣接または近接する2以上の市町村の区域に存する道路。高速自動車国道と自動車専用道路は除く
  • 代行できる権限は道路法の条項で100項目以上。落下物の除去(第44条の3)、標識・区画線の設置(第45条)、通行の禁止・制限(第46条)、特殊車両の通行許可(第47条の2)、土地の立入・一時使用(第66条)など
  • ただし道路法施行令第5条が7項目を代行の対象外にしている。道路の区域の公示と道路台帳の調製・保管はここに入る
  • 手続きは①協議による権限代行範囲の決定 ②協定書の作成 ③協定の公示 ④運用の4段階。公示は法律上の義務

詰まっていたのは「公権力の行使」

ガイドラインは、制度をつくった経緯を冒頭でこう説明しています。複数市町村による維持、修繕の包括的な実施のうち、業務の発注手続については代行管理者が本来管理者に代わって行う事例があるものの、「巡回時の落下物の処理や点検・修繕時の足場設置等を行うなどといった公権力行使については、代行管理者がそれぞれの本来管理者に協議する必要があるなど、市区町村間の調整が都度必要になっており、群マネの本格的な事業実施の支障となるおそれがあります」。

発注はまとめられるのに、現場で発生する処分行為だけがまとめられない。この非対称が実務の負担になっていました。

背景として挙げられている数字も具体的です。ガイドラインは、建設後50年以上を経過する道路橋(橋長2m以上)やトンネルが2025年時点で全体の約42パーセント、10年後には約65パーセントになる見込みだとし(出典は道路メンテナンス年報・2025年8月)、市区町村が管理する道路橋が約48万橋で全体の約65パーセントを占める一方、技術系職員数が5人以下の市区町村が約50パーセント、技術系職員がいない市区町村が約25パーセントに上る(出典は総務省「地方公共団体定員管理調査結果」・2024年4月1日時点)と述べています。担い手側の事情は橋梁点検の担い手不足:背景と現実的な対策でも扱っています。

根拠条文は道路法第20条の2

制度の根拠は道路法第20条の2です。条文は次のとおりです。

隣接し、又は近接する二以上の市町村の区域に存する道路(高速自動車国道及び第四十八条の四に規定する自動車専用道路を除く。)のうち、その維持、修繕その他の管理を関係道路管理者間における連携及び協力により効率的かつ効果的に行う必要があるもの(第二十七条第五項及び第五十五条の二において「連携協力道路」という。)については、関係道路管理者は、第十三条第一項及び第三項並びに第十五条から第十七条までの規定にかかわらず、協議して別にその管理の方法を定めることができる。」(第1項)

前項の規定による協議が成立した場合においては、関係道路管理者は、成立した協議の内容を公示しなければならない。」(第2項)

読みどころは「第十三条第一項及び第三項並びに第十五条から第十七条までの規定にかかわらず」の部分です。これらは国道・都道府県道・市町村道の管理者を決めている条文で、通常はここで管理者が固定されます。連携協力道路については、その原則を外して協議で決められるという構造になっています。管理者を決める条文の並びはその橋は誰が点検するのか?指定区間と道路管理者の決まり方で整理しています。

実際に権限が移る根拠は第27条第5項です。同項は、第20条の2第1項の協議に基づき道路管理者がその管理する道路以外の連携協力道路を管理する場合について、これらの者は「政令で定めるところにより、当該道路の道路管理者に代わつてその権限を行うものとする」と定めています。

対象になる道路と連携のパターン

ガイドラインは、対象と連携の形をこう整理しています。

  • 隣接または近接する市町村の区域に存する道路について、都道府県と市町村、または市町村同士の連携に適用できる
  • 対象は補助国道、都道府県道、市町村道および道路上の施設
  • 連携パターンは3通り。県とA市の道路を県がまとめて管理/A市・B市の道路をA市がまとめて管理/県・A市・B市の道路を県がまとめて管理

対象外も明記されています。ガイドラインは「直轄国道、農道、林道、臨港道路などは本ガイドラインの対象外です」とし、Q&Aでも「本制度の対象は道路法に定められた道路のみとなります。農林道、臨港道路は対象外です」と重ねて書いています。農道橋・林道橋の点検の扱いは農道橋・林道橋の点検は義務か?要領と頻度を参照してください。

なお、この制度は地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)の推進を前提に設計されています。群マネそのものは群マネとは?地域インフラ群再生戦略マネジメントで扱っています。

点検・修繕で代行できる権限

ガイドラインは、代行の対象となる道路法の条項を3ページにわたって列挙しています。うち道路のメンテナンスに関連の深いものを抜き出すと、次のようになります。

場面代行できる主な権限道路法
パトロール時の落下物処理違法放置等物件の除去第44条の3
除草・清掃兼用工作物の維持命令第21条
簡易な道路補修標識・区画線の設置第45条
交通規制道路の通行禁止・制限第46条
高所点検車両の使用特殊車両の通行許可第47条の2
足場設置土地の立入・一時利用第66条
道路占用占用許可第32条
工事調整都道府県公安委員会との調整第95条の2

点検実務でとくに効くのは、下段の3つです。高所作業車を入れるための特殊車両の通行許可、桁下に足場を組むための土地の立入・一時使用、そして交通規制にともなう公安委員会への意見照会。これらはいずれも、これまで隣の自治体の道路では本来管理者を通す必要があった手続きです。交通規制の決め方そのものは橋梁点検の交通規制は誰が決めるのかで扱っています。

ガイドラインは落下物処理の代行フローも図解しており、直営パトロールの場合は代行管理者が発見・除去し、そのまま保管手続・公示、返還・費用負担金の納入手続まで進めます。返還できない場合は「公示から3ヶ月:売却・代金保管可、買受人がない場合廃棄」「公示から6ヶ月:所有権帰属」という流れです。従来の民法上の委託による広域連携では、この途中に「本来管理者に連絡・協議」「本来管理者が代行承認」という2ステップが入っていました。

なお一覧には「※は本来管理者に事後通知が必要」という注記が付いた条項があります。占用許可(第32条)や監督処分(第71条)などがこれにあたり、代行できるが黙って進めてよいわけではありません。

代行できない7項目

すべての権限が代行できるわけではありません。道路法施行令第5条が、代行の対象から外れるものを列挙しています。ガイドラインが付録に収録している同条の7項目は次のとおりです。

  1. 法第18条第1項の規定により道路の区域を公示すること
  2. 法第28条第1項の規定により道路台帳を調製し、及びこれを保管すること
  3. 法第44条第1項及び第2項の規定により沿道区域を指定し、及びこれを公示すること
  4. 法第44条の2第1項及び第2項の規定により届出対象区域を指定し、及びこれを公示すること
  5. 法第47条の18第2項ほかの規定により協定を締結した旨を公示し、当該協定の写しを一般の閲覧に供すること
  6. 法第47条の21の規定により道路保全立体区域を指定し、及びこれを公示すること
  7. 法第52条第1項の規定により市町村に対し、工事又は維持に要する費用の一部を負担させること

点検実務の観点で重要なのは2番です。道路台帳の調製と保管は代行できません。つまり点検や修繕の手続きを隣の自治体に任せても、台帳そのものは本来管理者が持ち続けます。点検結果を台帳へ反映する流れをどう設計するかは、協定の外側で決めておく必要があります。台帳の位置づけは橋梁台帳とは?道路台帳との違いと閲覧で扱っています。

出典:国土交通省 道路局「連携協力道路制度ガイドライン」、道路法(昭和27年法律第180号)第20条の2・第27条第5項・第55条の2、道路法施行令(昭和27年政令第479号)第5条。条文はe-Gov法令検索の現行版で確認しています。運用の判断は必ず原典と各道路管理者の定めをご確認ください。

手続きは4段階

ガイドラインが示す標準的な実施プロセスは4段階です。

  1. 協議による権限代行範囲の決定。ガイドラインは「通常はこれらの権限がすべて代行可能となりますが、代行範囲に含めない権限がある場合は、別途検討し協定書に明記する必要があります」としています。つまり既定は全部代行で、外すものだけを書く形です
  2. 協定書の作成。道路法第20条の2に基づく協定であることを明記し、対象とする道路施設(市道、橋梁、トンネルなど)、権限代行の範囲、実施する業務内容を記載します。ガイドラインは「協定で期間を定めないケースもあります」とも書いています
  3. 協定の公示。第20条の2第2項の義務です。ガイドラインは公示の方法として「公報やホームページへの協定書の掲載」を挙げています
  4. 運用。協定で定めた権限を代行管理者が直接行使できるようになります

広域連携で群マネを進める場合は、群マネの実施方針(連携の目的、期間、対象施設、対象業務、役割分担、費用負担、責任分担)を決めたうえで、本制度の権限代行範囲を協議して協定書を締結する流れになります。

発注方式としての包括的民間委託とは層が違う点に注意してください。包括委託は民間への発注のまとめ方の話で、こちらは自治体間の権限の話です。両者は併用できます。委託側の整理は包括的民間委託とは?点検・修繕を複数年で束ねる維持管理の発注方式にあります。

費用の分担と、境界地の道路の管理との違い

費用については道路法第55条の2が置かれています。同条は、地方公共団体の負担すべき道路の管理に関する費用で連携協力道路に関するものについて「関係道路管理者は、協議してその分担すべき金額及びその分担の方法を定めることができる」と定めています。費用も協議事項です。財源の全体像は道路メンテナンス事業の財源まとめで扱っています。

よく似た制度として、道路法第19条の「境界地の道路の管理」があります。ガイドラインのQ&Aは違いをこう説明しています。第19条は「地方公共団体の区域の境界に係る道路のみが対象」であるのに対し、第20条の2は「境界地の道路に限らず、隣接または近接する地方公共団体の区域に存する道路のうち連携協力が必要な道路すべてが対象」になる。ただし「代行可能な権限(道路法条項)は、境界地の道路の管理と、連携協力制度で同一となります」。

運用上の注意点として、Q&Aは3点を挙げています。外部委託が単年度契約の場合は「基本協定を期限なしで締結し、詳細は別途の資料とすることで事務手続きの繁雑さが軽減されます」。住民説明は「道路法における規定はなく、代行の対象外」で、周辺住民への周知は地域の事情をよく知る自治体が関与するほうが円滑と想定されること。そして対象は道路法上の道路のみであることです。

災害時の扱いも明確です。協定で定めた代行範囲は災害時や緊急時も代行の対象となるため、本来管理者が自ら権限を行使したい場合は「災害協定の行使を妨げない」「災害時は別途協議する」といった規定を協定書に置く必要がある、とされています。

権限が二重に行使されない点も押さえてください。Q&Aは「協定により代行範囲として定められた権限は、代行管理者に帰属し、本来管理者は当該権限を同時に行使することはできません」と明記しています。市町村の点検を支える既存の枠組みとしては、都道府県単位の道路メンテナンス会議直轄診断・修繕代行・地域一括発注もあり、どれを使うかは規模と目的で選ぶことになります。

よくある質問

連携協力道路制度は、どの道路に使えますか。

道路法第20条の2は「隣接し、又は近接する二以上の市町村の区域に存する道路(高速自動車国道及び第四十八条の四に規定する自動車専用道路を除く。)」を対象としています。ガイドラインは具体的に、補助国道・都道府県道・市町村道および道路上の施設が対象で、直轄国道・農道・林道・臨港道路は対象外だとしています。Q&Aでも「本制度の対象は道路法に定められた道路のみとなります。農林道、臨港道路は対象外です」と重ねて示されています。

協定を結べば、どの権限も代行できますか。

いいえ。道路法施行令第5条が代行の対象外を7項目列挙しており、道路の区域の公示、道路台帳の調製・保管、沿道区域の指定・公示、届出対象区域の指定・公示、協定締結の公示と写しの閲覧提供、道路保全立体区域の指定・公示、市町村への費用一部負担の賦課がこれにあたります。逆にそれ以外は、ガイドラインによれば通常すべて代行可能で、外すものだけを協定書に明記する形になります。

道路台帳が代行できないと、点検実務ではどう影響しますか。

点検や修繕の手続きを代行管理者に任せても、道路台帳の調製と保管は本来管理者に残ります。したがって点検結果を台帳へ反映する経路と、その責任の所在を協定の外側で決めておく必要があります。台帳の更新が滞ると、次回点検の計画づくりにも影響します。

協定を結んだ後、本来管理者は自分で落下物を処理できますか。

ガイドラインのQ&Aは「協定により代行範囲として定められた権限は、代行管理者に帰属し、本来管理者は当該権限を同時に行使することはできません」としています。本来管理者が行使したい権限がある場合は、あらかじめ協定書に明記しておくことが有効だとされています。なお、協定締結後に本来管理者が代行管理者から委託を受けて「委託主」として権限を実行することも可能とされています。

災害時も代行の対象になりますか。

協定で定めた代行範囲については、災害時や緊急時も代行の対象になるとされています。災害時や緊急時に本来管理者が自ら権限を行使するには、協定書に「災害協定の行使を妨げない」「災害時は別途協議する」などの規定を定めておく必要がある、とガイドラインは説明しています。

費用はどう分けますか。

道路法第55条の2が、地方公共団体の負担すべき道路の管理に関する費用で連携協力道路に関するものについて「関係道路管理者は、協議してその分担すべき金額及びその分担の方法を定めることができる」と定めています。費用の分担も協議事項なので、協定書に金額と方法を書き込むことになります。